宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

5Gって何?を基礎から徹底解説。5Gのメリット・デメリットと期待される活用事例

5Gとは何か、期待される活用事例と合わせて、分かりやすく解説します。

仕事でも私生活でも、生活になくてはならないものとなったスマートフォンの通信が「5G」という新たな局面を迎えます。しかし、「4Gと何が違うのか」「何がそんなにすごいのか」「メリット・デメリットって何?」など、正直わからない部分が多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、そもそも5Gとは何かを、これまでの通信の歴史、今後私たちの生活に起きる変化、騒がれている5Gのデメリット、ビジネスにもたらす変革とそこに隠れる技術、そして人工衛星と繋がる宇宙ビジネスとの関わりまでを総ざらいします。

※2024年1月1日に、5Gのエリアカバー率に関する記述を更新しました

1. 5Gとは?

5Gとは、高速大容量・低遅延・同時多数接続の特性を持った最新の通信規格です。すごく簡単に言えば、これまでと桁違いの速さで欲しい情報が手に入り(高速大容量)、送った命令は素早く届き(低遅延)、身の回りのものとインターネットを通じてつながることができるようになる(同時多数接続)、これが5G通信です。

5Gが社会に実装されることで、私たちの生活の利便性が劇的に向上することが期待されています。5G通信の特性を生かすことで、医療現場での遠隔手術や、現在より更にパーソナライズされた製品の製造や広告、タッチレス決済などユーザ自身がこれまでとの違いを実感できるレベルで変化がもたらされると考えられています。

そのような変革をもたらす5Gとは、一体どんなものなのでしょうか?

2. 4Gとはここが違う!5Gの3つのメリット

まずは5Gの特徴となる3つの指標「高速大容量」「低遅延」「同時多数接続」を数字で見てみましょう。こういったデジタル関連の性能は、数字で見るのが一番です。ざっくり言えば、4Gから5Gになることで、各性能は10倍良くなると言えます。実際に私たちが今使っている4Gの数値がどの程度で、5Gになるとどうなるのかを見ていきましょう。

【高速大容量】大容量通信の速度が10倍に!?

高速通信のイメージ Source : https://www.publicdomainpictures.net/jp/view-image.php?image=106207&picture=

まずは通信速度です。一般的に、通信速度にはbpsという単位が用いられます。これはビット毎秒(bit per second)の略称で、1秒で通信できるビット数を表しています(通信量でよく見る1バイト=8ビットです)。4G通信では基地局から端末方向への下り通信の速度は、最大で1 Gbps(ギガビーピーエス)、上り通信では数100 メガbpsでした(ギガ:0が9個、メガ:0が6個)。

一方で、5G通信では下りで最大20 Gbps、上りは10 Gbpsと言われており、4Gに比べて両方向でそれぞれ10倍以上の改善が見込まれています。ちなみに、4G以前の3G回線では、下り通信で21 Mbps(メガビーピーエス)、上り通信で6 Mbps程度だったと言われており、3Gから4Gへ移行した時にも10倍弱改善されました。例えば、40 ギガバイトのデータ(4Kの2時間程度の動画を想定)をダウンロードしようとした時、5Gでは最速で16秒程度なのに対して4Gでは6分程度、3Gでは1時間以上かかる計算になります。
3Gから4Gだけでかなりの改善を実感するので、4Gから5Gへの変化にも期待が持てます。

【低遅延】遠隔操作も可能に!?

低遅延の例 Credit : KDDI
Credit : ANA

続いて「低遅延」です。5Gの強みの一つに、通信の遅延が大幅に改善される点が挙げられます。そもそも通信における遅延とは、あるスマホから情報があるサーバーから情報得ようと取得の命令を送るときの命令の伝わるスピードがどの程度か、ということを意味します。

5G通信で見込まれている通信遅延は1 ミリ秒(0.001 秒)です。検索で要求した内容がサーバーに届くまで0.001 秒しかかからないわけです!現在私たちが利用している4G通信では平均で概ね50 ミリ秒なので、10倍以上の改善が見込まれています。具体的な応用技術は後述しますが、これによってVR(仮想現実)やAR(拡張現実)といったコンテンツでの反応の悪さに対するストレスや、ロボットの遠隔操作、自動運転の制御などのリアルタイム性が上がることが見込まれています。宇宙分野での応用も期待されています。

参考
KDDIによるテレイグジスタンスの取り組み
ANAによるAVATARX

【同時多数接続】IoT時代を支える

3つ目の指標は「同時多数接続」です。5Gで大きく変わるのは、1つの基地局がカバーできる端末の数です。最近よく耳にするIoT(Internet of Things : モノのインターネット)を支えるのに、同時多数接続は非常に重要です。今後の生活では、身の回りのあらゆるモノがインターネットに接続され、スマホとモノが繋がり、そこから汲み取られた接続先の機器の使用頻度やユーザの傾向などを元に、個人個人に最適化されたサービス提供が進んでいくと考えられています。こういった通信端末の急増を支えるのも5Gの重要な役割になります。

5G通信では、一つの基地局が処理できる通信端末数が4G通信の100倍になります。4G通信では、1つの基地局で100台程度が同時接続できたところ、5G通信では1万台程度が同時接続できます。この性能アップによって、スマートフォンなどの従来の通信端末だけでなく、IoT製品の普及にも対応していきます。

【おまけ】通信の信頼性が向上し安心した通信へ

上記3点は、5G通信に対して総務省や3GPP標準化団体(※1)から達成を要求されている性能です。注目度は低いものの、これに加えて通信の信頼性に対する要求条件もあります。簡単に言えば、送信したいデータがきちんと送信できるか、という当たり前の基準も5Gから新たに設けられました。

5Gでは、通信精度を99.999%以上にするという要求があります。詳しい定義は「32バイト以上のデータの送信成功率を99.999%以上にすること」です。(万が一通信が失敗しても、低遅延の高速通信によって再度実行されるため失敗に気づくことはない)。言い換えると、この通信の信頼性を保証できない通信は5Gとは言えない、ということです。この後紹介する5Gになることで改善されるポイントは、この通信の信頼性の上に成立していることを覚えておきましょう!

※1:3rd Generation Partnership Projectの略称で、通信の国際標準指標を制定する団体。日本をはじめ、アメリカ、ヨーロッパ、韓国、中国、インドが加盟している。

参考:
5Gの上りと下りの数値
・5Gビジネスに記載
・ドコモの5G要求条件のページにも記載(こちら
・4G->5Gでの要求条件(マッキンゼー)

3Gの通信速度(ソフトバンクHP)
https://www.softbank.jp/support/faq/view/10993

低遅延による自動運転への恩恵について(KDDI)
https://iot.kddi.com/column/5g_business/

3. 通信技術の進化の歴史~1Gから5Gまで~

5Gを語る上で欠かせないのが、これまでの通信の歴史です。5Gは「5th Generation = 第5世代」を意味しますが、5番目というくらいですから、1G(第1世代)からの進化の歴史があります。ここでは、5Gが変える世界の話ではなく、通信規格が1世代上がるごとにどんな変化があったのかを解説し、5Gにどれだけ期待できるかを実感していきましょう。

まずは第1世代(1G)です。1Gの主なサービス内容は、音声通話のみでした。その始まりは、1979年に日本電信電話公社(現、NTT)が自動車に搭載する電話を発表したものだと言われています。その後、1980年代に自動車以外でも通話が可能な「携帯電話」が誕生します。アナログ式の通信で、音声を電波に直接のせることで通話を可能にしていました。

続いて第2世代(2G)です。1Gからの大きな変化は、通信方法がアナログ式からデジタル式に変化し、インターネット通信が可能になった点です。通信内容を0と1のデータに変換して通信を行うため、電波の帯域によって制限されていた通信容量の改善や、通信ノイズの除去が可能になりました。デジタル式の通信は今もなお使われていることから、ここが大きな分岐点であったといえるでしょう。この変化によってテキストをメールで送受信できるようになった他、ブラウザを通してインターネットで検索できるようになりました。

第3世代(3G)は2001年からスタートしました。2Gに比べて大容量のデータを送受信できるようになったため、ブラウジングや低容量動画、写真の送受信などの面で大きくサービスが改善されました。3Gからは初めて国際基準の通信規格が決まったことも、1G、2Gとは大きく異なる点です。国際基準ができたことで、世界中の端末が国を跨いでネットワークに接続できるようになり、インターネットの世界が携帯電話に向けて開かれたという利点がありました。3Gの後半では、スマートフォンの先駆けとなるiPhone 3Gが発売されましたが、基本的にはフィーチャーフォン(ガラケー)が主流の世代です。

2012年から、大容量(高精細)の動画コンテンツやオンラインゲームなどが可能になる第4世代へと移ります。2021年現在も4G回線を使っている方の方がまだ多いくらいなので、細かい説明は必要ないかもしれません。国際標準規格としてスタートし、主にスマートフォンでサービス利用されています。通信速度と容量が格段に上がり、その利便性から世界中でスマートフォンの利用者が拡大したのも注目ポイントの一つです。

このような変遷を経て、2020年から5Gがスタートしました。5G通信では、4Gを全面的に桁違いの性能へと格上げする方向で改善されています。この記事を通して、5Gが変える未来を想像し、可能性を感じていただければと思います。

4. 知らないと損する5Gを支える3つの要素技術

世界に変革をもたらす5G通信を実現するために、様々な技術革新が起きました。こちらでは、5Gを特徴づける3要素「高速大容量」「低遅延」「同時多数接続」を支える要素技術を紹介します。5Gの通信技術は、宇宙ビジネスとの相性の良さに注目が集まっているため、その要素技術にも注目です。

【高速大容量の通信を支えるビームフォーミング技術】

5Gになって最も私たち利用者が進化を実感するのが「高速大容量通信」です。高速大容量通信を実現する上で注目するべきキーワードは「周波数帯」と「ビームフォーミング技術」の2点です。

まずは周波数帯について。簡単に言えば、周波数を高くすることで、時間あたりで伝送できるデータ量が増えるので通信容量を高めることが可能です。
5Gではこれまで使われてこなかった「サブ6帯」と呼ばれる6GHz以下の周波数帯(3.7 GHz帯と4.5 GHz帯)と、「ミリ波帯」と呼ばれる28 GHz帯を利用します。4Gまでは最も高い周波数で3.5 GHz帯までしか使用されていませんでした。

今まで周波数を高めることができなかった原因の1つに、遮蔽物の影響を受けやすいために周波数を高めることで長距離のデータ伝送ができなかったことが挙げられます。「もっと高い周波数を使えば、もっと早く大量のデータを届けられる!」というシンプルな課題を解決したのが「ビームフォーミング技術」です。

ビームフォーミングとは、複数の電波アンテナから少しずつ違うタイミングで電波を放射することで、それらが重なり合い、指向性が高く強力な電波を送ることができる技術です。電波によってユーザの位置を概ね特定することで、通信する端末一つ一つを狙い撃ちして通信を行うイメージです。

以上の技術の発達によって、より高い周波数の電波を利用することができるようになり、5Gの「高速大容量通信」が実現しました。

【低遅延を支えるエッジコンピューティング】

5G通信で注目なのが、遠隔操作やVRなどのサービスの質を向上させる、通信の「低遅延性」です。それを支えるのが、「エッジコンピューティング技術」です。5Gを語る上で欠かせないこの技術。今のうちに理解しておかないと、今後の通信技術の発展や、宇宙開発の技術への理解が難しくなってきてしまいます!

通信の世界における「遅延」は、送った情報が相手に届くまでの時間の遅れを指す言葉です。この遅延が4Gに比べて10倍改善されたのが5Gです。これによって、通信遅延は1 ミリ秒と非常に短くなりました。では、なぜ遅延をここまで抑えられるようになったのでしょうか。それはザックリいうと「通信にかかる絶対的な距離が短くなったから」です。そして、それを支えるのが「エッジコンピューティング技術」です。

上の図で説明します。今回はスマホを使って、ネット上の情報を閲覧することを例にしてみます。従来の通信(図の上側)では、スマホからページを閲覧するボタンを押すと、その通信の命令は近くの基地局に飛ばされ、その情報がコアネットワークを経由してサーバーに繋がります。

一方でエッジコンピューティングを行えば、基地局がサーバーの役割を担うことになり、実質かかる通信の「道のり」が短くなります。通信事業者から見たインターネットの端(エッジ)にあたる基地局でコンピューティング処理を行うことから、「エッジコンピューティング」と言われています。

「エッジコンピューティング」は、何も通信事業者だけのための言葉ではありません。

例えば人工衛星に搭載されたAIが、衛星データの一次処理を衛星軌道上で行うこともこの技術に当てはまります。人工衛星は、地上との通信時間が限られていたり、一度に地上に送れるデータ量も限られているので、これまでは必要最低限の計画的な観測しかできませんでした。しかし、エッジ処理が可能になることで観測の必要・不要を計画せず大量の観測データを確保し、AIが重要と判断したデータのみが地上に送信される仕組みが実装されてきています。

例えば、SAR衛星を開発するQPS研究所はエッジコンピューティングを利用して、ユーザーがより早くSAR画像を取得できる軌道上での画像処理化を成功したと2023年7月に発表しました。

このように、様々な分野でも浸透してきているエッジコンピューティング技術が、5G通信の低遅延性を支えているのです。

【同時多数接続を支えるグラントフリー技術】

5G通信の3つ目の特徴が「同時多数接続」です。IoT端末や自動運転用のカメラなど様々なセンサがインターネットを経由した同時接続を要求しており、今後は現実世界の出来事がどんどんデータとして蓄積されていきます。このように多くのデバイスが”同時に”、”大量に”接続することを可能にするのが「グラントフリー方式」の通信です。

5G通信では、一つの基地局が処理できる通信端末数が4G通信の100台程度から、1万台程度と約100倍まで跳ね上がります。これはスマートフォンなどの従来の通信端末だけでなく、IoT製品の普及によってあらゆる場所にセンサが搭載され、それらの通信も一挙に担うことができることを意味しています。

このように多くの端末を一つの基地局で処理し切るには、従来の通信方式では実現が難しく、そこで用いられたのが「グラントフリー方式」です。これまでの通信で必要だった基地局と端末とのやりとりの一部を排除することを選んだのがこの技術。従来の通信で必要だった、端末が基地局と通信をするために必要だった通信の事前許可の申請とその承認を排除したのです。

この処理の排除によって、端末から基地局に直接データを送信することが可能になった一方で、データが欠損するなどのリスクが高まる弊害もあります。これまでは、ある端末が通信を行う基地局において、他の端末が同時に通信を行おうとした時に、通信のバッティングが起きて障害が発生しないように、枠を細かく分けていました。しかし、この枠の設定があると通信可能な端末数が限られてしまいます。そこで、通信の枠を取っ払って、誰でもいつでも基地局と通信ができるようにしたのが、今回の「グラントフリー方式」です。5Gではそのバックアッププランも設計されているため、正確な通信が可能になったので実現に至りました。このプロセスの削減は上で説明した「低遅延性」の実現にも貢献しています。

この同時多数接続は、今後周囲のセンサが増加し、IoT関連のサービスや自動運転などを目の当たりにするまでは実感しづらいものではあるものの、今後確実に私たちの生活を変化させうる重要な役割を担うので、「グラントフリー方式」の重要性は認識しておくといいでしょう。

宙畑メモ
5Gのように世の中に変革をもたらすには、革新的な要素技術の発展が必要不可欠!4Gから5Gレベルで今後の宇宙開発を変革する要素技術についてまとめた記事もあります。

参考文献
エッジコンピューティング

全体文献として扱っている「5Gビジネス」のオンラインバージョン
グラントフリー方式の図を引用(本にもある)

5. 5Gは衛星データサービスまで繋がる!?生活変化やサービス活用事例と注目企業

5Gの普及に伴って、私たちの生活を変化させるサービスの提供がどんどん浸透していくことが予想されています。ここでは、5Gの強みである「高速大容量」「低遅延」「同時多数接続」を軸に、どのようなサービス活用が見込まれているかを紹介します。

5Gの強みを総動員したモビリティーサービス

5Gの応用例として最も注目されているのが、モビリティーサービスです。よく耳にする自動運転も然り、コネクテッドカー(常時インターネット接続する車)や自動車保険などにも5Gが大きな変化をもたらすことが期待されています。

車の自動運転の流れは、車に搭載される様々なセンサからの情報を集積し、それらを解析した結果をフィードバックとして与え、走行を制御するというものです。センサが集積したデータを送りきれない、フィードバックをもらうまでのスピードが遅い、そもそもその環境が整っていない、などの課題を5Gが解決することが見込まれています。

冒頭にも書きましたが、5Gになることで、通信遅延は従来の10倍の改善が期待されています。この数値が今後の自動運転が発展するためには非常に重要です。

例えば、時速60kmで走行中の車が次にどのような動きをするべきかを判別する際に大きな差を生み出します。4G/LTEまでの50 ミリ秒の遅れの場合、約50 cm車は進んでおり、その分だけ誤差が生じる可能性があります。遅延が10倍改善されることでこの誤差を数センチ単位まで抑えることができるため、この遅延の改善は非常に重要な側面を持っているといえますね。

実際は自動運転の自動化度合いが最高レベルに達するには2030年以降6Gが本格化してきたタイミングであるとされていますが、5Gでもそこに繋がるデータの蓄積が重要視されています。

Credit : 国土交通省 Source : https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/

自動運転に繋がる最も重要なサービスが「コネクテッドカー」とも言えます。常にインターネット接続する自動車は、5Gによってそのデータ集積が加速すると見られています。その中で注目されているのが自動車保険です。自動車保険では車のエンジンの状況、急ブレーキなどの運転状況、社内状況などもモニターし、被保険者のリスク度合いを評価することができるシステムが構築されつつあります。

5Gの世界では、このように関連技術やサービスを提供する企業の株価が上がってくると予想できます。上記以外にも、周囲の車や環境、地域の情報をフロントガラスに投影することで事故防止や運転の判断材料を提供する技術など、さまざまな技術が5G導入後に普及していくことも予想されています。5Gは日本中でのサービス展開が確実視されているインフラなので、直接的に関わりそうな通信事業者だけでなく、自動車産業及びそこに関わる技術提供の会社の株価にも注目です。

参考文献:
5Gビジネス

5Gで激変するエンターテイメント

5Gサービスでモビリティー同様に注目されているのが「エンターテイメント事業」です。スポーツ観戦やライブなどで、自分が好きなアングルで楽しむことができたり、VRやARなどを用いた没入感の高いエンターテイメントを実感できるようになることが期待されています。

VRスポーツ観戦のイメージ図 Credit : IDEAL Source : https://www.idealsys.com/jp/home/

5Gの特性の一つである「同時多数接続」。これまで限りある台数のカメラで捉えられていたスポーツやライブの映像ですが、これからは100台規模のカメラによるマルチアングルでの鑑賞が加速します。これらのデータを一挙に集積し、会場内外の観客にオンデマンドのアングルを提供することが可能になります。これは同時接続可能な端末数が桁違いに増加した5Gならではのサービス提供です。

さらに低遅延かつ高速大容量な通信によって、VRやARなどのデバイスを利用した没入感の高いエンターテイメント事業も、5Gによって伸びてくることが期待されています。5G関連の企業では、マルチアングルカメラやVR、ARを導入しているエンターテイメント事業を軸に、そのカメラメーカーやデバイスメーカー、通信を円滑に進めるための基盤作りをするシステムインテグレーターに注目です。

宇宙分野では、ANAやJAXAが主導で動いているAVATAR Xプロジェクトが注目を集めています。VRやロボティクス、センサ、ハプティクス(触覚)などを融合させて、異なる場所に設置した遠隔ロボットの「アバター(分身)」に接続することで、あたかも自分がその場所に存在しているかのような動きが可能になるものです。実はこのようなアバターの開発には賞金がかけられたことも。宙畑でまとめた記事がありますので気になる方はこちらもチェックしてください。

この取り組みの最終ゴールは月や火星表面に自分がいるような体験ができることであり、今後注目の宇宙トピックの一つです。

参考文献
・5Gビジネス
NEC 5Gホワイトペーパー​​
docomo ホワイトペーパー

キャッシュレス決済は「タッチレス決済」へ

5Gで注目なのは、信頼性の高い高速通信によって可能になる自動決済や認証機能です。特に注目を集めているのが、キャッシュレス決済の次世代版である「タッチレス決済」です。

キャッシュレス決済を実際に使っている方は、多いのではないでしょうか?QRコードをかざして、カードのICチップでかざして、スマホをかざして決済を行うことは日常となっているかと思います。

5G時代の決済では、それがさらに簡略化され、カバンの中にスマホが入っている状態で改札が通れて、コンビニではレジを通らずに商品を購入できる「タッチレス決済」が一般化される見込みです。

5Gの技術面を前の章で書きましたが、5Gで使う電波の周波数は非常に高いため、遠くに電波を運びづらいという難点を持っていました。しかし周波数が高い分、一度に多くのデータを素早くやりとりできる利点もあります。

タッチレス決済ではこの弱点を逆手にとって、入口及び出口のゲートに、高周波数で短距離のみ通信できる仕組みを搭載し、ゲートを通ったスマホとのみ通信するようにしました。これによってカバンやポケットに入っているスマホとのみ通信が可能になるので、あとはキャッシュレス決済と同じ要領で決済が完了します。もしかしたら、5Gの恩恵を最も感じるのはこの瞬間かもしれません。

タッチレス決済が可能なAmazon Go Credit : Amazon Source : https://www.amazon.jobs/jp/business_categories/amazongo

アメリカでは5G通信を利用せずともレジを通すことなくカバンに入れた商品が、出口で勝手に決済される「Amazon Go」という無人コンビニが実際にあるなど、タッチレス決済の試験運用はどんどん行われています。筆者もシアトルにある店舗で体験しましたが、万引きしてしまっているような不思議な感覚の中で決済が完了していました。
日本のコンビニや、鉄道の改札、スポーツ観戦やライブ鑑賞の入り口もこのような決済方法が敷かれれば、人件費や安全を確保でき、各社の売り上げ向上が見込まれるのではないでしょうか。加えて、タッチレス決済を可能にするゲートが製造できる会社や、通信を応用するソフトウェア開発の会社の今後の動向にも注目です。

参考文献
・5Gビジネス
docomo ホワイトペーパー
タッチレス決済の事例

6. 5Gが提供される国内外のエリア

日本国内での5G通信サービスの提供は既にスタートしており、2023年現在では人口カバー率は90%を超えています。。ここでは、5Gの提供範囲や各通信事業者の目標値をまとめるだけでなく、海外の5Gサービスの提供国や、逆に制限がかけられている国の動向もまとめています。

日本国内の5Gサービスの提供は既に始まっています。基本的な普及の流れとしては、まずは東京や大阪などの主要都市からの提供となり、その後政令指定都市を中心に拡大し、その他地域に広がっていきます。

今回5Gの全国への普及にあたって注目したいのは、政府から各通信事業者に対して要求されている「カバー率」です。4Gまでの通信では「人口カバー率」が重要な指標とされていました。日本で、どれだけの人に4Gサービスを提供できるか、という意味合いを持っています。

一方で、5Gからは「エリアカバー率」が到達目標の指標として設定されています。これは日本の面積をどれだけカバーしたかを示す指標です。IoTデバイスなどのセンサ類との通信も見込まれているため、単に人口密度が高い場所をカバーすればいいということではなく、国内の広範囲をカバーする必要があるという側面から設定されている目標値です。人がいない地域こそ、IoTデバイス等で状況を監視する必要がありますよね。

KDDI、ソフトバンク、docomo、楽天の主要通信事業者らは、2024年までに日本を10km四方で4,500地区に切った全エリアの50%をカバーすること、2021年には全都道府県に基地局を作ることを、5G利用の条件として総務省から要求されていました。この条件があるからこそ、人口が多い地区だけをカバーするわけにはいかないのです。

エリアカバー率が事業者にとって重要な指標になる一方で、ユーザ側で最もわかりやすいのはやはり「自分が使えるかどうか」でしょう。これは「人口カバー率」という指標で表されており、通信事業者各社も人口カバー率を5Gの普及率としてユーザに向けて公表しています。

5Gの人口カバー率は2023年3月末に96.6%を達成し、総務省が目標としていたよりも1年早く人口カバー率95%を達成しました。

主要キャリア各社のカバーエリアは以下からご覧ください。
au
Softbank
docomo

国外では、「世界初の5Gサービス提供」のポジションを、アメリカと韓国が争っていました。この争いは、両者が予定よりも発表を早める奇策を講じたものの、韓国が先んじて発表したようです。その他にもアジアでは中国、オセアニアではオーストラリア、ニュージーランド等、ヨーロッパではイギリス、フランス、ドイツ、スイスなど主要国でサービスがスタートしています。
余談となりますが、スイスでは、5G通信の健康被害の懸念から、サービス提供が停止するという報道がされたようですが、健康被害の科学的な証拠がないことから、局面は大きく変化せずにサービスがスタートしたようです。

日本国内でも健康被害の意見は上がっています。そんな中、総務省やdocomoがそれに対して科学的な検証結果を公表しています。総務省は「電波防護指針」という資料の中で、5G通信によって健康被害が発生するとは考えにくいという見解を示しているので、気になる方は是非一度読んでみてはいかがでしょうか。

電波防護指針とは?(総務省より)

docomo 5G健康被害に関するレポート

参考文献
ソフトバンクのカバー率(株主総会より)
auのカバー率
docomoのカバー率

総務省(5Gの整備状況)

5Gをめぐる各国の動き(情報通信白書:総務省):世界初の5G導入が韓国である記述

総務省が発表した5Gの健康懸念意見に対する意見書

​​電波防護指針

スイスの5G規制の報道(産経新聞)

docomo 5G健康被害に関するレポート

7. 5Gのデメリットや懸念点も理解しよう!その対策にも注目!

5Gのサービス提供には、日本国内外でさまざまな意見が飛び交っています。ここでは、実際の運用で懸念されている点や5G通信のデメリットを紹介します。5Gは私たちの生活をいい方向へ変化させる華々しい面が頻繁に取り上げられますが、光あるところに影あり、といったところなので、影の部分についても理解しておきましょう。
5Gの提供エリアの地域格差や5G通信中にあるプライバシーリスクといった課題があると言われています。

まずは5G提供エリアの拡大スピードにおける「地域格差」についてみていきましょう。前章でお話した通り、国は5Gの提供範囲を「エリアカバー率」で管理しているものの、通信事業者側も5Gを利用しうる人口が多い都市部から導入を進めていく方が合理的であるため、どうしても地域によって導入スピードには差が出てきます。人口密度の高い地域に基準を揃えたサービス提供が進んでいくことで、地域格差が顕著に現れてしまうことは、日本の課題である地方の過疎化や、それに対する地方創生の取り組みに対してマイナスの影響をもたらす可能性があります。

ただし、この課題への対応策も合わせて検討されています。「ローカル5G」という企業や自治体で5Gを独自に導入できる制度と、地方創生と社会課題解決に繋がる場合には税制が優遇されるという施策です。

ローカル5Gとは、特定の建物やエリアにおいて誰でも通信事業者(5G通信の提供側)になれるシステムです。これによって地方にスマートシティを作ったり、伝統芸能の鑑賞やスポーツ観戦の場にローカル5Gを導入し、オンラインとオフラインを融合させたエンタメ作りも可能となります。既にこのローカル5G導入への申し込みは多数あることが報告されており、大手通信事業者の5G導入が追いつかないエリアでも、スポット的に5Gの利用が進むことが期待されています。ローカル5G導入にかかるコストについては、地方の課題解決や地方創生に繋がるため、優遇税制が取られることも決まっています。このような強力な施策によって地方でも5G通信が素早く展開されていく可能性が高まっているので、今後の動向に注目し、課題となっている地域格差の改善や地方創生に目を向けることも重要になりそうです。

次に指摘されているのが、通信にとって最も重要な「プライバシーリスク」です。5Gになると、通信やセンサによって個人を自動認証するサービスが加速します。それに伴うプライバシーリスクの高まりは認識しておきましょう。
個人の自動認証の代表例としては、既にアメリカで運用されているAmazonの無人店舗や、個人にマッチした街頭広告、タッチレス決済などです。個人情報や個人の特定できるもの、そこまでに至らないものの体や目の動きなどの「パーソナルデータのやりとり」が、ユーザと事業者の間で高頻度で行われることになります。
5Gになり通信の信頼性は上がっているものの、情報漏洩の可能性は0ではなく、高頻度で通信が行われれば確率論的にも、プライバシーが危険に晒される可能性が高まるので、個人情報の認証範囲やそれに対する法規制には注目しておく必要がありそうです。

このように、通信事業者も認知している5Gのデメリットは存在します。私たちの生活を支えるモバイル通信のデメリットは、ユーザである私たち自身もしっかりと理解していく必要があります。また、明確化されている課題に対して、通信事業者がどのように対策を講じていくかも、今後5Gが普及していく中では注目です。

ローカル5Gの税制優遇に関するお知らせ(総務省)
ローカル5Gについて(softbank)
5G時代の地方創生(5Gビジネスの著者によるNRI発信の記事)

8. 人工衛星は5G時代を支える最も重要な存在の一つに

5Gで変革していく時代は、人工衛星から提供されるインターネット通信や衛星データが大きな貢献をしていくことが想定されています。ここでは、宇宙ビジネスと5Gの相性の良さを、具体的なサービス例をあげて紹介します。

人工衛星が提供するインターネット通信と5Gは、「通信可能場所」と「環境」の2点で互いの弱点を支え合う関係性にあります。5G通信では、基地局などの通信設備が必要ですが、人工衛星による通信では、簡単なアンテナで通信が可能になります。この手軽さでエリアを選ばず通信ができることに加え、災害など地上での状況変化に関わらずインターネット通信が可能になることから、IoT/5G時代に人工衛星が果たす役割は大きいと考えられています。

具体的に見てみましょう。近年宇宙ビジネスでは、低軌道に配置した人工衛星を利用したインターネット接続サービスを展開する動きに注目が集まっています。最も有名なのが、再利用ロケットの打ち上げや、創設者のイーロン・マスクの存在などで有名なSpaceXが提供する、Starlink(スターリンク)プロジェクトです。

Credit : SpaceX

Starlinkに関する細かい解説は宙畑の別の記事に譲りますが、簡単に言えば宇宙空間に12,000機の人工衛星を打ち上げ、下り通信で10 Gbpsと5Gに匹敵する速度を実現するプロジェクトです。受信には専用のアンテナが必要ですが、それさえあれば地球全体を人工衛星で覆うため、陸海空と地球上のどこにでもインターネットに接続することができます。

このような通信が可能になった理由は、割り振られた通信帯域が24 GHzと5Gのミリ波帯の26 GHzと同等の高周波数であること、そして遮蔽物がない空からの通信のため電波が減衰しにくいことが要因として挙げられます。

同様に宇宙からインターネット通信を届けようとする企業が、世界中で台頭してきているので、今後のインターネット通信市場には注目が集まっています。

5Gは基地局に依存して超高速のモバイル通信を提供するため、基地局がないところではその性能を発揮することができません。日本国内でもエリアカバー率は50%以上が必須条件にはなっていますが、これでは山奥や海上では通信ができません。一方で人工衛星から提供されるインターネットは、専用アンテナを持っていれば場所を選びません。5Gで通信ができない山奥や海上などの場所は人工衛星による通信でカバーする、このような相性のいい組み合わせが、5G時代に宇宙ビジネスに注目を集める要因になっています。

災害等で基地局も使えなくなり通信が不可能になることも想定されます。このようなタイミングであっても、人工衛星からのインターネット通信がアンテナ一つで可能になります。相互に状況確認できるようになるため、被災側も救助側も同時にメリットを受けられます。

しかし「5Gが繋がらなくなったから衛星通信に切り替えよう!」という動作も手間がかかります。さらに、アンテナを利用するなど複数のデバイスを必要とします。この課題を解決するサービスも既に提案されており、アメリカのLockheed MartinとOmnispace(オムニスペース)が共同で進めている事業で、複数のデバイスを必要とせず、ユーザが衛星通信と地上のネットワークをシームレスに移行できるようするものです。最終的には、どこでも使える低遅延のネットワークをエンドユーザに提供することを目標に掲げています。

このようなインターネット接続の面だけでなく、人工衛星の開発が進むことで衛星データのバリエーションやボリュームが増えていき、これらの利用が加速する面にも注目が集まっています。

5G時代は多種多様なセンサによって集積されたデータが集約・可視化されてくるため、これまで見えてこなかった社会のさまざまな課題への対処が可能になることが期待されます。地上で取れるデータの種類と量が増えるだけでなく、宇宙からの俯瞰のデータが増加していくことも期待されています。宇宙開発を中心とした宇宙ビジネスの分野は、急成長しています。特に人工衛星の数は急増の傾向にあり、そこから提供される地球を見下ろすデータが増加していくことは明らかです。人工衛星が観測できる地上の画像データ、GPSなどの宇宙からの測位データなど、その種類も多岐に渡ります。

人工衛星データの活用例として予想されるのは、農業分野における植生状況の分析や収穫量の予測であったり、小売・流通業では商圏の分析や流通経路の把握などが挙げられます。これらに、5Gの普及によって得られる多種多様なデータを組み合わせることで、さまざまな課題の解決が見込まれます。この面から見ても、宇宙ビジネスからは目が話せません!

9. すでに研究が始まっている!?6Gの未来

5Gの普及に注目が集まる中、既に次世代通信規格「6G」の実装に向けた研究開発が進んでいます。ここでは最後に、5Gから6Gにかけてどのような進化が見込まれているのかを簡単にまとめて、みなさんに5Gがあくまで通過点に過ぎないと理解していただきます。

繰り返しとなりますが、5Gの強みは「高速通信」「低遅延」「同時多数接続」です。NTTデータの調査報告によると、6Gになると、これらが更にパワーアップし、「超高速通信」「超低遅延」「超同時多数接続」になります。通信速度は5Gからさらに10倍早くなり100 Gbpsを超え、遅延は1 ミリ秒以下と5Gより早くなり、1つの基地局に接続できる端末も1,000万台と1,000倍にも跳ね上がります。

これに加えて、陸地の電波カバー率が100%になったり、5Gでリスクとして取り上げたデータの信頼性が99.99999%に向上することで非常に安心の通信が可能になるなどの付加価値もあります。例えば超同時多数接続、超高速通信、高信頼通信が組み合わさり、​​無線ネットワークが電波の代わりになってセンチメートル級でのユーザの測位を可能にする未来も予測されています。現在ユーザ端末はどこからどの基地局に対して接続しているのか、ユーザがどのぐらい動いているのか、その通信は信頼性があるのかが担保されることで、難しかった数センチ単位での測位が可能になりうるということです。このように、5Gでは考え付かなかったような、性能の組み合わせによるさまざまな強みが際立ってくるのが6Gの魅力と考えられます。

通信における様々な要件に対して、これまで以上の突出した性能を提供するイメージ図

5Gでは、通信の周波数がギガヘルツ帯まで使用されたことが注目されました。周波数が高くなればなるほど、遠くへの通信が難しくなる一方で、大容量の通信を一度に行えることで通信速度も向上させられる利点があります。6Gではさらに高い周波数帯の利用が考えられており、95 GHzからなんと3 テラHzになるので、より大容量通信が実現する見込みです。

6Gになることで、提供されるサービスにも更なる変革が起きるでしょう。例えば今まで電波が届きにくかった山奥や海上などのエリアにも6Gの超低遅延・超高速・大容量な通信サービスが提供されたら、遠隔操作などアプリケーションの幅が広がるので、人力に頼っていた農業や林業、水産業などの第一次産業を機械で自動化することが可能になり、一気に自動化が加速する可能性があります。

ここに衛星データによる地上の情報が組み合わされば、今まで利用されてこなかった地域の活用など、更なる社会の変革が起きるかもしれません。

参考文献:
基本的に以下のページから情報を抜粋
NTTデータ6Gホワイトペーパー

通信精度に関する資料(NTTデータ)

10. まとめ

話題の5Gについて紹介しました。5Gがどのような技術によって支えられている通信サービスなのか、導入されることでどのような恩恵を受けることができるのか、デメリットはどんなところにあるのか、など具体的にイメージしていただけたのではないでしょうか。

5Gは今後、宇宙ビジネスと密接に関わっていくことになります。5Gをバックアップするための衛星インターネット通信や、5Gの特性を生かした宇宙エンターテイメントなどを例として挙げましたが、今後はさらに広い範囲で「宇宙 × 通信」が進んでいくと筆者は考えています。私たちの生活に密接に関わる通信技術と宇宙をセットで考えていくことで、今後発展していく宇宙ビジネスを、より楽しむことができるのではないでしょうか。

全体を通した参考文献:

日経文庫「5Gビジネス」

総務省資料「第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望」

5G の高度化と 6G (NTT docomo)