衛星データには唯一無二の価値がある。メタバース空間のゼロ地点を作るスペースデータ佐藤さんを突き動かす衝動とは
実写と見間違うような超精巧な3DCG動画を公開し、話題となった株式会社スペースデータ。衛星データから生み出すメタバースの目的について詳しく伺います。
実写と見間違うような超精巧な3DCG動画を公開し、話題となった株式会社スペースデータ。衛星データからバーチャル空間に本物そっくりの世界を作り出しています。
株式会社スペースデータの代表であり、書籍「お金2.0」や「世界の創り方(前編)」など未来の価値観や世界観を発信されている佐藤航陽(さとうかつあき)さんに、衛星データの価値、衛星データを使って創りたいものについてうかがいました。
(1)データはまだ本当の価値を発揮できていない
宙畑:佐藤さんは、現在は株式会社スペースデータで、本物そっくりのバーチャル空間の制作に取り組まれています。衛星データを使った事業に取り組まれている理由はなんでしょうか。
佐藤:元々別の事業でビッグデータの解析はずっとやっていたんですが、インターネットの領域のデータの解析は統計的な話でしかなくて、あんまり面白くないんですよね。
データの活用先として、レコメンデーションエンジンを作ったり、サービス内でのユーザーのパターンを理解して、サービスをブラッシュアップしていくことをやっていました。
でも、結局はクライアントなど意思決定する方々がアクションを起こさない限りは、データは活用されない。データをちゃんと価値に転換するような方法が何かないのかなと思っていました。
(2)全球全体を把握するデータは衛星データくらいしかない
佐藤:私は、この世界の膨大なデータがあれば、現実世界とそっくりなものを仮想空間に作ることは容易だろうなと、7、8年前からずっと思っていました。
スマートフォンは、全世界で多くの人が持っているので、データとしては良いんですけど、そこから得られるのは行動履歴などのデータで、それだけでは地球全体を再現するにはちょっと足りない。地球全体を把握するデータ……と考えると衛星データくらいしかないので、そこから衛星データに興味を持ち始めました。
衛星であれば、航空機やドローンなどで懸念される航空法などの心配もないですし、ざっくりデータを取得するには一番いいだろうなと。
宙畑:衛星データを知った時の第一印象はいかがでしたか。
佐藤:結局、衛星データって、画像データでしかないので、ある種ITの中に取り込みやすい領域だなと思いましたね。
逆に言うと、ロケットとか衛星そのものを作ってるようなハードウェアを作ってる方々からすると、衛星データを扱ったアプリケーションを作ったり、価値を提供したりというのは、門外漢と言うか、別の領域なんじゃないかという気がしました。
衛星データの活用という意味では、IT企業こそが本領発揮できる領域なので、宇宙ビジネスの中では一番入りやすいかなと感じました。
宙畑:ちなみに、スペースデータ社で3Dモデルを作るとき使っているのは、具体的には何の衛星データなんでしょうか。
佐藤:可視光の画像と一部は標高のデータを使っていますね。
(3)衛星データを用いて作ろうとしている仮想空間とは?
宙畑:作った仮想空間はどのように使われていくのでしょうか?
佐藤:完全に同じものを作って、その上でシミュレーションしたり、その空間の中にあることこそデータの価値ではないかと考えています。
企業側としては、シミュレーションの結果を現実世界へフィードバックして改善するということがよく言われていますが、私はデータの活用という意味ではそれは半分なのかなと思っています。
仮想空間で起こったことは必ずしも現実世界に返す必要はなく、仮想空間は仮想空間で独自の成長をしていけばいいという考えです。
多くの人が、今は現実世界がメインという価値観を持っていると思うのですが、今後仮想空間の方が支配的という価値観になってくると、現実世界と仮想空間をシンクロさせる必要はなくなってくると思っています。
(4)仮想空間を現実のビジュアルに近づける必要はある?
宙畑:その場合、あえて現実世界と近い状態の仮想空間を作る必要はあるのだろうか?と思うのですが、その点はいかがでしょう。
佐藤:私がよく話をするのは「これってある種ベクトルのゼロ地点だよね」という話をしています。エンターテイメントのコンテンツを作る場合を考えても、完全に現実世界と似てないものを作っても、人々って楽しめないんですよね。
SF小説とかエンタメは、話の中で、(現実世界に無いような)新しいデバイスが出てきたらそれが何なのか一個一個説明しなきゃいけないので、現実のデバイスに近いものを使っているんですよね。
仮想空間でも、地球の重力を無視したり、現実世界のビルの作り方とかマンションの作り方とか部屋の作りを完全に無視したストーリーが生まれたとしても、全く意味がわからないと思うんですよね。
仮想空間では、XYZ の三次元の軸のゼロの部分(原点)を誰かが作って、あとはその空間に参加したそれぞれがどの方向にカスタマイズしていくかという流れになっていくと思っていて、そのゼロ(原点)を作る人が、まだいないんじゃないかと思っています。
宙畑:現実世界とは独立した仮想空間の中で生態系を創る時に、重要になってくることはなんでしょうか。
佐藤:やっぱり、キャラクターが大事になってくるのかなと思います。自分の個性みたいなところですかね。
仮想空間だとビジュアルも声も自分で変えられてしまうので、残るのは個性とか性格くらいしかなくて、そこは代替不可能で、より大事になってくるんじゃないかと思っていますね。
性別も人種も意味がない。リアルタイムの言語翻訳もすぐ出てくるので国も関係なくなってくる。
人類っていろんな格差を解消してきていますよね。今まで王様と賎民とか奴隷みたいなものを解消して社会発展していて、最近 だと、LGBT とかいろんなものの格差・差別っていうのをなくしてきているので。
仮想空間の中では、何者にもなれてどこにでも行けて、全てが自由になって全ての制約から解放されると人間に残るってのはキャラクターしかないんじゃないかと 思いますね。
(5)佐藤さんを突き動かすクリエイティブ衝動と破壊衝動
宙畑:佐藤さんは、note「世界の創り方(前編)」でも、世界を創る、生態系を創るということを書かれていますが、佐藤さんがそういったことに興味を持たれるのはなぜでしょうか。
佐藤:世界そのものの創り方を理解した上で、それを万人が使えるようにしたいという目的が元々私の中にあったんですよね。
自分自身がその創り方まで理解しない限りは、本当に「現実世界を理解した」とは言えないんじゃないかと思っています。さらに言えば、知識として知ることと、自分の手で創り出せることとして知る事っていうのは、全然違うことだと思っているので、自分で創れるところまで進みたいなと。
さらに、それを私だけじゃなくて、全員が再現できる(世界が創れる)ことができて初めて、この世界を理解したと言えるんじゃないかと思っています。その方法をどうにかして、この事業で学びたいと思っています。
宙畑:全員が再現できるというところに重きを置かれている理由はなんでしょう。
佐藤:自分だけが使える物っていうのは結局自分にしか再現できない。つまり、普遍性がないと思っています。
おじいちゃんでも子供でも理解出来て使える物が、真理に近いものなんじゃないかと考えているからですね。
あとは、個人的な私のモチベーションって、何かを作りたいという「クリエイティビティ」と何かを壊したいという「破壊衝動」が混在しているんですよね。
ゆえに、全員が世界を創れるようになった時に、この世界がどうカオスになっていくのかを見てみたいというのもあります。
今まで、社会という仕組みの中で、自分の役割、社会の歯車としてどう生きていくか苦しんでいる人々が、自分自身が世界そのものを創り出せるようになった時に、モチベーションや精神がどう変わってくるかを見てみたいです。ある種、いたずらに近い感覚ですかね。
宙畑:現実世界を複製するにあたってこの先、難しそうな箇所はどこにあるとみられてますか。
佐藤:ビジュアル的な部分だと全てここ5年以内くらいで手に入るんじゃないかと思っています。LIDARなどの様々なセンサー、衛星以外にもドローンとかを使って、ほぼ完璧に複製するっていうところまで行くんじゃないかなと思いますね。
ただ、ファンクション(機能)としての生態系・世界を作るというのは相当難しい。とても複雑なので、ちょっとの変数で形が変わってしまうといった、絶対的にこれをやればこうなるっていう法則性とはちょっと違う、確率的なものです。もう少しここの掘りがいがあると思いましたね。
取材を終えて
1時間の取材中、私たちのどのような質問にも瞬時にクリアな言葉で回答をいただく姿がとても印象的だった佐藤航陽さん。
ご自身の関心領域に対して、常日頃から膨大な量の思考や調査、実験を繰り返されているからこそ出てくる言葉の数々に、編集部一同圧倒されました。
インタビューで語られていた通り、今回発表された仮想空間の映像は、佐藤さんとしてはあくまで創りたい世界の一歩目、一番簡単そうな所にまず着手した、ということ。これからどのように世界が広がっていくのかがとても楽しみです。