宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

市場規模は6兆円超え! 広告産業における現在・未来の衛星データ活用事例

衛星データの利活用は様々な産業の徐々に浸透しています。広告産業における現在と未来の衛星データ利活用について妄想交えてまとめてみました。

農業、漁業といった一次産業からインフラの管理に観光や株価予測まで……現在、衛星データの利活用はあらゆる産業に少しずつ浸透してきています。実際に、宙畑では様々な衛星データ活用事例を記事にしてこれまで紹介してきました。

そして、この度宙畑で新しく始める連載「現在・未来の衛星データ活用事例」では、すでにある事例とこれから産まれるだろう・産まれたら面白いなと思う衛星データの利活用を妄想交えて各産業別に紹介していきます。

本連載の第1回で取り上げる産業は「広告」です。

(1)広告産業の市場規模と衛星データの利活用を考えるうえでの広告の定義

まず、今回取り上げる広告産業について、市場規模からお話しできればと思います。国内の市場規模は、電通社が毎年発表する「日本の広告費」の最新のデータを見ると、約6兆円。そのうち約30%はインターネット広告が占めており、今後もインターネット広告の市場規模拡大は伸びると予測が出されています。

経済産業省が発表する統計「特定サービス産業動態統計調査」を見ても、インターネット広告が急速に市場規模を拡大していると分かります。

では、そもそも広告とは何なのでしょうか。広告の定義について、いくつか参考になりそうな文献やインタビューを漁って見たのですが、どうも画一した定義があるわけではなさそうです。

そのため、本記事では広告を「テレビCMや屋外看板、webサイトバナー、YouTubeといった広告に限らず、何らかの商品・サービスを届けたい人に訴え、人の行動変容を促すあらゆる手段」と定義して話を進めることとします。

そして、今回は「広告×衛星データ」の事例を紹介する上で、以下4つのパターンに分解して、紹介します。

①広告掲出場所x衛星データ
どのような場所で広告を掲出するのが適切か、また、新しい広告掲出場所を産み出す際に衛星データを用いる事例

②広告クリエイティブ x衛星データ
何らかの商品・サービスを訴求するための広告素材、またはクリエイティブそのものを作成するために衛星データを用いる事例

③広告の出し方x衛星データ
広告成果を上げるために、広告掲出条件を改善する際に衛星データを用いる事例

④商品を買いたくなる環境の醸成×衛星データ
商品・サービスそのものを訴求するのではなく、商品を買いたくなる環境づくりに衛星データを用いる事例

ではさっそく、広告掲出場所x衛星データについて、利活用事例を紹介しましょう。

(2)広告掲出場所 x 衛星データ

おそらく広告産業における衛星データ活用事例で最も分かりやすいのはこの事例でしょう。

■地理的な特徴に基づいた広告掲出

まず紹介するのは屋外広告における衛星データの活用事例です。

衛星データは、地球を周回する地球観測衛星が撮影したデータであり、地球全球の各地の情報を衛星データをもとに定量化し、比較することができます。つまり、日本全体の中でも植物が多いエリア、日射量が多いエリア、坂道が多いエリアなど、様々な土地の情報を全球で把握できるという訳です。

例えば、以前にも宙畑では「電動アシスト付自転車が売れる場所はどこだ」という仮説を衛星データを用いて立て、実際に検証をするという記事を公開しています。

検証結果としては、東京の世田谷区の成城学園前駅には電動アシスト付自転車を持つ人が多いのではないかと予測を立てたのですが、近くの坂道を通る自転車を観察すると50%以上(全国的には7.5%)が電動アシスト付自転車だったという予想通りの結果となりました。

このような地理空間データの使い方は商圏分析とも言われますが、屋外広告を出したり、ポスティングを行う上でも有効だと考えられます。

また、③広告の出し方 x 衛星データにも関連しますが、特定のエリアの物件情報を見ていたり、実際に住んでいるだろう人にインターネット広告を掲載する上でも役に立つデータとなるでしょう。

■衛星データを用いて作成した仮想空間上の街に広告掲出

広告掲出場所x衛星データの次の事例は、広告掲出ができる場所そのものを増やすという観点でも衛星データが寄与しているというものです。それは「衛星データには唯一無二の価値がある。メタバース空間のゼロ地点を作るスペースデータ佐藤さんを突き動かす衝動とは」で語られた、メタバース×衛星データの事例を創出するSpaceData社の取り組みの一つ。

上述の記事では、衛星データを用いて、現実世界に近い3Dの仮想空間が作られており、仮想空間がどのように作られ、どのような使われ方をするのかについて主に伺いました。

今回の広告×衛星データに焦点を当てると、SpaceData社が本プロジェクトを推進するための資金調達手段として行ったクラウドファンディングのリターンがとても興味深い事例でした。

そのリターンは、衛星データを用いて作られた仮想空間上のビルの屋上や主要駅周辺の看板広告というもので、このクラウドファンディングは900万円以上集まり、目標金額に対して18倍のハイ達成。

これから仮想空間上で展開されるだろう様々なビジネスと比較すると規模は小さいかもしれません。しかしながら、物理社会以外にも衛星データを用いた仮想空間が作り出され、仮想空間になると、その場所を訪れる人が仮想空間上でどのようなことに興味があり、どのような広告をよく凝視しているのか……といったことを元に広告を掲出できる可能性もあるでしょう。

(3)広告クリエイティブ x 衛星データ

続いて、衛星データを用いた広告クリエイティブの事例としては2つの可能性があると考えています。一つは商品・サービスのキャッチコピーの要素を作り出すこと、もう一つは、広告クリエイティブそのものや商品パッケージに衛星データを使うというものです。

■商品・サービスのキャッチコピーに衛星データの利活用

地理空間の特徴を活かした屋外広告掲載場所の選定をするという話と重複しますが、衛星データを用いることで、特定の土地がどのような土地なのかを定量的に評価することができます。そして、その評価指標は衛星データの使い方次第でアイデアの数だけ作り出せます。例えば、植物が多い場所、暗い場所、日照率が高い場所など。

つまり、特定の商品が作られた場所や、その土地そのものについて、衛星データを用いることで、様々な指標をもって他の土地と相対的に比較し、訴求したい商品や訴求したい土地の特徴を抽出できるということです。

すでにある事例としては、「標高2000m以上にあるホテル」「最も標高が高いJR駅」などが挙げられます。

また、宙畑で行った同様の取り組みとしては、各地のブランド牛の牧場について、複数のデータを並べて勝手に美味しいだろう牛ランキングを作ったり、夜間の光のデータをもとにして妖怪が出現するかもしれない場所を探したり……と様々なチャレンジをしています。

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他にも、「星が綺麗に観測できて、ロケットの打上げも観測できる場所」といった、複数の条件が合わさった場所を特定の範囲内から発見するといった使い方をすることで、新しい観光名所を発掘することもできるでしょう。

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■広告クリエイティブそのものや商品パッケージに衛星データを利用する

続いては、広告クリエイティブに衛星データのキャプチャを利用するというもの。一番わかりやすい事例としては、衛星データのキャプチャを背景にしたバナーを作ったり、看板を作ったりというものでしょうか。宙畑のサイトにも衛星データを背景にキャッチコピーを載せたTellusサイトに遷移するバナーを掲載しています。

例えば、農作物や原材料にこだわったワインなどの加工品の訴求をする際に何処で育てられたのかを目立たせるために衛星データのキャプチャを利用するということもできるでしょう。

他にも、商品そのものに衛星データを用いている事例もあります。直近の事例としては、スカパーJSAT社が販売を開始した「海のクレヨン」が挙げられます。これは、衛星データから取得した世界各地の海の色でクレヨンを作ったというもの。すでに一般販売も開始されており、Amazonでも購入することが出来ます。

また、衛星データと任意の画像を混ぜて新しい1枚の画像を作成し、それをパッケージにするといった取り組みもプロモーションの一環として活用できるかもしれません。

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このように、商品そのものに付加価値をつける用途で衛星データが使われる事例も今後増えてくるだろうと推測されます。

(4)広告の出し方 x 衛星データ

続いて、広告の出し方における衛星データ利活用について、実事例があるものからお話しすると、天気に応じて掲載する広告が変わる、天気連動型広告というものがあります。

■天気連動型広告

天気情報については、厳密に言えば、衛星データだけを用いたものではなく、様々なデータを統合して正確な情報を蓄積・更新しています。現在、ウェザーニューズ社が気象データをAPIなどで提供する「WxTech®︎(ウェザーテック)」では、全国1kmメッシュ/1時間単位の気象情報が分かります。

宙畑メモ メッシュ
もともと「網目」を意味する言葉で、 地図を一定の区画に分割し、分割した領域に名前を付けたもの。1kmメッシュと言う場合、1辺×1辺が1kmの正方形の範囲ごとに特定の場所の天気が分かるという意味になります。

つまり、1kmメッシュという細かい範囲で、その場所にいる人がどのような環境下にいるかが分かり、その環境に応じて、掲載する広告やアプリのポップアップ通知を変えられるということです。

例えば、ウェザーニューズ社に教えていただいたのは、コカ・コーラ社の成功事例です。同社のアプリ内で気温が高く熱中症の危険が心配される日には、「熱中症に注意」という通知とともに、該当日時にドリンクを購入すると2倍のスタンプがもらえるキャンペーンを打つことで、売上が20%上がったそうです。

また、タクシーの外側にディスプレイを設置し、タクシーが走っている場所の天候に応じて掲示する広告を変更するという取り組みも始まっています。より細かいメッシュで天候状況が分かるようになったことで、天気に連動した様々な広告の成功事例が今後も出てきそうですね。

■特定の条件下にいる人のみに掲載する広告や通知

また、妄想が多く混じる話にはなりますが、天気以外でも特定の条件を満たすエリアに入ったらスマートフォンに通知を出すという取り組みが今後続々と出てくると面白いだろうなと思っています。

例えば、博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センターと株式会社sorano meは、標高データを用いて、東京タワーや富士山といった特定のランドマークが見える可視エリアを推定した結果を利用者に返すLINEbotを作成していました。

このデータを用いれば、富士山が見える位置に入った時に、スマートフォン上に「富士山」が見えるかもしれません」といった通知を出し、より高性能なカメラを内蔵したスマートフォンの広告を出す、近くの富士山が見える飲食店リストをおすすめするなどといった取り組みもできるでしょう。

他にも、気温や湿度、近くの公園情報を用いて「ここは東京で上位5%に入る、ビールを飲むのに最適なスポットです」や、夜間の光の情報を用いて「ここは東京23区で上位1%に入る、星がよく見えるスポットです」といった通知を出せるようにもなるかもしれません。

(5)商品を買いたくなる環境の醸成×衛星データ

最後の事例は、広告で訴求したい商品やサービスの魅力を上げたり、広告の成果を上げるために衛星データを利用する事例ではありません。広告や商品に関連する環境を変えることで、より商品やサービスを買いたいと思うようにするというものです。

例えば、海釣りの成果を上げるために衛星データを使う事例を産み出していく。すると、レンタルボートを借りる人が増えたり、釣り竿を購入する人が増えるなどが挙げられます。

実際に、宙畑で最も読者の方から衛星データの使い方を教えてほしいという問い合わせが発生したのは「まさに目からウロコ! 衛星データで見つけた漁場の釣果が凄かった」という記事でした。

上記のように衛星データを使うことで出来すぎでは?と思えるほどの魚が釣れ、衛星データを使って海釣りをしたい!という人が増えたのではないかと思われます。

このように、衛星データを用いて、これまで出来なかったことができるようになる/これまで以上に成果が上がるやり方が見つかるといった、環境の変化があることで、付随する商品やサービスを使いたくなるという事例も今後産まれてくるだろうと推測されます。

(6)まとめ

以上、広告×衛星データの事例について、すでにある事例、これから産まれるだろう事例を妄想交えて紹介しました。

本記事で紹介した事例はあくまで、現時点で宙畑編集部が見えているもの。今後、予想だにしなかった利活用事例が産まれるのが衛星データの活用方法であると考えています。

これからどのような衛星データ利活用事例が産まれるのか、とても楽しみですね。