宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

教育現場での衛星データ活用のすゝめ、教科別の衛星データを用いた学習方法

これからはデータ分析の時代。社会に出ていく前に学校でどんなデータ分析が学べるのか、教科別に衛星データを使ったアイデアについて宙畑編集部が妄想しました。

データ分析の重要性が叫ばれて久しい現在。

ビジネスの世界でも、避けては通れない領域になってきていますが、一方で、正しくデータが扱えるかと言われると、学校ではそんなこと習わなかったしな、どうしたら良いのかよく分からないという人も多いのではないでしょうか。

宙畑が推進している衛星データは、宇宙から広く地球の様子を捉えたデータであるため、地球上のあらゆる分野に関わることができる客観的なデータとも言えます。

そこで、本記事では衛星データを使って、データ分析について学ぶ「教育」をテーマに、学校の教科別で衛星データを使った学習方法を考えてみました。

本記事は、すでにある衛星データ利活用事例とこれから生まれるだろう・生まれたら面白いなと思う衛星データ利活用を妄想交えて各産業別に紹介する宙畑連載「現在・未来の衛星データ活用事例」の第3回です。

(1)ビジネスにおけるデータ活用は必須?日本における人材課題は?

Source : https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/pdf/n3200000.pdf

総務省がまとめる令和2年度版情報通信白書によると、日本の企業活動において分析に活用しているデータとして割合が高いものは顧客データや経理データとなっています。

また、この5年で大きく伸びを見せているものとして、POSデータやeコマースの販売記録データが挙げられます。全体としての割合は低いものの、GPSデータや交通量のデータ、気象データなど地理空間に紐づけられている「地理空間データ」も伸びていることが分かります。

海外と日本の比較で見ていくと、企業活動におけるデータ収集・蓄積・処理の導入状況は、導入済み・導入予定と回答した企業の割合が、アメリカやドイツと比較して低く、日本において取り組みが遅れている現状が見えてきます。

さらに、扱うデータの種類をみていくとパーソナルデータ(製品やサービスから得られる個人データ)以外のデータの活用状況で「活用している」と答えた日本企業はアメリカ・ドイツの半分以下であり、自治体などが公開している調査・統計情報などのオープンデータの活用が進んでいない現状です。

ビジネスにおけるデータ分析を行う人材という観点でみていくと、MicKinsey Global Insutituteの”Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity”によると、データサイエンス人材(※)は2008年時点でアメリカで約25,000人、中国で約17,000人、英国で約8,000人という数字に対し、日本は3,400人と各国と比べてこちらも遅れを取っている現状があり、対策が急務とされています。

※データサイエンス人材:統計学や機械学習に関する高等訓練の経験を有し、データ分析に係る能力を有する大学卒業生

このような中で、大学において統計専門の学部学科の新設や、社会人教育などと並んで初等・中等教育に行ける統計教育の更なる充実、総合化が課題として挙げられています(2015統計関連学会連合大会、我が国を支えるデータサイエンス力の高い人材育成、総務省、統計情報戦略推進官 須江雅彦)。

「令和の時代の滋賀の高専」構想骨子(素案) Credit : 滋賀県 Source : https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5289964.pdf

最近では、令和3年12月に発表された、滋賀県が検討を進める新たな高専案「令和の時代の滋賀の高専」構想骨子(素案)の中でも、「衛星データ活用」が卒業後の活動領域イメージのキーワードとして、取り入れられています。

また、沼津高専ではデータサイエンス教育の一環として、衛星データを使った授業が行われました。

(2)教科別!教育×衛星データの実施例

そこで今回は、衛星データのおすすめしてきた宙畑編集部が考えた教科別の衛星データを使った学習方法を提案します。

「衛星データ」というと、理系教科にしか関係がないと思われるかもしれませんが、実際には様々な文脈で使うことができるのです。

①地理×衛星データ
②歴史×衛星データ
③総合的な学習の時間×衛星データ

(3) 地理×衛星データ

10年に1度の学習要領の改定により、2022年から高等学校で「地理総合」が必履修科目となり、以下の3つが学習の柱として定められています。

A 地図や地理情報システムで捉える現代社会
B 国際理解と国際協力
(1)生活文化の多様性と国際理解
(2)地球的課題と国際協力
C 持続可能な地域づくりとわたしたち
(1)自然環境と防災
(2)生活圏の調査と地域の展望

地図や地理情報システムで捉える現代社会

一つ目の柱には「地理情報システム(GIS)」というキーワードが含まれています。衛星データと関係が深いGISについて、宙畑でも以下の記事で解説しています。

GISとは「コンピュータ上で空間データを収集・取得し、それらをデータベースとして構築し、管理し、検索し、分析し、統合し、表示し、伝達する一連のシステムである」です(地理空間情報の基本と活用)。

平たく言えば、位置情報の付いたデータを見たり、解析したりすることができるシステムといったところでしょうか。

私たちが良く知っているものだと、GoogleマップもGISの一種です。地図上でレストランの位置や営業時間を知り、そこまでの経路を検索したり、道路の混雑情報を調べたりすることができるなど、今や私たちの生活に無くてはならないものになっています。

衛星データを始めとする様々な情報を地理空間上に重ねることで、「貿易相手国の変容とその要因」「物流における輸送手段の選択」など世の中で起きている事象を多面的・多角的に考察し、表現する力を身に付ける力が身に付きます。

インターネットで、面白いGIS活用事例を探してみるのも面白いかもしれませんね。

例えば、衛星データを使ったGIS活用事例としてマラリアの感染予測マップがあります。

感染症のポテンシャルマップ Source : https://malariaatlas.org/explorer/#/

どんなデータをどのように分析し地図上に表示しているのか、さらに、可視化した結果から言えることは何か考えてみてください。

国際理解と国際協力

2つ目の柱「国際理解と国際協力」では、世界で暮らす人々の多様性を理解し、地球環境問題、資源・エネルギー問題、人口・食料問題及び居住・都市問題などの傾向性や課題相互の関連性の理解が掲げられています。

一方、衛星データの特徴の一つとして、世界中のデータが得られるという点が挙げられます。この特徴は、政府などによる統計情報が十分でない国の状況を理解するのに有効です。

実際に世界銀行では、途上国を支援するための貧困研究に衛星データが用いられています。

持続可能な地域づくりとわたしたち

3つ目の柱は、地域に根ざし、自然環境や自然災害への備えや対応、また、地理的な課題の解決に向けた取り組みや探求する手法などについて理解します。

このような各地域での取り組みにも衛星データの活用が期待できます。

例えば、衛星データを使って、観光の目玉となる温泉を探してみてもいいかもしれません。

千葉県千葉市のMy City Report。市民が街中で見つけた危険を報告できるアプリ。

衛星データは現時点では使用されていませんが、千葉県千葉市や福井県鯖江市では、オープンデータや市民からの情報を集めて可視化することで地域の課題を解決する取り組みを実施しています。

自分たちの街の課題を、衛星データやオープンデータを使ってどう解決するか、考えて見るのもよいのではないでしょうか。

(4)歴史×衛星データ

一見、関係が無いように思われそうですが、実は衛星データを使って考察すると面白いのが「歴史」です。

キャプション)Tellusを使って、熊本城周辺の地図(Open Street Map)と地形(国土地理院の色別標高図)を重ねた様子。中央の青いピンが熊本城。北側から南へ伸びる高台の先端に熊本城が築城されていることが分かる。

例えば、お城の専門家にご協力いただき、熊本城の地理的な条件を読み解いた記事では、衛星データを使って、その場所にお城を築いた理由を探りました。高台や川の流れを利用して、攻められにくい場所を選定していたのです。

また、別の記事では戦国時代の有名な合戦について、衛星データを使ったら勝敗が変わっていたかを歴史学者の先生とディスカッションしました。

歴史と聞くと、文系科目のイメージが強いですが、データを使って定量的に分析してみることで、その時代の人たちが何を見て何を考えて行動したのか、より深い理解につなげられるかもしれません。

(5)総合的な学習の時間×衛星データ

衛星データは、基礎科目だけでなく、子供の柔軟な発想を伸ばす、総合的な学習の時間の教材としても使えるかもしれません。

2021年11月に、ソニー社と日本旅行者が発表したのは、人工衛星を活用した学校・教育機関向けの体験プログラムです。

生徒はそれぞれの視点や感性で疑似的に宇宙から地球を撮影し、作品を作ります。実際に作品の一部は宇宙からの撮影も予定されているそうで、本物の衛星で撮影する体験を通して、生徒が科学に興味を持ったり、創造性を育むことを狙っています。

ソニーと日本旅行 人工衛星を活用した学校・教育機関向け体験プログラムの共同開発を開始

また、子供が興味を持ちそうなテーマを衛星データで分析してみるのもいいでしょう。宙畑では、「鬼探し」をテーマに専門家に鬼が出没する条件をお伺いし、衛星データを使って場所を絞りこみ、現地調査を実施しました。

テーマは奇抜ですが、課題に対しての条件の調査、データの分析、現地調査が含まれており、ある意味データ分析業務の基本とも言える一連の流れを体験することができました。

このように、子供が興味を持ったテーマを衛星データをはじめとするオープンデータで分析し現地調査を行ってみると、その土地の理解や、データを扱うことへの理解が深まるかもしれません。

(6)まとめ

今回の記事では、現在日本で不足しているデータサイエンス人材の育成について、衛星データを使って理解が深まる・学習が促進されるであろうアイディアを、教科別に提案しました。

さらに、これらの活動を通して、衛星データに興味を持ってもらうことができると、今度は衛星データそのものを理解するために、数学や理科の知識が役立てられます。

例えば、衛星データは光や電波など「波長」を使って観測が行われるので、数学の三角関数や理科の光の波長などの単元と密接に関わってきます。

何の役に立つのか分からないと思われるような基礎的な分野でも、「宇宙」という最先端の分野で人工衛星やロケットを扱うために必要ということが分かると、子供の学習のモチベーションも上がるかもしれませんね。