国内外で利活用が進むアクセルスペースの衛星画像サービス、新たに雲なし画像生成など4つの新プロダクトを発表【宇宙ビジネスニュース】
【2022年2月7日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
2021年3月、アクセルスペースは日本初の商用地球観測衛星コンステレーションを構築しました。小型衛星5機による観測体制が整い、撮影頻度が2日に1回に向上したことで、衛星画像の利用用途は大幅に広がったといいます。
1月26日に開催されたAxelGlobe(アクセルグローブ)の事業進捗報告会で語られた、売上の推移や新プロダクトのリリース予定、そして今後の衛星の打ち上げ計画についてまとめます。
5機体制に移行し、売上は大きく拡大
2つの事業柱
アクセルスペースは2008年に創業した、東京大学発スタートアップ企業です。事業の柱となっているのは、専用衛星事業とAxelGlobeの大きく2つ。
まず、専用衛星事業では、顧客のニーズに合わせて衛星の設計、開発、製造、打ち上げのアレンジまでを行うワンストップで行うサービスです。
(専用衛星事業の顧客事例)
「洗濯物が乾く時間が10分単位でわかる」50年以上気象データを用いて顧客ニーズに応え続けるウェザーニューズの今
そして今回の事業進捗報告会のメインであるAxelGlobeは、100kg級の超小型衛星「GRUS(グルース)」を打ち上げ、入手したデータの販売と解析を行うサービスです。2018年に1号機を打ち上げた後、2021年に4機を同時に打ち上げ、現在は5機体制で運用されています。
次世代地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」
GRUS衛星の特徴のひとつは、観測幅が広いこと。基本の撮影サイズは30km四方ですが、東京駅から八王子までがすっぽりと収まる57㎞×1,000㎞以上の撮影も可能です。さらに、中分解能に分類される2.5m分解能での撮影を実現しています。
宙畑メモ
観測幅とは、衛星に搭載されているセンサが観測できる幅のことを指します。アメリカのベンチャー企業Planet Labsの超小型衛星Doveの観測幅24kmと比較すると、GRUS衛星の観測幅57kmは、とても広いことが分かります。
観測幅が広ければ、少ない衛星機数でも観測できる範囲が広がります。さらに、広い土地を1枚で撮影できることには、時期の揃ったデータを見切れることなく扱えるというメリットがあります。広大な農地のような、できる限り時期をそろえた画像で比較したい際に、AxelGlobeのデータは優位性があると言えるでしょう。
アクセルスペースは、2021年6月に顧客が自由に指定したエリアを用途や予算に応じて撮影するサブスクリプションサービス「Tasking&Monitoring」をリリースしました。
取締役CPO(最⾼プロダクト責任者)の中西佑介氏は、2.5m分解能でTasking&Monitoringサービスを提供していることは、大きな強みであると説明します。
「中分解能で、タスキングが可能であるかどうかは一つの分岐点になります。これをやっているのは、基本的には我々のみになります。非常に大きな差別化のポイントになっているのかなと思います」
「(全てのエリアを)網羅的に撮影すると、使われない画像も増えます。そこにコストがかさんでいってしまいます。ニーズがあるエリアを重点的に撮影するということで、我々としても非常に効率よく撮影ができます。結果的に、他社と比較して数分の1の価格でデータを提供できています」
また、報告会には、国内外のAxelGlobeのユーザーが登壇しました。国⽴研究開発法⼈防災科学技術研究所の⽥⼝仁氏は、緊急観測をリクエストできることをAxelGlobeのメリットとして挙げていました。
2021年下期売上は、対前年⽐1,860%!
5機体制に移行し、大型案件の契約を獲得したこともあり、2021年下期売上は対前年⽐1,860%に成⻑したといいます。
AxelGlobeの利用用途は従来からあったインフラモニタリングに加え、より撮影頻度や撮影キャパシティが求められる農業や防災、地図作成⽤途等に拡⼤しているようです。
報告会では
「50ヵか国25000人の農家が使っている広大な精密農業向けのソリューション開発を行っており、主にはsentinelを利用しているが、もう少し解像度が欲しいと思っていたところでAxelGlobeがニーズに応えてくれそうだった。100万ヘクタールに及ぶ領域も3~4回の撮影を通じて網羅的に撮影できた。画像の生成もうまくできていて、もうすぐ顧客に提供できそうだ」(Data Farming)
「2020年からリモセン画像提供ネットワークを構築している中で、AxelGlobeは私たちが持つ衛星データのポートフォリオをうまく補完してくれる」(HEAD Aerospace)
といったAxelGlobeの強みについて、利用しているユーザーのリアルな声を通して語られていたことが印象的でした。
4つの新プロダクト
報告会では、2022年にリリースを予定している4つの新プロダクトが発表されました。
AG Archive
・5機の衛星コンステレーションでこれまで撮影した全世界の過去画像を自由にご利用頂けるサービスです。
・Web Platform上で場所や日時、雲量などの条件から目的の画像を簡単に検索可能、最小5㎞×5㎞の単位でご利用が可能です。
・2022年2月以降に段階的にリリース予定
AG Cloudless Mosaic
・撮影時期の異なる複数の画像から雲のない画像を作成し提供するサービスです。
・光学衛星画像でネックとなる雲を取り除くことで、地図作成用途や防災用のベースマップ等幅広い用途での利用が可能となります。
・2022年3月以降に段階的にリリース予定
AG Custom Capture
・撮影日を自由に設定して撮影可能なサービスです。
・最短で翌日の撮影も可能、災害等不測の事態における緊急撮影も可能です。将来的には数時間後のタイムリーな撮影予約も可能となる予定です。
・2022年3月以降に段階的にリリース予定
AG Reservation
・撮影と画像利用を別々に行うことが可能なサービスです。
・将来的にアーカイブ画像が必要でも現時点では画像が必要ない場合、希望地域の撮影だけ行うことが可能です。その後画像が必要となった際に、撮影された画像の中から必要な画像だけ購入することが可能です。
・2022年3月以降に段階的にリリース予定
今回、宙畑編集部が注目したのは、撮影と画像利用を別々に依頼できる「AG Reservation」です。
2021年6月にリリースされた「Tasking&Monitoring」は、顧客が自由に指定したエリアを用途や予算に応じて撮影するサービスです。CPOの中西氏によると、顧客から「撮影だけしておいて、後で必要な画像だけをピックアップしたい」という声が上がっていたといいます。
プロダクトとして新たに加わる「AG Reservation」は、顧客からリクエストを受けて撮影は行うものの、画像の購入費用は必要になるタイミングまで発生しないという画期的なサービスです。顧客は画像の購入費用を抑えられる上に、アクセルスペースにとっては将来的に画像のニーズが高まる可能性がある地域を把握してアーカイブを作成できるメリットがあります。
利用例としては、報道機関向けには情勢の変化が注目されている地域、行政向けには災害対策などが挙げられていました。
また、撮影時期の異なる複数の画像から雲のない画像を作成する「AG Cloudless Mosaic」は、地図作成用途や防災用のベースマップなどの幅広い用途に利用できるということで、登山用の地図など身近なツールにも役立てられていくのではないでしょうか。
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打ち上げ計画
報告会の最後には、今年の第4四半期にGRUS衛星4機を追加で打ち上げる計画が発表されました。これにより、AxelGlobeは9機体制になり、地球上のあらゆる地点を1日に1回撮影できるようになります。
前回の2021年3月の打ち上げから次回の打ち上げまでの期間が短かったことから、GRUS衛星は必要最低限の改修のみが行われているといいます。このことについて、代表取締役CEOの中村友哉氏は
「なるべく早く9機体制にすることに重きをおいています」
と説明しています。
今後のコンステレーション構築計画について質問が上がると、CPOの中西氏は、GRUS衛星9機体制で提供できるサービスの利用用途を踏まえて検討する方針を語りました。
「まずは(9機体制になり)1日に1回撮影できるようになるので、どのような用途に対応できるかをまずは検証したいと考えています。そのあとは単純に機数を増やしていくのか、もしくは違う分解能、違うセンサーを組み込んでいくのかなど、まさに足元を検討しています」
日本初の商用地球観測衛星コンステレーションがどのような進化を遂げていくのかに、引き続き注目が集まりそうです。
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参考
地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」事業 新プロダクトラインナップ発表、及び 全世界毎日観測を実現する次回衛星打上げ日決定!