宙畑 Sorabatake

衛星データ

桝太一さんも驚きの衛星データ利活用の最前線~防災・自然災害編~

今回、宙畑が訪れたのは、衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)のアンバサダーを務める桝太一さんがMCとして衛星データ利活用事例を有識者と語るワクワクトークの収録。第1弾は防災・自然災害をテーマにした対談です。

地球観測衛星の活用について【防災・自然災害】、【海】の2つの切り口で、専門家の方々との対談の様子を2回に分けてお届けいたします。

今回のテーマは、防災・自然災害です。対談者として陸上自衛隊 東部方面輸送隊長 大崎香織さん、JAXA第一宇宙技術部門 地球観測統括 平林毅さん、国土交通省砂防部砂防計画課地震 火山砂防室長 判田乾一さんの3名の専門家にご参加いただき、地球衛星観測データ活用の現状と今後の展望について対談の様子をお届けします。

左から桝太一さん、判田乾一さん、大崎香織さん、平林毅さん Credit : sorabatake

桝さんのワクワクポイント

①衛星観測データから数センチの変化に気づく活火山のモニタリング技術
②衛星観測データの「Before」と「After」が防災・減災の鍵となる
③ヘリだけでは把握できない被害地域の全体像を早期に把握できることで、効果的な救助活動へ

(1)地球観測衛星だいちとは

本対談では、JAXAの地球観測衛星「だいち(ALOS)」について多く語られていたため、本題に入る前にまずは「だいち(ALOS)」について情報をまとめました。

まず、地球観測衛星には大きく分けて2つあります。自然の放射光や反射光を観測する光学衛星と、自ら電波を出しその反射波を観測するSAR衛星の2種類が存在します。

光学衛星の撮影画像 Credit : JAXA, さくらインターネット

「だいち初号機(ALOS)」は光学衛星にあたります。光学衛星は写真のように見れば誰でも分かる画像ですが、光を観測するため夜間・雨天・曇天時は観測できないという特徴があります。今年度打ち上げ予定(※)の「だいち3号(ALOS-3)」も光学衛星です。
※2/6取材時、3/7の打ち上げで軌道投入失敗

SAR画像 Credit : JAXA, さくらインターネット

SAR衛星である「だいち2号(ALOS-2)」は電波を用いるため昼夜・天候の影響を受けることなく観測できる大きな強みがあります。一方で、SAR衛星は電波を使うことで、私たちが普段目にする写真のようなデータとは異なり、SAR画像の解釈・解析には専門知識が必要とされています。例えば、土砂崩落のSAR画像を見ると、山肌が露出した箇所が黒くつるつるしたようにみえます。

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(2)防災としての衛星活用

防災分野での衛星観測データの活用方法について紐解いていきます。対談は「陸上自衛隊の防災対策と衛星観測データとの関係性について教えてください」という桝さんの問いから始まりました。

衛星データを自衛隊の最前線で活用する大崎さんは、衛星観測データをそのまま解析する事はないものの、解析されたハザードマップや被害想定に基づいて事前計画を策定しているといいます。
また、平林さんはインフラ設備の老朽化を見つけ出し、点検すべき箇所の洗い出しと対処をすることで防災に役立てることができると説明します。桝さんも堤防の沈下などを予め把握し事前に手を打つ衛星によるインフラ監視が、防災・減災の大きな役に立つと期待を寄せます。

インフラ設備の老朽化が社会問題となっている日本では、労働人口が減る中で全てを人で点検する事にも限界があり、衛星データを用いて効率的に対処する事で発災時の被害を最小限に抑えることができるのではないでしょうか。

さらに、火山噴火に伴う災害対策が専門の判田さんは、蓄積した衛星観測データから火山のモニタリングを行い、火山の数cm単位の膨張を把握し避難指示などの判断材料に使用しているといいます。平林さんから、日本の活火山111火山のうち既に50火山は定量的に火山の監視活動をしていると補足もありました。来年度以降打ち上げが予定されている「だいち4号(ALOS-4)」については観測幅がさらに広がり、日本の全活火山のモニタリングも予定されているとのことです。

火山モニタリングに関する画像

桝さんのワクワクポイント①

桝さんはニュースで報道される山体の膨張は数センチ単位とされ、衛星観測データから数センチ単位の変化を把握する技術力の高さに驚きと、自然災害に対する衛星活用技術が世界でも役立つものになるだろうと話されていました。

(3)発災後の衛星活用

発災後の衛星活用としては、地震、津波、洪水、土砂崩落、噴火など幅広いシーンにおいて活用されていることが話されました。

まず、データ解析の観点で、JAXA 平林毅さんは日頃から衛星観測データを積み重ねておくことが重要だと訴えます。

具体的には、災害前後のデータ分析をする際に、発災前の衛星観測データを沢山集めておくことで災害後どこが変わったのか判断できるといいます。

Credit : 西部方面総監部広報室

桝さんのワクワクポイント②

桝さんの過去のご経験から現場では地図を頼りにどの道が使えるのか行ってみないとわからないといい、衛星画像から「Before」と「After」を比較し、崩落や浸水している場所を予め回避することで支援物資の輸送なども早く届けることができるのではないかと桝さんも期待を寄せます。

対談では具体的な事象における衛星データの利活用についても話がありました。

~スリランカ国での土砂災害~
 判田さんは、スリランカでの大規模斜面崩壊のご経験を例に、豪雨・土砂崩落での衛星観測データ活用の事例を紹介。

当時のスリランカには発災前の地形のデジタル画像がなく、土砂災害の発生前後を分析する際に衛星観測データを使用したとのこと。

実際にJAXAの衛星観測データを使用し、土砂災害の発生前後を比較し崩壊土砂量の算出など解析に使用してきたと言います。

また発災直後にはヘリコプターで災害現場を確認する事が多いとのことですが、天候によってはヘリコプターを出動させる事が出来ない事、現場付近に向かっても雲で撮影が出来ない事もあると言い、天候に左右されないSRA衛星の画像を参考に効率的に現場に向かうことができると話がありました。

桝さんのワクワクポイント③

取材でヘリコプターの搭乗経験がある桝さんからも、ヘリコプターには飛行時間の制限などがあるなかで被災地の調査は難しいといい、衛星画像から事前に被害が大きい地域を絞ってルート検討ができれば効果的だと説明します。

~熊本地震~

災害派遣の経験もある大崎さんは、夜に起きた災害の難しさについて語ります。夜間では現場での情報が少なく、災害の全体像が把握できないことで部隊の運用にも支障がでると話します。

実際に、熊本地震では衛星観測データを元に作成された防災管理システムを使って、災害の状況把握を行ったとのこと。

「衛星観測データからどのような事が分かるのか」という桝さんからの問いに対して、平林さんは断層の動きや地盤の沈下、建物被害などを把握することが可能と言います。加えて、災害対応の主力衛星であるSAR衛星「だいち2号(ALOS-2)」の一番の強みとして、夜間、天候関係なくデータ収集できる点を強調されていました。

大崎さんは熊本地震災害現場での課題として、都市部の災害情報や、人が入れる被災地の報道は多いものの、山間部の情報収集が遅れることがあったと言います。山間部の被災状況がわからないなかで災害現場を確認する際には予め衛星画像からの情報を確認したうえで、より詳細な情報についてヘリコプターなどを使用し現地で確認したそう。

Credit : JAXA

衛星観測データを用いて被害の大きい地域を予め絞ることで限られた時間の中で効率的に情報収集することができた事例ですね。

一方で、地球観測衛星の弱点として上げられたのは、衛星データが現場に共有されるまでのタイムラグです。一分一秒を争う現場ではよりリアルタイムな情報が求められていると話が上がりました。

この課題に対して、平林さんは、地球を回る地球観測衛星の観測頻度が1日1回など限界があることについて触れ、観測頻度を向上するためには、1度の観測幅を広げる事、軌道上の海外、民間の衛星と連携しより多くの情報を手に入れる工夫が必要であると説明しました。

~2022年桜島 噴火警戒レベル5~

 昨年桜島では大きな噴石が火口から2.5キロまで飛散し、初めて噴火警戒レベルが、最も高いレベル5へ一時的に引き上げられ、一部の住人へ避難指示が出されました。判田さんから、現場でどのような衛星観測データが利用されたのか説明を頂きました。

火山灰が飛ぶ方向、量など、降灰データを試験的に把握するために観測データを使用したといいます。平林さんからは、大気中の火山灰を把握することはできないけれども、地上に積もった灰は衛星画像を使用し前後の様子を比較することができると説明がありました。火山灰の堆積から火山灰が土石流として流れてくる可能性などを予め把握し、対応につなげることができるといいます。

(4)現場が求める衛星データと今後の展望

防災・発災後の地球観測衛星の活用について学ぶなかで、衛星の利活用については2つの課題が見えてきました。

衛星データのより迅速な取得(データの取得速度)と、現場で使えるデータの追及です。

データの取得速度の追及については、日本の地球観測衛星では観測頻度の限界があるものの、センチネルアジアの枠組みなど世界中の宇宙機関と連携することで観測頻度を補う事ができます。

また、10年前と比較して衛星の打ち上げ数が14倍にもなる昨今、政府衛星のみでなく、民間の衛星との連携が強化される事でより現場までの情報共有のスピードが上がる事が期待されます。また、平林さんは、衛星データの解析に技術者の手がかかっている事実もあり、今後データ解析の自動化やAI化を進めていく必要性があると述べました。
現場で使えるデータの追及については、平林さんから衛星観測データを使いやすくしていくという課題認識をしたうえで、使用者がすぐに使えるデータへ加工した状態で渡すために、技術者とエンドユーザーを結ぶサービス事業者が重要になると説明がありました。加えて、衛星観測データが使えるという事を広く知ってもらう事も必要だといいます。

判田さんも同じ課題意識を持っているといい、現在衛星観測データを使用するために解読などのトレーニングを実施するものの、解読には経験とスキルが必要となっている現状を指摘します。桝さんは、課題解決に向けて衛星観測データの技術者と使用者のコミュニケーションが重要になってくるのではないかと話しました。

このように、衛星データ利活用の課題については、対談者一同が同意し、平林さんは技術者と使用者が一緒に「何に使えるのか」、「どんな課題解決をしたいのか」を考えていく事は、衛星観測データの使用を定着させていくために重要になると訴えます。データの使用者からフィードバックをもらう事で、技術者だけでは気づけない衛星観測データの有効的な活用方法、解読方法の研究を進めることができるといいます。

判田さんは大規模亀裂のSAR解析を実施した際に、衛星からの観測が難しい箇所であったものの結果としてSAR画像から変状箇所を見ることが出来た事に触れ、技術者と使用者が積極的にコミュニケーションをしながら一緒に研究を進めていくことが鍵だと実体験も交えてその重要性について話しました。

まとめ

今回の対談では防災と、発災という観点での衛星データのお話が主な内容となっていましたが、今後の展望のなかで平林さんから災害復旧にも地球観測衛星がいかせるといった発言もありました。例えば、衛星データから保険料の支払いを迅速化する取り組みも進んでいます。

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災害が多い日本だからこそ、データが蓄積される事で更なる防災対策、発災後の被害最小化に繋げていくと共に、衛星観測データが予防から復旧のサイクルに一貫して貢献できるものにしていきたいですね。