宙畑 Sorabatake

衛星データ

桝太一さんも驚きの衛星データ利活用の最前線~海洋編~

今回、宙畑が訪れたのは、衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)のアンバサダーを務める桝太一さんがMCとして衛星データ利活用事例を有識者と語るワクワクトークの収録。

第一弾として【防災・自然災害】をテーマに地球観測衛星の活用についてご紹介させて頂きましたが、今回のテーマは【海】です。対談者としてウミトロン株式会社代表取締役 藤原謙さん、JAXA第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 主任研究開発員 水上陽誠さんの2名の専門家にご参加いただき、海を切り口に衛星観測データ活用の現状と今後の展望について対談の様子をお届けします。

本記事は、2023/2/7に収録が行われた「(YouTubeタイトル)」で語られた内容をまとめています。収録では、2023/3/7に軌道投入に失敗したALOS-3への期待について言及がありました。
動画内ではALOS-3についての言及がありませんが、本記事では、ALOS-3の開発に従事された方への敬意とALOS-3がどのような期待をされていたのか、なぜ地球観測衛星の開発が今後も必要とされるのかという観点で多くの読者に知っていただきたいという思いから、ALOS-3に関する会話の内容も記載しております。ぜひ本記事を通して地球観測衛星、だいちシリーズについて理解を深めていただけますと幸いです。

左から桝太一さん、藤原謙さん、水上陽誠さん Credit : sorabatake

(1)海における衛星活用ニーズ

衛星地球観測データと「海」がどのように関わりがあるのでしょうか。筆者も海が大好きですが、衛星観測データの利用を考えると、大きな特徴として船で海上に出ることなくデータ収集できる点が挙げられると考えます。

また、海は、陸地と比較してまだまだ未開拓の領域。そんな未開拓の領域も、衛星データを使用する事で効率的に調査ができるのではないでしょうか。今回は対談で触れられたサンゴ礁と養殖、ブルーカーボンの3つのテーマについて、地球観測衛星の利活用事例や展望を紹介します。

桝さんのワクワクポイント

1.船上では分からない情報を含む広域観測可能な衛星観測データを蓄積し、海を守る
2.衛星データが養殖産業成長と海の環境保全の鍵に
3.「だいち3号(ALOS-3)」が解決に寄与する養殖産業の課題
4.桝さん大注目のブルーカーボン

(2)「サンゴ礁を衛星でみる」とは

衛星でサンゴ礁を見る一番のメリットは「広範囲をみられることだ」と水上さんは話します。実際に「だいち(ALOS)」で観測されたデータの紹介がありました。

サンゴ礁モニタリング Credit : JAXA Source : https://www.satnavi.jaxa.jp/jp/story/6092/index.html

衛星観測データでは、日光の反射がある水深3〜5m程度は色の違いで判別できるため、広範囲を見る事でサンゴ礁の多い地域などを一目で見分ける事が出来ます。航空写真でサンゴ礁を撮影することもできますが、一度に撮影できる範囲が限られるため衛星観測データの方が有効とのこと。

また、もう1つのメリットとして、蓄積された衛星観測データを使い海の変化を継続的にモニタリングできる事に触れ、今後のサンゴ礁の研究について、特に昨今ニュースでも取り上げられるサンゴ礁の白化現象研究の鍵になるのではないかと水上さんは期待を寄せます。

サンゴ礁の白化現象とは、海水の温度が上がることでサンゴの中に共生する褐虫藻を失い色素が抜け、サンゴが白くなる現象のこと。白化した状態が続くと、サンゴは壊滅してしまいます。昨年石垣島で発生したサンゴの白化現象を例に実際の衛星観測データの利用についてご紹介いただきました。

 石垣島で発生したサンゴの白化現象には、「Sentinael-2」で観測されたデータを使い、前後の画像を比較することで白化現象を確認することが出来たそう。ただし、衛星観測データだけで白化現象の発生を断定することは難しく、現地調査が必要となるとのことでした。併せて海面水温の変化については「しきさい」の衛星観測データから平均海面温度の上昇を確認できたとのこと。

 現在実証研究中の取り組みについても水上さんからご紹介がありました。サンゴ礁モニタリングとして、サンゴ礁と藻場、砂地を衛星観測データから見分ける試みです。衛星観測データと現地調査を重ねながら、今後は予測精度を上げ、人が簡単に行くことができない地域でもデータから見分ける事ができることで環境保全に繋げていきたいと説明します。

藤原さんは養殖でのご経験から、衛星観測データを元に現地調査をするのは難しいのではないかと切り込みます。水上さんは大きくうなずき、「本当に大変なんです」とのこと。具体的には、衛星画像には位置情報がないこと、海上には目印がないためGPSだよりとなること、また船から真下に潜って調査することの難しさがあると話しました。

サンゴ礁モニタリング Credit : JAXA

桝さんのワクワクポイント①

桝さんからは、海水温は、特定の地域全てを船で測ることは不可能である為、衛星地球観測は大きな利点だという言葉もありました。また、海での現地調査の難しさに同意しながらも、衛星観測データがあるからこそ目的地を絞って最小限のマンパワーで調査できることは強みではないかと述べました。

(3)養殖現場における地球観測衛星への期待

養殖の現場において、藤原さんが衛星観測データに期待するのは「エサやり」だと言います。理由として魚がエサを食べる量は水温によって変化するため、生育環境を管理することが重要になると説明します。

これに対して、桝さんがエサを予め置いておくだけではダメなのかと質問したところ、藤原さんはエサを置いておくことが出来ない理由として、海の環境変化のスピードの速さがあると話します。

具体的には海流の変化によって海水温が日々変わること、併せて海中は場所によって海水温も異なっているため、1箇所だけの水温を計測するだけでは足りないと言います。さらに、エサの量を細かく調整する事で、2割のエサを削減し同じ成長速度で魚を育てることができるそうです。特に養殖の現場では、エサ代が費用全体の5〜7割を占めるためコスト削減の効果も大きいといいます。その先には消費者がより美味しく、よりリーズナブルに魚を食べることにも繋がっていくことでしょう。

水上さんは、技術者の立場から衛星観測データの利用場面が広がる事は喜ばしいと話します。

また、藤原さんは、養殖での衛星データ利用の場面はさらに広がり、将来的には殖場の適地選定にも活用できるのではないかと話していました。長期間の水温データを分析し、土地の向き不向きや、どういった魚が育つのかを判別できる未来に期待を寄せます。加えて、世界人口の増加、健康志向の高まりで魚の需要は高まっていくといいます。藤原さんは現在農業や畜産業においては人工的に必要な分を管理して育ていているのに対して、いまだに海洋資源は天然のものを消費し続けている事を指摘し、今後水産業の需要が高まるなかで海洋資源を守るためにも魚を獲るだけではなく、消費する量を育てる養殖は重要になると強く訴えました。

Credit : UMITORON

さらに、衛星観測データを使用した海洋保全についても議論が盛り上がりました。

海洋資源を守るための養殖でもありますが、藤原さんは養殖自体にも一程の環境負荷があるといいます。既に東南アジアでは環境問題となっていることとして、エサを多く与えすぎる事で不要なエサが海に流れてしまい、海底地質の汚染につながってしまうそう。魚へのエサやりについては、地上のように余った分を回収する事が出来ない為特に難しく、衛星観測データを用いた魚のモニタリングが必要だといいます。

「エサやり」への衛星データ活用について、効率的な養殖だけでなく、環境保全の観点でも重要になる事を理解しました。

桝さんのワクワクポイント②

桝さんは昨今魚の価格が高騰し高級食材となりつつあると話し、衛星データを使用した効率的な養殖を通して必要な量を育てることが食料調達と共に、自然の海洋環境の環境保全にも繋がると期待を寄せます。

(4)養殖現場が求める衛星データと今後の展望

藤原さんは養殖現場での課題として、海洋のデータの中でも、衛星観測データを含め沿岸域の情報が少ないことを指摘しました。陸に近い沿岸域は生き物が多いため、養殖やサンゴ礁のモニタリングという観点でも重要なエリアだと補足します。

沿岸域での衛星観測データの不足について、藤原さん大きく2つの課題あると話します。現場を細かく見る「観測頻度」と「解像度」です。

水上さんは、現在の観測頻度について、地球観測衛星によっては同じ場所を通るには数日かかるためリアルタイムの情報共有が難しいといいます。一方で、水温の観測は1度に広範囲を観測できる衛星によって頻度を1日に1回まで上げることができるものの、その分解像度は落ちてしまうそうです。

藤原さんが代表取締役を務めるウミトロンでは3時間おきに海洋データを更新しているといい、現状、衛星データだけでは情報として不足があると説明します。希望は衛星から解像度5mのデータが、15分おきの頻度で共有されることです。養殖の現場では、それだけ沿岸域の海流が短期間で変わっていくのだと補足します。

水上さんからこれらの課題解決に向けた希望として、「だいち3号(ALOS-3)」は海の環境保全に貢献するといいます。「だいち3号(ALOS-3)」には、2つの特徴があります。初代「だいち(ALOS)」は分解能が2.5mであったのに対し、「だいち3号(ALOS-3)」は観測幅は70kmと変わらないまま、分解能が0.8m(パンクロマチック(白黒))まで向上します。広い視野で、細かいところまで見えることが大きな強みです。

だいち3号(ALOS-3)の特徴 Credit : JAXA

また、マルチスペクトル(カラー)では3.2mの分解能となっており、より細かい色、物体の違いが見えるようになるといいます。

海においては透明度の条件はあるものの水深25m前後まで見えると説明を聞き、藤原さんは3.2mの解像度へ強い期待を寄せます。沿岸域のどこに藻場があるかが分かれば栄養分の分析など、今まで収集できなかったデータを集めることができるのではないかといいます。さらに将来的には衛星観測データによって遠隔技術が進歩することで外洋での養殖活動の検討もできると意気込みます。

水上さんは水産業だけでなく、海面上昇など海の幅広い課題解決につなげていきたいと力強く語り、藤原さんは今後衛星観測データによる沿岸域のモニタリングが進むことで、養殖に適した地域で消費できる魚の量を育て、その他の海域は守っていくことを目指していきたいと話しました。

桝さんのワクワクポイント③

桝さんは番組での海苔の養殖経験から、その年の沿岸域の栄養状況に左右され、収穫高が変わる養殖の難しさについて説明し、今後栄養分の分析が進むことで生育環境の良い場所が把握できればとても便利になるといいます。

(5)海を守る~注目のブルーカーボン~

桝さんのワクワクポイント④
グリーンカーボンという言葉が世の中に広まる一方で、国土が狭い日本において森を増やすことには限界があるのではないかと桝さんはいいます。島国で海岸線が入り組んで長いことを強みに、海の森であれば増やせるのではないかとブルーカーボンに着目します。

本対談では、桝さんが注目するテーマとして、海洋保全と合わせてブルーカーボンにも話が拡がりました。グリーンカーボンは森林など生き物の作用により生み出される炭素のことをいいますが、海ではブルーカーボンという考え方があります。

水上さんはサンゴ礁を例にブルーカーボンについて紹介しました。サンゴ礁には海草の生える藻場があり、海草が光合成によって二酸化炭素を吸収することから、藻場を大切にすることで地球温暖化の対策に繋がるという考え方をブルーカーボンといいます。まだ藻場が地球上にどれだけあるか現段階では不明との事ですが、今後観測衛星による観測データを蓄積し地球のベースマップを作成するなかでサンゴや藻場の生息地が分かると、地球温暖化への影響や二酸化炭素の吸収率についても見えてくるのではないかと期待を寄せます。

島国で海岸線が長い日本だからこそブルーカーボンに着目することが重要だと桝さんは話します。藻場が魚の産卵場所、稚魚の生育場所にもなっていると述べ、生物多様性を守るためにも藻場を守ることが重要だと説明しました。藤原さんは養殖場におけるブルーカーボンとして、貝類や藻類を育てることでクレジットを作る動きがあると言います。昔から養殖によって排出されるエサによる汚れの浄化を目的にカキ類などを植えてきたと言い、現在ブルーカーボンのクレジットとして、将来的には二酸化炭素吸収量の買い取りなど新しい収益源になるのではないかと期待されているそうです。

まとめ

今回の対談を通して、今後、海は特に活用の幅がさらに広がっていくように感じました。藤原さんからは今後の展望の中で、魚の養殖から販売を通じて衛星データと食卓を繋げたいと発言がありました。一同が強くうなずき、桝さんからは「今日の鯛のお刺身は、衛星を活用して育てられたんだ!」と思ってもらえる未来を信じて、衛星データと人々の生活を繋げていきたいと話がありました。未開拓の海での衛星データ利活用に日本の地球観測衛星が寄与し、海と人類の共生を推し進めてくれることを筆者も願っております。