宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

宇宙から物流を可視化するビジネスコンペ!NEDO Supply Chain Data Challengeの最終選考会

2022年12月12日に行われたNEDO Supply Chain Data Challengeの最終選考会の様子を詳しくお伝えします!

1. 最終選考会の概要

NEDO Supply Chain Data Challengeは、経産省とNEDOが主催する初の懸賞金をかけたビジネスコンペです。

本コンペは、人工衛星から取得したデータを用いて、サプライチェーンの状況を迅速に把握し、持続可能な物流を実現するためのアイデアやシステム開発を競います。

本コンペはアイデア部門とシステム開発部門の2部門に分かれており、システム開発部門は更に、港湾と災害の2テーマに分かれています。

詳細は過去記事を参照

本コンペは、2022年3月に応募を開始し、応募総数は世界各国で84件もありました。そのうち6月の一次審査を通過し、最終選考会に臨む参加者は、アイデア部門で8チーム、システム開発部門で12チームです。一次審査通過者は、専門家達とのブラッシュアップを重ね、内容を精査し、最終選考の12月12日を迎えました。

NEDO Supply Chain Data Challengeについて

2. 最終選考の詳細

最終選考は、部門ごとに発表をします。まず、アイデア部門の発表があり、続いてシステム開発部門(港湾、災害)の順で進んでいきます。以下、部門ごとの発表時間等を表にまとめました。

 

アイデア部門 システム開発部門
港湾 災害
発表時間 5分 10分 10分
質疑応答 2分 5分 5分
審査員数 9名 5名 5名
最終選考者数 8チーム 6チーム 6チーム

プログラム参照
https://supplychain-data-challenge.nedo.go.jp/file/program.pdf

最終選考者達への評価指標は大きく4つです。

・革新性
・開発技術の妥当性
・実現の可能性
・社会的発展性

これまでにないアイデアやシステムであることも重要ですが、それらが実現可能かどうか、そして社会のニーズに対応しているのかどうかも重要な評価指標となっています。審査員は、各チームの発表内容をこれらの指標に基づき審査していきます。

発表毎に、たくさんの質疑応答が選考者と審査員との間で行われ、コンペは大変盛り上がりました。部門の区別なく、共通して多かった質問は以下になります。

・事業実現に向けての課題を把握し、どのような対策を講じているのか。
・対象となるユーザへの十分なヒアリングを行い、ニーズの把握ができているのか。
・社会実装はできているのか。まだであればその可能性はどれくらいあるのか。

どの発表者も革新性があり、実現可能であるアイデアやシステムが多かっただけに、現実社会において、そのアイデアやシステムを必要とする企業が存在しているのかどうかを問う質問が多かったように思います。

実際に社会実装まで進んでいるチームは少なかったものの、どのチームも想定しているユーザへのヒアリングを重ねて、より現実に即したアイデアやシステム開発に磨きをかけている様子が伝わりました。

3. 結果

すべての最終選考者達の発表が終わり、いよいよ授賞式を迎えました。本コンペは初の懸賞金をかけた取り組みとなっており、授賞式はコンペ最大の盛り上がりを見せました。賞金は部門ごとに授与されます。

果たして最終選考で優勝したチームはどのようなチームだったのでしょうか。

部門ごとに受賞したチーム名(もしくは代表者名 (敬称略))及び、発表内容の概要を表にまとめました。

アイデア部門 チーム/代表者名 概要
第1位
(賞金100万円)
Space BD
  • ・衛星データとAI技術を組み合わせ、災害リスクを予測
  • ・低リスクな候補地の選定、保険会社への災害リスクの情報提供
第2位
(賞金50万円)
㈱スペースシフト
  • ・農地のSAR衛星データをAIで解析し農作物の収穫時期や量を予測
  • ・農業サプライチェーンに関わる農家、卸売、スーパーに情報提供し流通の最適化を実現
第3位
(賞金30万円)
渡邊学
  • ・衛星データを用いて森林の伐採位置情報や伐採箇所タグ付けサービスの提供
  • ・木材価格と港湾に置かれた材木量の物流情報より商社や先物取引業界に木材物流情報を提供
システム開発
部門(港湾)
チーム/代表者名 概要
第1位
(賞金1000万円)
Teamプププ
  • ・主なユーザは荷主とし、物流遅延の早期検知、影響の可視化、意思決定まで実現するアプリケーションの提供
  • ・サプライチェーンのデジタルリハーサルを実現するプラットフォームを構築
第2位
(賞金500万円)
PortMoMa
  • ・自社のSAR画像や、地理空間情報を用い、港湾における混雑とその影響の可視化・予測・管理のための「混雑指数」を導出
  • ・港湾管理者や投資家を対象に混雑指数サービスを提供
第3位
(賞金300万円)
小川芳樹
  • ・衛星画像を活用し、港のコンテナ分布、貨物車の積載状況の把握を実現
  • ・コンテナ混雑による陸域サプライチェーン影響を迅速に把握するサービスの提供
システム開発
部門(災害)
チーム/代表者名 概要
第1位
(賞金1000万円)
㈱スペースシフト
  • ・SAR衛星とAIを用いて、大規模洪水における浸水域を自動解析し、被害状況をリアルタイムに可視化するサービスの提供
  • ・損害保険の損害鑑定や支払いの効率化、自動車メーカーへ通行情報を提供
第2位
(賞金500万円)
Resi-Tech Inovators
  • ・降水量から洪水の浸水エリアを予測するAIモデル「FASPI」を開発
  • ・浸水エリア情報を基に、影響度評価や復旧対応を支援し、被害の最小化及び企業のサステナビリティ向上に貢献
第3位
(賞金300万円)
羽藤英二
  • ・衛星画像を用いて車両台数や速度を収集し、道路交通調査や維持管理に活用
  • ・衛星データを入力値とした交通シミュレータ分析結果を用い、道の駅収益管理OSや相乗り/公共交通、貨客混載、被災地支援などへ展開
アイデア部門第一位を獲得したSpace BD
システム開発部門テーマ1港湾第一位を獲得したTeamプププ
システム開発部門テーマ2災害第一位を獲得したスペースシフト

また上記の賞以外に、特別賞の授与も執り行われました。

Tellusチャレンジ賞は他の賞と異なり、賞金はないものの、今後のチームの発展に大きな期待が込められた賞です。本来、受賞者は1組のところ2組も受賞する形となりました。

特別賞 チーム名 概要
三井住友海上賞
(賞金80万円)
衛星レコメンドサービス
検討チーム
  • ・人工衛星には撮像頻度と解像度の課題が存在
  • ・衛星設計解析技術を用いて、最適な複数の衛星データの組み合わせを導出
  • ・ユーザが要求する観測地点の撮像頻度と解像度を満たし、衛星データ価値の最大化を実現
Tellusチャレンジ賞 Bandung Institute of Technology(ITB) Team in collaboration with PT Kreasi Rekayasa Indonesia(KIREI), Indonesia
  • ・AISや衛星データを用いて、滞貨発生時の港湾のパフォーマンスを計測
  • ・道路交通データと理論計算より安全な道路評価を測定し商品輸送の最適ルートを推定するダッシュボードシステムの提供
IDEAS
  • ・製造業を対象に、企業間の連携状況を被災状況の地理的空間情報と重ねるシステムの開発
  • ・実世界と仮想空間の両面からSCM改善を促進するクラウドサービスの提案

アイデア部門においては、自社の既存の強みを活かしつつ、本コンペにおける新規事業へ応用できる仕組みが明確になっているチームが多かったです。

システム開発部門においては、サプライチェーンが災害や何らかの非常事態により滞ってしまった場合、それらを可視化したりシミュレーションしたりする技術が求められます。今回受賞したチームは、可視化にとどまらず、更にその一歩先の代替案の提案を行うことで、ユーザへの意思決定をより容易なものにする創意工夫が見られました。

見事受賞したチーム全体の傾向としては、度重なるヒアリングを重ね、実社会に即したニーズを捉え、社会実装の段階や、その前段階まできているチームが多かったです。中には、外部だけではなく自社のニーズも調査することで、これまで見えてこなかったニーズを把握することができたチームもいます。

また、使用するデータの全体の傾向としては、SAR衛星を使用するチームが多かったです。衛星データとして良く用いられる光学衛星では、雲や夜間など”見たいときに見ることができない”という課題を、夜間や天候に左右されないSAR衛星で克服していることが理由のようです。

更にAIを駆使して、自前のモデル開発をするチームも多かったです。このようなチームは、AIモデルの開発をするうえで、SAR衛星の情報だけでは不十分であるため、地上データと組み合わせ、より高精度にシミュレーションや予測を行うモデル開発に取り組んでいました。

例えば水害における地上データの場合、標高データや水面のデータ、自動車の通行実績データなどを用いて、衛星データの補間をし、更なる精度向上に繋げているようです。

4. 最後に

震災などの自然災害や、コロナウイルスによる感染拡大等により、ある地域や世界規模で経済活動を停止せざる得ない事態が発生したとき、サプライチェーンの断絶が発生します。そして、このことは私たちの暮らしに大きな影響を与えます。

本コンペで取り組んでいるテーマは、日本だけでなく、世界への展開も見込まれる非常に重要なアイデアやシステムです。人工衛星だけでなく、地上データも組み合わせ、更にAIモデルを駆使し、シミュレーションや、将来の予測を行うことで、サプライチェーンをより強靭なものにできると分かりました。

2022年3月の応募開始から、最終選考の12月まで長期間にわたるコンペでした。今回残念ながら受賞できなかったチームもいたものの、どのチームも大変素晴らしいアイデアと、システム開発に尽力していたことが良く伝わりました。コンペを終えた後も、社会実装まで進むことを願っています。

NEDO Supply Chain Data Challengeについて、NEDOの広報誌「Focus NEDO 89号」にも取り上げられています。ぜひご覧ください。

NEDOの広報誌「Focus NEDO 89号」