イノベーションを起こしたいなら衛星データの活用は狙い目?社会実装に向けて解決すべきこととは
三菱UFJリサーチ&コンサルティングに所属するお二人の専門家にイノベーションのそもそも論や日本の課題についてうかがいつつ、衛星データ利用がイノベーションに最適な理由と、日本社会にもたらすインパクトについてお話しいただきました。
90年代にバブルが崩壊してからというもの、日本の経済は長期的な低迷を続けてきました。閉塞感を打ち破り、「失われた30年」を「40年」にしないためには、起爆剤となるビジネス上の変革——つまり、イノベーションが求められることは多くの人が合意するところでしょう。しかし具体的に考えてみると、果たしてイノベーションはどのように生み出されるものなのでしょうか。また、誰がプレイヤーになり得るのでしょうか?さらに言えば、資金力や組織的な開発力に乏しい個人であってもプレゼンスを発揮し、イノベーションを起こすことは可能なのでしょうか。三菱UFJリサーチ&コンサルティング(以下、MURC)でオープンイノベーションや社会実装に取り組む山本 雄一朗さん、志保田 真輝さんによれば、「個人でイノベーションを起こしたいなら、衛星データの活用は狙い目。ほぼ原資ゼロで始められ、個人情報リスクもないため開発のハードルが低い」とのこと。
この記事では専門家であるお二人にイノベーションのそもそも論や日本の課題についてうかがいつつ、衛星データ利用がイノベーションに最適な理由と、日本社会にもたらすインパクトについてお話しいただきました。
いま、世界が「イノベーション」を求める3つの理由
宙畑:経済上の閉塞感を打ち破るため、あちこちで「イノベーションが大切だ」と叫ばれています。しかし改めて考えてみると、「イノベーション」の定義はあいまいなようにも感じるのですが、MURCではイノベーションをどう捉えていますか?
MURC:イノベーションの定義は数あれど、企業におけるイノベーションに限って言えば、「異質なものを解決したい課題に併せた新たな方法で結合(新結合)し、革新的な価値の創出と普及を行うこと」と定義できます。
つまり、これまでには考えられてこなかったアイディアの掛け算を行い、それが新たなニーズをつかんで市場に普及すると「イノベーションが起きた」といえるのではないかと。
宙畑:携帯電話をただの小型電話機ではなく、さまざまなコンテンツが楽しめるプラットフォームに押し上げたApple社の「iPhone」などはまさにイノベーションの好例ですね。
MURC:ただここで重要なのが、実は定義の後半部分である「普及」です。
たとえば電動立ち乗り二輪車の「セグウェイ」は、画期的なアイディアとユニークなフォルムで大人気になり、“夢の乗り物”とまでうたわれました。
ところが生産・普及がうまくいかなかったり、法規制への対応や地域との連携が遅れたりして、生産終了に追い込まれてしまった。2020年7月のことで、まだ記憶に新しいところかと思います。
宙畑:どれだけアイディアが優れていても、普及(事業化)がうまくいかなければ「”真に”イノベーションを”世の中に”起こした」とは言えないわけですね。
MURC:その通りです。さらに言えば日本においては、「イノベーション」の定義が必要以上に狭く捉えられている気がします。つまり、どちらかといえばテクノロジー起点の非連続な革新(技術革新)こそがイノベーションとされ、既存の技術を組み合わせたり、新たなニーズを掘り起こしたりすることが視野に入ってこないというか。
他方で経済成長のためにイノベーションを求める傾向は高まり続けており、ミスマッチが起きている印象があります。
宙畑:なるほど。ここで原点に立ち返りたいと思いますが、そもそもなぜ今、日本でイノベーションが望まれているのでしょうか?
MURC:要因は3点です。1点目は、技術革新の速度が上昇し、イノベーションの種が激増したこと。
足元SNS上でStable DiffusionやChatGPTをはじめとしたAI技術が盛り上がっていることからもなんとなく感じられることですが、今の技術革新は本当に早いうえに、掛け合わせによって生まれる可能性やメリットも莫大なものとなっています。これを利用せずにおくべきか、というわけですね。
2点目はより企業目線での話になりますが、経営のサステナビリティ観点からの要請です。昨今の経営においては、企業として利益を追求する姿勢と、社会的責任を果たすESGの考え方を両立させることが求められるようになりました。しかし大量消費を前提とする従来のビジネスモデルでは、この2つを両立させることはなかなか難しいものです。こうした課題感から、データ活用をはじめとするイノベーティブなビジネスに期待が高まっているのです。
3点目は少子高齢化の影響です。人口が減少すれば、既存の市場はどうしてもそれに伴って縮んでいきます。新しい時代を生き抜くためには、新しい市場を開拓するしかありません。会社としての生き残りを考えるならば、もはやイノベーションを“起こすしかない”段階にまで来ているといえます。
他方で経済成長のためにイノベーションを求める傾向は高まり続けており、ミスマッチが起きている印象があります。
宙畑:いろいろな側面から、イノベーションは喫緊の課題なのですね。ちなみに、もともとのイノベーションはもっと広義だというお話がありましたが、具体的にはどのようなパターンがあるのでしょうか?
MURC:「イノベーション」を提唱したのは、経済学者であるヨーゼフ・アロイス・シュンペーターです。そしてシュンペーターは、イノベーションを以下の5つに分類しています。
- 1. プロダクト・イノベーション(新しい生産物の創出)
- 2. プロセス・イノベーション(新しい生産方法の導入)
- 3. マーケット・イノベーション(新しい販売先や消費者の開拓)
- 4. サプライチェーン・イノベーション(新しい供給源の獲得)
- 5. オーガニゼーション・イノベーション(新しい組織の実現)
宙畑:新しいプロダクトを開発するだけでなく、新しい販売先や消費者を開拓することも「イノベーション」に含めているのですね。ちなみに衛星データ活用においては、どのような方法でイノベーションを起こすことが望ましいでしょうか。
MURC:衛星データ活用に関して言えば、まさに日本企業的な「プロダクト・イノベーション」のイメージを持たれがちです。しかし本当に重視すべきは、「マーケット・イノベーション」であると考えています。
宙畑:というのは?
MURC:市場を創出し、サービスを普及させるには、言うまでもなくプロダクトやサービスを購入してくれる顧客が必要です。どれだけ衛星データの精度や取得頻度を高めても、そのデータを買ってくれるお客様がいなければいつまでもビジネスにはなりません。
いまの衛星データ活用においては、この視点が未成熟だと感じます。多くの買い手を見つけるか、たとえ少数であっても莫大な量の取引をしてくれる買い手を見つけるか。そのいずれかが達成されれば、衛星データを通じたイノベーションは急加速していくでしょう。
大規模予算を投じるアメリカ、内需がけん引する中国。いっぽう日本はリスクを取らない
宙畑:冒頭部分で「日本における『イノベーション』の定義が狭い・ハードルが高い」問題をお話しいただきましたが、海外ではどのようにイノベーションが起こることが多いのでしょうか?
MURC:日本と海外の違いを捉えるにあたって大切になるのが、「誰がイノベーションのハブになりうるか」という視点です。つまり、「異質なものを新たな方法で結合(新結合)」させ、普及させていける動機や知見、資金体力、を持っているのは誰か、という問題ですね。
海外の場合はテックに強い地域(シリコンバレー、ボストン)やベンチャーキャピタル(VC)、メガITプレイヤー、研究機関がプレイヤーになることが多く、とくにVCの存在感はかなりのものです。豊かな資金力をもってアイディアの種を探し、育てていく姿勢がイノベーションを強力に後押ししている面があるでしょう。
いっぽう日本では、商社や総合電機、金融、コンサル/シンクタンクがプレイヤーになる傾向がありますが、正直なところ海外より勢いがないのは否めません。良くも悪くも新しいことに慎重で、「よく分からないけれど、可能性がありそうだしとりあえず事業としてスタートさせてみよう!」とある意味で無鉄砲に突っ込んでいくことがなく、「まずは実証実験を行い、数字を見て経営資源を投下するか判断したい」という会社が多いというのは実感する所です。
この姿勢は安定した経営につながるものの、良さそうなアイディアがわずかな実証実験だけで打ち切られてしまい、未来のチャンスを逃すリスクも抱えています。私たちコンサル/シンクタンクが上手に情報提供しないといけないなと思っているところですね。
宙畑:興味深いです。大企業の心理について、より詳しく教えてください。
MURC:まず、大企業にリソースが集中している状況にあります。その結果、全体の数だけで見れば中小企業がほとんど(99.7%)であるにもかかわらず、経済の実権を握っているのは一部の大企業、という産業構造になっています。
では、そんな大企業がどこにリソースを振り向けているかですが、残念ながらリスクの伴う投資や研究開発、新製品・サービス開発の取り組みには消極的で、成果の見えにくい/不確実性の高い活動には概して後ろ向きです。オープンイノベーションの実施率や投資、人数の割り当ても低く、短期での売上に目線が行きがちになっています。
宙畑:プレイヤーになりうるのは大企業なのに、大企業は冒険しない、というわけですね。
MURC:そうなります。世界的に見ても日本の製造業は強いですし、宅急便やCVS、コンソール型ゲーム、新幹線など、コンパクト化や繊細さ、正確さが求められるサービス業においては他国にない強みがあります。
しかしその強みが衛星データに生かせるのはもう少し先の話。なぜなら、繰り返しになりますが、衛星データ活用においてはデータの精度や取得頻度だけではなく、需要喚起と普及、それによるコストやサポート体制がイノベーションのカギを握るためです。日本の強みを活かすためには、イノベーティブなプロダクトやサービスが普及し、より高品質なものが求められるフェーズにまでなるべく早く押し上げていくことが大切だといえるでしょう。
宙畑:日本におけるイノベーションは国にとっても喫緊の課題かと思われますが、具体的に支援する政策はあるのでしょうか?
MURC:もちろんあります。イノベーションに注力するのは世界的な傾向で、多くの国が政策を講じていますね。ただし内容には差があり、それぞれの国の歴史や事情、強みをふまえて策定されていることが多いです。
そして日本が講じている政策は、大きく2つの軸で整理できます。
- ●スタートアップ創業や研究開発のようなシード期のもの
- ○企業への研究開発支援制度
- ○基礎から応用までカバーする研究開発支援
- ○イノベーション創出人材の育成
- ●複数企業/団体を横断していくようなクラスターを形成していくもの(資金手当て含む)
- ○クラスターネットワーク形成
このなかで興味深いのは「イノベーション創出人材の育成」です。「大企業が及び腰」という課題を乗り越え、挑戦する個人を増やしたいという国の意図が見てとれます。
宙畑:対する海外ではどのような政策がとられているのでしょうか?
MURC:まず、アメリカでは政府主導による研究開発や中小企業支援によるイノベーション創出を支援する政策があります。
なおかつイノベーションの特徴として、EXITや本業とのシナジーを意識し、数百億円〜数千億円の出口まで設計することで「普及」フェーズをはじめから視野に入れていることが挙げられます。クラウド系ビジネスやサブスク系ストリーミングメディア、数兆円にも及ぶスポーツビジネスが代表例ですね。
予算の規模も大きく、感覚的には「とりあえず1億ドル(約140億円)」といった雰囲気です。対する日本では100万円程度の補助金を受け取るにも苦労することが多いんですよ。大切な公金である以上、ある程度は仕方ないものの、やはり大きな違いを感じるのは事実です。
いっぽう中国では、クラスターネットワークの活性化や高度人材の呼び戻しを軸とした政策が展開されています。中国は本当に面白いマーケットで、かつては(今もですが)「世界の工場」としてものづくり部分の新結合(普及させる際の生産プロセスイノベーション)に強みを持っていたのですが、現在ではITや圧倒的な需要量を基軸に、スケール部分のイノベーションも目立ちます。
米中問題もあるなかでビジネスを成長させられるのは、やはり14億人という圧倒的な人口があるため。莫大な内需で力をつけたサービスの中には、アリババ・グループの生鮮EC「フーマー」のOMOなど、光る事例も出てきています。都市計画と紐づけるなど、大胆な戦略も見どころですね。
衛星データ活用は閉塞感のある日本市場の起爆剤になるか?
宙畑:日本の強みと課題が見えてきたところですが、ずばり、宇宙というフィールドはイノベーションを促進するでしょうか?
MURC:結論から言えば、きわめて促進に役立ちます。
普段生活しているとイメージが湧きづらいかも知れませんが、グローバルで見ると、宇宙に関する市場は2021年時点で約44兆円と、すでに半導体市場(2020年に約48兆円)と並ぶ規模で、2030年には約76兆円となり凌駕する勢いです。2040年時点には120兆円前後と、現在の医薬品(2019年に約138兆円)や家電(2018年に約137兆円)に比肩する規模まで拡大すると言われており、その予測にはデータ活用によるサービス需要も含まれているんです。
宙畑:半導体や医薬品、家電に比肩する可能性があるとは、希望がもてる話ですね。
MURC:ええ。しかもポイントは、「今から参入できる」ことです。
いくら市場が大きいといっても、半導体や医薬品、家電市場に今から参入するイメージはなかなか持ちづらいですよね。
いっぽう衛星データ利用は、世界中の誰にとっても新しいチャレンジです。供給側(=宇宙開発を行う側)で今からポジションを取るにはハードルはあるものの、地上との接点やデータ利活用、コンテンツとしての利用、マネタイズ/ファンディング方法などにおいてはある程度のポジションを取れる可能性が豊かに残されています。こんな好条件を備えた市場はほかにありません。
宙畑:まさにブルーオーシャンというわけですね。
MURC:他の市場に比べて、見方によってはその通りです。ただし課題もあって、その1つが実証と実装の差を埋める資金/予算確保が必要なことです。にもかかわらず、取引相手となりそうなハードウェア系、インフラ系の企業は衛星データ利活用の前提となるDX化が進んでおらず、意思決定にも時間がかかることが多いんですよね。
スタートアップや新規事業の立ち上げ時期においては、「1年後に10億円くれる」お客様よりも、「1ヶ月後に1000万円くれる」お客様のほうがありがたいというのが正直な所です。意思決定と着金に時間がかかる大企業のみを相手にしてしまうと、どうしてもキャッシュフローが苦しくなりがちというのが現状の懸念点かも知れません。
もう1つの課題は、“音頭をとる”主体がまだ決まっておらず、どのようにマーケットが形成されていくのかが見えづらいことです。業界をリードしていく主体は、エネルギーであれば供給者、自動車はOEM、データはデジタル庁というふうに大体決まっていますが、衛星データはどうなるのか。逆に言えば、ここが固まりさえすればビジネスが一気に動き出す可能性がありますね。
宙畑:比較的ブルーオーシャンであるがゆえの可能性と、マーケット形成の方向性が読めないリスクがあると。そのうえでお聞きしたいのですが、現実的な問題として、個人でも衛星データビジネスに参入する余地はあるのでしょうか?
MURC:少なくともチャレンジすることは可能です。衛星データの良いところは、北海道であろうが沖縄であろうが、既に体制が整っていればデータの価格は大きく変わらないということです。場所に縛られず、純粋にデータの購入費だけ気にすればよいシンプルさは、個人開発者にとってありがたい特徴だと考えられます。
それから、データの活用方法が直感的に思い浮かびやすいこと。同じ「データビジネス」であっても、中にはデータ自体が専門的・難解で、読み解くのに相当なリテラシーを要するデータもあります。
衛星データは「人の目に見えるもの」がそのままデータ化されますので、これまで目視で確認してきたことをデータ活用で自動化するだけでも充分ビジネスの種になり得ます。分かりやすいのが、混雑状況の可視化などですね。技術自体はそこまで難しくなくとも、顧客満足度を気にするテーマパークに売り込むなど、じょうずに顧客をつかまえることができれば事業化も夢ではありません。
ただ個人で開発するとなると、いざ顧客をつかまえたとしても、開発スピードや普及させるためのリソースが足りなくなる恐れがあります。それを考慮しておすすめしたいのが、大企業のアクセラレータープログラムを最大限に活用することです。
先ほど「大企業にはいろいろな課題がある」とは指摘したものの、良質なサービスを一気に普及させることにかけてはやはり大企業に分があります。以前は大企業に知財や技術を半ば“奪われてしまう”ような事例もありましたが、最近は国がスタートアップを守ろうとしていることもあり、悪質なケースは起こりづらくなっています。最低限の知識で自衛しつつも大企業のリソースをに活用することで、両者Win-Winの関係を築くと良いでしょう。
宙畑:衛星データ活用によるイノベーションにさまざまなメリットがあることは理解しましたが、あえて衛星データの市場に足を踏み入れる意義はどこにあるとお考えですか?
MURC:確かに、ただお金を稼ぎたいだけであればどのようなビジネスであっても結果は同じかも知れません。しかし、社会に与えるインパクトにおいて、衛星データほど規模の大きなビジネスは珍しいのではないでしょうか。
実際に起業家と話していると、とくに最近の起業家はただ利益を追求するのではなく、自らのビジネスを通してどこまでインパクトを与えられるのかを重視する傾向があるように感じます。そんな起業家スピリットと、どこまでも広がる宇宙というフィールドは相性がよいものと考えます。大企業で、起業家的な気質を持つ方にもおすすめのマーケットです。
それから衛星データ活用は、日本にイノベーションマインドを根付かせる副次的効果ももたらしてくれるのではと期待しています。
たとえばサービスを立ち上げるとき、多くの企業は「高機能なほうがよい」と考えがちです。しかしイノベーションを起こすには、コアとなるアイディアだけを残し、「思い切って捨てる」考え方も大切なんです。
そうはいっても普通のサービスでは、開発するうちにあれこれ詰め込んでしまい、軸がブレるものですが、何せ宇宙は取れる手段がおのずと限られます。半ば強制的に「切り捨て」を強いられるので、シンプルなサービスに仕上げやすい。なおかつユーザーが求めるものを的確に提供しなければならないので、顧客ニーズの分析を徹底的にやり抜く経験も得られるはずです。
さらに言えば、衛星データ活用によるイノベーションが進めば、データの活用基盤を整える過程において企業や地域にDXが浸透していく効果も見込めると考えています。
たとえばマイナンバーやモビリティのデータは、個人情報が深く関わるために、扱うのがすごく難しいんですね。いっぽう衛星データは個人が特定できるほどの精度ではないので、コンプライアンスリスクをクリアしやすく、DXの一歩目に適しています。
また、「リスキリング」が話題になる中で、学び直しによってデータを扱えるようになった人たちの流入先が必要になってくるはずです。その候補として地域の公的機関などがあがるようになれば、衛星データ活用を起点に地方がDXされていくかもしれません。
このように衛星データ活用は、停滞した日本の市場を活気づかせる可能性にあふれているんです。今はまだその有用さが充分に認知されていませんが、ここまでに挙げた課題がクリアされれば、世の中が大きく動く可能性もあります。
宇宙への憧れは数字を超える。ロマンをビジネスに変える支援を
宙畑:ここまでで、さまざまな角度から衛星データ活用の可能性を語っていただきましたが、専門家の肌感としても宇宙マーケットに感じる可能性は大きいのでしょうか?
MURC:大きいですね。なんといっても宇宙には、数字やロジックを超える魅力があります。これは私たちのお客様にとっても例外でなく、とくに役員層において「宇宙」が一種のキラーワードになっていると感じます。
宙畑:キラーワード、ですか?
MURC:はい。というのも、いま決裁権を握っている方の多くは、人気アニメ『機動戦士ガンダム』等で宇宙にロマンを抱き、憧れてきた世代なんです。そうした文化的な背景があるために、リスクを取りたがらない傾向のなかでも前向きな検討を引き出しやすいのかなと。
普段であれば及び腰になりがちな「オープンイノベーション」へのハードルも、こと「宇宙」がテーマとなれば緩和されるのを肌で感じるような気がします。
宙畑:それは素晴らしいですね!では、ロマンも、ビジネス上での可能性もある宇宙マーケットを盛り上げるために、MURCではどのような支援を講じているのでしょうか?
MURC:MURCでは3つの軸で宇宙マーケットでのイノベーションを支援しています。
まずは、①個別企業/地域連携の軸。ここでは、データ利活用の供給家/需要家(作り手/使い手)となるプレイヤーをコンサルティングの立場から支援しています。MURCにおいてデータ利活用は、すでに課題が顕在化したフェーズ。コンサルといえどもその出自からして机上の空論にとどまりにくいのがMURCの強みです。
そして、②金融機関機能活用の軸。実は銀行はスタートアップに対し、これまでとは違った支援を提供しはじめているんです。
というのも、これまでの銀行は「返せる」ことを前提とした貸付が中心で、スタートアップへの融資は難しい側面がありました。しかし最近では、この方針を部分的に緩和。なおかつ「株式(エクイティ)ではなく借入(デット)で資金を調達したい」などの新たなニーズにも応えられるよう、可能な限り柔軟な対応をしようと試みています。
それから、③コンソーシアム/セミナーを通じた情報発信。これぞシンクタンクの本懐であり、本日の取材もこの一環ですね。
実はMUFGの中で密に連携している銀行との一体化した活動の中でいろいろな取り組みをしているのですが、そのすべてが認知されているわけではありません。なおかつ、宇宙マーケットをはじめとした“ブルーオーシャン”を盛り上げていくことが、銀行の生き残りにも関わってきます。
市場が形成されるには、枠組みを整理したり、情報を発信したりする活動が不可欠です。広い枠組みで宇宙をビジネスとして捉えてもらえるよう、今後も注力していきたいですね。
そして実は、銀行自身もデータ活用のプレイヤーでありたいと考えています。なぜなら、昨今ではESG投資の重要性が高まり、これまでとは違った軸で企業を見る必要が出てきたからです。
いろいろな角度で企業の価値をはかるには、なんといってもデータが不可欠。今後も衛星データを含め、多様なデータ活用に期待し、情報の発信や伴走を続けていきたいと考えています。