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高校生考案の超小型衛星が完成。地球環境の撮影に挑戦へ。校舎に建てた地上局で運用も【宇宙ビジネスニュース】

【2023年4月7日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。

3月17日、クラーク記念国際高等学校(以下クラーク国際高校)が宇宙教育プロジェクトにおいて開発を進めていた超小型衛星「Clark sat-1(愛称:Ambitious)」が完成したことが発表されました。衛星はJAXAに引き渡した後、秋頃にISSに輸送され、宇宙空間に放出される予定です。

Clark sat-1 Credit : クラーク記念国際高等学校、東京大学、Space BD

クラーク国際高校の「宇宙探究部」

通信制の私立高校であるクラーク国際高校は、全国に教育拠点があり、1万人以上の生徒が通っています。30周年の記念事業の一環として、高校生による衛星開発・打ち上げおよび宇宙をテーマにした探究学習プログラムの開発によりリーダー人材育成を目指す「宇宙教育プロジェクト」を2021年7月に開始しました。「宇宙探究部」を創設し、在籍する1〜3年生を対象に入部希望者を公募。部活動として宇宙教育プロジェクトを進めてきました。

この宇宙教育プロジェクトは東京大学大学院工学研究科とSpace BDとともに運用され、衛星の開発はアークエッジスペースが担当しました。

衛星で地球環境を撮影「環境問題の解決に貢献したい」

今回完成が発表された「Clark sat-1」は1Uサイズの超小型衛星です。宇宙探究部の生徒は、東京大学大学院工学研究科の中須賀真一教授による指導やSpace BDの支援を受けながら、宇宙開発の基礎知識を学び、衛星のミッション策定を行ったといいます。

Clark sat-1のミッション

宇宙探究部の生徒たちが考案した衛星のミッションは3段階。2段階目のフルサクセスでは、校舎の屋上に設置した地上局を用いてアマチュア無線従事者免許を取得した生徒らが衛星との通信に試みます。衛星の運用は冬頃から始まる見込みで、宇宙探究部の生徒は今後衛星の運用に向けたトレーニングに取り組みます。

3段階目のエクストラサクセスでは、衛星に搭載したカメラで地球環境の撮影と、搭載した音声とイラストデータの受信を目指します。3月17日に開催された発表会で、宇宙探究部の生徒は意気込みをこう話しました。

「現在私達は森林伐採、砂漠化や海面上昇などの数多くの環境問題に直面しており、状況は日々悪化の一途をたどっております。ですが、この実情を知っているという人はあまり多くなく、知っていたとしても他人事のように思っている人も散見されます。この状況を踏まえ、人工衛星から撮った今のリアルな状況がわかる写真を用いて、私達が抱えている環境問題の深刻さ、重大さをより多くの人々に知ってもらい、環境問題の解決に貢献したいと思っています」

さらに、4段階目のエクストリームサクセスにはスペースデブリの撮影が設定されています。これは生徒たちが宇宙や衛星について学ぶなかで、宇宙空間の環境問題に関心を持ったことから設定されたミッションだということです。

クラーク国際高校の担当者は発表会で「(スペースデブリの撮影は)非常に難易度が高いと言われていますが、可能性はゼロではないということで、エクストリームサクセスとして設定しました」と説明しました。

宇宙の魅力を発信する広報誌の発行も

宇宙探究部には衛星のミッション策定や運用を行う「衛星開発チーム」と「宇宙ミッション実行チーム」に加えて、宇宙の魅力を発信する「国際広報チーム」が設けられています。発表会では、国際広報チームが発行した広報誌が配布されました。

国際広報チームが制作した広報誌

国際広報チームに参加していた生徒は「自分たちの手で人工衛星を飛ばすという大きな目標のもと、一人一人が様々な方面で活動してきました。そして、その一つ一つは本来、普通の高校生活ではなかなか味わえないような貴重なものだったと思います」「遠く離れたキャンパスの生徒たちとオンライン上で意見を交わして、試行錯誤したり、悩んだりしたこともありましたが、その経験が財産になったと感じています」と活動を振り返りました。

宇宙探究部の生徒

宇宙がテーマの教育プログラム、予算は?

発表会では宇宙探究部の生徒たちが様々な経験を積んでいる様子が語られました。一方、これらの活動には、一般的な部活動や探究学習よりも比較的高い費用がかかったといいます。このような宇宙や衛星をテーマとした活動を広く普及させていくことはできるのでしょうか。宇宙教育プロジェクトに参画しているSpace BDの代表取締役社長・永崎将利氏にうかがいました。

「Space BDとしては、松竹梅でやっていくしかないと考えています。クラーク国際高校さんの場合は、衛星を作って、打ち上げるところまでをやりたいとおっしゃっていて、フルコースのような感じでした。(宇宙教育プロジェクトは)細分化すると色々な活動にモジュール化できますし、特定の部分を提供することもできます。政府や地方自治体に予算を付けていただけると、よりサステナブルに実施していけるでしょうね。Space BDとしてもこういう(教育)活動を続けていけるように、体力をつけていきたいと思います」

衛星のミッションの考案から利用までを実践的に学ぶ経験が宇宙開発やビジネスだけでなく、社会貢献にも繋がっていくことが期待されます。

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参考

クラーク記念国際高等学校、東京大学、Space BD による「宇宙教育プロジェクト」人工衛星「Clark sat-1」が完成!

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