宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

【宇宙ビジネスの未来を見据えて】SPACETIDE AXELA DEMODAYで感じた、日本の新しい宇宙ビジネスの芽生え

日本最大級の宇宙ビジネスカンファレンスを開催するSPACETIDEが昨年度より新しく始めたアクセラレーションプログラム「AXELA」で支援された5社のお披露目会が開催されました。その内容を余すことなく紹介します。

SPACETIDEが昨年度より始めた新しい取り組み「AXELA」にて、プログラムで支援された5社のお披露目会「DEMODAY」が開催されました。

AXELAとはどのようなプログラムなのか、また、支援を受けている5社はどのような企業なのか。現場の熱を余さず紹介します。

(1)AXELAプログラムについて

日本初の宇宙スタートアップに特化したアクセラレーションプログラム「AXELA」のお披露目会として「FY2022 DEMODAY」が2023年5月に開催されました。AXELAプログラムのメンタリング期間を終えた、宇宙スタートアップ5社からの最終報告会の様子をお伝えする前に、AXELAプログラムについておさらいしましょう。

宇宙ビジネスの新たな潮流をつくることを目的に始まった本プログラムは、「SPACETIDE 2022 YEAR-END」、有望なシード期の企業や宇宙スタートアップを発掘し、AXELAを通して支援・サポート。グローバルにおける宇宙ビジネスの存在感を高めることを目指しています。当日語られた「AXELAを通して、宇宙産業に熱狂を生み出す、新たなエコシステムをつくる」という力強い言葉が印象的でした。

AXELAの具体的な流れは以下の画像にあるように、スタートアップ企業の発掘からアクセラレーションを経て、卒業として事業化に向けて動き出します。

特に重要なことは、アクセラレーションを通して、スタートアップ企業の発掘から事業化の軌道に繋ぐことだと述べられていました。

AXELA FY2022では、2022年12月までに参加企業とメンターを決定し、2023年1月〜4月をメンタリング期間として、事業計画のブラッシュアップやパートナーシップの構築支援などが実施されました。

DEMODAYでは最終成果の報告だけでなく、今後の方針発表やネットワークづくりを目的に実施されています。DEMODAY後も継続的な支援として、他プログラムなど企業との橋渡しをしていきたいと語られました。具体的には、メンバーシップ制度としてAXELA企業、メンター、支援機関の世代をまたぐ交流の促進や、SPACETIDEが発刊するビジネスレポート「COMPASS」への掲載、AXELAアラムナイとしてミートアップなどが検討されているといいます。

次章では、AXELAプログラムで支援を受けているスタートアップ5社について紹介しますさせていただきます。

(2)支援を受けた5社の事業紹介

①AstroX~ロケットの気球からの打上げ~

AstroXは小田翔武氏が代表取締役CEOを務め、日本におけるロケット不足の課題解決に取り組んでいます。日本が宇宙開発のリーダーになる世界をミッションに掲げ、ロケットの発射場の確保が難しい日本において、洋上からも打ち上げ可能であるRockoon方式の衛星打ち上げロケットを開発し、衛星を宇宙に打ち上げる宇宙輸送事業を目指します。成層圏まで気球でロケットを上げるため、省エネかつ低コストである点も強みです。従来小型ロケットの打ち上げ費用は10億円程度と言われていますが、AstroX社では5億以下を目標に開発を進めているといいます。今後の方針としては2025年までのロケット宇宙空間到達と、2028年までの衛星軌道投入を目標にしています。

メンターを担当したPlug and Play Japan株式会社 相馬由健氏からは、メンタリングを重ねるたびに成長を感じられたとの発言があり、小田氏のIT分野での起業経験を踏まえた今回の挑戦が、宇宙産業に新しい風が吹くと期待を寄せておりました。また大手企業とスタートアップのコラボレーションの必要性が年々増していることに触れ、大手企業との連携がスタートアップ企業の支援や成長だけでなく、産業全体の発展に繋がると話されていました。

②Dinow~民間宇宙旅行におけるトータルヘルスケアサービス~

高橋健太氏が代表取締役CEOを務めるDinowは、世界初の民間宇宙旅行におけるトータルヘルスケアサービスの提供を目指しています。今後、民間宇宙旅行が一般的になり、将来的に様々な人種、年齢、持病を抱えた人たちが宇宙に訪れることが予想されるなかで健康管理がより重要になります。特に宇宙空間の放射線増加に着目し、DNA損傷という軸での放射線影響評価に取り組んでいます。

Dinowは、γ-H2AXアッセイという手法で損傷を受けたDNAを緑色に発光させることで、個人のDNA損傷状況を可視化し、リスク評価することを可能とします。今後は地上でも実証とサービス提供を行いながら、ISSでのデバイスを用いた宇宙実証と、2028年を目途に国内外の民間宇宙旅行向けサービスパッケージの展開を目指しています。世界唯一の被爆国かつ、原子力発電所事故を経験した日本の企業が宇宙の医学、放射線の未来を変えていきたいと高橋氏から力強い発信がありました。

メンターを担当した株式会社philic 柳原暁氏は、宇宙でのヘルスケアサービスが宇宙における身近な課題であり、市場の可能性も大きいと言います。DNA損傷の可視化という技術の先進性、革新性は幅広い市場で活用できるものとして、企業と一緒にビジネスの可能性を検討してほしいと熱いメッセージが投げかけられました。

③LEET~二酸化炭素排出量と吸収量のモニタリング・予測~

LEET CarbonはManjunatha Venkatappa氏が CEOを務める、低炭素社会の実現を目指すタイ発のスタートアップ企業です。具体的には、DaaSを用いた政府機関向けのデータプラットフォームと、SaaSを用いた民間企業向けのデータモニタリング、CMPというCO2排出団体や農業団体などの炭素市場、NNという森林保護の認知向上を目的に手軽にCO2削減に貢献できる一般向けのアプリケーションを提供します。

特に、CMPは工場などの炭素排出者と農家などの炭素保護者のCO2吸収量と排出量をモニタリングし、お互いをマッチングさせ排出削減量の購入を可能とします。これらのカーボン・オフセット施策が、森林再生と森林管理の改善、農地管理を向上させSDGsに繋がるものだと訴えます。今後は2023年中にタイやベトナム、日本を中心に民間企業向けのデータモニタリングを開始し、2025年にアジアでの炭素市場の展開とその先にヨーロッパへの事業拡大を目指しています。

メンターは2022年S-Boosterから繋がりのある合同会社OpenCrucible 濵地健史氏が担当されました。宇宙と、日本のマーケットや技術に興味を持つ海外スタートアップ企業に対する日本での事業支援はとても重要だと言います。また日本の企業が、日本に興味を持つ海外スタートアップに目を向け連携することで、グローバルな市場において日本の企業価値の向上に寄与すると説明します。

④Space Quaters~宇宙溶接を用いたパネル接合型大型ステーション~

Space Quatersは人類が宇宙を生活圏として可能性を広げ続ける世界をビジョンに掲げ、次世代の宇宙建築技術の提供を目指します。CEO 大西正悟氏は、宇宙構造体のサイズ限界や設計自由度の課題を自律型の溶接を用いた宇宙建築技術で解決し、次世代の宇宙建築と宇宙インフラを実現したいといいます。

具体的には低軌道ではステーションモジュール、静止軌道では大型のアンテナ、月面では水・水素ガスの流体貯蔵タンクの建築などが挙げられていました。溶接技術を用いることで、ステーションモジュールでは1度の打ち上げで既存の約20倍もの体積を実現することが可能といいます。溶接技術やロボットシステムの開発を地上で進めた後ISSなどで溶接技術の宇宙実証を行い、将来的には宇宙空間で非有人建築物から最終的には有人モジュールの建築を目指しています。

Space Quatersのメンターは、2022年S-boosterから繋がりのある宇宙エバンジェリスト 青木英剛氏。青木氏からは、S-Boosterでのメンター期間を含めた約9カ月間で企業の巻き込みや、技術開発など目まぐるしいスピードで進捗があったと言います。宇宙スタートアップ企業は、3歩前進すると2歩下がってしまうようなたくさんのhard thingを抱えるなかで、失敗をどのように次に活かせるか、着実に前に進めることが重要だと話しました。

⑤STONY~宇宙空間での3D造形による人口呼吸器制作~

臨床医でもある石北直之氏が代表を勤めるSTONYは、シンプルで低コストな医療機器を開発し、世界における医療の質向上を目標に創立されたスタートアップ企業です。

STONY設立前から独自で研究を重ねこれまでに複数のデバイス製品を開発されていますが、注目は宇宙で製造できる人工呼吸器の開発です。宇宙には麻酔器が存在しないため手術を受けることができない問題に着目し、民間宇宙旅行や将来の火星ミッションを見据えて、宇宙空間で大きなけがや病気をしても治療できる麻酔器が宇宙に必要だと言います。

静脈麻酔と比較して一般人も扱いやすく、安全である吸入麻酔法に注目し、ご自身の経験もきっかけに簡易吸入麻酔システムを発明し、酸素ボンベと繋ぐことで自動の人工呼吸を可能とします。既に宇宙での無重力実験に2回成功しており、現在はNASA宇宙飛行士にも使用されているといいます。

メンターを担当したTXアントレプレナーパートナーズ 尾崎典明氏からは、アクセラレーションを通して、企業とのパートナリングを進める事ができたことが1つの成果だと言います。今後はビジネスモデルを確立させ、事業を拡大して欲しいと期待感をつのらせました。

(3)5社のラインナップについて宙畑が感じたこと

AXELA FY2022の参加企業については、事業化前、特にシリーズA前のシード期からアーリー期のスタートアップ企業が対象となっていました。AXELAを運営するSPACETIDEでは、事業化や資金調達などのビジネス進展が有望なAPAC地域のスタートアップ企業に対して宇宙ビジネスの専門家集団の推薦によって選定したそうです。

DEMODAYで披露された5社は、今後宇宙と地上がシームレスに繋がり、宇宙が生活圏の一部として当たり前になる時代には各社の技術が必要であると感じる熱のこもったプレゼンでした。

宇宙での建築や、医療行為など人類が宇宙で生活するためには乗り越えなければ課題が多くあります。5社の事業はそんな課題を解決させる技術をもつ企業として、私たちに希望を持たせてくれましたように思います。

また、宇宙空間での課題だけではなく、環境課題を含む日常生活の様々な課題をも解決するソリューションもありました。独創的なアイデアをもつ日本発のスタートアップ企業がグローバルで活躍し、世界を牽引する企業になりうる期待が高まりました。

(4)DEMODAYのプログラムにおけるその他プレゼンの紹介

DEMODAYでは政府機関からも参加者が訪れ、宇宙産業の成長に向けた施策やスタートアップ支援の説明がありました。本プログラムに参加された、内閣府、経済産業省、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)の施策についてご紹介します。

内閣府施策については宇宙開発戦略推進事務局参事官 滝澤豪氏から、宇宙を推進力とする経済成長とイノベーションのさらなる推進を目指した次期宇宙基本計画(案)について説明がありました。特にスタートアップ支援策としては、JAXAにおける民間企業の共同研究やパートナーシップ構築、出資機能の拡充、その他リスクマネー支援による宇宙産業への参入検討機会の提供、SBIR制度の拡充、スタートアップの登竜門イベントであるS-Booster継続と事業化のフォローが挙げられていました。2040年には1兆ドルを超える市場規模と言われている宇宙産業に対する熱い期待が感じられました。

経済産業省からは製造産業局宇宙産業室室長 伊奈康二氏が登壇し、スタートアップ支援施策について紹介。日本宇宙産業の市場規模を2030年台早期に1.2兆円から倍増させるという政府目標に基づき、宇宙機器産業と宇宙利用産業の両輪で成長していきたいと話します。

具体的に、宇宙機器産業では、衛星やロケットなどの国際競争力の強化と海外展開、宇宙利用産業では衛星利用ビジネスなどの振興が挙げられていました。近年宇宙産業室の予算も増やしながら、スタートアップ支援として研究開発、設備投資、海外展開、人材確保支援を進めていると言います。特に、宇宙産業室外の支援のなかにも、宇宙が特記されている補助金や、スタートアップに関わる支援事業やものづくりに関する補助金制度などがあり、スタートアップ企業の事業発展にうまく活用して欲しいと話がありました。

JAXAからは新事業促進部長 伊達木香子氏から、政府主導のスタートアップ施策に沿って展開されているJAXAの活動の紹介がありました。2018年から始まったJAXAの宇宙イノベーションパートナーシップの「J-SPARC」や、JAXAと大学、企業が連携して超小型衛星ミッションを行い、その過程では民間ロケットを使って実証実験を3者で行う「JAXA SMASH」などの説明がありました。特にJAXA SMASHは昨年2022年から始まった新しい取り組みとなります。その他、ビジネスマッチングにも力を入れており、特に海外企業と日本のスタートアップへの橋渡しにもしていきたいと説明がありました。

(5)SPACETIDEの紹介

最後に紹介するのは、AXELAを運営するSPACETIDEについてです。

SPACETIDEは、宇宙サービス全体の発展を通じて、社会・生活・文化の未来に新たな価値を見出すことを目指す非営利団体です。7月にはメインカンファレンスが開催予定であり、FY2023 AXELAプログラムも動き出す予定です。

日本発アジア太平洋地域最大級の宇宙ビジネスカンファレンスが、今年は2023年7月4日〜7月6日の3日間を通して、虎ノ門ヒルズとオンラインで開催されます。2015年から続くメインカンファレンスの今年のコンセプトは「宇宙ビジネス、新たな経済圏のひろがり」です。

近年宇宙ビジネスは目まぐるしい発展を遂げ、地球上に新たな経済圏を創りつつあるといいます。今後この経済圏は地球から月まで拡がることが期待されるなかで、今年は20以上の国と地域から総勢1000名を超える参加者による熱い議論と、世界の宇宙ビジネスの最前線を学び将来を考えるきっかけになることでしょう。またAXELA FY2022に参加されたスタートアップ企業の登壇と、事業進捗報告なども予定されているそうです。

2023年11月以降には、第2回目となるAXELAプログラムが開催される予定となっています。FY2023 AXELAではAXELAパートナーという新しい試みも検討されています。AXELAパートナーは、スタートアップと一体となった新規事業の検討、企業とのマッチング機会の創出など、AXELAの輪を広げていきたいというSPACETIDEの思いが込められています。今後の選考と支援サイクルは以下の通りで予定されています。

宇宙ビジネスの新たな潮流をつくるというSPACETIDEの今後の活動に目が離せません。これらの活動が日本の宇宙産業だけでなくグローバルな宇宙市場での競争力強化と発展、そして宇宙が日常生活で欠かせないひとつの経済圏へと繋がっていくのだと考えます。