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日本と欧州の衛星データプラットフォーム…TellusとDIAS。何ができて何が違う?

日本の衛星データプラットフォームTellusや、欧州の衛星データプラットフォームDIAS。これらは果たしてどこに違いを持ち、私たちに何をもたらそうとしているのでしょうか。山口県で行われた「第8回衛星データ解析技術研究会」から読み解いていきます。

2018年は宇宙の話題に触れることの多い、まさに“宇宙ビジネス元年”とも言える年でした。今後ますます宇宙ビジネス熱が加速することは、おそらく間違い無いでしょう。

そんな近未来を見据えて整備されているのが、日本の衛星データプラットフォームTellusや、欧州の衛星データプラットフォームDIASです。これらは果たしてどこに違いを持ち、私たちに何をもたらそうとしているのでしょうか。山口県で行われた「第8回衛星データ解析技術研究会」から読み解いていきます。

(0)第8回衛星データ解析技術研究会

山口県宇部市にある山口県産業技術センターにて、2018年12月20日に「第8回衛星データ解析技術研究会」が開催されました。

この研究会は2017年にJAXAの衛星データ解析施設が同センター内に開設されたのを契機として始まったもので、衛星データを活用した新たなビジネス展開を目指しています。

山口県内の民間企業や大学、研究機関などから構成されており、今回の研究会にも研究やビジネスで実際に衛星データを使っている人から、これから何ができるか検討していきたいという人までおよそ100人が集まりました。

「宇宙データ利活用の未来」がテーマとされた第8回の研究会は、山口県商工労働部の矢敷健治 部長の挨拶の後、第一部としてゲスト3名による講演から始まりました。

第一部:ゲスト講演

(1)日本の宇宙産業拡大に向けた政策の方向性

1人目の講演者は、経済産業省 製造産業局宇宙産業室 室長の浅井洋介さんです。浅井さんからは、まず衛星データ利用の現状を見渡すイントロダクションとして日本の政策の方向性について紹介がありました。

浅井さん:近年は超小型衛星の高性能化によって衛星利用が低コスト・低リスク化してきたことに加え、計算能力の進歩により膨大なデータ処理に対するハードルが下がっています。

そのため、世界だけでなく日本でも宇宙分野への民間・ベンチャー企業参入が進んでいます。拡大の一途を辿る世界の宇宙産業の内訳をみると、衛星を使ったサービスと、衛星を使うための地上設備についての進展が顕著です。

一方で、日本に目をやると、宇宙産業のおよそ9割が官需、つまり政府・官公庁による需要で支えられています。この構造での産業拡大はそのまま国家予算増につながることから、産業構造の変化が急務になります。

そこで、利活用の広がりが期待される「宇宙を利用する産業」を育て、官需依存の強い宇宙機器産業ニーズも増やそうというアプローチを政策として進めていこうとしています。

衛星データのオープン&フリー化プラットフォーム『Tellus』、準天頂衛星システム『みちびき』、そして新規参入企業のサポート施策という3本柱で進めていて、2030年には市場規模を今の倍程度にしようという『宇宙産業ビジョン2030』を定めています。

「今は正直、まだ手探り状態。一つでも成功事例が生まれてビジネスが回り始めることで、ますますデータ利用が進むという流れを作り出したいです」

(2)日本初、宇宙データプラットフォームTellus(テルース)

2人目の講演者は、さくらインターネット株式会社 Tellusプロジェクトシニアプロデューサーの山崎秀人さんです。山崎さんからは、産業利用を目的とした日本初の衛星データプラットフォームTellusの紹介がありました。

山崎さん:Tellusは先ほど浅井さんの話にも出てきた政策の“3本柱”の1つです。これまでは技術を持った限られた人しか利用できなかった衛星データをより使いやすく、様々な形で使えるようにするためのプラットフォームとして開発されています。2019年9月の本格運用に先駆けて、2018年12月にはβ版が公開されました。

衛星によって取得された光学データやSAR(合成開口レーダー)データはもちろんのこと、地上に設置された様々なセンサーによって取られたデータも提供できるようにし、さらには解析ツールやアルゴリズムも基本的なものはログインするだけで閲覧・利用することを想定しています。

「これまでは自前で計算機や高価な解析ツールを用意し、重たいデータをダウンロードする必要がありました。Tellusはそれらをクラウド上で、しかも基本的に無償で利用可能にすることで大幅な作業時間短縮と、利用のハードルを下げることができます」

衛星データだけでなく、それに様々な別のデータを掛け合わせることで生まれるビジネスの種を作る支えになりたいと山崎さんは言い切ります。衛星データを触れる人を増やし、衛星データ利用の可能性拡大に寄与したいという思いが強く、利用のためのレッスンやトレーニング、さらには腕試しのためのコンテスト開催も予定しているそうです。

(3)欧州宇宙データ戦略と DIAS

3人目の講演者は、一般財団法人 宇宙システム開発利用推進機構(J-spacesystems)主任研究員のクレイドン・サムさんです。クレイドンさんからは、欧州の宇宙プログラムや衛星データプラットフォームDIASの紹介がありました。

クレイドンさん:欧州では全地球観測プログラム「Copernicus(コペルニクス)」、全地球航法衛星システム「Galileo(ガリレオ)」、静止衛星補強型衛星航法システム「EGNOS(イグノス)」という3つの宇宙プログラムがあります。

日本の経済産業省に当たるEU成長総局が管轄し、社会課題の解決や雇用拡大・産業活性化、EUの自主自立という重要な目的のために運営されています。

Copernicusは専用の衛星、商用の衛星データに加え地上データを複合的に足し合わせたデータセットです。

経済活動を支えるため完全無償で利用でき、2030年まで提供の継続が保証されています。しかし現在はデータのアクセス方法が10種類も分散していて重いデータはダウンロードが必要、さらに処理ツールは自前で用意する必要がありました。

そこで誕生したのが、データ・解析ツール・ストレージがクラウド上の同一パッケージで動かせるDIAS(Data Information Access Service)です。

DIASの開発は民間委託事業として行われており、予算はあくまで研究開発の補助的なものとして支出されています。提供するサービスには無償と有償のものがあり、2018年6月に稼働を開始しました。

現在は運営者が違う5つのDIASが存在します。

「衛星データの商用利用に向けて、ワンストップでデータへのアクセスから解析まで可能になります。2030年まで継続的に使えるCopernicusをより使いやすくなるのがDIASの大きなポイントです」

第二部:座談会

(4)宇宙データ利活用、そして産業創出に必要なプラットフォームとは?

第一部を終えて休憩を挟んだ後は、「座談会」という形で第二部が始まりました。講演を終えた3人のゲストに加えて、ファシリテーターとして宙畑の城戸が加わりました。

2つのデータプラットフォームの違いについてより深く掘り下げていきます。

Q:Tellus・どんな使い方をしてもらいたいですか?

浅井さん:そもそも衛星データを見たいだけ、という人はほとんどいないはずです。そこから自分の欲しい情報をどのように得ることができるのか、さらにどんなアクションを起こせるのかを知りたいはず。
今後のTellusのビジネス利用を考えると、そこまで導き出せるように、データを使えるようになっていかないといけないと思っています。

山崎さん:Tellusはオープン&フリーのデータプラットフォームです。なので、どの産業で使うにも必要な情報はどんどん載せてもらって、どんどん使ってもらいたいと思っています。私たちがどう使われたいかを決めてはダメで、ニュートラルな立ち位置を意識したい。意見や要望を聞いて柔軟に対応するのが鍵になります。

クレイドンさん:欧州のトレンドとしては測地と都市開発という2つの市場で
伸びが見られます。DIASで言えばsoblooとmundiは大手企業によるコンソーシアムが形成していることもあり、エンドユーザー向けのサービス、SaaSとしての立ち位置を、一方でその他のDIASはIaaSを強化していきそうです。

Q:TellusとDIAS、それぞれが持つ今の課題とは何ですか?

山崎さん:最後まで一緒にきちんとお客さまと同じ目線を持ってやり切れるかが大事だと思っています。システムやコンピューティングだけではダメで、お客さまのニーズにどれだけ迫れるかが鍵ですね。

クレイドンさん:個人的には、元々Copernicusのアクセス方法が分散していたのを問題意識としてDIASができたはずなのに、それが5つもできてしまったのが問題なのではと思っています。それぞれに特色がないわけではないですが、今はそれぞれ差もあまりなくなっています。

浅井さん:TellusとDIASの連携の可能性も探って、相談は持ちかけています。仕様が微妙に違う点があるので、どう乗り越えるかが課題ですね。

以下、会場からの質疑応答。

質問者1:アプリやアルゴリズムを利用者が販売したいという場合、利用者が価格を決める事ができるのでしょうか?

山崎さん:商業利用は大歓迎ですが、実は条件がまだ煮詰められていません。もし関心があれば是非コンサルから一緒にさせてください。

クレイドンさん:DIASも同じく、どんどんツールやアプリケーションは出し
てくださいというスタンスです。mundiは月々€2,000払えば販売が可能ですが、それ以外のDIASは現状では見積請求をしないとマーケットプレイスの価格が公表されません。

質問者2:オープン&フリーといいますが、聴けば聴くほど有償のイメージが強いです。まだわかりにくい点も多く、そこが不安にさせる原因では?

山崎さん:まずデータを見るのは無償です。また、解析ツールも無償のものがありますし、二次成果物も問題なければ無償で利用可能というスタンスです。一部、商業衛星のデータはポリシーとして有償になります。また、コンピューティングはある程度まで無償でできるはずですが、それを超えると負荷がかかるので有償にせざるを得ないところもあります。

クレイドンさん:Copernicusは完全に無償です。DIASのクラウドコンピューティングが有償です。要は、クラウドを使えばお金がかかりますが、ダウンロードして処理するのは無料ということになります。

質問者3:衛星が違えば搭載されているセンサーも異なります。例えばユーザーとして災害対応のために解析する際には、データが欲しい形で即座に処理できるかどうかが肝心なのですが…Tellusはどのくらいユーザーフレンドリーな使われ方を想定していますか?

山崎さん:できるだけ処理済みでクラウド上に置いておき、すぐに使えるようにしたいと思っています。うまく利用用途に合わせた形で実装できればと考えますので、ぜひご相談ください!

(5)まとめ

オープン&フリーな衛星データプラットフォームとして開発されている日本のTellusと欧州のDIAS。似ているものの全く別の2つのプラットフォームです。

今後、相互に乗り入れ・連携していくことができれば、それぞれが保有しているデータを組み合わせることができるようになります。日本と欧州という国の境も取り払ってデータ利用が可能になる社会になるかもしれません。

まだ双方とも動き出したばかりで使われ方や秘めたるポテンシャルも未知数です。もしかすると、プラットフォームを使いたいという人だけでなく、ちょっと興味があるかもという人、さらにはまだ関係ないと思っている人が持つ意見や要望が、まだ見ぬ大チャンスを生むきっかけになる可能性だって大いにあります。

Tellusは、ユーザーの皆さんと作っていくプラットフォームといっていいかもしれません。さくらインターネットも経済産業省も多くの人の声を聴いてTellusをより良いものにしていく方針としています。
どんなデータが欲しい、どんな機能が欲しいなどユーザーとのコミュニケーションを密に取っていくことで海外にも存在しないプラットフォームとなることができるのではと感じたイベントでした。

衛星データプラットフォームを利用した未来のビッグな宇宙ビジネスの種を持っているのは、この記事を読んでいるあなたかもしれませんね。