国際航空宇宙展2018 セミナーレポート② 「中小宇宙ベンチャービジネス」
11月28日~30日まで東京ビッグサイトで開催された国際航空宇宙展2018(以下JA2018)。そのうち、宙畑の注目する3つの講演に参加してきました! 全3回の第2回となる今回は、「中小宇宙ベンチャービジネス」という講演についてレポートしていきます。
2年に一度、世界各国の航空宇宙産業、研究機関が出展し、展示やセミナー、講演が行われる「国際航空宇宙展」。2018年は11月28日~30日まで、東京ビッグサイトで開催されました(※次回は東京オリンピックと重なってしまう関係で2021年の開催とのことです)。
国際航空宇宙展2018は、3日間の来場者・出展者が延べ約2万7千人と、盛況な盛り上がりを見せましたが、なかでも宙畑が注目したのが、以下3つの講演です。
・宇宙機のスタートアップ企業
・中小宇宙ベンチャービジネス
・打ち上げサービス及び人工衛星の現在そして次世代
全3回の連載レポートとしてお届けする第2回は、「中小宇宙ベンチャービジネス」の講演についてレポートしていきます。
(1) 宇宙ベンチャーの投資と市場について
はじめに、司会を務めた中小ベンチャー宇宙ビジネス研究会の大貫美鈴氏から、宇宙ベンチャーの投資と市場状況についてレクチャーがありました。
Space Foundationの試算によると、世界の宇宙産業の規模は2017年に40兆円弱。このうち官需の割合は2016年と比較して、約24%から約20%と縮小しました。それにもかかわらず全体規模は前年度から+6兆円拡大しています。このことから、民間の宇宙開発、宇宙利用の拡大傾向が読み取れます。
またITジャイアントと呼ばれる時価総額トップ10に入るような大企業の多くが、宇宙ベンチャーへの投資を積極的に行っているそうです。それに牽引される形で、ベンチャーキャピタルによる投資も高まりを見せています。現在、宇宙ベンチャーの数は約1000社にも上っています。
このような宇宙の商業化が進む背景から、欧州や北米などの国々で構成される国際機関、経済開発協力機構OECDでは「宇宙ベンチャーの世界では革新と革命が同時に起こっている」と評されています。
商業化が進む宇宙業界では、従来の国家機関を頂点としたピラミッドの構造から、宇宙ベンチャーやベンチャーキャピタル、宇宙に関連しない事業を行ってきた大企業などが協働して宇宙事業を実行する構造が出来上がりつつあります。
宇宙ビジネスとは~業界マップ、ビジネスモデル、注目企業・銘柄、市場規模~
(2) 政策・投資・法律の観点から
①経済産業省 宇宙産業室 室長 浅井 洋介氏
日本の宇宙産業拡大に向けた政策の方向性というタイトルで、経済産業省の取り組みについて紹介がありました。
経産省の浅井氏は講演のなかで「宇宙は基幹インフラとして政府・世界全体として整備していく必要がある」とし、また「それを活用するためには民間の力が必要不可欠である」と話しました。
“儲からない”“リスクが高い”“コストがかかる”ことで、民間が参入しづらい業界ではあるものの、民間のプレーヤーを増やすためのルール作りなどを行っていくとのことでした。
具体的には、
●衛星データオープン&フリープラットフォーム「Tellus(テルース)」の開発・運用による衛星データの活用の促進
●準天頂衛星システム「みちびき」による高精度測位情報の提供
●新たな宇宙ビジネスのためのリスクマネー供給・環境整備として、投資のマッチングプラットフォームやビジネスアイデアコンテスト、ネットワークの運営
に取り組んでいくそうです。
なぜ日本初衛星データPF「Tellus」のデータビジネスに期待が集まるのか
②みずほ銀行 産業調査部 自動車・機械チーム 吉田 樹矢氏
みずほ銀行 吉田氏の講演では、宇宙分野に関する情報発信、ベンチャー投資、各種プラットフォームへの参加、といった3つの取り組みの紹介、宇宙産業の注目点についての指摘がありました。
まず情報発信においては、2017年11月に「宇宙の商業利用が日本産業に与える影響」というテーマで宇宙産業レポートを発刊。
※こちらから読めるので興味のある方は目を通されてみてはいかがでしょうか?
「Mizuho Industry Focus Vol. 200 宇宙の商業利用が日本産業に与える影響 ~フロンティアからインフラへ。遠からず来る機会と脅威~」(リンク先PDF)
ベンチャー投資についてもすでに複数件実施し、取引先の紹介も多数を行っているとのことです。
また宇宙ビジネス投資マッチングプラットフォームの投資家グループに、みずほ銀行とその系列ベンチャーキャピタル3社が初期メンバーとして参加、衛星データプラットフォームTellusのアライアンスメンバーとなっています。
吉田氏は、商業用人工衛星事業に着目。通信・測位・地球観測情報について、今後はニーズが大幅に増加し、産業や社会を変容させる可能性があるとしています。
また宇宙の商業利用に、まだまだ多様なボトルネックの存在があることも指摘。宇宙由来データの活用による商機の創出が大切であるとくくりました。
以上の内容も、みずほ銀行が発刊した宇宙産業レポートにまとまっていますのでご参照ください。
③TMI総合法律事務所 弁護士 新谷 美保子氏
TMI総合法律事務所の新谷氏からは、宇宙ビジネスにおける弁護士そして法政策の役割について講演がありました。
新谷氏曰く、その第一はとにかく実務を行うこととしています。宇宙ビジネスでは、大型紛争の解決や、契約書の作成、ファイナンススキーム検討といった特有のリスクがあるものの、それらを包括的に扱える大型法律事務所が、いまだ多くはないことを指摘。それに対して、実際には、どのように知的財産を守るか、国際周波数調整、輸出入管理など多岐にわたる業務があるとしています。
第二に宇宙ビジネスにおいて「技術」と「国内法政策」は産業振興の両輪であることが重要となります。宇宙産業では他の産業と異なり、法整備等がまだ追いついていない部分が多いため、いくら技術があって「有人宇宙飛行がしたい」「コンステレーションがしたい」などのビジネスニーズがあっても、「それが世界で許されるのか」「どの範囲で行えばよいか」「それを行うにあたり政府補償はなくてよいのか」など、様々な法政策観点からの検討が必要になります。
現在国内では、宇宙二法と呼ばれる宇宙活動法やリモートセンシング法が施行され、やっと欧米など宇宙先進国の数十年前に追いついたところです。
新谷氏は他の組織や機関と協力し、諸外国に追いつくために政府機関や国内外の関連企業との連携を行う取り組みとして、一般社団法人Space Port Japanを立ち上げました。日本がアジアにおける宇宙旅行ビジネスのハブになることを目指し、非営利団体として産業界の声をまとめたいとのことです。
All Japanどころかグローバル全体で、宇宙ビジネスにとって何が最善かを模索するべきであり、アジアNo.1の宇宙先進国として、持続可能な世界のために出来る限りのことをすると、新谷氏はこの場で改めて決意表明をしました。
(3) レガシー企業としての観点から
④三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 副事業部長 小笠原 宏氏
新規参入のベンチャー企業とは対照的に、古くから国の基幹ロケットを製造・運用してきた「レガシー企業」として、三菱重工業の講演がありました。
はじめに小笠原氏は、宇宙は日本の基幹インフラであるという認識を示し、日本が宇宙へ行く道を持っていることの象徴として、現在の基幹ロケットであるH2Aロケットの存在を示しました。
宇宙に行くロケットをアメリカから手に入れようとし、断念したことで、独自に宇宙へアクセスできるロケットを国主導で育ててきたフランスを例に出し、国が基幹ロケットを持つことが重要である、という考えを指摘しました。
三菱重工業は、ロケット以外にもその地上設備や宇宙ステーションや輸送機や小型の衛星や姿勢制御装置、再使用ロケットの研究開発も行っています。三菱重工業の担うインフラは、日本の宇宙産業構造の一番下層の支える役割であり、Old Spaceと呼ばれる古くからある宇宙企業は、衛星データ利用産業や宇宙関連の民生機器などのビジネスを支える役割があると話しました。
具体的なOld SpaceとNew Spaceの対比としては、ISSで行われる超小型衛星の放出があるとしました。
Old SpaceがISSの建造とその打ち上げを行い、New Spaceの各企業がそのISSを利用して小型衛星をISSに取り付けられた機構から放出しビジネスを行っている構図は、このような産業の構造に対して、典型的だとしました。
また三菱重工としては、以前から月面基地や周回ステーションの構想を持っていますが、近年の各国の動向からISS以降の宇宙インフラとして、それらの実現可能性は一層高まっています。その実現に向けても、インフラを作るOld Spaceと新たに業界参入する広い分野・広いプレーヤーのNew Spaceと協力していきたいとのことでした。
(4) 宇宙ベンチャーの観点から
⑤株式会社 アクセルスペース 代表取締役 中村 友哉氏
日本の宇宙ベンチャーとして超小型衛星の開発と製造を行っているアクセルスペースの代表中村氏が講演しました。
アクセルスペースは2008年の創業で、従業員数は65人。昨年ごろから人数も倍になったということです。
中村氏は、ハードウェア開発だけではビジネスにはならないということを感じており、エンジニアチームを2つにわけ、ITに特化したチームを編成し、利活用を含めたアプリ開発なども行っているとのこと。そのチームでは、運用の自動化や生の衛星データから情報を抽出するAI的な要素のある技術を開発し、パッケージ化を進めています。
同社は3つの小型衛星を打ち上げていますが、最近の打ち上げは気象情報などを取り扱うウェザーニューズ向けの衛星でした。北極海の氷を観測し、氷の分布を宇宙から観測することで、新たな航路生成、ナビゲーションを関係会社と行い、航路距離を2/3まで短縮、燃料コストの削減を導いています。
2022年までにはコンステレーションを完成させ、1日1回の地球の陸地の半分の撮像を可能にし、様々なビジネス展開を目指しているとのことでした。
⑥株式会社ALE 代表取締役 岡島 礼奈氏
株式会社ALEは人工衛星に粒を詰めて打ち上げ、大気に向け放出することで人工流れ星の開発を目指している企業です。
地上200km圏内で観測が可能であり、人工衛星は地球の上空を周回するため、世界中のどこでも人工流れ星が作れるということです。
2018年1月に打ち上げられた初号機で作られる人工流れ星は2020年春に瀬戸内地方で見られる予定です。
ALEには好奇心の次元・共有・拡大を追求し、宇宙産業や科学の発展に貢献する、科学をエンターテインメントで社会還元するというビジョンがあります。現在は、東北大学などの4大学との共同研究体制をとっており、2機の開発を手掛けています。初号機は既に打ち上がり、2号機はフライトモデルの組み立てを行っており2019年夏の打ち上げが確定しているとのことです。
今後の開発予定としては、人工流れ星となる粒の放出が終わった衛星そのものを大気圏に突入させ、さらに大きな流れ星にする構想や、一般にも手が届く値段での人工流れ星の実現などを検討しているとのことでした。
⑦株式会社スペースウォ―カ― 取締役 保田 晃宏氏
株式会社スペースウォーカーは、2017年12月に創業したばかりの新しい企業であり、スペースプレーンの開発を行っている企業です。過去、政府が30年ほど前から開発してきた和製スペースシャトルの技術を活用して、ロケットの打ち上げを行いたいとして立ち上がりました。
開発に携わっていた、従来の宇宙企業の技術者と若手が組み、事業を行っています。またJAXAの人的リソースや資金面で協働するJ-SPARCという枠組みを活用しているとのことです。
有翼式のロケットの開発を九州工業大学の米本教授と協力して行い、最終的には無重量実験や有人飛行を行いたいとしています。実験機で成功したエンジンを束ねて用い、2021年ごろにLNGエンジンによる高度100kmを超える弾道飛行の実証を行いたいとしています。
(5) まとめ
日本の宇宙ベンチャー、既存のレガシー企業、宇宙を専門としない様々な業種の方たちが一堂に会する機会となりました。
パネルディスカッションの予定でしたが、時間の都合上、各社の取り組みの紹介にとどまったものの、宇宙ベンチャーやそれを支えるOld Space、付随して必要な法政策、投資などの観点から今後の宇宙産業の在り方へ多くの示唆を与える講演の数々でした。
各企業の取り組み紹介にもあったように、これからの国内宇宙産業は、国やJAXAなどの政府機関のトップダウンの産業構造ではなく、様々なプレーヤーたちが協力し、それぞれの強みを生かす構造へと変容しており、産業規模としても大きな拡大を見せることは間違いないでしょう。