宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

宇宙ビジネス企業53社とゆく年くる年、2023年のトピックと2024年の展望

2023年、日本で活動された宇宙関連企業53社のゆく年くる年アンケートをまとめました!各社の2024年の市場予測もまとめています。

はじめに

2023年は日本から宇宙ビジネス関連企業が3社上場し、日本政府が10年1兆円の宇宙戦略基金の創設を明言するなど、民間企業の活躍にますます注目が集まる1年となりました。世界各国の宇宙ビジネスもさらに勢いを増し、様々なメディアやSNSで宇宙ビジネスの話題を見たという方も多いのではないでしょうか。

『宙畑』では2020年より「宇宙ビジネスゆく年くる年」と題して、1年の振り返りと新年の抱負について、様々な宇宙ビジネス企業にアンケートをさせていただき、宇宙ビジネスの盛り上がりを読者の皆様に紹介しています!

第4回目となる今年は以下3つのメインの質問をお伺いしました。

・2023年のトピック
・顧客と提供価値について、実事例と今後狙っていきたい理想的なユースケース
・2024年の抱負

そのほか、前年に続いて、宇宙ビジネスの市場規模や投資額が2024年はどのように増減すると思うかといった質問にも回答いただきました。

「こんなこともあったな」「この企業はこんなこともやっていたのか」「来年が楽しみだな」と年末年始の隙間時間のおともに記事をご覧いただけますと幸いです。

また、本年のアンケートも昨年同様に、宙畑がご連絡できた宇宙ビジネス企業の皆様に、アンケートの依頼をさせていただきました。今年連絡がきていない企業の方で、来年以降ご協力いただける企業様がいらっしゃいましたら、ご連絡をいただけますと幸いです。

各社の回答詳細はこちらからご覧いただけます。

(1)回答いただいた宇宙ビジネス企業紹介

今回のアンケートでは、年末のお忙しい時期にも関わらず、総勢53社の企業・法人に回答をいただきました。回答いただいた皆様には、あらためて御礼申し上げます。
※回答いただいた企業社数は記事公開後も随時増やしていきます。

以下、今回アンケートに回答いただいた企業・法人を主なサービス分野で分けてまとめました。
(敬称略、五十音順)

■製造・インフラ部門
株式会社アークエッジ・スペース
株式会社IDDK
株式会社アクセルスペース
株式会社アストロスケール
インターステラテクノロジズ株式会社
株式会社インフォステラ
ElevationSpace株式会社
株式会社QPS研究所
SEESE株式会社
シスルナテクノロジーズ株式会社
将来宇宙輸送システム株式会社
スカパーJSAT株式会社
SPACE COTAN株式会社
株式会社SPACE WALKER
株式会社Pale Blue
三菱電機株式会社
明星電気株式会社
パナソニックインダストリー株式会社 宇宙プロジェクト
株式会社ワープスペース

■利用部門
株式会社アグリライト研究所
Archeda, Inc.
INCLUSIVE SPACE CONSULTING株式会社
ウミトロン株式会社
株式会社オーイーシー
KDDI株式会社
さくらインターネット株式会社
サグリ株式会社
株式会社SIGNATE
株式会社Synspective
ソニー株式会社
株式会社sorano me
株式会社天地人
トヨタ自動車株式会社(TOYOTA MOTOR CORPORATION)
日本地球観測衛星サービス株式会社
New Space Intelligence
株式会社パスコ
羽生田鉄工所
LAND INSIGHT株式会社
株式会社Ridge-i
一般財団法人 リモート・センシング技術センター(RESTEC)

■探査部門
株式会社ispace
株式会社TOWING
株式会社Yspace

■その他部門
(商社・コンサル)
Space BD株式会社
株式会社DigitalBlast
PwCコンサルティング合同会社
株式会社minsora
YuMake株式会社

(保険)
損害保険ジャパン株式会社
東京海上日動火災保険株式会社

(非営利団体)
一般社団法人ABLab
一般社団法人SPACETIDE
Space Port Japan

(2)2023年の注目ポイント

それぞれの部門紹介に入る前に、宙畑編集部が注目した今年のアンケートの注目ポイントをご紹介します!

1.国内の宇宙ビジネス関連ベンチャーが3社新規上場

2023年は、日本の宇宙ベンチャーが3社上場した記念すべき年となりました。日本の宇宙ベンチャー初の上場は、4月12日に上場したispace。その後、Ridge-iが4月26日、QPS研究所が12月6日に上場と続きました。

2023年に国内で上場した各社の事業は月面ランダー、衛星データの解析、衛星の開発とデータ販売とそれぞれ異なります。宇宙ビジネスとひと言でまとめても、様々な業態や事業があります。本アンケートで主に国内の宇宙ビジネス企業53社の回答をまとめていますので、国内宇宙ビジネスの幅広さにご注目ください。

また、すでに海外では宇宙ベンチャーが多く上場し、事業を推進中です。上場したことで各社の事業方針や経営状況がよりオープンになっています。興味のある企業があれば、IR資料を読み込んでみると面白いでしょう。

2.宇宙ビジネス企業のサービスが生活に寄与すると再び見え始めた1年

宇宙ビジネス産業の市場規模のうち、約70%は衛星関連サービスで、測位衛星を用いた地図アプリ、航空機内で利用できるWiFi、気象衛星が届けるデータを用いた天気予報などがあります。これらはすでに私たちの生活に浸透し、宇宙ビジネス関連サービスであると認識して使う方は少ないものでしょう。

その点、2023年は宇宙ビジネスがどのように私たちの生活に役立っているのかを再認識する年となりました。

最も顕著なのはSpaceX社が提供する衛星通信サービス「Starlink」でしょう。日本ではKDDIが法人向けプランでこれまでの陸上向けに加え、海上向けのサービスも提供開始し、海運・旅客船舶・研究実習船・漁船など幅広い事業者様に採用された他、公衆Wi-Fiと組み合わせた「フェスWi-Fi」や「山小屋Wi-Fi」など、個人の人も利用できる新たなサービスも開始。これまでインターネットが満足に使えなかった非日常な環境での快適な通信環境の整備が進んでいます。

また、私たちにとって身近な物事に関する衛星データを活用したサービスの成果が見え始めています。例えば、衛星データを活用したお米の生産を天地人が継続して取り組んでいることや、衛星データを用いることで小麦の品質の向上したという成果をアグリライト研究所がアンケートで回答しています。他にも、防災・金融・物流などへのサービスが順調に浸透していくコメントが複数寄せられました。

3.SBIRや10年1兆円規模の宇宙戦略基金創設、来年度以降の弾みへ

2023年は、民間企業各社の資金調達が進んだことはもちろんのこと、日本における宇宙ビジネス産業への大規模な予算の投入が大きく注目された1年でもありました。

ひとつは、日本版SBIR(Small Business Innovation Research)制度です。スタートアップ等による研究開発を促進し、その成果を円滑に社会実装し、それによって我が国のイノベーション創出を促進するための制度で、内閣府が司令塔となり、各省庁連携で、研究開発成果の社会実装に向けて随意契約制度の活用など事業活動支援等を実施し、初期段階の技術シーズから事業化までを一貫して支援が行われます。

2023年は文部科学省と経済産業省において、社会実装に繋げるための大規模技術実証事業(フェーズ3事業)の結果が発表され、宇宙ビジネスに取り組む各社の事業が採択されています。また、NEDOのSBIR推進プログラムでも宇宙ベンチャーの事業が採択されています。

また、2023年12月22日に発表された宇宙基本計画⼯程表(令和5年度改訂案)には、「10年間の宇宙戦略基⾦を活⽤し、JAXAによる⺠間企業、⼤学等への技術開発⽀援を開始する。本基⾦について、まずは当⾯の事業開始に必要な経費を措置しつつ、速やかに、総額⼀兆円規模の⽀援を⾏うことを⽬指す。」と記されました。

来年以降、多くのお金が日本の宇宙ビジネス産業に流れることで、各社の事業に弾みがつき、お金が集まった後は人が集まる産業になるかに注目です。

(3)製造・インフラ部門企業の回答紹介

製造・インフラ部門は、宇宙開発と聞いて想像するような、いわゆるロケットや衛星の製造を行う企業や、そういった宇宙システムを下支えする企業を指しています。

世界を見てみると、SpaceXが2023年は90回以上ロケットを打ち上げています。そのうちの半数以上は自社の衛星通信サービス「Starlink」を構築するための打ち上げでした。また、小型ロケットの宇宙ベンチャーであるRocket Labは9月に一度打ち上げに失敗したものの、12月には日本の宇宙ベンチャーであるQPS研究所の衛星の打ち上げに成功しており、結果として2023年は10回の打ち上げを行いました。

一方で、欧州と日本にとっては宇宙への輸送手段の不安が募る1年でもありました。欧州は2020年に運用開始予定だったアリアン6の運用開始が2024年まで延期となっており、小型ロケットVega Cは2022年12月の打ち上げ失敗を受けて対応を進めており、2023年中に打ち上げが再開されることはありませんでした。日本も次世代基幹ロケットH3の打ち上げに失敗し、JAXAの地球観測衛星ALOS-3を喪失することとなりました。

欧州と日本においては、次世代基幹ロケットの運用開始と民間企業による宇宙輸送手段の確立がより求められる1年になったともいえるでしょう。

このような状況の中、日本で宇宙ビジネスを展開する企業にはどのようなことがあったのでしょうか。今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。

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株式会社アークエッジ・スペース
株式会社IDDK
株式会社アクセルスペース
株式会社アストロスケール
インターステラテクノロジズ株式会社
株式会社インフォステラ
ElevationSpace株式会社
株式会社QPS研究所
SEESE株式会社
シスルナテクノロジーズ株式会社
将来宇宙輸送システム株式会社
スカパーJSAT株式会社
SPACE COTAN株式会社
株式会社SPACE WALKER
株式会社Pale Blue
三菱電機株式会社
明星電気株式会社
パナソニックインダストリー株式会社 宇宙プロジェクト
株式会社ワープスペース
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お金が集まり、事業がさらに拡大した1年

上述した2023年のまとめでも記載したSBIRや資金調達に関する話題は製造・インフラ部門の企業から多く回答が寄せられました。

文部科学省のSBIRフェーズ3では、民間ロケットの開発・実証でインターステラテクノロジズとSPACE WALKER、将来宇宙輸送システムがそれぞれ20億円ずつ、軌道上の衛星等除去技術・システムの開発・実証でアストロスケールが26.9億円、衛星等の軌道離脱促進のための技術・コンポーネント開発・実証でPale Blueが15.9億円採択されています。

また、経済産業省のSBIRフェーズ3では、月面ランダーの開発・運用実証でispaceが120億円、衛星リモートセンシングビジネス高度化実証でアークエッジ・スペースが35億円、高分解能・高画質且つ広域観測を実現する小型SAR衛星システムの実証でQPS研究所が41億円で採択されています。

さらに、NEDOのSBIR推進プログラムでもワープスペースによる光空間通信におけるマルチプロトコルプラットフォームを実現するモデム及びルータ開発、SPACE WALKERによるLBM のロケット燃料への適応調査、実証及び長距離移送の実現可能性、安全性の FS(実現性検討)などの研究開発テーマが採択されています。

国内の大型の資金調達もありました。例えば、アクセルスペースが62.4億円の資金調達で累計調達額が約140億円に、QPS研究所が10億円の資金調達で累計調達額が約92億円となっています。

このようにお金が集まったことに合わせて各社の事業も着々と進み、人材やオフィス、工場への投資が積極的に行われた1年でもあったようです。

例えば、アクセルスペース社は設立15周年を迎え、社員数が150名にまで拡大したそう。アストロスケールは本社を移転し、オフィスエリアに加えて515平方メートルの広さを誇るクリーンルーム、別フロアには一般向け見学施設「オービタリウム」も新設しています。

2023年時点で各社が採用説明会を積極的に行っていたことが印象的でしたが、2024年も事業拡大を見据える各社が採用を強化することが見込まれます。

また、宇宙戦略基金は宇宙ベンチャーのためだけの予算ではありません。三菱電機の回答に「2024年度から政府の定める宇宙技術戦略に基づいた新たな基金による技術開発が始まることが期待されています。重要技術開発、その開発成果による商業化、更なる国へのフィードバック、という好循環を築くための最初の1年になると思います」とあるように、これまで日本の宇宙産業を支え続ける大企業にとっても重要なものと認識されています。

着々と進む研究開発や事業開始などの事業マイルストーン達成

2023年は各社の研究開発と事業の拡大も着実に進んだ1年となったようです。

インターステラテクノロジズが開発を進める小型人工衛星打上げロケット「ZERO」は、エンジン「COSMOS」の燃焼器単体試験に成功。民間企業としては、液化バイオメタンを燃料として使った世界初の事例となりました。

また、かねてより宇宙ビジネス事業を推進するスカパーJSATからも、衛星通信ビジネスの拡大、衛星データビジネスにおける新たなサービスの開始など、かねてからの取り組みが実を結んだ1年と回答がありました。

他にも、ElevationSpaceが小型人工衛星を地球に帰還させるための高推力&経済性&安全性を兼ね備える”ハイブリッドスラスタ”が長時間燃焼に成功、パナソニックインダストリーの宇宙プロジェクトではISSにて基板材料や実装補強材料といった電子材料製品の宇宙曝露実験を行い、信頼性を実環境で証明、SEESEの「ワンストップ放射線試験サービス」を開始、SPACE COTANは2022年に着工した北海道スペースポート(HOSPO)整備の第一期工事のうち滑走路延伸工事が進捗、インフォステラがホストする北海道大樹町のサイトにViasat RTE(リアルタイム・アース)の地上局を開設し、顧客はミッションクリティカルなデータの配信にかかる時間を短縮する戦略的な場所へアクセスが可能になるなど、各社事業のマイルストーンを着実に達成していることが分かります。

来年以降の期待が高まる企業が続々と

2024年以降に控えた新しいチャレンジに期待が高まるコメントも多く集まりました。

2024年1月に日本初の無人探査機の月面着陸成功を目指すJAXAの小型月着陸実証機SLIMでは、三菱電機が着陸機のシステム開発及び製造を担当し、明星電気などの光学機器、観測機器が搭載されています。

また、三菱電機は気象庁から「次期静止気象衛星(ひまわり10号)」を受注。「ひまわり7号」から4基連続の受注となっており、「近年国内で甚大な被害をもたらしている台風や集中豪雨、線状降水帯の予測精度向上や、防災気象情報の高度化など、わが国の防災機能強化に貢献していきたい」とコメントがありました。

2024年に重要な実証を計画している企業からの回答も複数寄せられました。アストロスケールは商業デブリ除去実証衛星ADRAS-Jのミッションがあります。これは、実際のデブリへの安全な接近を行い、デブリの状況を詳細に調査する世界初の試みとなります。他にも、アクセルスペースによる小型衛星の机上検討から設計製造、打ち上げ、軌道上運用までをワンストップで提供する革新的なサービスの実現に向けた実証衛星Pyxis(ピクシス)の打ち上げ、IDDKは日本初民間主導の人工衛星を利用した地球低軌道宇宙バイオ実験プラットフォームの構築を目指した実証実験を2024年に行う予定など、楽しみなミッションが多く控えています。

他にも、シスルナテクノロジーズのように、2023年に設立した宇宙ベンチャーも。同社は1期目で最初の衛星の開発案件を受注し、1人目の社員を採用、来期以降に向け、幸先の良いスタートが切れた年になったと回答しています。2024年以降に設立する新たな宇宙ベンチャーにも注目です。

(4)利用分野企業の回答紹介

次に紹介するのは宇宙ビジネスにおける「利用分野」です。利用分野企業とは、衛星データや位置情報データ、通信衛星を利用したサービスの運営企業を指します。

世界に目を向けると、AI技術と衛星データの融合が進んだ年であったように思います。

2022年11月に生成AIサービスであるChatGPTが公開され話題になりましたが、衛星データ利用の分野ではアメリカPlanetで、会話型で衛星データの検索ができるサービスの開発に着手するなど、これまで取り扱いのハードルが高かった衛星データを会話型のAIで乗り越えようという取り組みがなされています。

また、IBMが「基盤モデル」と呼ばれる、特定の衛星データ、特定の用途に限定されない汎用性の高いモデルをAIプラットフォーム「Hugging Face」で公開するなど、こちらも衛星データ分析のハードルを著しく下げる技術が開発されています。

では、国内宇宙ビジネス企業にとって2023年はどのような年だったのか。アンケートの回答を見てみましょう。

今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。

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株式会社アグリライト研究所
Archeda, Inc.
ウミトロン株式会社
株式会社オーイーシー
KDDI株式会社
さくらインターネット株式会社
サグリ株式会社
株式会社SIGNATE
株式会社Synspective
株式会社スペースシフト
ソニー株式会社
株式会社sorano me
株式会社天地人
トヨタ自動車株式会社(TOYOTA MOTOR CORPORATION)
日本地球観測衛星サービス株式会社
New Space Intelligence
株式会社パスコ
羽生田鉄工所
LAND INSIGHT株式会社
株式会社Ridge-i
一般財団法人 リモート・センシング技術センター(RESTEC)
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カーボンクレジットや飼料価格の高騰など社会課題解決に使われる衛星データ

2023年の各社の回答の中で、印象に残ったのは地球規模の社会課題解決に衛星データを用いるアプローチです。

世界的に動向が注目されるカーボンクレジットの算出、ブルーカーボンのモニタリングに衛星データを利用することを表明したのは、Archeda, Inc.、UMITRON、サグリの3社です。衛星データが持つ広域性や均質性などが、サービスの鍵となりそうです。

New Space Intelligenceは気候変動(地球温暖化)に関連した「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」や、その”生物多様性版”とされる「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」との連携を模索するとしています。sorano meでは、持続可能性に焦点を当て、Planetary Boundaries、Planetary Healthに関連する事業を連続的に生み出していきたいと表明しています。

Synspectiveでは、衛星データの提供にとどまらず「地球環境の理解が可能になる」という価値を提供すべく、取り組みを行っています。事例としては、JICAとのグアテマラにおける新たな陥没リスクの発見や、世界銀行とネパールにおける斜面不安定性検知機能を活用した土石流及び洪水被害の影響による特徴的な変動箇所の検出など、地球環境を観測・解析することで新たな理解と発見を提供することが可能になりました。

また、一次産業における飼料原料価格の高騰など、地域の社会課題解決にスポットをあててソリューションを開発していこうという会社も多くみられました。

北海道のLAND INSIGHTは、地方自治体に対して現地確認の負担を軽減するようなサービスを広げていくことを目指しています。大分県のオーイーシーも地元のIT企業として、衛星データをはじめとする様々なデータを使って地上の課題解決に役立てたいとしています。山口大学発ベンチャーであるアグリライト研究所は、大手サービスではコストの面で手の届かない地域農業の課題に対応できるビジネスを。長野県の羽生田鉄工所では、長野地域での衛星データ活用普及活動をを積極的に実施し、エンドユーザーの要望に応えられるソリューションの提供を目指しています。

衛星データ・通信衛星コンステを使ったサービスの実利用・導入が本格化

実証事業が完了し、実利用・サービス導入が進んだという報告も2023年は多くありました。

天地人では、『宇宙水道局』と呼ばれる漏水リスク管理業務システムの自治体導入が福島市、瀬戸市、青森市、前橋市と進んでいます。

Ridge-iでも衛星事業単体での売上が2倍以上になり、実際にある機関での業務フローにAIを使ったシステムを導入したという実事例が生まれています。

スペースシフトでは、2022年から続けていた農業モニタリングのソリューション開発が完了、キャベツの価格予測から実用化に向けて動き出しています。

すでに、行政機関でサービスの実利用が進んでいるパスコでは、さらなる普及率の向上のために行政内で横断的に利用できるように進めたり、現状の課題を解決するような提案を行い、普及を推進しています。

また、通信衛星の分野では、SpaceXが構築する通信衛星コンステレーションによる通信サービスStarlinkが日本でのサービス展開を開始。KDDIでは「フェスWi-Fi」や「山小屋Wi-Fi」など携帯電話が繋がりにくい場所で、Starlinkを用いたサービスを展開したり、auの基地局のバックホールとして利用したりと、衛星の利点を活かしたサービス実装が本格化しています。

海外展開が加速

衛星データの特性を活かし、積極的に海外展開を進めて行くことを回答している企業もありました。

サグリでは、シンガポールへ拠点を設立し、ASEANの活動が本格化、アフリカ・中南米への事業展開を進めています。Synspectiveでもアジアを中心としたグローバル展開を視野に入れた戦略的パートナーシップを強化しています。

スペースシフトでは、スイスWEGAW社との提携や、AWS Market PlaceへのSAR衛星データ解析アルゴリズムの提供など、ワールドワイドでの連携も大きく進捗しています。

前述の天地人の水道事業も海外展開にチャレンジしたいと述べています。

世界中を撮影している人工衛星だからこそ、海外展開を行いやすい利点があり、各社事業拡大を狙っているようです。

日本でも衛星データとAIの融合が進む

本章冒頭でもお伝えした通り、生成AIと衛星データの融合事例が増えていますが、日本でもSIGNATEが、SBIRの枠組みを用いてLLMを用いた衛星データ解析の研究開発を開始することを発表しています。

また、さくらインターネットやパスコではAI技術者の募集もあり、今後さらに日本における衛星データをAIを使って分析する事例が増えて行くと思われます。

衛星の打ち上げ成功・失敗悲喜こもごも

衛星データ利用の分野は、自身で衛星を保有していなくとも、衛星の打ち上げの成功・失敗に大きく左右される事業とも言えます。

ソニーでは2023年1月に、自身初の衛星の打ち上げに成功、様々な課題はありつつ、エンターテイメント性の高いサービスにチャレンジする大きな1年となりました。

一方で、パスコは2023年3月にALOS-3を消失したことが事業に大きな影響を与えており、海外商用衛星をフル活用するなど、事業計画の変更を余儀なくされました。

リモート・センシング技術センター(RESTEC)では、続くALOS-4の打ち上げに向けて運用準備などを進めています。

日本地球観測衛星サービス(JEOSS)では、同社がデータを販売するXバンドSAR衛星ASNARO-2が2024年1月で、打ち上げから6年となり、衛星としては”ベテラン”の域に入って来ており、今後の動向が注目されます。

異分野とのコラボレーション

衛星データ利用の分野では、宇宙業界の企業ではない企業の参入も数多く見られます。

トヨタでは、地球観測衛星データには多くの可能性があると考えており、同社のMissionである幸せの量産をどう実現するか、取り組みを進めています。

また、ソニーではエンタテインメント領域や他社との協業を含め宇宙を中心としたさまざまな事業の探索を行っているとのことです。

(5)探査分野企業の回答紹介

探査分野では、世界的にはアメリカ主導で進める有人月面着陸を目指すアルテミス計画が着々と進行しており、宇宙飛行士が発表されたり、次世代有人月面車の提案を募集したりしています。

アルテミス計画を見据えた、宇宙利用の原則をまとめた「アルテミス協定」には、ドイツやオランダなども加わり、2023年11月現在31カ国が参加しています。

そんな探査分野で回答をいただいたのは以下の3社です。

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株式会社ispace
株式会社TOWING
株式会社Yspace
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日本初、民間主導ランダーの月面着陸へ挑戦!

探査分野での大きなトピックは何といってもispaceの月面着陸への挑戦でしょう。

2023年にHAKUTO-RプログラムのMission 1として日本初、民間主導のランダーでの月面着陸を目指し、実際の宇宙空間にて技術的信頼性を実証することができました。

ispaceは2023年東証グロース市場への上場も果たしており、2024年もさらなる飛躍が期待されます。

月面探査に向けた準備も着々と進む

ispace以外の企業でも月面探査に向けた準備が着々と進んでいます。

TOWINGでは、SPACE FOODSPHERE内のStardust Programに参画、レゴリス多孔質体を活用した高度資源循環型の食料供給システムの開発を行い、一定以上の成果を上げることができました。

また、YSpaceでは月面産業構築のための月面メタバースを用いた月面データプラットフォーム/月面3D地図の開発をスタートさせました。

(6)その他部門企業の回答

宇宙ビジネスも多岐に亘るようになり、元々宙畑で用意していたカテゴリでは収まりきらない企業も数多く見られるようになってきました。

以下のような企業も宇宙ビジネスを行っています。

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(商社・コンサル)
Space BD株式会社
株式会社DigitalBlast
PwCコンサルティング合同会社
株式会社minsora
YuMake株式会社

(保険)
損害保険ジャパン株式会社
東京海上日動火災保険株式会社

(非営利団体)
一般社団法人ABLab
一般社団法人SPACETIDE
Space Port Japan
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宇宙ビジネスへの参入企業は増えることで、商社・コンサル・保険などの業種も成長

“宇宙商社”であるSpace BDや、宇宙以外のコンサルティングも手がけるPwCコンサルティングは、宇宙ビジネスの中でも分野横断的にさまざまな事業を手がけ、Space BDは売上を伸ばしているとのこと。大分を中心に活動を広げるminsoraも衛星データを中心にコンサルティング事業で増収・増益だったと回答しています。大阪に本社を置くYuMakeは、衛星データを気象データと組み合わせてビジネス展開を行っていますが、こちらは衛星画像の利用価値に気付くのはまだまだこれから、という見立てです。

宇宙ビジネスに興味を持つ非宇宙企業が増え、それに伴いコンサルティングを行う企業の業績が好転しているとも言えるかもしれません。

参入企業が増えるために、発展していく業種としては「保険」も挙げられるでしょう。損害保険ジャパンは新たに宇宙ビジネス専門部署「宇宙産業開発課」を新設。東京海上日動火災保険でも、JAXAと「宇宙リスクソリューション事業」の共創を開始しています。

Digital Blastが手がける総合宇宙イベント「SpaceLINK」も昨年を大きく上回り来場者が700名越え、2015年以来、8回目となるSPACETIDE2023は20か国から約90名の登壇者が集結するとともに、過去最多となる1,200名が参加し、宇宙ビジネスへの注目度のますますの高まりを感じます。
非営利組織ではありますが、ABLabが展開するコミュニティ事業の売上も前年比約2倍となり、こちらも宇宙ビジネスへの個人としての興味関心の高さが窺えます。

また、地域活性という意味では日本各地で進んでいるスペースポートを取りまとめているSpace Port Japanは、海外のスペースポートと多くの連携を行い、政策提言を行っています。

(7)2024年の宇宙ビジネス予想(投資額、市場規模、企業数)とまとめ

最後に、今回アンケートに協力いただいた52社(1社非回答)に、2024年の世界の宇宙ビジネス予測を、投資額・市場規模・新規参入企業数の3つの観点で伺った結果を紹介します。

いずれも増加すると回答した企業の割合が多い傾向は例年通りでしたが、2023年と比較して横ばい、または減少を予測する企業も15~25%は存在しているという結果となりました。この結果は2022年と比較すると10%程度良くなっています(2022年は25~35%)。

これは、これまでも繰り返し記載のあった政府による大型予算の発表の効果も大きいと考えられます。日本版SBIR(Small Business Innovation Research)制度や10年1兆円規模の宇宙戦略基金など国として宇宙ビジネスへの大規模な投資を表明しており、今回回答いただいた企業も数多く採択されています。

加えて、2023年はispace、Ridge-i、QPS研究所が上場を果たしており、市場全体の注目度の高さがうかがえます。

2024年は政府や民間からの資金を宇宙ビジネス飛躍の起爆剤にできるか、日本の宇宙ビジネスにとってこれからの10年を左右しうる重要な一年になりそうです。

また、昨年のゆく年くる年で2023年は、企業間連携や政府の支援施策などを通じて進めているサービス開発がどれほど顧客を掴めるのかが重要で、事業強化のための資本提携なども進む1年になるだろうとお伝えしました。

2023年のアンケートから新たに質問に加えた「顧客と提供価値について、実事例と今後狙っていきたい理想的なユースケース」では、各社の顧客について詳細に記載いただいています。本記事ではすべてを紹介できませんでしたが、ぜひ全社の回答をゆっくりと眺めながら各宇宙ビジネス企業の事業について理解を深める一助となれればと思います。

以上、2023年の宇宙ビジネス企業のゆく年くる年をご紹介しました。

宙畑は、2017年2月のサイトオープンから2024年2月で7周年を迎えます。宇宙ビジネスのど真ん中で事業化に向けて頑張っている皆様や、これから宇宙ビジネスを立ち上げようとされる方、宇宙業界に飛び込んでみようと思われる皆様を後押しできる記事をこれからも作成していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。