ispace、今冬打ち上げの月面ローバー「TENACIOUS」初公開、宇宙資源探査への第一歩【宇宙ビジネスニュース】
7月25日「HAKUTO-R」ミッション2に搭載されるマイクロローバーの組立完了を発表。その概要と今後のスケジュールについて紹介します。
「粘り強さ」を意味するマイクロローバー「TENACIOUS(テネシアス)」
ispaceは、7月25日「HAKUTO-R」ミッション2に搭載されるマイクロローバーの組立完了を発表しました。マイクロローバーの名称は「粘り強さ」を意味する「TENACIOUS(テネシアス)」 と命名されました。
欧州宇宙機関(ESA)とルクセンブルク宇宙機関(LSA)が、ルクセンブルクの宇宙資源の産業化を積極的に推進し、宇宙資源の探査と活用を目指す宇宙プログラム「LuxIMPULSE」を通じた共同出資のもと、ispace EUROPEが設計・製造を担当しています。
TENACIOUSは高さ26cm、幅31.5cm、全長54cm、重さは約5kgで、軽量化と打ち上げ時の振動に耐えるために、躯体にCFRP(炭素繊維複合材)を採用しました。加えて、展開機構を備えた太陽光パネルを搭載し、14日間以上の稼働(越夜)を目指す、世界でもかなり小さいローバーであると、ispace EUROPE マイクロローバー担当リードエンジニア John Walker氏は説明しました。
宙畑メモ:越夜
月では昼と夜がそれぞれ約14日で入れ替わるため、極端な温度環境を形成し、太陽光による電力供給がほとんどされない状況が生じます。特に陽があたらない夜は非常に低温と宇宙機に特に厳しい環境であり、夜を越すことが非常に難しいとされています。
月面上の様子を撮影するHDカメラを搭載し、月面のレゴリス環境でも安定走行を可能にするためのセラミックコーティングされたマグネシウム合金製のホイールを用いています。
月面に着陸したローバーへのコマンドやデータの送受信は、TENACIOUSを搭載するランダー「RESILIENCE」経由でルクセンブルクのミッションコントロールルーム (管制室)と行われます。
また、機体にはHAKUTO-Rのコーポレートパートナーであり、鉱業とインフラ産業の生産性および持続可能性をリードするEpiroc AB社が開発するスコップを搭載し、月面上のレゴリスを取得します。
取得したレゴリスは、NASAとの月資源商取引プログラムのもと、レゴリスを地球に持ち帰ることなく、所有権をNASAに現地で引き渡す取り決めがされています。なお、引き渡し以降についての対応は現時点で未定とのことです。
ispaceが月面サンプル取引プログラムに採択。宇宙資源ビジネスの後押しとなるか【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/11/30〜12/6】
相乗的に情報や成功体験を増やしていく。公開された動画にも注目
ミッション2に関するサクセスクライテリアについて、日本法人の最高収益責任者(Chief Revenue Officer:CRO)である斉木敦史氏は、次のように述べました。
詳細は検討中ですが、ミッション1と同様の内容に加えて、弊社独自のローバーに関する項目が追加されるイメージ。有言実行を大事にして100%やり抜くことを大事にしています。まずは月面に辿り着いて新たな観測データや技術的知見を獲得し、次のミッションに向けて相乗的に情報や成功体験を増やしていく。これが技術的にも営業的にも貴重な財産となるため、頑張っていきたい。
TENACIOUSを搭載するミッション2は、SpaceX社のFalcon9により2024年冬に打ち上げ予定です。
また、紹介動画も2本公開されています。非常に明瞭であり、ここまで近くに寄った機体が映っている動画は珍しいと思います。部品の色や作業員の所作の意味を考えながら見ると面白いのでぜひ注目してみてください。
備考
東京日本橋で2024年7月20日(土)~9月1日(日)にかけて、RESILIENCEランダーのレプリカの公開がされています。TENACIOUSに関係する部分もありますので、興味のある方はご覧になってはいかがでしょうか。
ispace、「HAKUTO-R」ミッション2RESILIENCEランダー レプリカが完成!