【ソフトがハードを超越する世界へ】さくらインターネットの創業者が語るクラウド事業の真髄と衛星データプラットフォームTellusの役割
本記事は、2024年4月に分社化した(株)Tellusを深堀するため、さくらインターネットとTellusの3人のキーマンを取材した企画の前編です。
「Tellusはさくらのクラウド事業そのものなんです」
そう語ったのは、さくらインターネットの創業者であり、代表取締役社長の田中邦裕さん。経済産業省の「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利活用促進事業」の取り組みとして委託を受けて開発した衛星データプラットフォームTellusの事業に係る権利義務は、2024年4月にTellus(以下、会社名としてのTellusを表す場合は(株)Tellus)に承継されました。
その言葉の真意と合わせて、(株)Tellusの事業と田中邦裕さんが語るさくらインターネットが目指す役割を紹介します。
本記事は、2024年4月に分社化した(株)Tellusを知るため、さくらインターネットの創業者であり代表取締役社長の田中邦裕さん、衛星データプラットフォーム構想を企画し、現在、(株)Tellusの代表取締役社長である山﨑秀人さん、さくらインターネットの共同創業者であり、Tellusの立ち上げを牽引された小笠原治さんの3人のキーマンを取材した企画の前編です。
(1)Tellusはさくらのクラウド事業そのもの
宙畑:Tellusの事業をさくらインターネットで進めるとなったとき、田中さんはどこまで衛星データ利用というものについて把握をされていたのでしょうか?
田中:実は、当時は事業の多角化を進める時期で、「宇宙はロマンがあるからいいんじゃない」と新規事業のひとつとしてTellusを捉えていました。
ただ、深く話を聞いていると、人工衛星だけ打ち上げても、地球を観測して、そのデータ収集して蓄積、活用するところに多くのコストがかかっていること、なかなか利活用が進んでないことが分かりました。それをクラウドに乗せることでそこの費用をクラウドベンダーが持ちつつ、そこで事業化できればデータ利活用がもっと進むという概念はすごく腹落ちしました。これってクラウド事業そのものだなと。
宙畑:クラウド事業そのものという言葉について、もう少し詳しく教えてください。
田中:クラウドベンダーって、SaaSでない限りはハードウェア投資が必要で、GPUへの投資と人工衛星への投資は似たようなものだと考えています。処理をするか収集するかの違いはあれど、インフラをクラウドベンダーがたくさん抱えておいて、時間貸しするという事業です。
その点、将来的に人工衛星を打ち上げるというビジョンも話していますが、私は人工衛星自体もクラウドのようなものだと思っています。何分単位とかでお客様は使うわけですよね。
宙畑:現在(株)Tellusではスターダストプログラムで様々な種類の人工衛星に対して特定の時間に特定の場所を撮影してもらうタスキングのシステム構築と、データ生産・配信技術の研究開発を行っています。タスキングも宇宙を周回している衛星にピンポイントで撮像依頼するという点で似ているかもと思いました。
田中:まさにタスキングとGPUは近いビジネスだと思っていて、両方ともものすごく高価なものです。高いものを何かちょっとだけ使わせて欲しいというビジネスはすごく面白いなって思います。だからそこがより便利で使いたいと思える事業になることがポイントだと思います。
宙畑:あらためて、多角化の一環と考えていたところから、Tellusはさくらインターネットの本業と重なるものとなったんですね。
田中:そうですね。経営の話になりますが、多角化をすると経営が安定して、一つの事業が何かあったときのリスクを軽減することができます。一方で、Microsoftはソフトの会社、Googleは広告の会社、AmazonはECの会社というように、企業の評価は単一事業での評価に影響を受けやすいということも考えなければなりません。
その点、Tellusを始めた当時のさくらインターネットはちょうど事業を多様化したフェーズでもあったのですが、結果として本業そのものだという結論から強化しようと考えて今に至ります。
(2)リリースではなく、ローンチ。クラウド事業の重要な視点
宙畑:2019年2月21日にTellusの初披露となる記者発表会で田中さんがTellusの事業について「リリース」ではなく「ローンチ」という言葉を意識して使っているというお話がとても印象に残っています。
田中:人工衛星って打ち上げたら終わりと考える人も多いのですが、宇宙に上がってから価値を出すものですよね。
クラウドサービスも一緒で、システム開発の案件として物を開発して納品してお疲れ様ではなくて、そこから儲けが始まる、そこから大変さが始まります。
宙畑:たしかに、人工衛星も地球観測衛星を打ち上げただけでは儲からず、そのデータを使いたいと言ってくれる人がいるからこそ持続的なビジネスの実現につながるというのは編集部でも良く話しています。
田中:元々さくらインターネットはローンチの会社で、設備投資して利用開始して、それでお金をいただくビジネスが生業ですから。そういうもんだと思いますよ。
宙畑:先ほどクラウド事業の話で人工衛星を打ち上げるかもしれないというお話もありましたが、人工衛星もお客様にとって必要な設備投資と考えられるフェーズになれば打ち上げるべきということですね。ビジネスを抽象化していくと、GPUも人工衛星も、なんなら地上局のアンテナでさえもクラウド事業の一環と考えられそうで面白いですね。そのうえで、使われるサービスとなるためにはどのようなポイントを意識すると良いのでしょうか?
田中:やっぱりユーザーだと思います。お客様があってこそのビジネスであるからこそ、お客様がどうすれば使いたいんだろうかということをどこまでもこだわり抜くことだと思います。私たちのGPU事業がうまいこといっているのは、顧客に需要をとにかく聞きに行ってますからね。
私自身も「支払いが今の形式だと契約ができないので何とかしてくれないか」って言われたこともありますし、結局お客様がどのようなサービスになっていればお金を支払ってくれるのかを知ることです。
お客様のビジネスが順調であれば私たちのクラウドをもっと使いたいとお金を払ってくれるはずです。
(3)ソフトウェアがハードウェアを超越する世界にするために、さくらインターネットはある
宙畑:田中さんはエンジェル投資家として、衛星データ解析コンテストプラットフォームを運営する「Solafune(ソラフネ)」に出資をされていますが、衛星データが作り出す未来に期待されていることはありますか?
田中:Solafuneの代表の上地練さんに出資したのは事業内容を見て決めたのではなく、彼が何かやりそうだなという思いに至ったことが大きいですね。
そのうえで、私は常にハードウェアをソフトウェアが超越する世界を作りたいです。今の時代、ソフトウェアがハードウェアの性能すらも規定するようになっています。ソフトウェアの方がビジネスの主流になりつつあります。だからハードウェアを動かすためにソフトがあるって話ではなく、ソフトウェア中心の世界になると私は思います。
その点、Solafuneはソフトウェアと集合知の力で、ただ蓄積されるだけでは価値を生み出していなかった衛星データが価値のあるデータに変わる瞬間をビジネス化してるので、すごく興味深いです。
もうひとつ、重要なポイントとしてお伝えしたいことは、彼らのビジネスが成立するのはクラウドがあるからです。
ほとんどの人はソフトウェアで世の中を解決し始めますが、そこにはほんの少しハードウェアがないといけません。そこを担うのが私たちの仕事だと思います。
ソフトウェアを動かすにもサーバーが必要になるし、コンピュータがないと動きません。データを収集するにもセンサーがないとできず、伝送するにもネットワークがないといけません。
だからこそ、ソフトウェアに関しては賢い人が解決すると思いますが、その人たちがソフトウェアだけでできない部分を私たちのグループとしては解決したいです。
そこからソフトウェアだけでハードウェアの限界をいくらでも突破していき、何倍の価値にもしていく人たちがどんどんと現れるとすごく面白いなと思ってます。
そして、クラウドベンダーであるさくらインターネットグループが衛星データプラットフォームTellusをやる意義もそこにあると思います。クラウドベンダーが衛星データをTellus上に持つことでソフトウェア産業が儲かり、そのうえで儲かった利益が、ロケットや衛星などハードウェアの投資になり、そのハードウェアがソフトウェアを支えていくという好循環を作っていきたいですね。