宙畑 Sorabatake

機械学習

【2025年2月】衛星データ利活用に関する論文とニュースをピックアップ!

2025年2月に公開された衛星データの利活用に関する論文の中でも宙畑編集部が気になったものをピックアップしました。

2025年2月に公開された衛星データの利活用に関する論文の中でも宙畑編集部が気になったものをピックアップしました。

Detection of illegal wells using advanced GIS analysis through Landsat 8 and Sentinel-2 image fusion in Bastam, Iran
(イランのBastam地域における(特に農業用の)違法井戸の検出手法)

Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement
(航空機やドローンなどから撮影される高解像度の航空画像を用いた、建物屋根(建物フットプリント)の自動抽出手法)

Integrating historic landscape characterization for historic district assessment through multi-source data: a case study from Hangzhou, China
(歴史的な都市景観の持続可能な管理手法であるHistoric Landscape Characterization (HLC)手法を中国・杭州市の北山街歴史地区に適用し、その評価指標やプロセスを改良した手法)

Evaluation of future land use change impacts on soil erosion for holota watershed, Ethiopia
(エチオピアの河川流域における土壌浸食リスクを、過去・現在および将来(2050年まで)の土地利用・土地被覆(LULC)の変化と関連づけて定量的に評価する手法)

OHID-1: A New Large Hyperspectral Image Dataset for Multi-Classification
(中国・珠海市における衛星観測データ(Zhuhai No.1)を元に「OHID-1(Orbita Hyperspectral Images Dataset-1)」と呼ばれる大規模のハイパースペクトル画像データセットを新たに整備し、既存のアルゴリズムの分類性能の限界を示すとともに、より高精度な分類手法)

宙畑の新連載「#MonthlySatDataNews」では、前月に公開された衛星データの利活用に関する論文やニュースをピックアップして紹介します。

実は、本記事を制作するために、これは!と思った論文やニュースをTwitter上で「#MonthlySatDataNews」「#衛星論文」をつけて備忘録として宙畑編集部メンバーが投稿していました。宙畑読者のみなさまも是非ご参加いただけますと幸いです。

2025年2月の「#MonthlySatDataNews」「#衛星論文」を投稿いただいたのはこの方でした!

それではさっそく2025年2月の論文を紹介します。

Detection of illegal wells using advanced GIS analysis through Landsat 8 and Sentinel-2 image fusion in Bastam, Iran

【どういう論文?】
本論文は、イランのBastam地域における(特に農業用の)違法井戸の検出手法を提案する

【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️先行研究の課題

・違法井戸や水資源利用の監視は、地理的に広範囲で定期的な調査が必要だが、従来のフィールドサーベイや断片的な記録のみでは、精度不足・コスト過大・更新頻度不足などの問題が生じていた
・合法な井戸データやその他の衛星データを用いた水資源の利用情報との統合が不足しており、違法井戸の存在を「推定」し、その「空間的分布」を可視化する手法は十分に確立されていない

◾️データセット
①衛星データ
・Landsat-8: 2019年6月15日取得(雲量の少ないシーンを選定)
・Sentinel-2: 2019年6月11日取得(同地域、同時期のデータを選定)
・Landsat-8(30m・15mバンド)とSentinel-2(10m, 20m, 60mバンド)のピクセルベースでの融合を行い、すべてのバンドを10m相当に統一、これにより空間解像度とスペクトル情報を両立させる
※Landsat-8には、Sentinel-2にはないバンド構成や再訪頻度の高さがあり、観測タイミングや追加バンド(15mパンクロマチックなど)を活かせる
※Sentinel-2側の強みは10mの高解像度マルチスペクトル

Sassani, A., Bigdeli, B. & Saghravani, S. Detection of illegal wells using advanced GIS analysis through Landsat 8 and Sentinel-2 image fusion in Bastam, Iran. Sci Rep 15, 6500 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91188-5

②その他GISデータ
・Bastam地域内の合法農業井戸(209地点)が位置情報付きで提供(Fig. 9)
・主要水路(メインの河川など)のベクター地図データ
・Google Earthの高解像度画像を参考にROI(Region of Interest)を作成し、土壌・岩石・植生・市街地などの分類サンプルを取得

◾️分析方針
①共通
・「Bastam地域の合法井戸が209か所ある」という位置情報と、「主要水路」という川や水路の地図データを集める
・上記の位置情報を利用して、「井戸までの距離(Euclidean distance)」や「水路までの距離」を計算すると、地図上の各地点がどれくらい井戸や水路から離れているかが数値化される
・更に、「Kernel Density Estimation (KDE)」という手法を使い、井戸がどれくらい密集しているかを地図全体で可視化する

Sassani, A., Bigdeli, B. & Saghravani, S. Detection of illegal wells using advanced GIS analysis through Landsat 8 and Sentinel-2 image fusion in Bastam, Iran. Sci Rep 15, 6500 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91188-5

②Weighted Sum法
・本手法では、井戸や水路からの距離をリスク指標とし、井戸が少ないエリアや水路から遠いエリアほど違法井戸が作られる可能性が高いと仮定してリスクを数値化する

Sassani, A., Bigdeli, B. & Saghravani, S. Detection of illegal wells using advanced GIS analysis through Landsat 8 and Sentinel-2 image fusion in Bastam, Iran. Sci Rep 15, 6500 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91188-5

③KDE + Euclid距離法
・本手法は、「井戸の密集度(KDE)」を重視する
・井戸が密集している場所ほど違法井戸も作りやすい・作られる可能性が高いと考える
・さらに「井戸からの距離」「水路からの距離」も加味して、最終的に1つのスコアを出す手法となる

Sassani, A., Bigdeli, B. & Saghravani, S. Detection of illegal wells using advanced GIS analysis through Landsat 8 and Sentinel-2 image fusion in Bastam, Iran. Sci Rep 15, 6500 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91188-5

④ハイブリッド法
・Method1(Weighted Sum)とMethod2(KDE+Euclid距離)の両方をバランスよく加重結合(0.6:0.4)する。
・Method2の良さ(密集度を考慮)をやや多めに反映しつつ、Method1(単純な距離重視)も活かす

Sassani, A., Bigdeli, B. & Saghravani, S. Detection of illegal wells using advanced GIS analysis through Landsat 8 and Sentinel-2 image fusion in Bastam, Iran. Sci Rep 15, 6500 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91188-5

【議論の内容・結果は?】
◾️相関分析結果

①Method2とMethod3が0.564(正の相関)
・Method2は「井戸密集度(KDE)を重視+距離をマイナス要素とする」モデル
・多くの研究や実務上、「井戸が密集している場所ほど何かある(違法井戸のリスク含む)」という考え方はよく採用される
・Method3もこの視点を主軸としているので、両者の結果に大きな食い違いがなく、整合がとれている

②Method1とMethod3が0.429(弱い正相関)
・Method1の単純距離モデルとも、一定程度は一致しており、Method2ほど逆方向にはならない
・上記はMethod3が「単純距離」も無視していない証拠である

③Method1とMethod2は-0.504(負の相関)
・本結果と上記①②を勘案すると、Method3では適切な重みづけ(0.6:0.4)で両方の特徴を拾い上げ、両手法との相関をある程度確保していることがわかる

◾️示唆
・再サンプリングした結果においても、Method3の平均が安定、標準偏差も大きくぶれなかったため、「大まかに見て不自然な高値や低値が少ない」という点で、現実に即したリスク分布を示す傾向があると考えられる

#違法井戸 #水資源 #Landsat-8 #Sentinel-2 #Landsat-8 #KernelDensityEstimation #KDE #井戸 #水路

Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement

【どういう論文?】
・本研究は、航空機やドローンなどから撮影される高解像度の航空画像を用いて、建物フットプリントを自動抽出する手法を提案する

【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️先行研究の課題

・CNNベースの手法では、基本的に局所的な畳み込み演算に基づくため、建物のスケール変化や複雑な形状を捉えきれない場合がある
・一方、Transformer系ではグローバルな特徴抽出に優位性があるものの、単一スケールのパッチや単純な階層ダウンサンプリングのみだとマルチスケール情報の活用が不十分であり、細部の再現や局所的変動の捉えに弱い
・デコーダ段階で浅い層(低レベル特徴)をそのまま深い層(高レベル特徴)と融合すると、背景との混同(誤分類)が生じやすい

Yuan, Q. Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement. Sci Rep 15, 6499 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91206-6

◾️本研究のアプローチ
・マルチスケールグローバルパーセプトロン(MSGP)という新構造を提案し、Convolution(局所情報)とTransformer(大域情報)を組み合わせる
・DSC(Depthwise Separable Convolution)により、3×3,5×5,7×7,9×9といった異なる受容野を並列で取得し、グローバルアテンション(MSA)を適用することでスケール間の関連を学習させる
・デコーダ側では空間コンテキスト再精錬モジュール(SCRD)をもちいて、深い層のセマンティックトークンによって浅い層の局所空間情報を再校正し、建物境界や細部を復元しつつ背景ノイズを抑制する(具体的には、深い層と浅い層の間で相関行列を計算し、浅い層で紛れ込んでいる余分な情報を減らし、屋根や境界線など建物にとって重要な要素を際立たせる)

Yuan, Q. Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement. Sci Rep 15, 6499 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91206-6

◾️データセット
①WHU Dataset
・中国・武漢大学が提供する航空画像データセットで、7.5cm空間分解能(オリジナル画像)を本研究では0.3m/ピクセルにリサンプリングする
・約22,000棟の建物が含まれ、合計450kmの広い範囲をカバーする
・本研究では画像を512×512ピクセル単位に切り出して学習・検証を実施する

②Massub Dataset
・米国地質調査所の航空画像をもとにしたMassachusettsデータセットをベースに、建物ラベルを修正したサブセットである
・30枚のオルソ画像(各5000×5000ピクセル)で、合計60kmにわたる39,527棟の建物を含んでいる

Yuan, Q. Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement. Sci Rep 15, 6499 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91206-6

【議論の内容・結果は?】
◾️MSGPの効果検証

①検証方法パターンの表記
・MSGPの有無やパラメータスケールを変えた場合の精度比較
・CNN-DSC:MSGPからMSA(大域注意機構)を除去し、DSCのみ採用
・CNN-MSA:MSGPからDSCを除去し、プーリングによる単純な縮小でMSAを構築
②主な結果
・MSGP-S(小スケール設定)は、WHU/Massub両データセットにおいて、F1スコアが92.33%, OAが96.75% と最良
・MSGP-M/Lはスケールを大きくしても、WHUでは精度向上が頭打ちになる傾向、Massubデータセットでは、MSGP-MがMSGP-Lを上回るものの学習難度が上がりやすい
・CNN-DSC-Sは局所特徴の抽出能力のみ強化した形だが、グローバル注意機構がないためF1が3%以上低下
・CNN-MSA-SはMSAを導入しているが、DSCの省パラメータ効果がなく、モデル複雑度が高い割にMSGPに及ばない

Yuan, Q. Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement. Sci Rep 15, 6499 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91206-6

③示唆
・DSC×MSAの組み合わせは、単なるDSCや単なるMSAより2~3%の精度向上をもたらす
・DSCで局所多スケールを取りつつ、MSAでグローバルコンテキストを捉える構造が、スケール変化の大きい建物抽出に有効と示唆される
・以下画像のように、MSGPを適用後は建物内部の特徴が繋がっており、背景ノイズの抑制が明確に見られる

Yuan, Q. Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement. Sci Rep 15, 6499 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91206-6

◾️SCRDの効果検証
①前提知識
・SCRDとは、前述した通り、建物などの対象物を画像から切り出す際に、画像の細かい部分(浅い特徴)を、深いレイヤー(深い特徴)と結びつけて再調整する仕組みである
・Semantic Token(セマンティックトークン) は、「建物らしさ」など高レベルの概念情報をまとめたベクトルのようなものである

②主な結果
①Tの変化による精度の推移
・以下の図にあるように、Tを0%から少しずつ増やしていくと、F1スコア(精度を示す指標の1つ)とOA(Overall Accuracy) が上昇した
・しかし、Tが40%を超えると、かえって精度が下がり始める傾向が見られた

③示唆
・Tを大きくするとモデルのパラメータ(学習すべき量)が増えすぎ、計算コストも跳ね上がり、適切に学習しにくくなるためと考えられる
・Tの最適付近としては、30~40%程度で精度飽和する(それ以上増やしても得られる改善が小さい、または悪化する)
・最終的には40%を採用することで、十分高い精度と比較的低い計算負荷のバランスを取った

Yuan, Q. Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement. Sci Rep 15, 6499 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91206-6

◾️比較対象となるアテンション機構(CBAM, DANet, SwinT, SegF)と提案モデル(MSGP-S-SCRD)」の比較
①比較対象となる手法の概要
[CBAM (Convolutional Block Attention Module)]
・CNNベースで、チャネル次元と空間次元を切り分けて注目度を付与する手法
・グローバルな文脈をそこまで深く扱わないため、複数スケールへの対応力が限定的

[DANet (Dual Attention Network)]
・2種類のアテンション機構(位置×チャネル)を同時に使うCNNベースの手法
・局所的にも大域的にもアテンションを払うが、スケールが大きく変化する物体の扱いに課題がある

[SwinTransformer (SwinT)]
・Transformerベースで、画像を小さなウィンドウに分割してアテンションを計算する
・局所ウィンドウ単位でのアテンションが主体で、異なるスケール間の相関はやや弱い

[SegFormer (SegF)]
・Transformerベースで、CNN+MSA(Multi-Head Self-Attention)をうまく組み合わせた汎用セグメンテーションモデル
・グローバルなアテンションを得意とする一方、浅い層との情報融合(建物境界をより正確に取り出す工夫)は少ない

②主な結果
・赤(正解)がモデルが建物ピクセルだと正しく判定した部分、緑色(偽陽性)が本当は建物ではないのに「建物」と誤判定、黄色(偽陰性)が本当は建物なのに「建物でない」と見落とした部分となっている

Yuan, Q. Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement. Sci Rep 15, 6499 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91206-6

・提案モデル(MSGP-S-SCRD)**がF1スコアや精度の面で最良
・DANetは高いOAを記録するケースもあるが、建物抽出の網羅性(F1)は提案に劣る
・SwinT, SegFはTransformerによるグローバルアテンションが強みだが、マルチスケール情報や深い層と浅い層のすり合わせが弱く、建物境界でミス(FN)を起こしやすい
・CBAMは簡単な注意機構なので計算コスト自体はそこまで軽くはない上に、F1の結果も低い

Yuan, Q. Building rooftop extraction from high resolution aerial images using multiscale global perceptron with spatial context refinement. Sci Rep 15, 6499 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91206-6

③示唆
[SwinTransformer]
・大きな建物は比較的うまく捉えるが、建物端の境界や小規模建物はFN(見落とし)が出やすい
・ウィンドウ単位のAttentionはローカルブロックが強く、スケールを超えた大域的な繋がりを捉えにくい

[SegFormer]
・建物を丸ごと捉えるのは得意でも、屋根の角や複雑な形状に対して情報不足になりがちである
・CNNとの融合はある程度しているが、浅い層の再校正などがないため、細部での誤差が残る

[DANet]
・位置アテンション×チャネルアテンションを2重にかける仕組みで、背景と物体を分離しやすい面がある
・しかしマルチスケール(大小さまざまな建物)には対応しきれず、特に大きな建物や異なる屋根色に対して誤判定が目立つ

[CBAM]
・そもそもローカルスケール中心のCNNに、追加モジュールとしてシンプルなAttentionを載せている構造となっているため、高度なマルチスケール戦略や深浅の連携がなく、道路などを誤って建物と判定(緑: FP)しやすい

[MSGP-S-SCRD]
・マルチスケールの局所抽出(DSC)×大域アンテンション(MSA) で、大小さまざまな建物を捉えられる
・SCRDで高レベルと浅いレベルの特徴をうまく組み合わせることで、境界・角・屋根の微妙な色の変化にも対応できる
・計算コスト(約40.674 GFLOPs)やパラメータ数(23.895 M)も、他のTransformer系手法(例えばSegF-B5で87.687 M)と比較して抑えられている
・その結果、F1スコアやOAが高水準で、かつモデル規模も比較的軽量であるというメリットが示された

#航空機 #ドローン #建物フットプリント #WHUDataset #MassubDataset #DANet #SwinTransformer #SegFormer #SwinTransformer #SegFormer #DANet #CBAM #MSGP-S-SCRD

Integrating historic landscape characterization for historic district assessment through multi-source data: a case study from Hangzhou, China

【どういう論文?】
本論文は、歴史的な都市景観の持続可能な管理手法として、イギリスで開発されたHistoric Landscape Characterization (HLC)手法を中国・杭州市の北山街歴史地区に適用し、その評価指標やプロセスを改良した手法を提案する

【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️先行研究の課題

・既存のHistoric Landscape Characterization (HLC)は、主に大規模(州レベル、国レベル)かつ郊外・農村の景観類型に適用されてきたため、都市中心部の狭いエリアや密集した歴史建造物には十分対応しきれなかった
・従来のHLCでは「ポリゴン区画単位」での評価が多く、都市内の詳細な建物スケールでの適用が困難だった

◾️本研究のアプローチ
・都市の歴史地区(北山街)を対象に、HLCを「建物単位」に細分化し、最小区画を「建物+周辺敷地」で区切ることで、より細粒度な景観評価を実施
・従来手法の8つの評価因子(Occurrence, Period of Origin, Trajectory of Change, Biodiversityなど)を、都市部向けに再定義・再調整
・特に「Biodiversity」を「Biomass Potential」(NDVIを用いた推定)に置換するなど、衛星データとGIS分析を統合した
・更に、専門家評価だけでなく、一般市民のアンケート調査(歴史的価値, 美的価値, 社会的価値)を組み込み、客観・主観データの両面からスコアを導出した

◾️利用データ
①衛星画像・地理空間データ
・Landsat8データを用いてNDVIを算出し、上空からの「バイオマス潜在力」を推定
・Baidu MapsやOpenStreetMapから建物形状データ、道路データ、POI情報を取得し、都市スケールの建物情報を把握
・古地図(1895~1949年)、1976年の衛星写真(USGS)、2011年/2023年のGoogle Earth画像等をArcGIS上で統合し、建物の変遷を可視化

Yang, X., Shen, J. Integrating historic landscape characterization for historic district assessment through multi-source data: a case study from Hangzhou, China. npj Herit. Sci. 13, 33 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s40494-025-01617-x

②公的な歴史情報
・中国国家文物局や浙江省文化遺産局などの政府公開リストから、各建物の文化財指定レベルを取得
・歴史的事件・著名人の居住履歴などのテキスト・写真資料を集約
・Baidu検索指数(検索頻度)を用いて、建物や人物への関心度を数値化(ネット世論の相対的重みづけ)

③アンケート調査
・オンライン質問票(有効回答数100件)を回収
・回答者を「北山街の建物を訪問した・していない」「杭州在住年数」といった属性に区分

【議論の内容・結果は?】
◾️HLC因子のスコアリング結果

①Occurrence (珍しさ/発生度)
・ビルの機能タイプが市全体でどれだけ少ないかを1~6で評価
・88.49%が「5または6(希少~非常に希少)」に該当した
②Period of Origin (由来時期)
・1895年以前, 1895–1929, 1929–1949, 1949年以降などで建設時期を区分
・21.83%が1895–1929, 32.94%が1929–1949, 32.14%が1949年以降となった
③Trajectory of Change (変化率)
・建物機能タイプが1929年比でどれだけ増減したか(1~7段階)を区分けした
・66.27%が「急増(最も増加)」、23.81%が「急減(最も減少)」になった
④Biomass Potential (バイオマス潜在力)
・NDVI(最大値を年間最大とする)に基づき1~5で評価した
・約42.46%が樹木域、50.40%が低木域として分類された
⑤Archaeological Potential (考古学的潜在力)
・専門家評価+文化財リストで判断した
・北山街内では26.59%が保護指定建造物、73.41%が無保護建造物であった

Yang, X., Shen, J. Integrating historic landscape characterization for historic district assessment through multi-source data: a case study from Hangzhou, China. npj Herit. Sci. 13, 33 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s40494-025-01617-x

⑥Historical Value (歴史的価値)、Aesthetic Value (美的価値)、Communal Value (社会的価値)
・同アンケートを3段階で定量化し、市民の愛着や貢献度を測る
・アンケート調査の結果では、特に岳飛廟や保俶塔のConservation Value、Significance Valueが最も高かった
・前者は「中国人の愛国心の象徴としての歴史的価値」、後者は「10世紀頃の伝統建築としての希少性や景観アイコン」が理由であった
・いわば「街の記憶(物語)」を支持する主観的要素と「建築年代や希少度」の客観的要素の両面から高評価を得た事例といえる

Yang, X., Shen, J. Integrating historic landscape characterization for historic district assessment through multi-source data: a case study from Hangzhou, China. npj Herit. Sci. 13, 33 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s40494-025-01617-x

・Significance Valueと景観感度(Landscape Sensitivity)を掛け合わせ、どの建物・敷地が「自然環境と歴史的価値の両面で脆弱かつ重要度が高いか」をマッピングした図が以下である
・例えば岳飛廟、旧玉古寺跡(Xinxin Hotel近辺)等は極めて高スコアで、より精緻な監視や保護整備が必要であると示唆されている

Yang, X., Shen, J. Integrating historic landscape characterization for historic district assessment through multi-source data: a case study from Hangzhou, China. npj Herit. Sci. 13, 33 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s40494-025-01617-x

#HistoricLandscapeCharacterization #HLC #Landsat8 #BaiduMaps #OpenStreetMap #BiomassPotential #バイオマス潜在力 #NDVI #ArchaeologicalPotential #考古学的潜在力 #HistoricalValue #歴史的価値 #AestheticValue #美的価値 #CommunalValue #社会的価値 #景観感度 #自然環境

Evaluation of future land use change impacts on soil erosion for holota watershed, Ethiopia

【どういう論文?】
・本論文は、エチオピア河川流域における土壌浸食リスクを、過去・現在および将来(2050年まで)の土地利用・土地被覆(LULC)の変化と関連づけて定量的に評価する手法を提案する

【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️先行研究の課題

・多くの先行研究では、過去の単一時点の土地被覆データから土壌浸食を評価するのみで、将来予測や複数時点の統合的解析が不十分であった
・また、Ethiopian Highlandsなどデータの乏しい地域では、モデルの入力データ不足や地上測定が難しく、精度検証が限定的であった

◾️本研究のアプローチ
・Landsat画像(2000年、2010年、2020年)をGoogle Earth Engineで解析し、最大尤度法やランダムフォレストといった機械学習手法で5つのクラス(森林、農地、建築用地、低木地、草地)に分類
※最大尤度法・・・「赤い成分が多いピクセルは森林っぽい」「赤外線の特徴がこうだと農地っぽい」など、色味や反射特性を元に確率を計算して、もっともそれらしいクラスを割り当てる方法

・CA–Markovモデルにより2050年までのLULCをシミュレーションし、さらにRUSLEを適用して将来の土壌浸食量を定量評価する
※CA–Markovモデル・・・「ある土地が次のステップで農地になるか、それとも森林になるか」をコイントスのような確率で決めつつ、隣接するセル(周りの状況)や現在のクラスなどの影響を受けながらシミュレーションを行う
※RUSLE・・・たとえば、雨(R)や土のもろさ(K)、傾斜のきつさ(LS)、土地被覆(C)のように設定し、さらにはどんな耕作・保全策をしているか(P)などを掛け合わせて「ここはどれくらい土が流されやすいか」を数値化する

【議論の内容・結果は?】
◾️主な結果

①LULCの推移定量化
・「この土地が森林から農地に変わる確率」、「農地から建築用地に変わる確率」を行列の形で整理した(以下の図は2000-2010年分)
・農地(Cropland)と森林(Forest)は、二つの期間(2000-2010, 2010-2020)を通じて変化が比較的少なく、他のクラスへ転換しにくい
・草地(Grassland)と建築用地(Built-up)が、もっとも転換が起きやすいクラスとわかった

Guder, A.C., Kabeta, W.F. Evaluation of future land use change impacts on soil erosion for holota watershed, Ethiopia. Sci Rep 15, 6782 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91381-6

・シミュレーションで作成した「2020年予測LULCマップ」と、実際の「2020年の衛星画像から抽出したLULCマップ」を比較した
・一致度はカッパ(Kappa)係数やその派生指標(Kno、Klocation、Kquantityなど)で評価し、中程度(moderate)の一致度が得られた

Guder, A.C., Kabeta, W.F. Evaluation of future land use change impacts on soil erosion for holota watershed, Ethiopia. Sci Rep 15, 6782 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91381-6

・以下の図は各因子を可視化したものである

※R因子・・・降雨浸食力
※K因子・・・土壌の脆弱性
※LS因子・・・傾斜・斜面長
※C因子・・・被覆状況
※P因子・・・保全措置
Guder, A.C., Kabeta, W.F. Evaluation of future land use change impacts on soil erosion for holota watershed, Ethiopia. Sci Rep 15, 6782 (2025).
Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91381-6

・512回のシミュレーションを行い、どの因子が土壌浸食量(RUSLE出力)に大きな影響を与えるかを評価したところ、被覆状況のC因子(約26%の寄与)と土壌の脆弱性を表すK因子(約9%の寄与)が最も重要であり、それらが高い地域では、他の因子(R, LS, P)が同じでも土壌流失が非常に大きくなる恐れがあるという結果になった
・LULCクラス別の土壌浸食量は以下の通りであり、建築用地(Built-up)では、2020年で36.5 t/ha/年、2050年で38.7 t/ha/年の侵食量の増加が起きる予測となっている
・森林は被覆力が高いため、他のクラスと比べると依然として浸食リスクは低い

Guder, A.C., Kabeta, W.F. Evaluation of future land use change impacts on soil erosion for holota watershed, Ethiopia. Sci Rep 15, 6782 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41598-025-91381-6

#エチオピア#土地被覆 #LULC #Landsat #CA–Markovモデル #RUSLE

OHID-1: A New Large Hyperspectral Image Dataset for Multi-Classification

【どういう論文?】
・本論文は、中国・珠海市における衛星観測データ(Zhuhai No.1)を元に「OHID-1(Orbita Hyperspectral Images Dataset-1)」と呼ばれる大規模のハイパースペクトル画像データセットを新たに整備し、既存のアルゴリズムの分類性能の限界を示すとともに、より高精度な分類手法を提案する

【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️本研究のアプローチ

・衛星観測ベースの10m空間分解能、32バンドの大規模HSI「OHID-1」を用いる
・10シーン(各512×512ピクセル)の異なる地帯(都市部・山地・海沿い等)を含み、7クラスのラベリングを行う
・既存の複数のDNNモデル(1D/2D/3D CNN、ResNet系、Transformer系など)やSVMなどと比較する
・なお、以下は既存のデータセット群との比較表である

ani, A., Gorbachev, S., Yan, J. et al. OHID-1: A New Large Hyperspectral Image Dataset for Multi-Classification. Sci Data 12, 251 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41597-025-04542-7

【議論の内容・結果は?】
・多くの既存手法はIndian Pinesなど従来の小規模HSIで90%以上のOAを達成することが多いが、OHID-1では大幅に精度が低下している
・これはOHID-1が、シーンがより多様かつ広範囲で、クラス間の不均衡や地物の分光特性が複雑、衛星ベースかつ10m分解能で混合画素も多いという要因で分類が難しくなることを示している

ani, A., Gorbachev, S., Yan, J. et al. OHID-1: A New Large Hyperspectral Image Dataset for Multi-Classification. Sci Data 12, 251 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41597-025-04542-7

・以下の図一覧の1つ目(OHID-1の結果可視化)を見ると、1DCNNや2DCNNでは地物の境界が不明瞭になりがちではあるが、、3DCNNやTransformer系ではスペクトル・空間両面の特徴を融合するため、境界線が比較的明確であった
・それでもなお、クラス間の混同が散見され、スペクトル類似度が高い建物と道路の区別などが課題として残った

Mani, A., Gorbachev, S., Yan, J. et al. OHID-1: A New Large Hyperspectral Image Dataset for Multi-Classification. Sci Data 12, 251 (2025). Source : https://doi.org/10.1038/s41597-025-04542-7

##OHID-1 #DCNN #Transformer

来月以降も「#MonthlySatDataNews」「#衛星論文」を続けていきますので、お楽しみに!