世界最大級の宇宙イベント「Space Symposium」レポート- 現地で感じた熱と、日本の可能性
2025年4月7日~10日、アメリカのコロラド州コロラドスプリングスで世界最大級の宇宙イベント「Space Symposium」の現地レポートです。
40周年を迎えた世界最大級のイベント「Space Symposium」とは
2025年4月7日~10日、アメリカのコロラド州コロラドスプリングスで世界最大級の宇宙イベント「Space Symposium」が開催されました。
世界中の宇宙関連の専門家や関係者が一堂に会し、議論や対話を通じ宇宙産業全体のイノベーションを推進することを目的とする本イベント。300を超える出展者、20を超える宇宙機関、1,500を超える企業・組織から、約12,000人もの参加者が集まり、4日間に渡り白熱した議論を繰り返します。

アメリカ・コロラド州に本部を構え、世界の宇宙産業の発展支援を目的に、教育、情報提供、国際連携の活動を行う非営利団体Space Foundationが主催する本イベントは、今年でなんと40周年。会場には40周年を記念したフォトスポットが設置されるなど、アニバーサリーイヤーをお祝いする雰囲気も感じられました。

宇宙産業を取り巻く環境の変化に合わせ発展してきた本イベントの今年のテーマは「Building Partnerships to Secure Our Future」。宇宙の商用化が加速する中、宇宙を安全・平和・持続可能に使い続けるためには、政府・民間・アカデミア・国家を超えた連携が不可欠という問題意識のもと、世界各国から集まった参加者同士で熱い議論を交わされました。
今回、第40回Space Symposiumについて、現地で出展もされていた一般社団法人クロスユーの皆様に現地レポートを寄稿いただくこととなりました。会期中に日本の出展企業の皆様にもヒアリングを行い、その中から得られた知見も盛り込んでいただき、宙畑編集部も非常に興味深く読ませてもらいました。
以下、クロスユーの取り組みやSpace Symposiumに出展した目的の紹介から寄稿いただいております。ぜひ最後までご覧ください。
Space Symposiumに出展!クロスユーの取り組みと出展目的
簡単にクロスユーの紹介をさせていただきます。
私たちクロスユーは、「宇宙産業共創プラットフォーム」をコンセプトに、非宇宙企業・団体と宇宙産業の接点を創出し、拡大する宇宙産業の更なる成長を支援することを目的に2022年に設立された一般社団法人です。
東京・日本橋に拠点を構え、宇宙ビジネスを加速させるイベントスペースやコワーキングスペースなどの多様な「場」を整備し、ビジネスマッチングやイベント・プログラム等の提供を通じた「コミュニティ」構築により、国内外・産官学の宇宙プレイヤーと最新の知・情報が集まるエコシステムを構築し、産業の発展を支援しています。
クロスユーは、昨年からSpace Symposiumに出展しています。日本の宇宙産業発展のためには、国内宇宙プレイヤーの取り組みが国内に閉じることなく、海外への進出、海外プレイヤーとの連携が必須であり、私たちはそうした国内プレイヤーと海外プレイヤーのハブとなることを目標に、海外の宇宙機関・経済支援団体との関係構築を目的として本イベントに出展しています。
また、今年は単にクロスユーとして出展するだけでなく、JAXA様からの依頼を受け、日本ステージでのイベント企画・運営も行いました。具体的には、「①日本企業のアメリカ地域経済へのインパクト」、「②地上経験を宇宙・月面への転用」の2つのテーマでパネルディスカッションを企画・運営し、JAXAや日本の宇宙プレイヤーの皆様とともに世界に対して日本の宇宙ビジネスの可能性について発信しました。
さらにクロスユーとして、現在世界の宇宙産業の中心地の1つであるアメリカ・フロリダ州の宇宙産業支援機関であるSpace FloridaとのMoU(連携協定)締結式を日本ステージ上で執り行い、日本とアメリカの連携強化・今後の発展の可能性を世界に対してPRしました。

現地で感じた熱量と5つのトレンド
宇宙商用化の加速
今回のSpace Symposiumでまず感じたのは、商用化の加速です。昨年開催された第39回に比べ展示会場の出展者数は約80団体増加し、全体で300団体を超え過去最大となったそうです。今回から大きな展示会場2つに加え、別会場で「Supplier Showcase」の会場が設けられ、FOMA GroupやSolar Atmospheres、PlanetWave Instrumentsなど、サプライヤー領域の中堅企業や新興企業48社が出展し、産業の裾野が広がってきていることを体感しました。

また、出展企業だけではなくイベント参加者に目を向けてみても、商社や銀行、VCからの参加者の方とも多くお話しする機会がありました。
あくまで体感ではありますが、このように投資サイドからの参加者が数多く参加してきていることからも、宇宙ビジネス領域が投資対象として熱い視線を受けていることを感じました。
価格競争時代へ突入・垂直統合化の兆し
姿勢制御系、推進系等の衛星バスの領域は類似した取り組みを進める企業が一定数見られ、今後、価格、性能、品質といった差別化競争の時代に突入していくことを予感させる、といった声も聞かれました。また、例えばロケットメーカのRocket Labが、衛星やそのコンポーネントの開発まで手を伸ばしているように、ロケットから衛星、衛星からコンポーネントといった垂直統合の流れが今後拡大してくることも考えられるでしょう。
月面探査の進捗
今回の展示会場で特に目立っていたのは月面ローバーのモックアップ展示でした。
NASAのアルテミス計画の一環で開発が進められる「Lunar Terrain Vehicle(LTV)」の初期開発フェーズに採択されたIntuitive Machines、Lunar Outpost、Venturi Astrolabの3社はいずれも会場内でモックアップを展示し、LTV開発契約の獲得に向けそれぞれの技術力と商用可能性についてPRしていました。月面探査が着々と近づいてきているのを感じるとともに、最終的にどの会社が採択されるのか、今から目が離せません。

なお、月面ローバーに関しては、日本のJAXAブース内でトヨタ自動車、ブリヂストンもそれぞれの取組を紹介していました。
トヨタ自動車のルナクルーザーは世界で唯一の与圧式ローバーの開発を目指しており、海外企業のローバーよりはるかに大きい耐荷重を誇ります。また、ブリヂストンはタイヤの専門知識・技術を活かしたローバー用のタイヤのサンプルを展示するなど、月面探査における日本の技術力の可能性も感じることができました。
特定領域におけるSpace Symposiumのプレゼンス低下?
今回のSpace SymposiumにはSpace XやULA(United Launch Alliance)といったロケット開発・打上げの主力企業の出展は見られませんでした。また、日本の出展者の一部からは「競合にあたる衛星半導体メーカーがほとんどいない。衛星系は8月にユタ州で開催されるSmall Satellite Conferenceに重心が移ってきているかもしれない」という声があがるなど、特定の領域における出展が減ってきている様子が見られました。宇宙産業が急速に拡大する中、1つのイベントで全ての領域をカバーすることが難しくなり、より領域に特化したカンファレンスへの出展・参加が求められるようになってくるかもしれません。
トランプ政権の影響
最後にトランプ政権の影響についても触れておきます。
今回のイベントは「今年は軍事系の参加者(軍服を着た方々)がものすごく減った」という声が過去に参加したことがある方々から多く聞かれました。米政府効率化省(DOGE)による政府支出削減により、軍事関係の方々の出張が抑制された影響とのことで、トランプ政権の宇宙産業への影響がここでも見て取れました。
このようにアメリカの宇宙産業の不確実性が高まる中、欧州系の組織・企業は他国との連携を深めたい意向を持っており、日本の企業もこの機会を捉えていくことが求められていくでしょう。
日本の宇宙産業は海外に何をアピールした?
今回日本からはJAXA主導のもと、日本パビリオンJapan’s Space Industryの中で、14の企業・団体がブース出展、6の企業がロゴ出展しました。
今回クロスユーではブース出展した全14企業にインタビューを行いました。本レポートではその一部を簡単にご紹介します!

日本企業の出展目的
今回出展した企業の多くが、世界最大の市場であるアメリカでのビジネス展開・パートナー探しを見据え、まずは認知度向上を目的に出展していました。Space Symposiumを主要な企業が一堂に会する効率的なマーケティング活動の場と位置付け、継続的にしている企業も多くみられました。
出展者からは、「宇宙領域はお友達・口コミでネットワークが広がっていく。Space Symposiumはこのきっかけづくりに最適な環境。頻度を重ねることも重要で、具体的な協業アクションにつながっているのは昨年このイベントやIACで接触してきた相手が多い」といった声も聞かれました。
また、こうした海外の展示会では、展示そのものよりもその裏で開催されている商談機会を重視する動きもあります。展示を通じたコミュニケーションだけでは直接ビジネスにつながらない接点が増えるだけのケースもあり、自ら関係を築きたい顧客・パートナー候補にアプローチをかけていくことも重要とのことでしたので、今後出展を検討される皆様には是非意識いただきたいポイントです。
日本企業の海外市場での強み
出展企業の皆様に会期中の海外の顧客・パートナー候補の皆様とのコミュニケーションや海外企業のブースを見学して感じた自社の強みをヒアリングしたところ、大きく以下の2点が日本企業の強みとして抽出されました。
<日本の優れた技術力>
1点目は、やはり日本の優れた技術力です。日本企業は大企業、中小企業、スタートアップ問わず、世界的に見ても希少性の高い技術を有する企業が多く、宇宙領域においてもその技術を活かせる部分が存在することを再認識しました。
特に印象的だったのは、非宇宙領域で元々開発していた希少性の高い技術を宇宙領域に転用することで、独自のポジションを築くことができるということです。
出展者の1社であるサムテックは、元々自動車向けの高圧ガス容器のライナー(内筒)を製造していましたが、その技術に海外の宇宙プレイヤーが目をつけ共同研究開発を始めたことがきっかけで、現在では競合が世界でも数社しかいない宇宙機器向け高圧ガス容器のライナーのサプライヤーとなっています。
また、出光興産は独自に開発したCIGS材料系の宇宙用太陽電池に関する展示を行っていました。この太陽電池は以前地上用途で事業化したものを宇宙用途に展開したもので、低コストでありながら、放射線に強い特性を持ち、これにより衛星への電力供給を運用期間中ずっと安定させることが可能になるとのことで、今後大きな可能性を秘めています。このCIGS太陽電池も世界で生産できる企業は数社しかなく、その中で宇宙領域に参画しているのは日本では出光興産だけのようです。
このような可能性が日本にはまだ数多く眠っているはずで、こうした事例を掘り起こしていくことが、日本が世界の宇宙産業の中で強みを発揮し独自のポジションを築いていくことにつながるはずです。
<高い企業ブランド力>
2点目は、非宇宙領域におけるブランド力です。これは全企業というより、すでに非宇宙領域のグローバル市場において一定のポジションを形成している企業に限った話にはなりますが、非宇宙領域でのブランド力・知名度は宇宙領域でも生かすことが可能です。
例えば、先の月面ローバーで名前の挙がったトヨタ自動車やブリヂストンなど、元々自動車業界やタイヤ業界では世界有数の知名度を誇っており、相手から見ればその領域での専門性・技術力を持つことが保証されています。
日本には自動車やエレクトロニクス、ロボットなど、元々非宇宙領域で高いブランド力を誇るメーカーが数多く存在しており、こうしたプレイヤーが宇宙領域で活躍できる領域を見いだせた場合、他国に比べてシェアを獲得しやすくなるでしょう。また、仮に自身にブランド力がなかたっとしても、ブランド力のある大企業と組むことで、ジャパンチームとしてシェアを獲得しにいくこともできるのではないでしょうか。
日本企業の海外市場での課題
インタビューを通じ、日本企業が直面する課題についても見えてきました。
今回はその中から3点をピックアップします。
<海外企業との棲み分け>
強みの1点目の裏返しではありますが、独自の強みを発揮できる技術を持たない場合、海外市場に進出した際に淘汰されるリスクが高くなります。
第3章のトレンドのところで紹介した通り、領域によっては既に価格競争に突入し始めています。日本国内だけでは市場に限界があり、成長のために海外進出が強く求められる宇宙産業においては、国内市場だけでなく海外にも広く目を向け、日本企業が活躍できる領域・担うべき領域を見定めた取り組みが求められます。
これらは個社単位ではなく、政府と一体となり日本として宇宙産業の中でいかに戦略的にポジションを取っていくかを考えることが求められていくでしょう。
<海外とのコネクション構築>
海外市場に参入するにあたり、ロケットや衛星メーカー等のエンドカスタマーは比較的わかりやすいものの、サプライチェーンが見えづらく適切なアプローチ先がわからないといった声もありました。また、仮に適切なアプローチ先を特定できたとしても、知名度のない企業や新興企業は海外市場で相手にしてもらえず、コネクションをなかなか構築できないでいることがわかりました。
この課題についても、個社単位でのアプローチには限界があるため、JAXAをはじめとした支援組織が海外機関と連携して行うマッチングの機会を効果的に活用していくことが求められるでしょう。
<早期の実証・実績作り>
最後の課題は、実証・実績作りが海外市場での顧客・パートナー開拓にとって重要である中、日本国内での実証・実績作りの機会が限られているということです。日本パビリオンの出展企業は、課題感として「具体のモノがまだ作れておらずリアル感をもってもらえない」ことを挙げていました。
知名度がない新興企業であればあるほど、実証・実績づくりがより必要になりますが、そのためのパートナー探しに苦労するという「卵が先か、鶏が先か」問題になってしまっているといえます。
日本企業が海外に進出していくためにも、国内の実証フィールド、顧客開拓支援を進めていくことが求められていることを痛感しました。
出展企業の皆様へのインタビューから得られた学びは以上です。
現地でインタビューにご協力いただいた皆様、この場を借りて改めてお礼を申し上げます!
なお、Space Symposiumには、日本パビリオンでの出展企業だけでなく、ispaceやアストロスケールなど、グローバルに活躍する企業が独自のブースを構え存在感を示していました。
日本パビリオンの出展企業の中からは、「次は自分たちも自前のブースを」という意気込みも聞こえてきましたので、日本のプレイヤーの存在感が今後さらに増してくるのも楽しみです。
今後に向けて:クロスユーとして描く未来
今回のSpace Symposiumへの出展、そして出展された日本企業の皆様とのコミュニケーションを通じ、クロスユーとしても多くのことを学ばせていただきました。
先に本イベントの中でSpace FloridaとMoU(連携協定)を締結したことをご紹介しましたが、我々クロスユーは現在海外連携の取り組みを強く推し進めています。
ESA(欧州宇宙機関)やCNES(フランス国立宇宙研究センター)とのMoUをはじめ、現在複数の海外宇宙機関と連携に向けた協議を進めており、新興国市場における取組も進めています。
こうした海外宇宙機関とのネットワークを活かし、その先にいる具体的な海外プレイヤーと日本のプレイヤーをつなぐ取り組みを加速させていきたいと考えており、そのためにも我々としてももっと日本の宇宙プレイヤーの皆様のニーズを深く理解していく必要があると感じています。
我々からも今後積極的に皆様のニーズを拾っていきたいと思いますし、ぜひ皆様からもクロスユーに対して課題や要望を寄せていただければ嬉しいです。
また、今後日本が世界の宇宙産業で活躍するためには、日本に眠る海外で勝てる技術を保有する非宇宙プレイヤーの宇宙領域への進出をどんどん増やしていく必要があります。クロスユーとしても、JAXAや各地域と連携しながら、こうした可能性を掘り起こしていく活動にも力を入れていきたいと考えています。
最後に、今回の出展者の方からも上がったように「海外プレイヤーとの関係を構築するためには、接触機会を重ねることが重要」です。宇宙ビジネスの国際カンファレンスはSpace Symposiumだけではなく、IACをはじめ様々あります。
我々クロスユーも今後そうしたイベントに参加しながら、是非皆様と連携して海外プレイヤーとの接点構築機会を創出していきたいと思います。
そして、10月にはNIHONBASHI SPACE WEEK 2025が開催されます。こちらのイベントにも現在海外宇宙機関を通じて海外のプレイヤーの方に参加いただくべく、現在調整を進めていますので、是非皆様にもご参加いただき、ネットワーキングの機会としてご活用いただければ幸いです!
<NIHONBASHI SPACE WEEK 2025>
・日程:2025年10月28日(火)~10月30日(金)
・場所:東京・日本橋エリア
・HP :NIHONBASHI SPACE WEEK 2025