富士通が「宇宙データオンデマンド」「宇宙天気」の2本柱で新たな市場を開拓へ
富士通は新たな研究領域として立ち上げた「宇宙データフロンティア」について、2本の柱と今後の展望をまとめました。
2025年5月8日、富士通が2025年4月に新たな研究領域として「宇宙データフロンティア」を立ち上げたことに関する記事を公開しました。同記事は
「宇宙データフロンティア」は同社にとって未開の宇宙領域を開拓し、新たなビジネスチャンスを創出することを目指すものとなります。本取り組みの中心には、AIを搭載した人工衛星を活用し、衛星画像のリアルタイム活用に挑む「宇宙データオンデマンド」と、太陽フレアなどの宇宙現象が地球に与える影響を予測する「宇宙天気」の2つの柱となるテーマが掲げられています。
（1）AI衛星で「時間の壁」を越える「宇宙データオンデマンド」
宇宙データフロンティアの2つの柱のうち、「宇宙データオンデマンド」は、AIを搭載した衛星が、リアルタイムで必要な画像データを提供することを目指します。現在の衛星画像活用では、地上での画像処理に時間がかかり、リアルタイムでの利用が難しいという課題があります。
AIを衛星側に搭載することで、「特定の車両の画像だけ」「特定の農地の画像だけ」といった個別のニーズに応じて、必要な情報だけを地上に迅速に送信することが可能になります。
この技術は、安全保障分野においては、領空侵犯の監視や不審船の特定などに役立ちます。また、漁業や農業といった一次産業だけでなく、コンビナートの稼働状況や船舶のサプライチェーンなど、広範な経済活動の分析にも応用できることが期待されています。都市の光の変化から人口動態や経済状況を分析したり、海水温の変化から養殖状況を予測したりと、その応用範囲の可能性は多岐に渡ります。
冒頭で紹介した記事の中では、富士通の独立社外取締役でありアジア人初の女性宇宙飛行士としてスペースシャトルに搭乗した向井千秋さんが「是非やってほしいと思うのは、富士通のファンを増やす取り組みです。例えばクリスマスや誕生日といった記念日に、宇宙から撮影した自宅の写真付きカードが届くとか。ビジネスにはなりにくいかもしれないけど、バズるような仕掛けがあってもいいじゃないですか」と話されていたことも印象的でした。
さらに、AIと宇宙の分野は、人工衛星の性能や故障リスクを分析する機能や月面上を走行するローバーの制御といった分野にも活かすことができると期待されています。AIが人に代わって自律的に動く「AIエージェント」が宇宙で活躍する日も近い未来に実現するかもしれません。
（2）独自のAI技術で高精度な「宇宙天気予報」を実現
もう一つの柱である「宇宙天気」について、富士通は2023年に名古屋大学と岐阜大学で構成する東海国立大学機構と包括協定を締結しています。2025年には富士通と同機構、宇宙航空研究開発機構（JAXA）宇宙探査イノベーションハブによる、月探査への宇宙天気の研究の適用に向けた共同研究も始まっています。
この研究において、富士通独自の「説明可能なAI」が重要な役割を果たします。研究には富士通のAI技術であり「Fujitsu Kozuchi XAI」が全面的に採用されており、これは少ないデータでも特定の現象の特徴を掴めるのが特長です。
「Fujitsu Kozuchi XAI」は、膨大なデータを読み込んで学習する「ディープラーニング」ではなく、入力データにおける全てのデータ項目の組み合わせを仮説空間とし、限られた情報から重要な仮説を網羅的に発見する技術です。大規模な太陽フレアのような発生頻度が低い現象に対しては、限られたデータから重要な仮説を生成し、AIが評価を重ねるアプローチが不可欠となります。
また、宇宙天気予報の研究は物理シミュレーションが中心であり、富士通単独では得られない科学的な視点や、東海国立大学機構が持つ豊富なシミュレーションデータと知見が不可欠です。さらに、JAXA（宇宙航空研究開発機構）の月の観測データを加えることで、地球圏に影響する宇宙放射線の本質解明や、アルテミス計画のような月面探査における宇宙天気予報といった、より高度な研究が可能になります。
富士通1社では実現できない研究を行うための連携体制構築も非常に注目すべきポイントです。
これらの取り組みは、人類の持続可能な活動にとって極めて重要なテーマです。将来的な事業化を見据えると、気象庁が緊急地震速報や花粉飛散予測を提供しているように、顧客の要望に応じて柔軟に宇宙天気情報を提供する体制が求められるでしょう。富士通の持つデータプロセス技術の知見を活用すれば、多様なニーズに応じた宇宙天気予報のあり方を実現できると期待されています。
加えて、特に人の命や大きな経済的損失に関わる場面では、予測精度だけでなく、その根拠の信頼性や透明性が不可欠です。太陽フレアの影響が通信や航空など多岐にわたる分野に及ぶことを考えると、予測結果が「なぜそうなるのか」を説明できることは非常に重要です。Fujitsu Kozuchi XAIは、予測結果に至った根拠を明確に説明できるため、研究者やビジネスにおける意思決定を強力に支援することでしょう。
富士通のパーパス「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」の実現へ
富士通が宇宙関連事業に参入する意義は、同社が持つテクノロジーの総合力にあると考えます。世界各地の研究拠点と、異業種やアカデミアとの共同研究体制が、宇宙というフロンティアを開拓するための強力な武器となるでしょう。
今日の複雑な事業環境で、単一の技術だけで成功を収めることは非常に難しくなっています。コンピューティングとAIの連携のように、複数の技術を組み合わせることで、より強力なテクノロジーが生まれ、宇宙をフィールドとした新しい課題を解決し、そこで生まれたソリューションが地上でも活用される……といった好循環で事業拡大へと繋がることに期待が高まります。
参考
富士通 未知の研究にチャレンジ！説明可能なAI「Fujitsu Kozuchi XAI」で宇宙天気予報における技術開発を目指す
