世界的な衛星通信企業SESに新CFO就任。Intelsat買収などグローバル衛星通信企業の展望は【宇宙ビジネスニュース】
2025年6月6日、世界的な衛星通信企業SESが、新たなCEOとして、エリザベス(リサ)・パタキ氏を任命したことを発表しました。同氏の経歴やSESの狙いとして考えられることをまとめました。
2025年6月6日、ルクセンブルクを拠点とする世界的な衛星通信企業SESが、様々な上場多国籍航空宇宙・防衛企業で20年以上の経験を持つがエリザベス(リサ)・パタキ氏を、新たなCFOに任命したことを発表しました。
また、2025年6月5日には、Intelsat SAの株主がSESによる買収を承認したという発表もありました。
この2つのニュースを踏まえて、SESの展望について整理しました。

(1)経験豊富な新CFO就任による経営体制強化
新たにSESのCFOに就任したリサ・パタキ氏は、2020年5月からSESのCFOを務めてきたサンディープ・ジャラン氏の後任となります。
リサ・パタキ氏の経歴を簡単にまとめると以下の通りです。
・L3Harris CompanyのAerojet Rocketdyneにおいて、事業の合理化と長期成長のための資本投資の優先順位付けを通じ、収益性の拡大に寄与。
・Comet GroupのグループCFOとして、EBITDAマージン (EBITDA (利息・税金・減価償却費控除前利益) を売上高で割った割合) を5%以上拡大
・RTX Corporation(旧Raytheon Technologies Corporation)では、複数の財務職を歴任し、2011年のRaytheonの最大級買収案件の一つであったApplied Signal Technologiesの財務統合を主導。
SESのアデル・アル・サレーCEOは、パタキ氏の就任について次のように述べ、期待を表明しました。
「リサ氏は航空宇宙・防衛エコシステムにおいて豊富な経験を持ち、複数のM&Aファイナンス統合を完了してきました。さらに、オペレーションの重点化、効率性、収益性の高い投資を重視した財務戦略を開発する能力は、SESのリーダーシップチームを強化し、SESが衛星分野のリーダーになるミッションを達成する上で重要な役割を果たすでしょう。」
(2)Intelsat買収の圧倒的株主承認と完了への前進
SESの成長戦略におけるもう一つの重要な展開は、Intelsat買収に関する大きな進歩です。2025年6月5日、Intelsatは株主総会を開催し、99.99%の株主がSES取引の承認に賛成票を投じました。この発表は、両社の統合に対する市場の強い支持を反映しています。
株主は、取引の完了時におけるIntelsatの清算開始と、取締役会の4名のメンバー(ロイ・チェスナット氏、デビッド・マック氏、デビッド・ワイスグラス氏、ジンヒー・ユン氏)を清算人として任命することも承認しました。これらの清算人は、SESからの収益を株主とワラント (新株予約権) 保有者に配分する作業を監督することになります。
この株主承認は、いくつかの必要な規制承認とともに、取引完了の条件の一つでした。これにより、買収完了に向けた重要なハードルの一つがクリアされたことになります。
(3)28億ユーロ買収が実現する戦略的意義
2024年4月30日の株式売買契約によると、SESはIntelsatを31億ドルで買収することとなっています。
本買収により、SESとIntelsatの統合企業は売上高約38億ユーロ、調整後EBITDA18億ユーロとなり (2024年5月6日時点の情報)、業界大手の衛星通信事業者となります。
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統合後の企業は、100基のGEO衛星と26基のMEO衛星を擁し、主には静止衛星を用いた通信市場の約30%のシェアを占める業界リーダーとしての地位を確立することが期待されています。
SESのアデル・アル・サレーCEOは、本取引について次のように述べています。
「急速に変化し競争の激しい衛星通信業界において、この取引により、多軌道宇宙ネットワーク、周波数ポートフォリオ、世界中の地上インフラ、市場参入能力、マネージド・サービス・ソリューション、財務プロファイルが拡大されます。」
この統合により、顧客に対してより包括的で柔軟なソリューションを提供できるようになります。
例えば以下の分野で強化された競争力を発揮することが期待されます。
政府・防衛分野:両社は政府・軍事用途において安全で信頼性の高い接続性を提供する信頼できるプレーヤーとして確立されています。統合により、この分野でのサービス提供能力がさらに向上します。
モビリティ分野:Intelsatの垂直統合型航空部門は約3,000機の航空機を接続し、SESの海事部門は主要クルーズライン事業者とのサービス契約を持っています。この相補的な能力により、拡張されたモビリティ機能と顧客基盤を獲得します。
バックホール・トランキング分野:両社は5Gアーキテクチャに衛星を含めることを提唱しており、統合企業はGEOとMEOにわたる統合供給を使用して、顧客に柔軟でスケーラブルなソリューションを提供できます。
(4)激化する低軌道通信衛星コンステレーションサービスとの競争
SpaceXのStarlinkやAmazonのProject Kuiperなどの台頭により、静止通信衛星によるサービスを提供するSESなどの企業はどのような戦略を描くかが問われています。すでにStarlinkは100カ国以上でサービスを展開しており、特に消費者ブロードバンド市場で大きな市場シェアを獲得することに成功しています。
SESのアデル・アル・サレーCEOは、「LEO空間は非常に混雑してきています」と述べ、経済的に新たな低軌道衛星コンステレーションのプレイヤーが登場することは意味がないとの見解を海外ニュースのインタビューで回答していました。
また、AmazonほどSESは資金に余力がないことも合わせて、同社が低軌道通信衛星コンステレーションを構築することはないといった戦略的判断も回答しています。
一方で、SESは必要に応じて他社のLEOコンステレーションとの再販契約を通じてLEOソリューションを提供する戦略を採用するとしています。
業界統合は、特に既存企業にとって、非GEO企業からの強い競争に対する重要な対抗戦略と考えられています。
(5)グローバル衛星通信リーダーとしての今後の展望
SESは、世界最高品質のビデオコンテンツを配信し、シームレスなデータ接続サービスを世界中で提供することにより、地球上のどこでも素晴らしい体験を提供するという大きなビジョンを掲げています。
新CFOの就任と今回のIntelsat買収に代表されるような今後の業界内の統廃合や新展開によって、低軌道通信衛星コンステレーションの発展が著しい中、どのようにビジョンを実現するのか、今後の展開に注目です。
【参考記事】
・https://www.ses.com/press-release/ses-announces-appointment-new-cfo
・www.intelsat.com/newsroom/intelsat-s-a-shareholders-approve-ses-transaction/