宙畑 Sorabatake

経営・資金調達

Synspective、衛星打上げの多角化とAI防災連携でビジョンの実現に向けて着実に前進【宇宙ビジネスニュース】

2025年7月、SynspectiveはドイツのExolaunch GmbHと衛星10機のマルチローンチアグリーメントとAIリアルタイム防災・危機管理情報サービスを提供するSpecteeとの協業を発表。両社との提携の背景や概要をまとめました。

2025年7月9日、SynspectiveはドイツのExolaunch GmbHと、SAR衛星「StriX」シリーズ10機の打上げに関するマルチローンチアグリーメント(MLA)を締結したと発表しました。2027年から開始予定の衛星打上げによって、衛星コンステレーション構築に向けてさらに前進することになります。

また、7月10日にはAIリアルタイム防災・危機管理情報サービスを提供するSpecteeとの協業も発表しています。SynspectiveのSAR衛星データとSpecteeのSNS情報解析技術を組み合わせ、災害時の浸水被害解析を高度化します。

これらの提携は、Synspectiveのビジネスをどのように強固なものにするのか、それぞれ整理してみました。

(1)衛星コンステレーション構築を支える安定的宇宙アクセスの確保

グローバルリーディング企業Exolaunchの実績と提供価値

Exolaunchは、衛星打上げ仲介企業として、衛星の打上げサービスを展開するグローバルリーディング企業です。ドイツに本社を置く同社は、38回のミッションで576機の衛星打上げ実績を持ち、10年以上の経験を活かし、顧客ニーズに合わせた総合的なサービスを提供しています。

本契約によりExolaunchは、Synspectiveの衛星10機に対して、ロケットの選定も含む打上げの計画・準備から宇宙での軌道配置まで、すべての工程を一括して担当します。同社は、SpaceXやRocket Lab、Arianespace等の複数のロケット会社と連携しており、多様な打上げ手段を顧客に提供できます。そのため、Synspectiveは衛星の開発が完了次第、最適なロケットでの効率的な打上げを実現できるようになります。

Synspective、代表取締役CEOの新井元行氏(左)とExolaunch、Vice PresidentのKier Fortier氏(右)

5年間で築いた衛星28機の打上げ契約&合意の軌跡

Synspectiveは2025年に入って、複数社との打上げ契約や合意を発表しています。Synspectiveの衛星打上げに関する発表と衛星の打上げ実績をまとめました。

詳細は下記の通りです:

Rocket Labとの契約
2020年4月:1機の衛星打上げ契約
2021年12月:追加3機の衛星打上げ契約
2023年7月:追加2機の衛星打上げ契約
2024年6月:追加10機の衛星打上げ合意(2025年〜2027年実行予定)
SpaceXとの契約
2025年3月:2機の衛星ライドシェアローンチ契約(2027年実行予定、Falcon 9ロケット使用)
Exolaunchとの契約
2025年7月:10機の衛星打上げ合意(2027年最初の打上げ予定)

柔軟なスケジューリングを可能にする複数プロバイダー戦略

SynspectiveのCEOである新井元行さんは本件について次のように述べ、打上げ手段の多角化によるリスク分散の重要性を強調しています。

「衛星コンステレーションを構築するには、安全で柔軟な宇宙へのアクセス手段が不可欠です。今回の複数回打上げ契約は、打上げスケジュールのリスクを低減し、StriX衛星を着実なペースで軌道へ送り出すことを可能にします。Exolaunchがコネクションを持つ多様なロケットを組み合わせられる点は大きな強みであり、私たちのSAR衛星コンステレーションの運用をさらに効率化してくれるものと期待しています。」

今回のExolaunchとの10機の打上げ合意に加え、SpaceX、Rocket Labと18機の打上げ契約や合意を通じて合計28機の衛星打上げ計画が確保されることとなりました。この数値は、同社の30機コンステレーション構築目標の約9割に相当します。

今後、宇宙空間に配備された衛星の打上げ機数が増えることは、高頻度モニタリングの実現や、欲しいタイミングでの任意の場所を撮影する柔軟性の向上につながります。Synspectiveが目指す理想のコンステレーションの構築の実現が楽しみですね。

(2)Specteeとの協業が実現する「宇宙の眼」と「地上の眼」の融合

防災ソリューション提供企業同士の戦略的な棲み分けと協力

Specteeは、「”危機”を可視化する」をミッションに、SNSや気象データ、カーナビ情報、道路・河川カメラなどから災害やリスク情報を解析し、被害状況の可視化や予測を行っています。AIリアルタイム防災・危機管理サービス『Spectee Pro』は、全国の自治体、報道機関、インフラ企業、メーカー、物流、金融機関などに導入され、2024年7月に契約数1100を突破しました。

Synspectiveは防災向けソリューションとして、例えば洪水被害状況の迅速把握を可能にする「Flood Damage Assessment」や地盤変動をミリ単位で検出する「Land Displacement Monitoring」といったサービスを提供しています。

今回の協業では、広域を捉える「宇宙の眼(SAR衛星)」と、ピンポイントの状況を捉える「地上の眼(SNS情報)」を組み合わせ、災害対応能力を飛躍的に向上させるとのこと。具体的には、SAR衛星データから得られる広域浸水範囲と、SpecteeのSNS上の現場被害情報(画像や動画、テキストから得られる浸水の深さや状況など)やリアルタイム浸水推定などが統合されます。

3つの期待効果~精度・リアルタイム性・利便性の向上~

近年、気候変動の影響により世界中で自然災害が激甚化・頻発化し、特に水害による被害は深刻さを増しています。災害発生時の人命救助や迅速な復旧活動には、被害の全容を迅速かつ正確に把握することが不可欠ですが、SAR衛星による観測だけでは、ビルや住宅が密集する都市部などでは、局所的・詳細な被害状況の把握に課題がありました。

このような技術的課題を解決するため、両社の補完的な技術を組み合わせ、より精度の高い災害対応システムの構築を目指すことになりました。

この協業により期待される効果は3つあります。

データの精度向上:両社の浸水解析結果を突き合わせることで、SAR衛星だけでは判別困難だった住宅密集地などの浸水状況を補完し、より実態に即した浸水被害マップの作成を目指します。一方で、Specteeにとっても、衛星データによる広域の客観的な浸水範囲情報を活用することで、SNS情報の信頼性検証や解析精度の向上が期待されます。
リアルタイム性の向上:衛星観測には一定の撮影間隔があるため時間的な制約がありますが、SpecteeのSNS情報リアルタイム解析技術により、衛星観測の合間の最新状況を現場からの生の情報で継続的に把握できるようになります。
ユーザーの利便性向上:衛星データを分析した結果によって得られる広域の俯瞰的情報と、SNS情報を分析した結果を得られる局所的詳細情報を統合することで、被害の全体像から個別地点の詳細状況まで、災害の影響範囲と深刻度を多角的に把握できるようになるため、がわかるようになるため、災害対応機関や自治体、保険会社などが、より迅速で的確な判断を下すことが可能となります。

この協業は、Synspectiveが目指す「持続可能な社会・経済活動を阻害する恐れのある自然災害や紛争、環境破壊などのリスクを特定・評価し、専門性を持つパートナーとともにソリューションの開発・実装を行う」というビジョンの実現にも大きく寄与するでしょう。同時に、Specteeにとっても衛星データという新たなデータソースを活用することで、AI防災・危機管理サービスの精度向上と付加価値創出を実現する重要な取り組みとなります。

「宇宙の眼」と「地上の眼」を融合するこの取り組みは、従来のSAR衛星単独では困難だった詳細かつリアルタイムな災害状況把握を実現し、社会により大きなインパクトを与えるサービスの創出を目指しています。単なるデータ提供にとどまらない、高付加価値なソリューション開発への道筋を示す重要な協業といえます。

(3)まとめ

打上げ手段の多角化とソリューションの高度化という両輪により、Synspectiveは「この世代で、人類の経済活動を、地球環境と資源を考慮した持続可能なものにする」というミッション実現に向けて着実に前進しています。2025年は同社にとって事業拡大の重要な転換点となり、今後の衛星打上げ進展と新たなソリューション実用化に注目が集まります。

【参考記事】
https://synspective.com/jp/press-release/2025/mla_exolaunch/
https://synspective.com/jp/press-release/2025/spectee_partnership/

【関連記事】