持続可能性のある開発に向けたAPAC地域との連携【SPACETIDE2023レポート】
2023年7月4~6日で開催されたSPACETIDE2023。2日目は、APAC地域の宇宙戦略や各国の課題から各地域の市場開拓まで網羅的なパネルディスカッションの構成となっていました。
(1)はじめに
2023年7月4~6日にかけて開催された宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2023」。
初日のテーマは「日本の宇宙業界および宇宙政策の最前線を産学官のリーダーを交えて議論。更には、宇宙業界の共通課題である人材基盤や産業としての多様性について国内外の有識者を交えて議論」。
直近で更新された宇宙基本計画で記述された民間企業・政府・JAXAの今後10年の役割について、人材獲得戦略やダイバーシティなど国内の人材や各々の役割について言及された1日でした。
安全保障、JAXAの機能強化…宇宙基本計画の“攻めた改訂”でどう変わる?【SPACETIDE 2023レポート】
2日目のテーマは「多業種× 宇宙の連携による価値創出を業界別に議論および、APAC 地域での商業宇宙活動の加速を各国リーダーを交えて議論」です。
APAC地域を中心とした宇宙産業を他産業でどのように活かし価値を創造するかに焦点が当てられ、各国の情勢や産業に合わせた取り組みについて多くのキーパーソンが集まりました。特に、防災や農業に関する議論が多く見受けられました。
本記事では、2日目の各セッションの内容をまとめています。
(2)社会経済の防災・危機管理力を宇宙ビジネスが支える
2日目の最初のセッションは「宇宙産業がいかにして自然災害の影響から人々を救うことができるか」が主題でした。
登壇者はSynspective 新井 元行氏、Spectee 村上 建治郎氏、MDA Prasad Nair氏、Space Compass 堀 茂弘氏で、通信インフラ、データプロバイダ、サービス提供者が集まり、それぞれの視点から解決できる課題と新しい防災の形について議論しました。
災害への備えで足りていないもの
災害解析の観点で衛星データ利用を行う際に不足しているものとして、「データの種類・通信インフラ・データ/解析の精度」が挙げられました。
そのため、衛星データやドローンなどのデータのみに頼らず、SNSの投稿情報、CCDカメラからの情報、IoTデータなど多種多様なデータを解析に取り込む必要があるとSpecteeの村上氏は指摘します
また、そのデータ群を災害時に送信できるネットワークや災害から即時復旧できるシステムの重要性をSpace Compassの堀氏が、多数のデータを取り込み共有するプラットフォームの必要性をMDAのPrasad氏が挙げていました。。
一方で、災害という条件下では、多くのデータがあろうとも、正確なデータと解析が揃って初めてサービスが機能するという特徴があることは重要な視点となります。
現在の衛星の解像度では、車を検知できても電柱までは判別できません。となると、ある程度の精度で提供せざるを得ませんが、自治体はそれを許容することは難しいとのこと。
ですが、100%の精度に近づけるほどコストが際限なく増えてしまうため、AIの精度を妥協できるまで上げて、情報をすぐに抽出することがまず大切であると村上氏は語ります。
市民や自治体の備えや取り組みの意識を高めるには
防災に関しては、以前はハードウェアの強化を中心としており、コストが高いという課題がありました。
そのため、AIなどソフトウェアの強化や実データを使ったシミュレーションなど多様な災害を網羅した解析といったハードウェアの強化のみに頼らない方向で防災に取り組む姿勢が強く感じられました。
その一環で、Specteeのようなサービスプロバイダベースのプラットフォームを利用することで市民や自治体の意識を高めることに寄与できるのではないかという堀氏の意見もありました。
(3)グリーン経済を宇宙ビジネスが加速する
本セッションでは、再生エネルギーなどエネルギー業界に宇宙技術がどう役に立つのか、課題は何かについて議論がなされました。ESG投資や安全保障など直近のロシアウクライナ戦争に関する話題にも触れられています。
Planet Labs PBC Ben Allard氏、東京電力パワーグリッド 岡本 浩氏、sustainacraft 末次 浩詩氏、SpaceTec Partners Rainer Horn氏、三菱商事 岡藤 裕治氏が登壇し、エネルギーを創出する側、地球観測により評価する側の目線で、エネルギー産業の将来性に切り込みました。
宇宙技術はエネルギー業界で浸透しつつある
エネルギー業界における衛星データ活用は、貢献度を測ることが難しいCO2の排出量計測のような自然を評価対象として取り扱うプロジェクトに非常に有効です。
常に雲の動きを捉える、広範囲の土地の相対的な比較を行うといった際に、衛星データは一括で撮影し評価可能ということが大きな利点です。
既に衛星画像による太陽光発電量予測、状況把握、衛星通信、GPSの時刻同期など事例はいくつかありますが、今後は気候変動の影響緩和のための災害予測精度の向上なども重要となると語られました。
また、衛星データを活用することで森林のバイオマスの信頼性と透明性を担保したベースライン開発や道路の建設が森林破壊に与える影響の評価などにも寄与することが可能です。
そのため、ESG投資という観点でも政府やインパクト投資家からマーケットの拡大の余地やロシアウクライナ戦争の影響で「平和」がESGの要素足りうるという点で注目をあびており、衛星データの需要が高まる理由の一つにもなっているとSpaceTec PartnersのRainer 氏は語ります。
さらには、衛星データ以外にも宇宙太陽光発電といった宇宙技術もよりエネルギー業界の選択肢を増やす手段となることが期待されています。
エネルギー業界には適切な法規制と企業による求心力が必要
エネルギー業界の課題として、適切な法規制や再生エネルギー(再エネ)に対する政治的な意志を持つことの重要性をRainer氏は強調しました。
特に、特定種のエネルギーに依存しない複数の再エネによる多様な選択肢を確保できているエネルギーの需給状態を創出する必要とされているため、グリーンディーゼルなど明確な目標を定め、政府が市場を動かしていくことが重要とのこと。
また、エネルギー業界は、国家の安全保障にもつながる重要なセクターであるため、情報技術の輸出が可能であることや自国の企業がグローバルリーダーとして機能することが重要ともRainer氏は述べていました。
(4)世界の食を宇宙ビジネスが豊かにする
APACの人口爆発により食料需要が増えている一方で、食料供給は輸送などのバリューチェーンも含めて外部要因(パンデミック、戦争、森林火災、気候変動)の変化への脆弱性に課題があります。
本セッションでは、食料供給に対する気候変動や都市化の影響をどのように解決するかに焦点を当てた議論がなされました。
登壇者はListenField Rassarin Chinnachodteeranun氏、Degas Ltd. Tatika Catipay氏、LatConnect 60 Ltd Venkat Pillay氏、天地人 櫻庭 康人氏で、各国の衛星データ解析サービスプロバイダから見た食料供給事情の現状と将来性に注目しました。
気候変動がおよぼす食料供給への影響
APACの食料供給において気候変動が最大の課題である理由として、干ばつによる水不足が挙げらました。水不足は農家の収入減少に寄与し、生活に大きく影響します。
気候変動の原因である温室効果ガスの排出量のうち、従来型の農家が排出する量が全体の2〜3割を占めているそう。そのため、農家自身が持続可能性を意識することは、農家の生活安定にもつながります。
このような理由から、過去のデータから将来を理解し、気候変動の影響を予測するという形で衛星データを活用しているとのことです。
他にも、炭素管理の信頼性維持の観点で、カーボンオフセットへの対策として植林と環境再生型の農業が増えていますが、衛星データ・地上データなどを統合した形でのデータが必要という指摘がDegas Ltd.のTatika氏からありました。
また、APACの顧客は大陸にまたがるため、広範囲を観測可能な衛星データを利用しますが、予測やアラートの発令においては精度面で農業に活用するのに現状は不十分とLatConnect 60 LtdのVenkat氏は語ります。
解決策としてひまわりなどの気象データの利用に限らず、ドローンなどのデータも組み合わせることでコストを低減しながら、それぞれの良い点を活用する必要があります。
急激な経済成長がおよぼす食料供給への影響
また、近年の過度な都市化も農業に影響を与えているという課題もとりあげられました。
気候変動により収入低下や小規模農家への助成金など政府からの投資が減っていることで農業への魅力が失われており、若い労働力が農業から離れ都市部に移住して宇宙産業など食料生産以外の分野に従事する人が東南アジアで増えているとTatika氏は説明します。
この生命維持に必須である食料生産に従事する人口減少は投資家や政府にとって致命的な課題であり、さまざまなステークホルダーに働きかけて農業への投資を促したり、何らかの対策を講じたりする必要があります。
そのため、産業従事者の増加を目的としたコンペの開催で競争を促して、データ利用のモチベーションを高めています。
また、知識のギャップも利用者間で存在するため、この課題に対する解決策の一つとしてアプリを通じた教育なども行っています。
品質の高い食料の価値を高めるための宇宙データの利用余地と課題
以上の議論の中で衛星データに求められることは主に、①低価格で誰でもアクセス可能にすることでユースケースを増やすこと②解像度以外ではハイパースペクトルなどさまざまなスペクトルバンドで色々なものを観測したい、という点です。
特にAPAC地域では小規模農家が多いため、テクノロジーを取り込んで産業を発達させることが急務です。
また、クレジットスコアなどの指標で小規模農家への投資を行うこともインセンティブになりうると指摘しています。
これらを実現するためには衛星データの初期コストの高さで導入をあきらめるのではなく、中長期的に人件費や別の選択をする上でのコストが下がるというコストメリットを一般の人々に伝えていく必要があると強調されました。
(5)APACの衛星利用:社会経済課題の解決と新たな市場形成
本セッションでは、APAC地域での衛星利用の取り組みと市場開拓で注意すべき点を取り上げています。
これまでのセッションでも多く語られていたことですが、一次産業が活発なAPAC地域では、気候変動や災害に対するインフラ(食料など)の脆弱性やネットワークなどのコネクティビティがないという課題があります。
これに対して、衛星データの利活用をどう推進するか、が本セッションのポイントです。
登壇者は、Ateneo de Davao University Dr. Rogel Mari SESE氏、Swedish Space Corporation Fredrik Gisle氏、日本電気株式会社 三好 弘晃氏、Skylo Technologies Inc. Parthsarathi Trivedi氏で、衛星データや通信といったハードウェアを活用したインフラに携わる面々が揃いました。
宇宙技術導入にあたっての注意点
本セッションで印象に残ったのは、宇宙技術の導入で重要な要素は「当事者意識を持つように認知や理解を促すこと」であるとAteneo de Davao UniversityのDr. Rogel氏が語っていたことです。
コミュニティの人が宇宙技術を使用するに至るまでに、技術やスキルのギャップを埋めるだけでなくユーザーの理解が非常に重要です。
コミュニティに属する人が当事者意識を持つことで、事業の長期的な持続可能性につながるため、採用の意思決定の期間内(Social Preparation:社会の準備期間と語られていました)にエンドユーザーに技術がどんなものか、機能、便益などを数か月にわたり説明します。
特に遠隔地のコミュニティの人にとっては、最新の技術に初めて触れるわけなので、決して軽視してはならない重要なプロセスです。おろそかにすると、最初の導入ではよいとなっても、運用フェーズとなった途端に使い方が分からないため、自力での解決ができず、結局使えない技術となってしまう可能性もあります。
もうひとつの課題としてSwedish Space CorporationのFredrik氏が挙げたのが「技術を過剰に売り込みすぎること」です。
一般の人は技術に対して抵抗があるため、宇宙技術を押すことから始めるのではなく、メリットの説明から商談に入るのがよいとのこと。「宇宙」というキーワードを使わないほうが良いとまで話されていました。
さらには、現地の企業との提携や現地の開発コミュニティに投資をして認知度向上を図ったり、一般機器でも使えるように技術を落とし込むことも大事な要素になります。
このセッションをまとめると、APAC地域の市場拡大には、現地企業との複数のパートナーシップが不可欠で、現地の宇宙技術に精通した人と組み、現地のルール・政府の思惑や主要サービスプロバイダは誰かなど摩擦を避けつつ、市場を理解することが必要だということです。
その際に、結果が一目で分かる形で商談に挑むと、納得して導入を決めてくれやすく、政策レベルの枠組みや法的根拠があると活動しやすいですし、異業種のイベントに参加して自らがその会での専門家という立ち位置にならない動き方もネットワーキングとして重要といった乗り越え方についての言及もFredrik氏からありました。
(6)アジア太平洋で立ち上がる宇宙スタートアップの潮流: SPACETIDE AXELAの価値
本セッションでは、SPACETIDEが2022年度から開始した宇宙分野のスタートアップに特化したアクセラレーションプログラム「AXELA」を紹介する内容です。
登壇者は、AXELAの参加者としてLEET Intelligence Co., Ltd. Manjunatha Venkatappa氏、Space quarters 大西 正悟氏、Ecospace Kanchanit Thumrongboonkate氏を、メンターとしてOpen Crucible 濱地 健史氏が招聘されました。
AXELAを経験した国内外のプレイヤーから起業を検討する方々へのアドバイスが非常に多く、参考になるセッションとなりました。
プログラム参加者が語ったAXELAに参加する価値
LEET Intelligence Co., Ltd.のManjunatha氏は、参加するメリットとして海外(注:Manjunatha氏視点での日本)でピッチを実施しつつ、ローカルなネットワーキングも構築可能な点を評価しています。
特に、言葉の壁がある中でメンターがビジネス面でどのように話すべきか教えてもらえる点は安心感があるとEcospaceのKanchanit氏はいいます。
また、宇宙というコミュニティの中核に入れること自体にも価値があるとSpace quartersの大西氏は指摘しています。外部からコミュニティを見渡しても、中核メンバーが誰なのか、内部の情報が読めないことが多いそうです。
特に業界や技術の最新情報を集める上で、論文を読むよりも当事者に直接聞くことが最も素早いため、コミュニティに入れてもらうことで、コネクションやマーケットの理解が用意になったとしています。
AXELAのユニークなポイント
AXELAの位置づけは、アーリーステージの実績も資金もないアイデア・技術のシードだけの人を育成する場所としています。
宇宙に詳しいスタッフやメンターが、友人のように接してくれながらも、アイデア・ビジネスモデルの相談相手になり、企業、政府機関や各セクターにつなげてくれるのも大きいポイントです。
「誰が関心を持ってくれるのか不安になる中、プロ中のプロがわざわざ海外に来て、顧客候補の選定の手伝いをしてくれた経験は一生に一度あるかどうか」とKanchanit氏は語りました。
AXELAに入るべき人
登壇者らが語ったAXELAに入るべき人の特徴をまとめると以下の通りです。
1.スタートアップの初期で顧客いない、マーケットの理解もない人
2.アイデアはありビジネスを拡大したいが、展開の仕方が分からない人
3.S-Boosterのようなコンペの後に課題に気づいて、メンターや専門家のアドバイスが欲しくなった人
また、個人よりもチームである、かつ、最初のプロダクトがあると展開しやすくなるというコメントもありました。
最後に、今後3年の方向性について問われ、アクセラレータプログラムを通じて技術の認証プログラムとなり、3年を生き残ったチームのお墨付きになれたら良い。という形でセッションを終了しました。
※AXELAについて2022年のSPACETIDEのセッションでも紹介されていますので、あわせてご覧ください。
【SPACETIDEレポート】2022年の宇宙ビジネス振り返りとSPACETIDE発のアクセラプログラムとは
(7)APACの宇宙産業:各国の成長戦略と産業エコシステム形成
本セッションでは、ニュージーランド・シンガポール・オーストラリアの3か国の宇宙戦略の紹介や日本の宇宙戦略との違いについて、ニュージーランドはSpaceBase Emeline Paat-Dahlstrom氏、シンガポールはSpace Faculty Private Limited Lynette TAN氏、オーストラリアはSpace Industry Association of Australia Tim Parsons氏に語っていただきました。
この3か国は商業ベースの宇宙活動が特に盛んで、日本とはまた違った視点が得られるセッションでした。
ニュージーランドの宇宙戦略
ニュージーランドの宇宙戦略の特徴
ニュージーランドの宇宙産業は、2006年のRocket Lab創業を皮切りに2016年のニュージーランド宇宙庁の創設という、商業ベースから始まった珍しい国です。
2017年時点で200以上の企業や機関が参入しており、2019年には17億ドルの経済規模を有します。また、打ち上げ施設や宇宙関連施設も数多く有しています。
ニュージーランドの宇宙活動の特徴として、南半球という地理的なメリットに限らず、商業文化が先行するため、リスクを取る文化があるのが大きいといいます。特に、破壊的イノベーションの要素を多く含むのが特徴となっています。
日本とニュージーランドの宇宙戦略の違い
また、日本とニュージーランドの宇宙戦略の違いについて問われたとき、日本の技術的・経済的な支援の豊富さを指摘しています。
ニュージーランドは、エンジェル投資家はあまり手を出してこず、伝統的なVCや金融機関が投資する傾向があること、自国に閉じると途端に弱くなることを課題としています。
日本はロボティクスなど宇宙以外にも高い技術を多く有すること、アントレプレナーシップ支援の枠組みで政府の助成金・スタートアップ支援が充実している点を指摘しています。
※アストロスケールの岡田CEOへの取材記事でも同様の指摘があるため、こちらも参考にしてください。
アストロスケールCEO 岡田光信氏に聞く、グローバルで戦う宇宙ベンチャー戦略~①資金調達編~
最後に、他の途上国がニュージーランドの真似が出来るのかと問われ、オープンソースなど技術の民主化されている今、コンピュータ上でさまざまな組み合わせが可能であるとして、出来ることは色々あると締めくくりました。
シンガポールの宇宙戦略
シンガポールの宇宙戦略の特徴
シンガポールもまた、商業ベースの宇宙産業を展開している国で2007年Singapore Space & Technology Ltdを設立し活動しています。
ここでは、商業ベースのアクセラレータープログラムを行っており、国際的なスタートアップへの資金提供や、資金にアクセスしやすいビジネスハブ・金融的なハブを提供します。
特に、VC、シリーズA、インキュベーションファンディングなど上場手前の資金調達であれば可能であるのが特徴的です。
こういった背景として、グローバル化されつつも地政学的に中立なロケーションであるため資金へのアクセスや衛星産業以外のアクセスのしやすさが生まれているといいます。
技術的な面でも、20-30年前からNASAなどの設備を利用しながらCubesat等の開発を行っており、宇宙開発のインフラが整っていると強調しています。
宇宙技術の民主化により衛星のサイズや電気系統のコスト低下、民間から投資をベースとした開発プロジェクトも大きな要因となっています。
日本とシンガポールの宇宙戦略の違い/共通項
こちらでも日本の政府予算やJAXAという宇宙機関の存在による潤沢な予算に基づく大型戦略を実施できる環境の良さを指摘しました。
シンガポールは政府機関がなく商業中心の活動のため、大型にはならないものの、他の商業セクターと協力して流動的で柔軟性のある動きが取れるという差別化をしています。
共通項としては、民間・大学がイノベーションを生み出し、シナジーが発生するフロンティアであること、文化的にも地理的にも近いゆえに、企業や研究所の支部を置くことで双方の良いとこどりが期待できるともありました。
政府主導の宇宙機関がない場所のメリット
民間主導の宇宙開発であるため、自分たちで一からストーリーから方針を決めることが可能で、自分のやりたいように開発可能なフレキシブルさが良いといいます。
顧客の一定の要求を満たすという意味では、政府も民間も同じであるという視点がこの柔軟さを生んでいるようです。
また、小さい国家ではあるものの、商業ベースの支援基盤が充実するならば、ごく一部の人を説得するだけで政府が動いてくれやすくなるのが大きいそうです。
オーストラリアの宇宙戦略
オーストラリアは2018年に宇宙庁を設立し、2023年5月に米国と宇宙防護に関する連携を結ぶなど政府も民間も規模が拡大している成長が目覚ましい国家の一つです。
LEOLABSやHEO ROBOTICSなど近年、名を上げ始めたオーストラリアの企業やDeloitやAWSなど国際企業の参画により今の精力的な宇宙エコシステムが出来上がっています。
2023年6月には同国の宇宙開発能力を記したAustralian Space Industry Capability Databaseの公開を発表していますので、興味のある方はご覧ください。
オーストラリアとの協力の仕方
オーストラリアとの協力について、日本で既に構築されているサプライチェーンにオーストラリアや途上国などの持つインテリジェンスを組み込み、いかにして共有の財産を築き上げていくか、が重要であると指摘しています。
安全保障面における透明性の確保や社会的インパクトという点において価値は共有され、共通の宇宙関連の資産(打ち上げ施設など)を利用して需要の管理をすることが有効と考えています。
また、持続可能性に対する熱意をより上手に活用することも大事と述べています。一例として、農業の効率化や月探査における資源の扱いについて触れていました。
(8)まとめ
2日目は、APAC地域の宇宙開発を中心とした内容でしたが、日本の持つ強み・弱み、あるいは協業の可能性などを他国と比較することで見出すことが出来る一日でした。
APAC地域は、農業など1次産業に対する影響を衛星で直接観測したり、防災という観点で間接的にリスク評価をするなどローカライズした課題点や活用先が特に見えやすい地域であるとともに、文化的にも地理的にも近いメリットがあります。
ぜひ、協業のチャンスやアクセラレータプログラムを活用するなど活動してみてはいかがでしょうか。