宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

BlackSky、ICEYEも参加! デジタルツイン「Project Orbion」とは~AIが地球全体をリアルタイムで把握する時代へ~【宇宙ビジネスニュース】

2025年9月8日、安全保障向けの地理空間シミュレーションを開発するAechelon Technologyが地球観測衛星×AIによる地球全体のデジタルツインを構築する「Project Orbion」を発表。ICEYEやBlack Skyといった小型衛星コンステレーション構築におけるリードランナーも参加しています。

2025年9月8日、安全保障向けの地理空間シミュレーションを開発するAechelon Technology(以下、Aechelon)が「Project Orbion」を発表しました。

Aechelonは、1998年に設立された企業で、安全保障向け地理空間シミュレーション技術および人間・機械AI訓練システムのグローバルリーダーです。同社は設立当初から安全保障用のシミュレーション技術を手がけていますが、今回は民間向けにも技術展開を図ることとなっています。

本プロジェクトでは、地球観測衛星×AIによる地球全体のデジタルツインを構築します。単なる地理空間情報を提供するだけでなく、防災、環境監視、国家安全保障といった分野におけるソリューション提供まで一貫して実施可能になるプロジェクトです。

宙畑メモ:”デジタルツイン”とは
現実空間からIoTやセンサーを介してデータを収集し、仮想空間上に現実空間と同じ環境を双子のように再現する技術。リアルタイムで更新される高精度なシミュレーションが可能となり、製造業や都市計画などで活用が進んでいます。

参考記事

本プロジェクトは、4社のスタートアップとのパートナーシップで実現されました。提携先はSAR衛星技術を有するICEYE、光学衛星技術を有するBlackSky、地理空間モデル技術を有するNiantic Spatial、3DライトフィールドAR HUD技術を有するDistance Technologiesです。

Project Orbionにおける各社の役割は以下の通りです。

宙畑メモ:”3DライトフィールドAR HUD”とは
従来のヘッドアップディスプレイ(HUD)を進化させた技術で、光の方向と強度の情報(ライトフィールド)を利用して立体的な映像を表示します。特別な眼鏡やヘッドセットを装着することなく、車のフロントガラスや航空機のコックピットガラスなどの透明な面に3次元の情報を浮かび上がらせることができます。距離感のある立体表示により、運転者やパイロットがより直感的に情報を把握できるようになります。

Aechelon以外の提携企業について以下で紹介します。
・Niantic Spatial
2025年3月にNiantic(ポケモンGOで有名)から独立したスピンオフ企業で、地理空間AIのリーダー企業です。同社は300億枚以上の画像データを基にした大規模地理空間モデル(LGM)を開発しました。VPS技術で100万箇所以上での高精度な位置特定を実現しています。

宙畑メモ:”VPS(Visual Positioning System)”とは
カメラ映像を使って現実世界での正確な位置と向きを特定する技術。GPSが使えない屋内や都市部の狭い場所でも、センチメートル級の精度で位置を把握できます。

・ICEYE
2014年に設立された企業で、世界最大の小型SAR衛星コンステレーションを運用しています。同社は現在54基の衛星を打ち上げています。SAR技術により、雲や悪天候、夜間でも地表の観測が可能です。
BlackSky
2014年に設立された企業で、小型光学衛星によるリアルタイム地球観測サービスを提供しています。同社は現在21基の衛星を運用しており、1メートル解像度の高頻度画像撮影が可能です。2023年6月以降に打ち上げたGen-3衛星では35センチ解像度を実現し、収集から60分以内でのデータ提供できることが特徴です。

Distance Technologies
2024年に設立された企業で、眼鏡不要のMR (複合現実) 技術を開発しています。Google Venturesが主導する1,000万ユーロの資金調達を実施しました。自動車・航空宇宙・防衛分野向けに透明な表面をインタラクティブな3DライトフィールドAR HUDに変換する技術を提供しています。

宙畑メモ:”MR (Mixed Reality) “とは
現実世界とデジタル世界を融合させる技術。仮想現実(VR)と拡張現実(AR)の中間に位置します。VRが完全に仮想的な環境を作り出し、ARが現実世界にデジタル情報を重ねるのに対し、MRは現実とデジタルのオブジェクトがリアルタイムで相互作用できる環境を実現します。例えば、現実の机の上にデジタルの3Dモデルを配置し、手で操作できるような体験が可能です。

Project Orbionは、SAR画像、光学画像などをもとに地理空間モデルを構築し、AIを組み合わせ、地球の正確な3D表現を再構築・配信します。山火事から洪水、戦時の軍隊移動から平時の海運ルートまで、あらゆる状況に対応した状況認識と安全な人間による意思決定の支援が可能となります。

本プロジェクトは、以下の2点で他の類似サービスと比べて特徴があると考えられます。

小型地球観測衛星のスタートアップが結集
小型地球観測衛星のスタートアップが結集しました。ICEYE (SAR) とBlackSky (光学) という世界最先端の小型衛星スタートアップが同じプラットフォームに参加することで、異なる観測技術の長所を組み合わせた総合的な地球観測が可能になります。

観測からソリューション提供までの一貫したビジネスモデル
従来の衛星データ提供サービスは、データ販売や解析サービスまでが主流でした。Project OrbionはAechelon Technologyの知見が盛り込まれ、包括的なソリューション提供まで一貫して行うことが可能です。これにより、企業の防災対策や軍事・民生両用での状況認識向上に直接貢献できます。

Aechelon CEOのナチョ・サンズ – パストール氏はProject Orbionに対する期待を次のように述べています。

「Aechelonは数十年にわたり、ミッションクリティカルな防衛訓練向けに最も現実的な合成環境を構築してきました。課題は常に、物理世界の変化に対応しつつ、現実的な世界規模の情報を用いて人間と自律システムを訓練し続けることでした。Niantic Spatial、ICEYE、BlackSky、Distanceとの提携により、Project Orbionは今後数ヶ月から数年かけて、これまでSFの世界にしか存在しなかった軍民両用・ミッションクリティカルな応用分野への対応を可能にします。」

Project Orbionは、光学とSARという異なる観測技術を持つ小型衛星スタートアップの連携により、これまでにない包括的な地球デジタルツインの実現を目指しています。衛星画像を組み合わせて地球上の3Dマッピングを実施した上で、エンドユーザの業務を変革するソリューション提供まで一貫して行います。このビジネスモデルは衛星データ利用の重要なユースケースの一つと言えるでしょう。

防災、環境監視、国家安全保障など幅広い分野での活用が期待されます。人間とAIが協働する未来の地球監視システムの先駆けとなる可能性があります。今後の衛星データ利用のさらなる加速に引き続き要注目です。

参考記事

Aechelon and Partners Niantic Spatial, ICEYE, BlackSky and Distance Debut Project Orbion: the First AI-Enabled Digital Twin of the Earth

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