宙畑 Sorabatake

衛星データ入門

干渉SAR(InSAR)とは-分かること、事例、仕組み、読み解き方-

「SAR」って何?「干渉SAR」って何? 衛星データのお話をすると必ず出てくる疑問について、まとめてみました。

合成開口レーダ(SAR)のキホン~事例、分かること、センサ、衛星、波長~」でSAR(サー)という技術をご紹介しました。

その中で事例として取り上げた「干渉SAR(InSAR:いんさー)」という技術。これを知るとSARという技術が何に使えるのか、より深くご理解いただけると思います。

本記事は、衛星データのプロフェッショナル、一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)の向井田明さんに解説をいただきました!

(1) 干渉SARってどんなことに使えるの?(使用用途)

干渉SARとは地表面の変化を調べる技術的手法のことです。

現地に測定装置を設置することなく、広範囲に数センチレベルの地表面の変化を調べることができるため、たとえば以下のようなところで利用されています。

(a) 地盤沈下の把握

平成 23 年 高精度地盤変動測量 高精度地盤変動測量(干渉 SAR)/国土地理院より抜粋
https://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/sar/result/sar_data/report/H23_kanshi.pdf

干渉SARは広範囲にわたって地盤沈下が起きていないかを調べることによく用いられます。

たとえば上の図は、国土地理院が関東地方の地盤沈下の様子を調べた結果です。左図の赤点線で囲まれた部分を拡大したものが右図で、舞浜周辺を表しています。

ちょうどディズニーランド周辺の埋め立て地で5センチ程度の地盤沈下が起きている様子が分かります(※本調査は平成23年に行われたものです)。

このようにSAR画像である期間の様子を比較していくと、数センチレベルで地盤沈下が起こった場所を調べることができるのです。

建設業の方や不動産業の方のお役に立ちそうなデータですね。

(b) 地震による地盤変動の把握

2016年熊本地震における干渉SAR解析結果 Credit : 国土地理院 http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H27-kumamoto-earthquake-index.html

干渉SARは日々の変化だけでなく、災害時にも状況の把握に有効です。

大きな地震では地盤のずれが起こるので、干渉SARで調べることによって活断層帯とその周辺の被害状況を把握することができます。

(c) 火山の監視

吾妻山の火山活動に伴う地殻変動の様子 Credit : 国土地理院 http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/azumayama-index.html

地震と並んで干渉SARがよく用いられるのが火山活動です。

上記は福島県にある吾妻山の火山活動期間の調査結果です。

大穴火口の北西約300mが黄色~ピンクの色で塗られており、数センチ程度隆起している可能性が示されています。

活火山のように危険なため人が立ち入ることが難しい場合でも、衛星からであれば様子を知ることができます。

(2) 干渉SARってなに?~分かること、仕組み、精度~

干渉SARとは衛星搭載の合成開口レーダ(SAR)によって、複数回同じ場所を観測することによって、観測場所の地表面の形やその変化を調べる技術的な手法のことです。

合成開口レーダ(SAR)はマイクロ波の反射を観測するセンサ(レーダー)です。

厳密には、地表面の形状(地形)を計測する”干渉SAR”と、地表面の変化を計測する”差分干渉SAR”に分けられます。

今回はJAXAの衛星であるだいち(ALOS(えいろす)シリーズ)も得意としている差分干渉SAR(DInSAR: Differential Interferometric SAR)を中心にしてお話しを進めることにします。

■ 干渉SARが測定しているのは電波の「位相差(いそうさ)」

干渉SARでは地表面の変化を計測するのに、「位相差(いそうさ)」という情報を使っています。

SARは電波を用いて観測を行います。

一回目の観測と二回目の観測の波にずれ(位相差)があれば、対象の地表面に何らかの変化(位置のずれ)が有ったことが分かるのです。

この位相差が前後の画像で、距離が延びる方向に変化していれば地表面が沈降し、反対に距離が縮む方向に変化していれば地表面が隆起していると考えられます。

■ 干渉SARの精度

ずれに対する検出精度は、観測に用いる電波の波の大きさ(波長)によって変わります。

波長の短い電波ほど細かい変動が分かる(精度が高い)反面、対象物の影響を受け波形が大きく変わり過ぎてしまい干渉しない(変動が分からない)箇所が多くなります。電波がその形を保ちやすいかどうかという性質を「コヒーレンス」と言います。

例えばJAXAの衛星であるALOS-2の波長は約23cmなので、およそ数cmオーダーの変化が分かります。

(3) 干渉SARの読み方

干渉SARの難しい仕組みはさておき、複雑そうな干渉SARの図をどうやって読めば良いのかをマスターしましょう!

まずは実際の解析結果を見てみましょう。

なにやらレインボーな色分けがされていますね。

干渉SARの結果は、位相差を色分けして示しています。

色の違いは地表面のずれとして、観測した衛星の位置に対して近寄ったか、遠ざかったかを示しています。

■ 等高線図のように地図上で表現

この結果を地図上に表現をするために、天気図で良く見る気圧配置や地形図の等高線の様に、同じ範囲の値を同じ色で表しています。

先ほどの図を例にして見ていくと、図では凡例中心の水色が0で変化がないところです。そこから濃い青から紫に繋がる部分は、衛星から距離が離れた箇所なので主に地表面が沈んだ場所です。

逆に、緑から黄色に繋がる部分は、衛星への距離が近づいた場所ですので主に地表面が隆起した場所と言えます。

■ 色の間隔の狭い場所=急激に変化している場所

等圧線や等高線と同じように、色の変化が激しい(色の間隔が狭い)ところの方が急激に変化している場所です。

画像を見ると、新燃岳(赤三角)のすぐ西に、水色から青、紫と急に変わっているスポット(赤丸で囲んだ部分)があり前の観測と比較してそこだけ地表面が沈んでいることが分かります。

このことから地中のマグマがたまっていた場所(マグマ溜り)が、噴火によって体積が減少したために地表面が下がったことが分かります。

このように、観測した時の衛星の位置、解析結果の色の順番、色の間隔を注意深く見ると地表面がどのように動いたかが面的に知ることができるのです。

■ 繰り返し同じ色が出てくる意味

レインボーカラーで繰り返し同じ色がでてくるのは、波一つ分ずれると位相差がゼロになるという性質によります。

つまり、たとえば2つの波を比べてAという長さだけずれていると分かっても、実際には「波一つ分+A」だけずれているかもしれないし、「波二つ分+A」だけずれているかもしれないということです。

この「波○つ分」の部分を実際の距離として加える作業を「アンラッピング」と言います。この部分については発展的内容のため今回は割愛します。

(4) 干渉SARでビジネスを考えてみる!

さて、地表面の変化が分かることでどのような良いことがあるでしょうか?この記事でも事例としてすでに示しましたが、防災、減災に関しては今や欠かせないソリューションになっています。

もちろん、何かが起きてしまった時の対応としての衛星観測、解析(緊急対応)はビジネスという側面より、政府や自治体などによる取組に近いところがありますので、JAXAや国土地理院といった組織によるものの方がメインになります。

一方で、リモートセンシングの大きなメリットとして、過去に遡れるということが挙げられます。干渉SAR解析も、例えば10年前にある場所の地盤は安定していたのか、不安定だったのかということを知ることができます。

このようなことがわかれば、不動産の資産価値を検証する際の参考にしたり、インフラ(道路や鉄道)などを施工する際の計画の安全性評価などに使うことができます。

(5) まとめ~干渉SARの可能性~

今回はRESTECの向井田さんにご協力をお願いし、SAR画像を使った「干渉SAR」についてご紹介しました。

光学画像は我々ヒトの目で見た画像と近いので分かりやすいのですが、SAR画像は日常的に見慣れた画像ではないため、利用用途がまだまだ限定的であるのが現状です。

しかし今回ご紹介したように、SAR画像を用いると数センチ単位で地盤沈下に気づくことができるなど、電波で観測するという特性を生かし光学画像ではできないことを行うことができるのです。

JAXAの衛星であるALOS-2のSAR画像は衛星データプラットフォームTellusでご覧いただけます。まずは、実際のSAR画像を見てみてはいかがでしょうか!

また、現状干渉SAR解析は誰でもできる環境にはなく、RESTECでは解析して結果を提供するサービス「RISE」を始めています。興味のある方はぜひこちらもご覧ください。

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