宙畑 Sorabatake

宇宙政策

米国に学ぶ宇宙産業の民間活用。財務省が宇宙戦略基金の発展を提言【宇宙ビジネスニュース】

2025年11月11日、財務省が宇宙政策に関する会議資料を公表しました。米国の事例を参考に、日本の宇宙産業における民間資金活用の必要性が強調されています。

2025年11月11日、財務省が科学技術分野に関する会議資料を公表。その中で、宇宙政策における研究開発のあり方について、米国の事例を参考にした新たな方向性が示されました。

財務省は国の財政運営を担う中央官庁で、予算編成や税制などを所管しています。本記事で触れる会議資料は財政制度分科会のものです。財政制度分科会は、国の予算、決算及び会計の制度に関する重要事項を調査審議する会議です。

会議資料によると、財務省は宇宙分野について4つのテーマを取り上げていました。研究開発費のほか、射場の有効活用、ロケット打上げコストの低減、商業衛星打上げ需要の取り込みです。

「宇宙開発の在り方について」まとめ資料
(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20251111/monka.pdfから引用) Credit : 財務省

本記事では研究開発費に関する財務省の視点について深掘りします。

財務省は、日本の研究開発費に占める民間割合が10年以上12%程度で横ばいであるという現状を指摘しました。その上で、宇宙戦略基金の取組を発展させて民間資金供給の拡大を図る必要性を強調しました。

宙畑メモ:宇宙戦略基金とは
内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省がJAXAに基金を造成する制度です。この制度は、JAXAを通じて民間企業や大学の宇宙分野の先端技術開発、技術実証、商業化を支援します。「10年で1兆円」という前例のない長期かつ大規模な支援により、日本の宇宙産業の競争力強化を目指しています。

民間資金供給の拡大が必要だと述べた背景は、米国の研究開発費における官民資本の割合の推移です。

米国の宇宙分野における研究開発費の推移を見ると、興味深い変化が起きています。2010年時点では政府が90%、民間が10%という資金割合でした。しかし、2020年には政府65%、民間35%へと大きく変化しました。

重要なのは、政府予算削減により相対的な割合が変動したわけではないという点です。財務省はMcKinsey & Companyのレポート記事「R&D for space: Who is actually funding it?」を参照しています。そのレポートによると、2010年から2020年にかけて政府の研究開発費は増額しています。そのため、政府投資の増加以上に民間投資が急速に拡大したことで、相対的な割合が変化したのです。

一方、日本の状況を見ると、2010年から2023年にかけて大きな変化はありませんでした。公的機関が85%から83%、民間企業が12%のまま横ばいで推移しています。

Credit : 財務省

そこで財務省は、宇宙戦略基金を呼び水として、宇宙分野への民間資本供給を拡大するための方策を検討し推進する必要があると述べました。

また、民間事業者による研究開発や事業化が可能な分野については、民間主導にシフトさせるべきとしています。宇宙サービスの政府調達も念頭に、民間事業者の育成支援という手法を戦略的に活用すべきとのことです。

一方、JAXAは民間では開発が困難な分野に注力すべきとの姿勢が示されました。例えば月面探査に関わる次世代エネルギー領域、次世代モビリティ領域、アセンブリ&マニュファクチャリング領域、ハビテーション領域などです。

宙畑メモ:アセンブリ&マニュファクチャリングとは
構造物の組み立て(アセンブリ)や製造(マニュファクチャリング)を行う技術分野。本記事では、月面や宇宙空間で構造物の組み立てや製造を行う技術分野を指しています。地球から完成品を運ぶのではなく、現地で部材を組み立てたり、月の資源を使って建材や部品を製造したりすることで、輸送コストの大幅な削減を目指します。3Dプリンティング技術などが活用されることが期待されています。

宙畑メモ:ハビテーションとは
宇宙飛行士が月面や火星などで長期間生活するための居住施設に関する技術分野。気密性の確保、放射線防護、温度管理、水や空気の循環システム、食料生産設備などが含まれます。人間が宇宙で安全に暮らすために必要な生命維持システム全般を指します。将来の有人月面基地の実現に不可欠な技術です。

今回、財政制度等審議会で宇宙政策がこれほど大きく取り上げられたのは、財務省が日本の宇宙産業の競争力強化が重要であると認識していることを示しています。実際に、資料内で世界の宇宙産業市場が2035年に約270兆円規模になるとの予測がある旨にも言及しています。

財務省の今回の提言は、単に予算配分の話にとどまらず、日本の宇宙産業の構造改革を促すものとなっています。米国の成功事例に学び、官民の適切な役割分担と民間資金の積極的な活用が進むことが期待されています。これにより、日本の宇宙産業のエコシステムがさらに強固になるでしょう。

参考

文教・科学技術(財務省)

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