【2025年10月】衛星データ利活用に関する論文とニュースをピックアップ!
2025年10月に公開された衛星データの利活用に関する論文の中でも宙畑編集部が気になったものをピックアップしました。
・Optical and SAR image registration based on feature constrained algorithm
(光学 – SAR間でも安定して一致点を見つけられる手法を構築することで、2種類の画像を正しく重ねる「画像レジストレーション」を容易にする)・Instability mapping of Dhaka-Kasiani-Gopalganj railway line in Bangladesh with InSAR time series analysis
(Sentinel-1 SARを用いたSBAS-InSAR解析により、鉄道全線の沈下速度(LOS)と擬似鉛直変位を3年10か月にわたり算出し、鉄道の優先点検区間の抽出と維持管理指標の提案を目的とする)・A mining-area surface-subsidence prediction method based on SBAS-InSAR and STL-XGBoost
(SBAS-InSARで抽出した沈下時系列を用いて、STL(Seasonal-Trend decomposition using Loess)+XGBoostを統合したSTL-XGBoostモデルで将来沈下を予測する)・Seamless Reconstruction of MODIS Land Surface Temperature via Multi-Source Data Fusion and Multi-Stage Optimization
(MODIS LSTを日次で広域、かつ高精度で欠測なく再構成するフレームワークを構築し、物理的整合性と季節周期性、空間連続性を同時に担保しながら、昼夜や地域差(雲量・地形・土地被覆)の変動に対して頑健なアルゴリズムを提示する)
宙畑の連載「#MonthlySatDataNews」では、前月に公開された衛星データの利活用に関する論文やニュースをピックアップして紹介します。
実は、本記事を制作するために、これは!と思った論文やニュースをTwitter上で「#MonthlySatDataNews」「#衛星論文」をつけて備忘録として宙畑編集部メンバーが投稿していました。宙畑読者のみなさまも是非ご参加いただけますと幸いです。
2025年10月の「#MonthlySatDataNews」「#衛星論文」を投稿いただいたのはこの方でした!
Ocean Colour Estimates of Phytoplankton Diversity in the Mediterranean Sea: Update of the Operational Regional Algorithms Within the Copernicus Marine Service #衛星論文
地中海のプランクトンの多様性を海の色から推定を改良 https://t.co/0UN6hHC4zP— たなこう (@octobersky_031) October 30, 2025
それではさっそく2025年10月の論文を紹介します。
Optical and SAR image registration based on feature constrained algorithm
【どういう論文?】
・光学画像とSAR画像は画素の明るさの関係が一定でないため、従来の特徴量合成(SIFTなど)は不安定になりやすい
・本研究は「位置・スケール・主方向が一致している」という幾何的な原則に注目し、光学 – SAR間でも安定して一致点を見つけられる手法を構築することで、2種類の画像を正しく重ねる「画像レジストレーション」を容易にする
【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️前提知識
・画像レジストレーションには2段階の処理がある
・1つ目は特徴点検出(どこを見るか)というもので、画像の中で「注目すべき場所」を選ぶかに関するものである(例:角、交差点、建物の頂点など)
・2つ目は特徴記述(どう説明するか)というもので、上記の「注目すべき場所」の周囲の形状を数字で表す(例:周囲の方向性、パターン、構造)
◾️本研究のアプローチ
①スケール課題
・光学画像とSAR画像ではセンサー特性などの違いにより、同じ建物の角でも大きさが微妙に違うなどの問題が多発するため、従来の1つのサイズのフィルタだけを用いる方法ではそのスケールに合った角しか検出されず、光学とSARで同じ角が取れないという問題が発生する結果、光学とSARの特徴点対応(マッチング)がずれてしまっていた
・本研究では、log-Gaborという明るさの影響を受けにくく、エッジや線の方向成分を鮮明に取れる手法を採用する
・1枚の画像に対して、大きい / 中くらい / 小さいフィルタを用いて、かつ、それぞれ水平、斜め、垂直などの複数方向で適用(畳み込み)する
②特徴点の説明(記述)問題
・検出した「特徴点」を比べるには、その周囲を数値で説明(記述)し、光学画像とSAR画像で「同じ構造なら似た値になる」ことが必要となる
・SIFTはその代表的手法だが、SAR画像ではスペックルノイズで局所的な勾配が乱れる、輝度が変わると勾配方向が変化するなどの問題が発生する(同じ建物でもSIFTのベクトルが全く異なる)
・本研究では、「明るさの変化ではなく、構造の方向性を統計的にとらえる」というアプローチを採用し、GLOH-Like(Gradient Location and Orientation Histogram-Like)記述子というものを利用する
・特徴点を中心に3つのリング(半径8, 12, 16)を設定、各リングを17セクタに分割し、勾配方向を8方向に分けて集計、中心近くの画素に重みを付ける(Gaussian weighting)などのプロセスを経て、構造を安定して数値化させる(ノイズに強く、方向・スケールを高精度に扱う)
◾️データセット
①光学画像(300枚)
・Google Earth(DigitalGlobe, Landsat, Sentinel などから統合)から取得、解像度は1m
②SAR画像(300枚)
・TerraSAR-X(DLR/ESA)を利用、解像度は1m
◾️評価観点
・CMR(Correct Matches Rate):正しい対応点の割合(高いほど良い)
・RMSE(Root Mean Square Error):位置ずれの誤差(小さいほど良い)
【議論の内容・結果は?】
◾️他手法との比較
・本研究の手法の平均CMRが88.72%となっており、光学–SAR共通の「角・エッジ構造」を確実に検出し、SAR特有のスペックルノイズを平均化しつつ安定した構造記述(説明)をできていると考えられる
※比較手法(Base_1~Base6)は論文内を参照
■ スケール変化への耐性
・SAR画像をそれぞれ 0.5倍・1倍・1.5倍 にスケーリングし、スケールが変化しても同じ構造を検出・対応できるかを検証した
・結果としては提案手法の平均CMRは86.11%となり、Base_1〜6との差は+8〜+20ポイントであった(RMSEも全手法で最小値)
◾️回転変化への耐性
・SAR画像を 90°・180°・270° 回転しても特徴記述が一致するかを検証
・本提案手法では平均CMR87.22%となった(Base_1〜6との差は+6〜+18ポイント)
#位相整合 #GLOH_Like記述子トル #logGaborフィルタ #CMR #スケール空間 #光学SAR統合
Instability mapping of Dhaka-Kasiani-Gopalganj railway line in Bangladesh with InSAR time series analysis
【どういう論文?】
・バングラデシュおよびガンジス・ブラフマプトラデルタ(GBD)という年間10〜18mm の地盤沈降が報告される場所(区間)に新たに建設された鉄道があるが、多く場所が軟弱地盤と盛土(最大10 m)上に建設されており、長期的な沈下リスクが高い
・本研究はSentinel-1 SARを用いたSBAS-InSAR解析により、鉄道全線の沈下速度と擬似鉛直変位を3年10か月にわたり算出し、鉄道の優先点検区間の抽出と維持管理指標の提案を目的とする
【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️先行研究の課題
・InSARはLOS(衛星と地上の観測点を結ぶ「視線(ライン)」)方向のみの変位で、鉄道で最も重要な鉛直沈下が直接わからない
・沈下が起きた場所だけではその理由がわからず、改良の優先度や原因分析が難しい
◾️本研究のアプローチ
・上り(ascending)と下り(descending)のLOSを組み合わせて2.5D解析し、擬似鉛直を変位を算出する
・LULC(土地利用)データなどと重ね合わせ、沈下と土地条件の相関を定量化する
◾️主なデータセット
①SARデータ
・Sentinel-1A
・上り軌道:116シーン
・下り軌道:115シーン
・期間:2020年1月〜2023年10月
②DEM
・Copernicus DEM 30m
・地形成分の除去、ジオコーディングに使用
③LULC(土地利用)
・Sentinel-2(10m)
・沈下と土地利用の関係分析に使用
④地質マップ(USGS)
・沈下しやすい土質の特定に使用
⑤GPS(1地点)
・InSARの沈下トレンドが正しいかの比較に使用
【議論の内容・結果は?】
◾️LOS変位の結果
・Sentinel-1の上り(Ascending)・下り(Descending)軌道のLOS変位速度を推定した結果、鉄道沿線の変位はおおよそ−70〜+40 mm/年の範囲に分布していた
・負の値(青色)は地表が衛星から遠ざかる動き(沈下)、正の値(赤色)は衛星に近づく動き(隆起)を示す
・ヒストグラムから両軌道の分布はほぼ正規分布であり、平均速度は上りが−10mm/年、下りが−14 mm/年となっており、両データの傾向が一致しているため、鉄道盛土全体として沈下傾向にあると結論づけられる
◾️GPS観測点および現地調査による検証
・InSARのLOS変位を、近傍のGPS観測点のデータで検証した
・GPSの鉛直/水平速度をLOS方向へ投影した結果、InSARと同様に沈下傾向を示し、変位トレンドが一致した
・さらに現地調査で鉄道盛土を実見したところ、沈下速度が安定(−10 mm/年ほど)しているところでは盛土がなく、沈下大(> −20 mm/年)のところでは盛土高が5〜10mになっており、沈下速度の違いが「盛土高さ」や「地盤条件」と関係していることを確認できた
◾️2.5D解析による擬似鉛直変位
・鉄道全線での擬似鉛直変位速度は+40〜−80mm/年となっており、平均値は−16 mm/年であり、全体的に沈下傾向を示した
・沈下は中央部で局所的かつ不均一に発生しており、現地調査との観察結果とも概ね一致している
◾️点検・保守の優先度設定
・鉄道全線の擬似鉛直速度を3つの階級に区分(> −10 mm/年:安定、−10 〜 −20 mm/年:注意、< −20 mm/年:高リスク)した
・各階級のピクセル数は全体の約1/3ずつで、分布のばらつきを考慮した実用的なしきい値設定となっている
・本指標に基づき、沈下速度が−20mm/年以上の区間を「優先的に現地点検・補修を要するセクション」と定義した
※上記設定に対する定量的な検証までは行われていない
#InSAR #Sentinel1 #2.5D解析 #鉄道盛土 #地盤沈下 #LULC #点検優先度
A mining-area surface-subsidence prediction method based on SBAS-InSAR and STL-XGBoost
【どういう論文?】
・鉱物資源の採掘に伴う地表沈下は、建物倒壊や道路損傷などのリスクを伴う重要な問題である
・本研究では、SBAS-InSARで抽出した沈下時系列を用いて、STL(Seasonal-Trend decomposition using Loess)+XGBoostを統合したSTL-XGBoostモデルで将来沈下を予測する
【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️先行研究の課題
・従来の予測手法は、沈下の変化が常に一定のリズムで進むと仮定しているが、実際の地盤沈下は採掘状況や地下水の影響で加速と減速を繰り返すほか、季節(雨期・乾期)によっても変動する
◾️本研究のアプローチ
・本研究ではSTL(Seasonal-Trend decomposition using Loess)という時系列データを 「トレンド+季節性+残差」 に分けるための既存手法(アルゴリズム)を用いて、沈下データを長期的な傾向と季節的な揺らぎ、ランダムなノイズに分ける
・その上で、トレンドに関してはSTLで直接予測、残り(非トレンド)はXGBoostへ入力して予測する
◾️データセット
・使用衛星データ:Sentinel-1A(CバンドSAR)
・対象地域:中国 江西省萍郷(Pingxiang)市の主要炭鉱5地区
【議論の内容・結果は?】
◾️地盤沈下の空間分布可視化
・5鉱区すべてで明確な沈下域を確認することができ、長期的かつ広域的な沈下の把握に成功した
– 居園 − 47.6〜− 19.7 mm/年
– 青山 − 57.3〜− 20.6 mm/年
– 白源 − 56.6〜− 10.2 mm/年
– 高坑 − 51.8〜 + 16.2 mm/年(採掘・坑口周辺が中心)
– 安源 − 63 mm/年(最大、主要沈下中心)
◾️予測精度
・XGBoostと比較してMAEが31%減、RMSEは38%減を達成した
※MAEとRMSE・・・予測の誤差(どれくらい外れているか)を数値化する指標であり、値が低い方が高精度を意味する
・高精度範囲(誤差0–3 mmの範囲)も25%から52.6 %というまで向上し、大誤差(>9 mm)は約20〜30%減少した
◾️季節性の影響
・STLを用いて分解した季節成分を見ると、年間の変動幅は33.5mm(沈下が浅い時期と深い時期の差)となっており、5〜7月(雨期)は地下水が多く沈下が一時的に減速、12〜2月(乾期)は水分減少と地盤収縮により沈下が加速していることがわかった
◾️各成分の寄与
・トレンド成分(長期傾向)に関して、主効果は72.3%、全効果(他成分との相互作用を含む)は78.9%を占めており、モデルの予測性能を支配する主要因であることがわかった
・一方、季節成分の主効果は15.2%、全効果は19.8%であり、沈下の短期的変動に一定の寄与があることがわかった
・最後に、残差(ノイズ)成分の主効果は3.1%、全効果でも5.8%と極めて小さく、モデルの予測精度に与える影響は限定的であった
#STL分解 #トレンド成分 #季節成分 #残差成分 #地盤沈下予測 #採掘 #地下水
Seamless Reconstruction of MODIS Land Surface Temperature via Multi-Source Data Fusion and Multi-Stage Optimization
【どういう論文?】
・地表面温度(Land Surface Temperature: LST)は、都市の熱環境や蒸発散、土壌水分などの分析に利用する重要データであるが、光学衛星データゆえに雲の影響を強く受ける結果、データの欠測が日常的に発生している
・本研究は、MODIS LSTを日次で広域、かつ高精度で欠測なく再構成するフレームワークを構築し、物理的整合性と季節周期性、空間連続性を同時に担保しながら、昼夜や地域差(雲量・地形・土地被覆)の変動に対して頑健なアルゴリズムを提示する
【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️背景
・MODIS LSTの既存の欠測再構成は、どの方法にも決定的な弱点がある
・本研究では、それらの弱点を一つずつ順序立てて解消する設計を採用する
◾️課題とアプローチ
①物理整合性の崩れ
・従来の補間は「近い画素なら似ているはず」という距離ベースの考え方で、実際には 都市(高温)と森林(低温)、山地(低温)と平地(高温) が隣接していれば簡単に補完が破綻してしまう
・本研究では、土地被覆が一致し、標高差±100m以内の画素のみを使用する
②時系列の不連続への対処
・雲が何日も続くとMODISはその期間すべて欠測になり、LSTが本来持っている春 → 夏 → 秋 → 冬の周期的な曲線(季節リズム)が失われてしまう
・本研究では、HANTSという一年の温度の波形(季節リズム)を数式で再現したモデルを用いて欠測を埋める(曇天が数日~数週間続いても、季節トレンドを忠実に再現して時間的整合性を保つことができるようにする)
③空間パターンの復元
・上記②のHANTSだけではどこも似たような場所として扱われる結果、空間の細部や都市と農地の差などが消失してしまう
・本研究では、ランダムフォレストを用いて、植生・水分・反射率・標高などの特徴から、その場所の LSTを直接推定する
④Poisson融合で「RF の空間 + HANTS の時間」を矛盾なく統合
・②のHANTSと③のRFは別の特徴を持つため、両者の出力をそのまま合成すると農地と都市の境界などに不自然な段差やノイズが出てしまう
(RFが値、HANTSが時間変化を扱っているために、両者に矛盾する部分が発生する)
・本研究では、RF の「絶対値」とHANTS の「変化の仕方(勾配)」を組み合わせて、値はRF、変化パターンはHANTSというハイブリッド画像を作る
【議論の内容・結果は?】
◾️総論
・ほとんどすべての地域 / 時期で元データとの高い一致率(95%以上)、平均誤差も2℃以下という非常に高い精度で、失われた温度分布を再現することに成功した
※以下の図は昼夜それぞれの比較結果であり、CC(相関係数)は、元データと形がどれくらい似ているか(1に近いほど良い)、Biasは全体的に高め/低めにズレている量(0が理想
)、RMSEは平均的な誤差(小さいほど良い)という指標になる
・別衛星「Landsat」のデータと比較したところ、復元後のMODISデータの方が元のMODISよりもLandsatに近い温度分布を示した
・ただし、本手法の弱点として「地形や土地の変化が激しい場所は難しい」、「HANTS(時間方向の補間)が変化をなめらかにしすぎる」、「1km解像度で条件を揃えているため、都市の細かい温度構造(道路・公園・建物)は表現できず、解像度が粗いので誤差の一部は隠れてしまう」という点が挙げられている
・また、実際の地表温度(地上観測)とのズレはまだ評価されていない
#LST再構築 #空間補間 #ランダムフォレスト #HANTS #Poisson融合 #Landsat #MODIS
来月以降も「#MonthlySatDataNews」「#衛星論文」を続けていきますので、お楽しみに!

