HTV-X1が運んだ“旬の味”。レイトアクセス運用の進化と民間品質管理が支えた生鮮食品輸送【宇宙ビジネスニュース】
新型補給機HTV-X1が、生鮮食品とともに新しい輸送体制を実証しました。JAXAの運用改善に加え、民間主導の品質管理体制、その中でもファーマインド社の取り組みにも注目が集まります。
2025年10月31日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は新型宇宙ステーション補給機HTV-X1によって、生鮮食品を国際宇宙ステーション (ISS) に長期滞在中の宇宙飛行士へ届けたと発表しました。
宙畑メモ:HTV-X1とは
HTV-Xは、ISSへの物資輸送を担う日本の新型宇宙ステーション補給機で、従来の「こうのとり(HTV)」の後継機にあたります。その初号機がHTV-X1です。従来機の開発・運用実績をもとに輸送効率と柔軟性を高める設計が取り入れられており、将来的にはISS以外の宇宙施設への物資輸送も視野に入れられています。
今回のミッションでは、従来の「こうのとり」よりも打上げ直前までレイトアクセスが可能になったことで、より新鮮な生鮮食品をISSへ届けられるようになりました。また、生鮮食品の調達から除菌・梱包・輸送までを民間が一括で担う新しい体制が採用されています。
この体制のもと、民間施設で処理された生鮮食品が種子島宇宙センターでJAXAに引き渡され、HTV-X1に搭載されました。なかでも、りんごの処理を担当したファーマインド株式会社では、宇宙輸送要件に対応した品質管理工程が整備されるなど、技術的な進展が確認されています。
HTV-X1は10月26日に打上げられ、30日にISSへ到着しました。
宙畑メモ:レイトアクセスとは
レイトアクセスとは、ロケット打上げの直前に補給物資を最終的に搭載する作業工程のことです。食品や医薬品など、鮮度や温度管理が重要な物資は早く積むと劣化しやすいため、通常より遅いタイミングで搭載します。
今回レイトアクセスが大幅に進化できた背景には、HTV-Xの作業しやすい構造への刷新があります。HTV-Xは機体の構造がシンプルになり、各機器へのアクセス性が向上したことで、打上げ前の準備作業が効率化されました。その結果、レイトアクセスの締切を従来の約80時間前から24時間前まで遅らせることが可能になりました。
さらにJAXAは、レイトアクセス専用の治具を整備し、「打上げの前日でも安全に積み込めるか」を検証するデモも実施しています。こうした準備により、直前に生鮮食品を搭載しても確実に作業できる体制が整いました。
HTV-Xは従来機の経験を生かして輸送効率が高められており、温度管理が重要な物資の輸送にも配慮した設計となっています。また、将来的には月周回有人拠点「Gateway」への輸送にも活用が見込まれており、宇宙での生活を支える役割が広がりつつあります。
参考資料
今回搭載された生鮮食品は、りんご(ふじ)、トマト(ドキア)、和梨2種(王秋・新興)、温州みかん(日南1号)など旬の果物が中心です。
ファーマインド社は、青果物の流通や加工、パッケージングを行う企業で、国内に複数の加工・物流拠点を持ち、青果物の品質管理事業を展開しています。
工程を詳しく公表している同社では、りんご(ふじ)の除菌・梱包を自社施設で行いました。従来はこれらの工程をJAXA側で行っていたため、民間施設で宇宙輸送向けパッケージングを完結できた点は大きな変化といえます。また、今回のパッケージは温度変化や衝撃への耐性を備え、JAXAの輸送要件を満たしています。
これらは、民間企業による品質管理が宇宙輸送レベルに対応できることを示す成果です。同社にとっても、宇宙輸送への対応を通じて得られた知見は、今後の品質管理や高付加価値物流への応用に役立つ経験になると考えられます。
HTV-X1の輸送能力向上と、ファーマインド社による民間主導のパッケージングが組み合わさったことで、鮮度を維持した生鮮食品のISS輸送が実現しました。これは宇宙飛行士のQOL向上に貢献するだけでなく、民間企業の宇宙分野への参入が進みつつあることを示す事例ともいえます。

