宙畑 Sorabatake

探査

【月のあらゆる場所へ電力を届ける】FireflyとVoltaが月の裏側で「無線電力伝送」を実証する契約締結【宇宙ビジネスニュース】

FireflyはVoltaと提携し、月の裏側で無線電力伝送を実証する契約を締結。着陸船に受信機を搭載し、ケーブル不要で月面のあらゆる場所へ電力を届けるインフラ構築を目指します。

2025年12月10日、宇宙輸送を手がけるFirefly Aerospaceは、宇宙での無線電力伝送技術を開発するVolta Space Technologies(以下、Volta)と契約を締結したことを発表しました。

早ければ2026年後半に実現予定となる月の裏側を目指すミッション「Blue Ghost Mission 2」の着陸船に、Voltaの無線電力受信機を搭載し、月面電力網の実証を行います。この無線電力伝送技術により、ケーブル不要で、月面のあらゆる場所に安定して電力が供給されることが期待されています。

宙畑メモ:Blue Ghost Mission 2 
月の裏側への着陸を行い、ビッグバン後の宇宙の暗黒時代の観測を行うNASAの電波望遠鏡「LuSEE-Night」などを輸送。また、通信リレー衛星「Elytra」も同時に運用されます。

宙畑メモ:無線電力伝送とは

ケーブルなどを介さずに、遠隔で電力を伝送する技術のこと。スマートフォンなどの充電に使われる「電磁誘導方式」や、レーザーやマイクロ波を使って遠隔地に送る「放射方式」などがある。月面ではケーブルの敷設が困難であるため、ローバーへの給電や、日照のある場所からクレーターの影(永久影)への送電手段として期待されている。

Firefly Aerospace(以下、Firefly)は、小型ロケット「Alpha」や月着陸船「Blue Ghost」などを開発する宇宙輸送企業です。NASAの商業月輸送サービス(CLPS)の企業としても採択されており、月面への物資輸送において重要な役割を担っています。

宙畑メモ:商業月輸送サービス(CLPS : Commercial Lunar Payload Services)
NASAが民間企業に月面への物資輸送を委託するプログラム。NASA自身が着陸船を開発するのではなく、民間企業が提供する「輸送サービス」を購入する契約形態。競争原理によってコスト削減や開発スピードの向上を図る狙いがあります。

Voltaは、宇宙空間での無線電力伝送ネットワークの構築を目指す企業です。レーザーを用いた電力伝送技術によって、月面や軌道上の機器へエネルギーを供給する「LightGrid」構想を掲げています。

Fireflyの「Blue Ghost Mission 2」において、Voltaが開発した無線電力受信機「LightPort」の実証実験が行われます。最終的には、月を周回する軌道に衛星を配置して発電を行います。その電力をレーザーを介して、月面にあるLightPortへ届ける計画です。LightPortの仕様は以下の通りです。

Blue Ghost月着陸船に搭載されるLightPort Credit : Firefly / Volta

これまで多くの月面ミッションの活動期間は、着陸機やローバー自身が搭載するバッテリーや太陽電池パネルの発電量に依存していました。特に、月の夜は約14日間も続き、温度は-170℃近くまで下がり、この過酷な環境を乗り越えることが大きな課題でした。また、外部からケーブルで電源を供給する手法も検討されていますが、打ち上げ重量の増加や活動範囲が限定的である点など運用上の制約があります。

この無線電力伝送技術が確立すれば、将来的にはケーブルに頼らず、月面のあらゆる場所にエネルギーを供給できる電力インフラの実現が期待されます。

今回の提携によって、両社はそれぞれ以下のメリットを得られます。

1.Volta側のメリット:技術実証と飛行実績の獲得 
これまで地上で開発してきた受信機が、過酷な月面環境で正常に機能するかを確認できます。これは同社が目指す月面電力網実現のための重要なマイルストーンとなります。

2.Firefly側のメリット:着陸船の付加価値向上とインフラハブ化
着陸船が単なる「輸送手段」にとどまらず、ローバーや機器へ電力を配る「給電ステーション」としての機能を持てる可能性を示します。これにより、顧客(ペイロード)に対し、より長期間かつ柔軟なミッション提案が可能になります。

FireflyのCEOであるJason Kim氏は、次のようにコメントしています。

Voltaを2回目のBlue Ghostミッションに迎え、進行中の月面電力ユーティリティ開発におけるコアパートナーとして協力できることを誇りに思います。」

また、VoltaのCEOであるJustin Zipkin氏は今回の意義についてこう述べています。

この協力により、実際の月面環境で当社のLightPort受信機を実証することができ、月面に完全に統合された電力網(グリッド)を提供するという目標に一歩近づくことができます。」

「Blue Ghost Mission 2」は2026年後半の打ち上げを予定しており、地球からは観測ができない月の裏側にあるシュレーディンガー盆地への着陸を目指しています。ここは、直径が320kmにも及ぶ巨大なクレーターがあり、月の成り立ちや内部構造の謎を解くヒントがある場所として、研究者から注目を集めています。ここにはVoltaに加え、NASAの電波望遠鏡「LuSEE-Night」やESAの通信衛星など、計5カ国から6つのペイロードが搭載される予定です。

本ニュースを通して感じたのは、今、月面での活動はこれまでの「探査」から「開発・居住」のフェーズへ移行しようとしているということ。

月面のインフラを構築し、私たちが暮らしていくには、生命線となるエネルギーを安定して手に入れられるかが重要です。

月面基地は地球との通信が確立できる月の表側、特に太陽光を得やすい南極に建設されることが予定されています。一方で、前述の通り、月の裏側には宇宙や月の謎を解く、科学的な意義が高いと期待が寄せられています。

ケーブルが不要な無線給電は、月面基地だけでなく、月の裏側や月周回軌道など月の隅々まで活動拠点を増やす大きな原動力となることでしょう。

参考記事

関連記事

Share

衛生データに無料で触れる Tellusを試してみましょう 登録して使ってみる