3万の目で監視、データは無償提供。9,600機のStarlinkが支えるSpaceXの宇宙交通管理システム「Stargaze」【宇宙ビジネスニュース】
約9,600機のStarlinkを宇宙監視インフラに転用したSpaceX。新システム「Stargaze」のデータを無償提供し、民間主導の宇宙交通管理に挑みます。
2026年1月29日、SpaceXが宇宙状況把握(SSA)の新システム「Stargaze」を発表しました。同システムによる接近判定データは、今春から全ての衛星事業者に無償で提供される予定です。
宙畑メモ:宇宙状況把握 (SSA:Space Situational Awareness) とは
人工衛星やスペースデブリなどの宇宙物体の位置・軌道を把握し、衝突リスクを評価・管理する活動です。地球周回軌道には、地上から追跡可能な10cm以上のデブリだけで約2万個、1mm以上の微小なものを含めると1億個以上が存在するとされています。さらに、Starlinkだけでも約9,600機以上が稼働しています。SpaceXが最大100万機の「軌道上データセンター」構想も打ち出しました。軌道上の「交通量」は今後さらに急増する見込みであり、SSAの重要性が高まっています。
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リリースによると、Stargazeは従来の地上レーダーを用いたSSAシステムと比較して、検知能力が数桁向上するとしています。その仕組みの核となるのが、Starlink衛星に搭載されている総数約3万台のスタートラッカー(STT)です。
STTは本来、衛星が星の位置を観測することで自身の向き (姿勢) を把握するためのセンサであり、多くの人工衛星に搭載されています。
STTを活用した衛星の向き (姿勢) の把握フローを以下に示します。
注目すべきは、3)の「星表(恒星の位置情報を収録したデータベース)との照合」のプロセスです。SpaceXのリリースでは「continuous observations(継続的な観測)」と表現されています。これは姿勢決定と並行して、星表に適合しない点を抽出していると推測されます。星表に適合しない点とは、人工物体の可能性がある点です。この人工物体の位置や軌道に関する情報がSSAデータとなります。
つまり、姿勢決定と並行してSSA用データを取得する、既存機能の新たな活用と言えます。
もともと衛星搭載のSTTをSSAに活用するアイデア自体は、学術的に研究されてきており、専用SSA衛星を新規開発するよりも低コストなアプローチとして注目されていました。
そのようななか、約9,600機の衛星網に搭載された約3万台のSTTを実際にシステムとして運用し、データを業界全体に無償で提供するという取り組みは、SpaceXの規模があってこそ実現したものと言えます。Starlinkに通常搭載されているSTTをそのまま使用するため、大規模な機器改修なしに実現できるのです。
従来の地上レーダーによるSSAでは、1日あたりの観測回数が限られており、軌道予測の精度に課題があります。また、SpaceXによると、一般的に接近警報の生成には数時間を要するとのことです。
これに対しStargazeでは、約3万台のSTTによる継続的な観測で、1日あたり約3,000万件の通過データを取得します。これにより、接近警報の生成が数分で可能になりました。
ただし、STTには原理的な制約も存在します。一般的に、太陽や月、地球などの明るい天体が視野に入ると、星の識別が困難になり、その間は当該STTからのデータ取得に影響が出ます。
しかし、約3万台ものSTTが軌道上に分散配置されているため、特定のSTTが観測できない状況でも、他のSTTが同じ物体を捉えられる可能性が高いです。このように、システム全体としては継続的な監視を維持できる設計となっています。
すでにStargazeの有効性を示す事例も報告されています。
2025年末、あるStarlink衛星が他社衛星との接近を検知した際、当初は約9,000mの安全な距離が保たれていることを予測。しかし接近の5時間前、相手衛星が事前共有なく軌道変更を実施したため、予測距離が約60mまで縮小してしまいました。
Stargazeはこの挙動を迅速に検知し、1時間以内に回避軌道を計画・実行することで衝突を回避しています。従来のシステムでは対応が間に合わなかった可能性が高く、Stargazeの即応性が実証された形です。
SpaceXはStarlinkの軌道予測データを1時間ごとに更新・公開しており、全ての事業者にも同様の対応を求めています。航空機が位置と飛行計画を放送して衝突を回避するように、宇宙機の運用者も軌道予測を共有すべきだという考えです。
Stargazeは、Starlinkを活用した宇宙交通管理の課題を解決する新たなソリューションと言えます。既存の衛星資産と圧倒的な機数で技術的制約を補う、SpaceXならではのアプローチです。
取得したデータを全事業者に無償で提供し、民間主導で宇宙空間全体の安全な運用を推進しようとする同社の姿勢は、1983年の大韓航空機撃墜事件をきっかけとして、アメリカが民間機の安全な航行のため民間利用にGPSを開放する事を表明したことが思い出されます。宇宙の持続可能性に向けた大きな一歩と言えるでしょう。
参考記事
Stargaze: SpaceX’s Space Situational Awareness System

