三菱電機がPLD Spaceに約90億円出資、小型衛星の打上げ枠を優先確保。欧州ロケット企業はアジア進出の足がかりに【宇宙ビジネスニュース】
三菱電機がPLD Spaceに約90億円を出資した背景と協業内容を解説。小型打上げ市場でのPLD Spaceの立ち位置も紹介します。
2026年3月4日、スペインの小型ロケット打上げ企業PLD Spaceと三菱電機が、小型衛星の打上げサービスに関する協業を発表しました。
三菱電機はPLD SpaceのSeries Cラウンドにリードインベスターとして参加し、5000万ユーロ(約90億円)を出資しています。
PLD Spaceは2011年にスペイン・バレンシア州で設立されたロケット打上げ事業者です。
2023年10月にはサブオービタルロケット「MIURA 1」の打上げに成功し、欧州初の完全民間ロケット打上げを実現しました。現在は軌道投入用の「MIURA 5」を開発中で、2026年内の初飛行と2027年の商業ミッションの実施を予定しています。
宙畑メモ:サブオービタルロケットとは
宇宙空間(高度100km以上)に到達するものの、地球を周回する軌道には乗らず、弾道飛行で帰還するロケット。本格的な軌道投入ロケット開発に向けた技術実証などに用いられます。
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PLD Spaceのリリースによると、今回のSeries Cラウンドでは総額1億8000万ユーロが調達されました。
三菱電機のほか、スペイン科学・イノベーション・大学省傘下のCDTI、公的資金運用会社COFIDES、スペインのNazca Capitalなどが参加しています。同社の発表では、PLD Spaceはこれまでに3億5000万ユーロを超える資金を確保しています。
PLD Spaceはこの資金により、商業運用への移行と産業規模の拡大を推進するとのこと。生産・試験能力を拡充し、2030年までに年間30回超の打上げ体制構築を目指します。
今回の協業により、三菱電機はMIURA 5による小型衛星打上げサービスを優先的に獲得します。これにより、衛星コンステレーション構築に必要な打上げリソースを確保します。
一方PLD Spaceは、三菱電機との複数打上げ契約を通じて日本およびアジア地域への打上げサービス提供機会を得ることになります。
では、PLD Spaceは小型打上げ市場でどのような位置にいるのでしょうか。
PLD Spaceの立ち位置を把握するため、小型衛星向け打上げサービスを主力とする主要な民間企業6社を比較する表を作成しました。比較項目は飛行実績、政府資金・制度支援、民間資金調達、技術開発、量産設備、射場整備です。
なお、本表では、軌道投入用ロケットの開発を継続し、資金調達・製造拠点・射場整備の面で事業推進が確認できた企業を対象としました。ロックーン型など多様なアプローチも登場していますが、ここでは上記条件で比較しています。
宙畑メモ:VCLS(Venture Class Launch Services)とは
NASAが小型ロケットの商業打上げサービスを育成・調達するためのプログラム。新興打上げ企業に対し、CubeSat等の小型衛星打上げ機会を提供することで、米国の小型打上げ市場の発展を後押ししてきました。Rocket Labは2015年、Fireflyは2020年に本プログラムに選定されています。
宙畑メモ:PERTE Aerospaceとは
スペイン政府が2022年3月に承認した航空宇宙産業向けの戦略的復興支援制度。EUの復興基金を活用し、2021年から2025年にかけて約45億ユーロを動員する計画で、航空宇宙分野の技術開発や産業基盤強化を支援しています。PLD Spaceは2024年に本制度の支援対象に選定されました。
小型打上げ市場では、産業基盤の整備も競争力の重要な要素になっています。Rocket Labが打上げ実績に加え生産体制や複数射場を整備し、Fireflyも2026年3月のAlpha Flight 7成功を含め商業運用を拡大しています。産業基盤の整備が競争力の重要な要素になっています。
PLD Spaceの特徴は、MIURA 1の実証飛行成功を起点に、資金・制度支援・射場整備を一体で進めている点にあります。
同社はEuropean Launcher Challengeの選定やCNESとのKourou射場契約、オマーンへの拠点展開計画を通じて、商業運用に向けた供給基盤を整備しています。
宙畑メモ:European Launcher Challenge(ELC)とは
ESAが欧州の新興打上げ事業者を支援するプログラム。選定された企業に対し、機関打上げ契約や開発資金を提供することで、欧州の自立的宇宙アクセス能力の強化を目指しています。2025年にPLD SpaceはELCの5社の1つとして予備選定(preselected)されました。ESAのELC枠のうち、スペインがPLD Spaceに最大1億6900万ユーロ相当の支援を割り当てる方針を示しています。
つまりPLD Spaceは、ロケット開発と並行して、継続的な打上げサービスを支える体制づくりにも注力している企業と見ることができます。
表の通り、インターステラテクノロジズやAgnikul Cosmosも商業運用への移行を進めています。一方PLD Spaceは欧州の制度支援と民間資金を組み合わせ、複数射場を含む供給網整備を進めています。
今回の三菱電機の出資は、PLD Spaceの供給基盤強化に対し、日本企業が将来の打上げアクセス確保の観点から先回りして関与した動きである可能性があります。
三菱電機 常務執行役 防衛・宇宙システム事業本部長の佐藤智典氏は次のように意気込みを示しました。
「衛星の打ち上げサービスに関して、世界市場を見据えて挑戦する PLD Space と協業できることを嬉しく思います。PLD Space の打ち上げ能力と三菱電機の衛星事業の強みを組み合わせることにより、グローバル市場も含めたお客様の新たなニーズに対応できるよう取り組んでまいります」
PLD Spaceのエグゼクティブプレジデントのエゼキエル・サンチェス氏は次のようにコメントしました。
「MIURA 5は、市場において明確かつ拡大しつつある打ち上げ能力の不足に対応するために設計されたものであり、今回の資金調達は、商業運用への移行に向けた当社の体制強化を後押しするものです。これにより、拡大する世界中の顧客案件に対し、信頼性の高い宇宙へのアクセスを提供するために必要な産業基盤および打ち上げインフラの整備が加速します」
三菱電機は安全保障や防災向け衛星観測サービスの拡大を掲げており、衛星コンステレーション構築に欠かせない打上げリソースを海外パートナーとの連携でも補う形です。
PLD Spaceとしても、日本やアジア市場への足がかりを得ることで、欧州発の打上げ供給網をグローバルに広げる一歩となります。
小型打上げ市場では、飛行実績だけでなく量産体制・射場・資金調達力といった供給基盤の整備も競争軸になりつつあり、今回の提携はその動きを象徴するニュースといえるでしょう。
参考資料
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