SpaceX、宇宙向けAIチップを自社製造へ。Tesla・xAIと1テラワット規模の「TERAFAB」発表【宇宙ビジネスニュース】
AIチップの供給不足を背景に、イーロン・マスク氏率いる3社が半導体の自社製造に乗り出します。生産の8割以上が宇宙向けで、ロケット・衛星・通信に続く新たな競争軸が見えてきました。
2026年3月21日、Tesla、SpaceX、xAIは、独自の大規模な半導体製造施設「TERAFAB」の建設計画を発表しました。
SpaceXは再使用型ロケット「Falcon 9」や衛星インターネット「Starlink」を展開する宇宙企業です。Starlinkは稼働機数がすでに10,000機の大台を超え、世界最大の衛星群(コンステレーション)となっています。
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xAIは対話型AI「Grok」を開発する企業で、2025年にはSNSプラットフォーム「X」(旧Twitter)と統合しました。2026年2月にSpaceXが株式交換で買収。合算企業評価額は約1.25兆ドル(約190兆円)と報じられています。
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Teslaは電気自動車メーカーとして知られていますが、近年は自動運転技術「FSD(Full Self-Driving)」やヒューマノイドロボット「Optimus」の開発にも注力しています。イーロン・マスク氏はOptimusについて将来的に年間10億〜100億台規模の生産を目指すと述べており、TERAFABのチップ需要を牽引する存在として位置づけています。
TERAFABは単なる「半導体工場」にとどまりません。Optimusや自動運転車といった地上向けに加え、SpaceXが構想する宇宙向けAI計算を支える上流の供給基盤として注目されています。
背景にあるのは、AIデータセンター向け先端半導体の供給不足です。マスク氏によると、現在の世界全体のAI半導体の総出力は20ギガワットで、世界中の既存サプライヤーの生産能力を合わせても、3社が必要とする量の約2%に過ぎないとのこと。増産ペースでは追いつかないため、自社で製造基盤を確保する必要に迫られているといいます。
TERAFABの大きな特徴は、チップの設計から製造、テストまでを単一の建物内で完結させる「垂直統合型」の製造体制です。垂直統合型はIntelやSamsungなど大手半導体メーカーも採用している形態です。この体制により、設計→製造→テスト→改善を短期間で繰り返す「再帰的改善ループ」が可能になるとマスク氏は説明しています。
製造されるチップは2種類あります。1つはTesla車両やOptimusロボット向けのエッジ推論用チップ。もう1つは、宇宙放射線や極端な温度環境といった宇宙の過酷な環境に耐える高出力チップです。
宙畑メモ:エッジ推論とは
AIの処理をクラウドに送らず、車両やロボットなどの端末側で直接行う方式です。通信遅延なしに即座に判断できるため、自動運転のようなリアルタイム性が求められる用途に適しています。
マスク氏は演説で「大部分の計算能力は宇宙向けになる」と述べており、同氏が言及した生産規模に基づくと、8割以上が宇宙用途であると推測できます。
こうした宇宙向けチップの展開先として、月面にマスドライバー(電磁式射出装置)を建設する構想にも触れました。
「月にロケットは必要ない。地表から脱出速度まで直接加速できる」と述べ、「月面のマスドライバーを見届けるまで長生きしたい。信じられないほど壮大なものになる」と語りました。
SpaceXは公式発信の中でも、月面製造と電磁マスドライバーを組み合わせてAI衛星を深宇宙へ展開する将来像を示しています。
これまでSpaceXの主戦場は、打上げやStarlinkによる通信インフラでした。TERAFABは、その先にある「宇宙で計算する基盤」と、それを支える半導体供給網まで一気に押さえにいく動きです。
100万機規模の宇宙データセンター構想とあわせて、ロケット・衛星・通信にとどまらない新たな競争軸を切り拓くプロジェクトになるか、今後の展開から目が離せません。

