ispaceの月着陸船「ULTRA」、H3ロケットで2028年に打ち上げへ【宇宙ビジネスニュース】
月面開発を手がけるispaceと三菱重工業は7月29日、ispaceの新しい月面ランダー「ULTRA」を、H3ロケットで打ち上げる輸送サービス契約を締結したと発表しました。
月面開発を手がけるispaceと三菱重工業は7月29日、ispaceの新しい月面ランダー「ULTRA(ウルトラ)」を、H3ロケットで打ち上げる輸送サービス契約を締結したと発表しました。
ispaceのCEO・袴田武史さん(右) Credit : ispace
打ち上げは2028年を予定しており、ispaceにとって3回目の月面着陸への挑戦となるミッション3として実施されます。ispaceの過去2回の月ミッションでは、米SpaceXのFalcon 9ロケットが使われており、H3ロケットの利用は初めてです。
このミッションで使用されるH3ロケットは、主エンジン2基、固体ロケットブースター2本を搭載した「22形態」で、現時点では他衛星の相乗り打ち上げの予定はないということです。
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国産の月着陸船と、日本の大型基幹ロケットを組み合わせることで、打ち上げから月面輸送までを国内企業が担う体制の構築を目指します。両社は今回の契約を契機に、将来の月面インフラや関連技術でも協力を検討するとしています。
2028年の「ミッション3」、NASAのCLPS契約終了との関係は
ULTRAは、日本と米国の拠点で別々に開発されていたランダーを統合した新モデルです。高さは約3.6メートル、着陸脚を広げた状態の幅は約3.3メートル、燃料を積まない状態の重量は約1000キログラムで、最大数百kg規模のペイロードを輸送できます。
経済産業省のSBIR制度による上限120億円の補助金を活用して開発が進められていて、現在は構造モデルを使った試験が行われています。
ミッション3では、東京科学大学を代表機関とするチームが開発する月の水資源探査衛星「TSUKIMI」のほか、台湾宇宙庁の磁力計やマルチスペクトルカメラ、ispaceの欧州法人が開発する月面探査ローバー、JALUXの月面輸送ボックスなどを運ぶ予定です。
現時点での契約額は64億円。搭載枠にはまだ余裕があり、営業活動を続けているということです。
なお、今回のミッション3は、NASAの商業月面輸送サービスCLPSの契約が終了した旧ミッション3とは別のものです。米国拠点が開発していた旧ミッション3は、Team Draperの一員としてNASAのCLPSタスクオーダー「CP-12」に採択され、2027年の打ち上げを目指していました。しかし、搭載予定だったエンジンの開発遅延とランダーモデルの統合を受け、打ち上げを2030年に変更し、ミッション5に改称されました。
その後、2026年7月9日にNASAとドレイパーはCP-12契約を双方合意で終了しました。これに伴い、ispace-U.S.とドレイパーの再委託契約も終了する見込みです。ispace-U.S.は、NASAが計画する次世代の「CLPS2.0」で改めて提案を行う方針です。
ispaceは今後の打ち上げをH3ロケットに限定するわけではありません。ispaceによると、NASAのCLPSでは米国のロケットを使用することが前提となっているため、CLPSのミッションにはH3ロケットを使うことはできない見込みです。米国のミッションではFalcon 9やBlue Originのロケット、欧州ではAriane 6など、ミッションや顧客に合わせてロケットを選ぶ方針です。
経済合理性と技術面でH3ロケットを選定。背景に円安も
経済産業省のSBIR補助金を活用するミッション3をめぐっては、政府側から国産ロケットの利用を推奨する声もあったということです。しかし、ispaceのCEO・袴田武史さんは、国産であること自体を評価基準にしたわけではないと説明しました。
「当社(ispace)としては、経済的な面も含めて総合的に判断しました」「純粋に国産だからということが、評価基準にあったわけではありません」
その上で、技術的な信頼性や柔軟性、ispace側の要件を反映できることに加え、国内で製造したランダーを海外ではなく、種子島宇宙センターまで運ぶ際の利便性などを含めて、H3ロケットを選定したといいます。
袴田さんは、「結果的に国産ではありますので、今回のミッションを通じて、日本の国として月へのアクセスの自律性を確保できるような体制になったと考えております」と述べました。国産ロケットによる打ち上げは選定の前提ではなかったものの、国内で月への輸送手段を確保することは、ispaceが以前から目指していた構想でもあったということです。
ispaceのCTOを務める氏家亮さんは、H3ロケットを選んだ技術的な理由として、打ち上げ能力と打ち上げ時の環境、ランダーを搭載する際の柔軟性を挙げました。
ispaceの月面ランダーには、大きく張り出した着陸脚があります。そのため、一般的な人工衛星とは異なり、着陸脚があるため、接続部分をかさ上げするなどの調整が必要になる場合があります。氏家さんは、こうした特殊な要件に対して、三菱重工業が柔軟に対応したことも評価したと説明しました。
また、H3ロケットを使用するメリットとして振動条件の良さも挙がりました。ロケットは打ち上げ時に大きく振動します。振動が小さいほど、ランダーや搭載する観測機器などにかかる負担を抑えられます。H3ロケットの振動条件の良さは、ペイロードを預ける顧客にとっても利点になります。
今回の三菱重工業との契約額やSpaceXのFalcon 9との具体的な価格差は明らかにされませんでした。一方、袴田さんは、現在の為替相場も経済性の判断に影響したとしています。
「SpaceX社の価格は米ドルになりますので、円安の影響が現時点ではかなり大きく効いていたのは、実際問題としてあります」
商業打ち上げ拡大を目指すH3、三菱重工の意気込み
今回の契約の対象は、2028年に予定されているミッション3の1機です。ispaceの袴田武史さんは、今後H3ロケットの打ち上げ回数が増えれば、ispaceが希望する時期に打ち上げ枠を確保しやすくなり、H3を利用する機会も増える可能性があると話しました。
H3ロケットは、年間6機程度を安定して打ち上げることを目標に開発されました。三菱重工業は今後、年間8機以上、打ち上げられる体制の構築を目指しています。
三菱重工業 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部長の五十嵐巖さんは、記者からispaceのミッション3以降の月面ランダーの打ち上げ契約の方針について聞かれると、H3ロケットとULTRAによる最初のミッションを成功させ、実績を積み重ねることが重要だと意気込みました。
「まずは1機目を大成功させる。結局、世界中が見ているのは、『どれだけ(打ち上げが)成功したか』ということです。とにかく成功を積み重ねて信頼を勝ち取る。それがispaceの次のミッションにつながっていくと思います」
参考
ispaceと三菱重工、H3ロケットによる新ランダー「ULTRA」の打上げ輸送サービス契約を締結
ispace-U.S. と米ドレイパーによるNASA CP-12の契約に関して
ispace、日米ランダーを統合した新モデル「ULTRA(ウルトラ)」を発表 エンジン開発遅延およびランダーモデル変更により米国ミッションスケジュールを再設定

