【2026年7月】衛星データ利活用に関する論文とニュースをピックアップ!
2026年7月に公開された衛星データの利活用に関する論文の中でも宙畑編集部が気になったものをピックアップしました。
2026年7月に公開された衛星データの利活用に関する論文の中でも宙畑編集部が気になったものをピックアップしました。
・RRS-10K: A Multitask Vision-Language Model Benchmark for Rare Remote Sensing Image Interpretation
(希少シーンの衛星画像を視覚言語モデルがどこまで理解できるかを測るベンチマーク「RRS-10K」を構築する)・GeoSearcher: Anchor-Guided Progressive Reasoning for Remote Sensing Visual Grounding with Process Supervision
(衛星画像内の物体を探し出すタスクであるRSVG(Remote Sensing Visual Grounding)において、人間が「駅の隣のカフェ」と目印から場所を説明するのと同様に、まず目立つ参照物体(アンカー)を見つけてその周辺だけを探すという段階的推論をAIに教え込む2段階の追加学習を用いたフレームワークである「GeoSearcher」を提案する)・Fast Fourier Convolutional GAN for 30 m Clear-Sky Land Surface Temperature Gap-Free ReconstructionJournal: International Journal of Applied Earth Observation and Geoinformation
(雲によって大規模に欠損した30m解像度のLandsatの地表面温度画像を対象として、その上で、FFC(Fast Fourier Convolution、高速フーリエ畳み込み)ベースのGANとSAR等の補助データを組み合わせ、欠損率70%超のフルシーンでも晴天のLSTを復元する手法を提案する)
宙畑の連載「#MonthlySatDataNews」では、前月に公開された衛星データの利活用に関する論文やニュースをピックアップして紹介します。
実は、本記事を制作するために、これは!と思った論文やニュースをX(旧Twitter)上で「#MonthlySatDataNews」「#衛星論文」をつけて備忘録として宙畑編集部メンバーが投稿していました。宙畑読者のみなさまも是非ご参加いただけますと幸いです。
それではさっそく2026年7月の論文を紹介します。
RRS-10K: A Multitask Vision-Language Model Benchmark for Rare Remote Sensing Image Interpretation
【どういう論文?】
・本論文は、希少シーンの衛星画像を視覚言語モデル(VLM。画像を見て文章で答えられるAI)がどこまで理解できるかを測るベンチマーク「RRS-10K」を構築した論文である
【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️先行研究の課題
・希少シーンのデータは商用非公開か小規模となっており、希少シーンで推論まで扱う最も近い先行ベンチマークであるSAM-Dataでも300枚しかない
・既存テストの一部は公開データセットから流用されているため、AIが事前学習で答えを見てしまっているというデータリークの疑いがあり、スコアが実力より高く出ている可能性がある
・既存の問題は「何が写っているか」「いくつあるか」という表層的な設問が中心で、「この施設は何のためにあるか」「何が変化したか」といった高次の読解力を測ることができない
◾️本研究のアプローチ
①一次データの自前収集
・Google Earth、Maxar、Airbus、Planet Labsからサブメートル級(1ピクセルが1m未満)の高解像度画像を直接収集
・既存のQAデータ(画像に対する質問と正解のセット)を流用しないため、事前学習との重複によるスコア水増しを回避する
②正解データの作り方
・軍事施設の専門家が対象の特徴を記述し、公開軍事情報(Jane’s Defence Weekly等)で知識を補強したうえで、GPT-5.4が「質問・推論過程・回答」を下書きし、最後は必ず人間が検証と修正をするという分業で、規模と品質を両立する
・位置特定タスクに関しては、GPT-5.4の生成した説明文をプロンプトにGrounding DINOが枠(バウンディングボックス)を、SAM-3が輪郭(マスク)を自動生成し、人間が修正する
③ダミー選択肢の難易度調整
・4択問題の質はダミー選択肢(誤答)の質で決まるが、簡単すぎれば消去法で解けてしまい、紛らわしすぎれば理不尽な問題になる
・SDFS(Similarity-based Distractor Filtering Strategy)と呼ばれる、CLIP(画像と文章を同じ物差しの上に並べ、両者の内容がどれだけ近いかを数値化できるAI)で画像と選択肢の意味的な近さを採点し、近すぎず遠すぎない(ほどよく紛らわしい)中間帯からダミーを選ぶ仕組みを利用する
◾️テスト内容
①Perception(知覚)
・シーン理解と分類(発射場・訓練場・レーダー施設・港湾・兵舎・飛行場という6つの大分類、57サブ分類)、画像記述、物体の計数・存在判定・属性認識
・最難関はVisual Groundingであり、「右端の桟橋に停泊している艦」のような説明文から、その場所を画像上で正確に枠で囲めるかを問う
②Reasoning(推論)
・方角や距離、面積の推定(画像内のスケール情報を手がかりに実距離を計算)、施設の用途推定(兵站・火力・偵察・訓練のどれか)、時系列変化の読み取り
・「飛行場・訓練場・発射場」のように形は似ていて機能が違う施設を区別できるかが試される
③Robustness(頑健性)
・ノイズを乗せた画像、一部を隠した画像での安定性に加え、存在しない施設についての引っかけ質問に騙されることなく、ハルシネーション検出ができるかを測る
◾️モデル種類
・商用5種:GPT-5.4、GPT-4o、Claude Sonnet 4.6、Gemini-3-Flash、Grok-4.1
・オープンソース38種:Qwen系18、LLaVA系4、DeepSeek系4、Phi系3、GLM系2、MiniCPM系2、InternLM系2、PaddleOCR系2、VideoLLaMA系1
・輪郭切り出し専用モデル 9種:GeoPixel-Res、PaliGemma(224/448/896)、CLIPSeg(RD16/RD64/RD64-Refined)、FastSAM、GLaMM-RefSeg
◾️評価用20タスク
①Perception(知覚)
[画像全体をとらえる3タスク]
・SU(Scene Understanding/シーン理解):画像全体が発射場・訓練場・レーダー施設・港湾・兵舎・飛行場の6大分類のどれかを判定する
・SC(Scene Classification/シーン分類):さらに細かい57サブ分類(例:レーダーの型式)まで見分ける
・ID(Image Description/画像記述):画像の内容を自由記述で説明させ、正解文との意味的な近さで採点する
[個々の物体をとらえる4タスク]
・OC(Object Counting/計数):対象がいくつ写っているかを数える
・VG(Visual Grounding/位置特定):「右端の桟橋に停泊中の艦」といった説明文が指す場所を、画像上の座標(枠)で示す
・AR(Attribute Recognition/属性認識):色・形・外観といった、見たままの特徴を答える
・OE(Object Existence/存在判定):指定された対象が写っているか、いないかを判定する
②Reasoning(推論)
[幾何・空間の5タスク]
・API(Absolute Position Inference/絶対位置推論):滑走路や橋などが東西南北のどちらを向いているかを答える
・ASI(Absolute Spatial Inference/絶対空間推論):ある対象が別の対象の北側にあるか、といった絶対方位での位置関係を答える
・RSI(Relative Spatial Inference/相対空間推論):「左」「右上」など、画像内での相対的な位置関係を答える
・DC(Distance Calculation/距離計算):画像内のスケール手がかりから、実際の長さ・間隔・直径を推定する
・AC(Area Calculation/面積計算):同じく、施設や領域の実際の面積を推定する
[機能の2タスク]
・UI(Usage Inference/用途推論):その施設が何のために使われているか(兵站支援・火力打撃・偵察・訓練など)を推論する
・AI(Attribute Inference/属性推論):民生用か軍事用か軍民両用か、といった意味的な属性を推論する
[時間の2タスク]
・TAI(Temporal Attribute Inference/時間属性推論):季節や植生の状態など、いつ撮影されたかを示す手がかりを読み取る
・CI(Change Identification/変化識別):複数時期の画像を比べ、対象の出現・移動・構造変化を見つけ出す
③Robustness(頑健性)
・NR(Noise Robustness/ノイズ頑健性):ノイズを乗せた画像でも正答を維持できるか
・OR(Occlusion Robustness/遮蔽頑健性):画像の一部をランダムに隠しても正答できるか
・HD(Hallucination Detection/ハルシネーション検出):存在しない施設についての引っかけ質問に「ない」と答えられるか
【議論の内容・結果は?】
◾️結果概要
・全体首位はGemini-3-Flash(平均71.43%)であり、2位のQwen3-VL-235B-Instruct(69.63%)がGPT-4o(69.60%)を僅差で上回り、オープンソースのAIが商用モデルと肩を並べていることがわかる(ただし43モデル平均は52.06%に留まる)
◾️画像レベル理解(ILU)
・画像記述(ID)は43モデル平均88.04%、スコア幅も75.68〜90.89%と知覚(Perception)の全タスク中で最も狭く、ある程度の粗い記述能力はすでに横並びとなっている
・シーン理解(SU)81.66%、シーン分類(SC)87.85%(いずれもGemini-3-Flash)と、6大分類、57サブ分類とも全て高水準である
・上記を踏まえると、粗い記述能力(ID)はすでに横並びで差がつきにくい一方、細粒度のシーン分類(SC)は依然としてモデルの実力差を映す指標として機能しいると言える
◾️物体レベル認識(OLR)・ピクセルレベル分割
・Visual Grounding(VG)はGPT-5.4の49.89%が最高で、2位のClaude Sonnet 4.6は25.80%、GPT-4oは14.93%であり、多くのオープンソースモデルは0%近辺(43モデル平均4.67%)となった
・参照表現セグメンテーション(RRSIS)も9モデル平均mIoU 14.49、最良のGeoPixel-Resでも35.04に留まる
※mIoUとは、AIが塗った領域と正解領域の重なりを0〜100で表す指標。100なら完全一致
・言語記述と画像領域の対応づけ(vision-language alignment)が、細粒度になった途端に破綻することがわかった
③機能評価推論・時空間発展推論
・属性推論(民生・軍事・軍民両用の判別)は最高96.80%(Phi3-Vision)と容易な一方、用途推論(兵站支援・火力打撃・偵察・訓練の判別)は最高66.74%・平均28.43%まで落ち込んだ
・時間軸でも同様に、(視覚的)変化識別は最高94.43%と高いが、時間属性推論(TAI/季節・植生など撮影時期の手がかりの読み取り)は平均37.73%となった
・視覚的な手がかりの認識から、文脈に基づく意味(環境変化)の推論へ移った途端に性能が落ちる
④頑健性
・ハルシネーション検出は最高99.35%(Qwen系)であり、存在しない施設への誘導質問はほぼ確実に棄却されている
・一方、ノイズ頑健性は平均53.94%、遮蔽頑健性は平均56.10%まで低下した
◾️本研究の革新性
・希少シーン初の体系的ベンチマークを先行研究の約35倍(300枚→10,738枚)で構築し、一次データ収集によりデータリークを排除
・3能力×20タスクの階層分解により、「どこまでできて、どこから崩れるか」をタスク単位で特定可能にした
・希少シーンにおいてオープンソースモデルが商用モデルと同等以上になり得ることを52モデルの実測で示した
・なお、本評価はゼロショット性能(ベンチマーク用の追加学習をせず、既製のモデルにそのまま解かせる評価)に限定されている。論文が挙げる今後の課題は、センサモダリティの拡大・時系列設定の充実・実世界の希少シーン応用の多様化である
#VLM #視覚言語モデル #RRS10K #希少シーン解釈 #リモートセンシングベンチマーク #VisualGrounding #SDFS #ハルシネーション検出 #ゼロショット評価 #軍事施設監視
GeoSearcher: Anchor-Guided Progressive Reasoning for Remote Sensing Visual Grounding with Process Supervision
【どういう論文?】
・本論文は、衛星画像内の物体を探し出すタスクであるRSVG(Remote Sensing Visual Grounding)を対象とする。人間が「駅の隣のカフェ」と目印から場所を説明するのと同様に、まず目立つ参照物体(アンカー)を見つけてその周辺だけを探すという段階的推論をAIに教え込む2段階の追加学習を用いたフレームワークである「GeoSearcher」を提案する
・4Bパラメータの小型モデルで3つの主要ベンチマークすべての最高性能を更新し、特にシーンが広く記述が複雑であるOPT-RSVGでは従来の手法を27.9ポイント上回る81.2%を達成。ベースのQwen3VL-4B単体(43.2%)からの改善はすべて後訓練(事前学習済みモデルに後から施す追加学習。ここでは前述の2段階がこれにあたる)の設計から生まれている
【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️前提
・衛星画像は1枚で広い地理範囲を覆っているため、「上方の飛行機の左にある白い車両」のように、絶対位置と相対位置、大きさ比較や色などの手がかりを重ねた複合文によって対象を指定する必要がある
◾️先行研究の課題
①一発予測の不安定さ
・GeoChatやGeoGroundなど既存のMLLM(Multimodal Large Language Model、画像と言語を扱う大規模AIモデル)ベース手法は、画像と指示文を一括で読み込み、対象の座標を1ステップで直接出力するが、対象が大きく手がかりも単純な場合を除いて、予測が不安定になりやすい
②推論過程の不安定さ
・推論機能を持つ既存の手法も、途中の思考をテキストとして書き出すだけとなっており、参照物体が画像のどこにあるかを確認する仕組みがない
③報酬設計の偏り
・既存手法における精度を高める報酬は最終座標の正誤のみで設計されており、正しい手順を踏まずにまぐれで当たってしまうような学習を起こしてしまっている
◾️本研究のアプローチ
・上記の課題に対し、①探索の段階化、②アンカーによる座標レベルの接地、③プロセスを評価する報酬、という3つの設計で対応する
・課題①に対して、「粗い位置で候補領域を絞る → 参照物体を特定 → その周辺の局所領域のみを探索 → 対象を決定」という段階的推論に分解し、微小物体の特定は最終段階の狭い領域内でのみ行う。あわせて、単純な指示では中間推論を省略する使い分け(クエリ適応型グラウンディング)も学習させる
・課題②に対して、参照物体を特定した時点で、その座標を特殊トークン “ で明示的に出力させ、本アンカーにより参照物体への言及と画像上の位置が座標レベルで結びつきを行、以降の探索をアンカー周辺に拘束させる
①Stage 1: ACR-SFT(アンカー中心推論の教師ありファインチューニング)
・アンカー入りの推論軌跡(複雑な指示)とアンカー無しの推論軌跡(単純な指示)を混ぜた教師データでQwen3VL-4Bをファインチューニングし、段階的推論の型と使い分けを同時に注入する
・また、生成モデルは座標を出力末尾に書く傾向があるが、末尾の座標は後続推論の手がかりとして機能しないため、参照物体が推論文中に最初に登場した直後へアンカーを挿入し、「参照物体の認識 → 座標の確定 → 周辺探索」という順序を保証する(Context-Aligned Insertion)
②Stage 2: PF-GRPO
・GRPO(複数の生成結果をグループ内の相対的な報酬で学習する強化学習手法)に、課題③へ対応する2つの要素を加える
・1つはPAR(Process-Aware Reward)であり、 最終座標の精度に加えて参照物体の接地精度も報酬に含める
・もう1つはRISS(Reasoning-Informative Sample Selector)であり、各訓練標本の期待報酬を小型の価値モデルで予測し、報酬が飽和した標本(常に成功・常に失敗)を避けて中間帯の標本を優先的に選択する
◾️評価指標
・Pr@0.5(IoU > 0.5の割合)等に加え、推論過程の質を測る新指標を導入した
・Faithful@0.5は参照・対象の双方を正しく特定した割合(高いほど良い)、Shortcut@0.5は参照を誤ったまま対象のみ正解した割合(低いほど良い)となる
【議論の内容・結果は?】
◾️検証結果の概要
・3ベンチマークすべてで汎用MLLM・リモートセンシング特化MLLM・推論特化MLLMの全カテゴリを上回り、探索空間が広く記述が複雑な設定ほど差が拡大した
◾️詳細
①3ベンチマークでの定量比較
・Pr@0.5はDIOR-RSVGで83.2%(従来最高のGeoGround比+5.5ポイント)、OPT-RSVGで81.2%(同+27.9ポイント)、VRS-Benchで80.3%(同+14.3ポイント)となった
・ベースのQwen3VL-4B単体は50.7%/43.2%/56.1%であり、性能向上はすべて今回の後訓練に帰属すると考えられる
・シーンが広いOPT-RSVGでの最大差は探索領域の段階的絞り込みの効果を、記述が複雑なVRS-Benchでの大差は複数手がかりの統合能力の向上を示す
②推論過程の質的比較
・「左側の船の右にある」という指示に対し、比較手法の予測は参照物体の右下方向にずれ、相対位置制約を解決できていないが、GeoSearcherは参照物体を接地したうえで右側領域のみを探索して正解できている
・推論特化モデルGLM-4.1V-9B-Thinkingも長い推論文を生成するが、参照物体に言及するのみで位置を確定しないため条件を満たさない(改善の要因は推論文の長さではなく参照物体の接地にあると考えられる)
◾️限界
・現状は単一の参照物体のみを扱う設計であり、複数の参照物体を組み合わせた指示への拡張は将来の課題とされている
◾️本研究の革新性
・1ステップの座標生成から、参照物体の座標を明示的に接地して探索領域を段階的に絞り込む推論を可能にした
・また、4Bパラメータのモデルで3ベンチマーク首位となり、最難関のOPT-RSVGでは従来最高比+27.9ポイントの81.2%に到達し、ベースモデルから約2倍(43.2%→81.2%)に改善した
#RSVG #リモートセンシング視覚グラウンディング #MLLM #マルチモーダル大規模言語モデル #GRPO #強化学習 #プロセス報酬 #段階的推論 #アンカー誘導 #Qwen3VL #DIORRSVG #OPTRSVG #VRSBench #RemoteCLIP #小物体検出
Fast Fourier Convolutional GAN for 30 m Clear-Sky Land Surface Temperature Gap-Free ReconstructionJournal: International Journal of Applied Earth Observation and Geoinformation
【どういう論文?】
・本論文は、雲によって大規模に欠損した30m解像度のLandsatの地表面温度(LST:Land Surface Temperature)画像を対象とする。その上で、FFC(Fast Fourier Convolution、高速フーリエ畳み込み)ベースのGANとSAR等の補助データを組み合わせ、欠損率70%超のフルシーン(Landsatが1回の観測で撮る、地上約185×180km、30m解像度で約6000×6000ピクセルの範囲)でも晴天のLSTを復元する手法を提案する
【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️前提知識
・LSTは地表と大気のエネルギー交換を支配する基礎的な物理量であり、都市のヒートアイランド監視、干ばつの早期検出、山火事検知など幅広い分野で利用されている
・都市の建物ブロック単位の熱環境を解析するには100m以下の高解像度データが必要だが、熱赤外センサーは雲を透過できず、地球表面の約67%は常時雲に覆われているため、深刻なデータ欠損が生じることが多い
◾️先行研究の課題
①中解像度データへの偏り
・既存のLST復元研究の大半は1km解像度のMODISデイリープロダクトを対象としており、30m解像度のLandsatを直接復元する研究は少ない
・Landsatは単機で16日(Landsat-8/9併用で約8日)の再訪間隔しかなく、雲汚染と組み合わさると時間ギャップが巨大になり、センサー自身の過去データだけでの復元が極めて困難になる
②融合手法と補助データ誘導手法の制約
・例えば、既存の低解像度/高頻度のMODISと高解像度/低頻度のLandsatを融合する手法は、両者が同じ地点の同じ温度を測っていることを前提にするが、実際には温度の算出アルゴリズム、観測角度、観測時刻が異なるため、同じ地点でも温度値が常に同じ方向に食い違う放射量的な系統バイアス(偶然のばらつきではなく打ち消し合わない一定方向のズレ)が生じ、その解消にはセンサー間の相互較正という煩雑な作業が必要になる
・雲なしNDVI(正規化植生指数)で誘導する手法は、雲被覆が70%を超えると信頼性が大幅に低下し、そもそも雲なしNDVIの入手自体が制約となる
・また、SARとDEM(数値標高モデル)を使うXGBoostベースのSDX-LSTという手法は70%超の欠損にも対応するが、樹木・草地・作物など植生域専用に設計されており、都市・水域・裸地は欠損扱いになったり、訓練サンプル(数km範囲)から離れた場所ほど精度が低下するため、フルシーン規模の広域欠損では性能が保証されないという問題がある
・上記で注意したいのは、本課題の本質が補助データで誘導する方針そのものではなく、(1)補助データ自体が雲に弱い光学データである、(2)雲に強いSARを選んでもピクセル単位の回帰で空間文脈を見ないモデルでは植生以外の土地被覆や広域への外挿(多様なケース)に対応できないということである
③深層学習手法のデータ依存と受容野の限界
・CNNベースのSAPC2は約250万組の時間的に隣接する晴天画像ペアを必要とし、持続的な雲天下では適用できない
・RGB航空写真から熱マップを生成する条件付きGAN手法は、晴天RGB入力を前提とする
・さらに根本的な問題として、標準的な畳み込みの受容野は局所的であり、広大な欠損領域を埋めるために必要な長距離の空間的依存関係を捉えることが難しい
◾️本研究のアプローチ
・自然画像の欠損部分を周囲と違和感なく埋める「インペインティング(画像修復)」の代表的アーキテクチャで、特に大面積の欠損に強いことで知られる「LaMa」をLSTデータ向けに改造し、物理的に意味のある補助データをマルチチャンネル入力として統合したMultimodal FFC-GANを構築する
※GANとは「復元画像を作る生成器」と「本物の観測画像と復元画像を見分けようとする識別器」の2つのネットワークを競わせ、生成器が識別器を騙せるレベルまで復元品質を引き上げる学習のフレームワークである
①FFCによる画像全体の受容野(課題③への対応)
・まず、受容野とは、出力のあるピクセルの値を計算する際にネットワークが参照できる入力画像上の範囲のことである
・通常の畳み込み(3×3カーネル等)は層を重ねても受容野が少しずつしか広がらないため、広大な欠損の中心部では、手がかりとなる晴天ピクセルが受容野の外に出てしまい参照できない
・そこで、生成器は画像を段階的に縮小しながら特徴を抽出するエンコーダーと、元の解像度へ復元するデコーダーからなるU-Net型構造とし、最も圧縮された中間部(ボトルネック)に(今回の主要コンポーネントである)9つのFFC残差ブロックを配置する
・FFCは局所的な細部を担当する通常の畳み込みと、高速フーリエ変換(FFT)で画像を「さまざまな周期の波の重ね合わせ」として表現し直してから畳み込む役割として機能し、1つの成分が画像全体に広がる波に対応するため、そこでの畳み込みは1層目から自動的に256×256タイル全体を見渡す演算になる
・上記により、遠く離れた晴天領域で観測できている地形・土地被覆と温度の対応関係を手がかりに、広大な雲欠損領域内の温度を推定できる
②雲の影響を受けない補助データによる物理的誘導(課題②への対応)
・補助データで誘導する路線自体は従来の手法から継承し、その上で課題②の2つの行き詰まりを、データ選定(雲に強く全球で揃うものだけを利用する)からアプローチする
・入力は以下に示す一覧の通りである
・全てに対してLSTチャンネルのみをマスク(欠損扱いに)し、雲の影響を受けない補助データは常に完全な状態で入力することで、生成器から見ると「温度は歯抜けだが、土地利用・地形・レーダー観測は全域そろっている」状態を作り上げる
③フルシーン復元のためのウェーブ・インペインティング
・6000×6000ピクセルのフルシーンは256×256タイル(128ピクセルストライド、50%オーバーラップ)のスライディングウィンドウで処理する
・有効データの多いタイルから順に復元し、復元済みの結果を隣接タイルの文脈情報として再利用することで、有効データの境界から内側へ波のように復元を伝播させる
・有効データ5%未満のタイルはスキップし、低信頼度の推定を防ぐ
◾️データセット
①Landsat 8/9 地表面温度(訓練・評価の主データ)
・ドイツのバイエルン州の185×180km領域(ミュンヘン等の都市部、農地、森林、アルプス前縁の複雑地形を含む)を対象に、2013年1月〜2025年5月の196シーンを使用する
②補助誘導データ(すべて公開データ)
・ESA WorldCover土地被覆(10m、9クラス)、Copernicus NDVI(300m、10日毎)、DEM由来の標高・傾斜・斜面方位、観測ごとに計算するヒルシェード、Sentinel-1 SAR(GRD、VV/VH偏波)
【議論の内容・結果は?】
◾️検証の枠組み
・晴天シーン19枚(雲被覆1%未満、2015-2024年)に欠損率30-70%の人工雲マスクをかけて復元させ、隠す前の実測値とピクセル単位で照合する
・指標はRMSE(復元温度を平均何K外したか。温度差の1Kは1℃と同じ幅)を採用
・無難な中間温度ばかり当てるモデルを見抜くため、シーン内の温度を低い順に4等分した温度帯ごと(Q1=低温側25%〜Q4=高温側25%)にも採点する
◾️主要な結果
①精度:誤差はおおむね1K前後
・フル構成(21チャンネルインプット)では大半のテストケースでシーン平均誤差が0.8-1.8Kに収束
・しかも低温域Q1から都市ヒートアイランドを含む高温域Q4まで一貫しており、中間温度だけ当てて極端を外す挙動になっていない
②補助データの効果:植生域の精度が約2倍
・土地被覆+日付だけのベースラインは、農地・森林内部の温度ムラと高温域Q4で誤差が大きい
・SAR・地形等を足すごとに誤差もばらつきも縮小し、フル融合が全温度帯で最良であった
・予測と正解の一致度R²(1に近いほど一致)は、ベースライン対フル融合比較で、農地0.346→0.736、森林0.613→0.851へと向上した
③スケール:77%欠損のフルシーンを復元
・6000×6000ピクセルのシーン全体(77%欠損)をギャップフリー化することに成功した
◾️ベースライン3手法との比較
・同じ補助データと採点方法で4手法を比較した結果の順位は以下の通りとなった
– 1位 FFC-GAN(提案):全温度帯で誤差・ばらつきとも最小
– 2位 SwinUNet-GAN:提案に肉薄するが外れ値が多く誤差レンジが広い(FFCの画像全体受容野がTransformerのセルフアテンションを上回ったと考えて良い)
– 3位 オリジナルLaMa:Q1-Q3は健闘するが高温域Q4で大きく崩れる
– 4位 XGBoost(SDX-LST):全温度帯で最下位であった(同じデータを与えてもフルシーン規模の空間ギャップを外挿(多様データへの対応)できない)
#LandsatLST #地表面温度 #FastFourierConvolution #FFC #GAN #インペインティング #LaMa #Sentinel1SAR #雲除去 #ギャップフィリング #都市ヒートアイランド #マルチモーダル融合
来月も「#MonthlySatDataNews」「#衛星論文」を続けていきますので、お楽しみに!

