衛星データで漁場を探して、実際に釣りに行ってみようvol.1 ~データ確認編~
衛星データで漁場を探して実際に海釣りに行ってみたい! そんな宙畑編集部の願いを叶えてくれる助っ人を「Tellus Satellite Boot Camp」で見つけました。
衛星データ解析をして、実際に実地調査に行きたい!
そのような思いを持っていた宙畑編集部の前に現れたのは、衛星データx機械学習トレーニングイベント「Tellus Satellite Boot Camp」にて、深層学習コンペで見事2位の実績を収めた元村さん。
聞くと、海のリモセンに詳しくて、現在は海運会社にお勤めとのこと。ということで、衛星データ解析をして漁場を見つけ実際に釣りに行こう!という記事執筆をしていただきました。本記事はその第一弾です。
(1)魚を釣りに海に出たい! でも……
こんにちは、元村です。私は道具から入るタイプですが、今回のお話を頂いて少し調べてみると釣りの道具ってけっこう費用がかかることが分かりました……。ひとまず今回は道具の前に「何処で釣れるのか」について考えてみたいと思います。海の物理は学生時代に勉強していたので多少知っているものの、魚や釣りに関しては全くの素人です。さて、何処から手をつければいいのか。。。
いろいろと調べているなかで、「魚は海にまんべんなくいるのではなく、特定の場所に集まっている」という話を某海のプロに聞いたのを思い出しました。仕事柄、海のプロと話す機会はこれまでも沢山ありました。そこで、まずは魚がそもそもどんな生物なのか、そしてどんなところに集まっているものなのかを調べてみることにしました。
(2)魚は潮境にいる! 水温と漁場の関係を知る
魚と漁場の関係について、いくつか参考になる情報を発見しました。
山口県環境保険センターの記事によると、産卵・孵化・成魚等の成長過程で好む水温が異なるようです。
例えば、イワナは産卵期には7度前後を好みますが、成魚になると0.5度から16.8度の幅で適水温が変わるようです。
鹿児島大学の論文によると、淡水魚では0.01度〜0.05度の温度変化を感じることができるそうです。人間も昼と夜の気温変化で「夜になると冷えるな」のように当たり前に体感していますが、、0.05度の違いは流石に感じられません。それだけ魚は水温に敏感な生き物なのですね。
では、水温さえわかれば漁場を把握することができるのでしょうか。もしそうであれば、広大なエリアが漁場になってしまいます。なので、魚の生態についてもう少しだけ調べてみました。
海洋研究開発機構(JAMSTEC) 黒潮ウォッチによると、漁場は水温変化の激しい「潮境」に分布する傾向があるそうです。そして、人工衛星からその潮境の位置を見つけることで好漁場を予測するということがしばしばおこなわれているとのこと。
この「潮境」は、「水温(海洋)フロント」や「潮目」とも呼ばれています。下図で見てみると、「↑」の箇所は暖流である黒潮と寒流である親潮の影響によって水温が急激に変化する場所を示しています。
漁業者の知り合いの方に話を聞いたところ、船に搭載している水温計と潮流計は魚群探知機と同じくらいよく見るとおっしゃっていました。前述の通り衛星でも水温は観測出来ますが、船舶の水温計とはどの様な違いがあるのでしょうか。この違いを表に簡単にまとめました。
表 衛星データと船で測る水温の違い
センサ | 広域性 | 分解能 | 鉛直観測 |
衛星による水温観測 | ○
(kmオーダーの超広域) |
数百m以上 | ☓
基本的に海面のみの観測 |
船舶の水温計による観測 | ☓
(船がいる場所のみ) |
ピンポイント | ○
鉛直方向の水温も観測出来る |
衛星は広範囲を観測できるのですが、その分比較的粗いデータしか取得できません。一方船舶は、ピンポイントの観測になりますが、衛星には観測出来ない鉛直方向の水温も観測可能で、これ以上ない細かなレベルのデータが得られます。しかし当然ですが船で行かないと観測出来ません。
衛星は海面のみの比較的粗いデータしか取得できないものの、現地に行かなくても水温がわかるセンサということです。すなわち、衛星は漁場の”アタリ”をつけるにはとても有用なセンサだと言えるでしょう。
以上のことから、今回は魚の生息域に非常に重要な水温を観測する衛星データを使って漁場を探してみることにします。
(3)水温を観測できる衛星は72機
水温を観測出来る衛星は何機あるのでしょうか。WMO(World Metrological Organization)OSCAR(Observing Systems Capability Analysis and Review Tool)のGap analyses by variable or by type of missionで調べてみました。
Select a variableには今回の目的のOcean -> Sea Surface Temperatureを選択します。
すると、ページ下部にリストが表示されます。このリストはヘッダー(InstrumentやSatellite等のカラム名が表示されているところ)をクリックすると、リストの順番を好きなように変更出来ます。ここでは2019年を選択しました。
Gap analyses by variable or by type of mission操作
今回はこのリスト上で2019年時点で運用されている衛星をカウントしてみたところ72機ありました(同じ衛星の複数のセンサで海面水温を観測できる場合は1機としてカウントしています) 。思っていたよりも遥かに多くて驚きました。
(ALOS-2のCIRCが入っていたりと、より精査する必要もありそうではありますが、) ともかく素直にカウントすると72機という結果になりました。データの取得しやすさ等も考えると実際使える衛星 はもう少し減りそうです。
この72機のなかに、衛星として日本一有名な衛星ひまわりがあります。ひまわりはニュースでよくみる雲の画像だけではなく、意外と色々なデータを提供してくれていて海面水温も観測出来ます。
ひまわりの海面水温は空間分解能2kmで少し荒めですが、10分毎という驚きの頻度で観測出来ます。通常、衛星による海面水温観測はせいぜい一日一回程度の観測になるので、どれだけ高頻度かお分かりいただけるかと思います。
私が知る限りでは漁業者がよく見ている衛星の水温データは 衛星AquaやGCOM-W(しずく)等に搭載されているMODISやAMSRというセンサによる海面水温の観測データです。
茨城県水産試験場や岩手県水産技術センターでは衛星による水温観測データを独自に公開しています。特にAMSRはマイクロ波放射計という種類のセンサで、光学センサと異なり雲の下の水温を昼夜問わず観測することが出来るセンサです。
最近まで水温のデータは、光学のMODISが1km空間分解能 、雲の下も観測できる という感じでしたが、2017年に打ち上げられたGCOM-C(しきさい)の光学センサSGLIによって250mという高い空間分解能で海面水温を観測出来るセンサが登場しました。これにより、さらに細かく水温データを把握出来るようになりました。
今回ご紹介した代表的な水温を得られる衛星を表にまとめると以下のようになります。
表 水温プロダクト(データ)がある衛星例
衛星名 | センサ名 | センサタイプ | 空間分解能例 |
GCOM-C
(しきさい) |
SGLI | 光学センサ | 250m |
Terra | MODIS | 光学センサ | 1km(L2) |
Aqua | |||
ひまわり | AHI | 光学センサ | 2km |
GCOM-W
(しずく) |
AMSR2 | マイクロ波放射計 | 50km |
(4)次回予告! 衛星データの取得方法
GCOM-Cのデータは2018年12月20日から提供が開始されていることもあり、私もあまり触ったことがない、まさに出来たてホヤホヤのデータです。今までの衛星データと比べてどれくらい細かく観測出来る様になったのか、次回は実際にデータを取得して確認してみたいと思います。そしてGCOM-C等のデータを使って、釣り素人の私でも足を運べる沿岸の漁場を探してみようと思います。