宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

AIによるビッグデータ活用で30分後のタクシーの需要が予測できる!

気象情報や人口統計データを用いた、タクシーの配車予測が始まっていると聞きつけた宙畑編集部。どうやって実現しているのか、そして実際に成果が上がっているのか……詳細を伺ってきました。

飲み会で盛り上がり、いつのまにか終電が終わってしまった! 一晩中飲み明かすのも疲れるし、やっぱり家に帰っていつもの枕で寝たい……そんなとき、夜の繁華街から自宅の玄関まで送り届けてくれるタクシーという便利な乗り物。

でも、タクシーっていざ使いたいと思ったときに、すぐに空車を見つけられないこともありますよね。タクシードライバーの方も、今タクシーを利用したいと思っている人がどこにいるのかをリアルタイムに知りたいといつも思っていることでしょう。

そんな、タクシーの需要と供給をマッチングする課題を、NTTドコモが「AIタクシー」というサービスで解決しようとしているとの話を聞きつけた宙畑編集部。どうやら衛星データプラットフォーム「Tellus」にも搭載されるような地理空間データを組み合わせているようです。

AIタクシーとはどのようなサービスで、どうやって実現しているのか、そして実際に成果が上がっているのか。株式会社NTTドコモ 法人ビジネス本部 IoTビジネス部 先進ビジネス推進 ビジネス推進担当の鈴木和成氏にお話を伺ってみました。

ぜひ以下のポイントにご注目ください。

データ活用記事読解9つのポイント
1.解決したい課題は何か
2.どのようにして課題を解決できるのか(仮説)
3.課題に紐づくのはどのようなデータか
4.各データをどのように組み合わせているのか(モデル化)
5.データの粒度をどのように設定するのか
6.データからどのような示唆を得ているか
7.どのように検証するか
8.検討したモデルを応用して他の課題を解決できないか
9.データ活用を通して、私達の生活がどのように変わるのか

― AI タクシーとはどのようなサービスなのでしょうか。

鈴木氏 AIタクシーはドコモの携帯電話ネットワークの仕組みから得られるリアルタイムの人口統計情報、タクシー運行データ、気象データ等のさまざまなビッグデータを活用し、500メートル四方で区切られたエリアに対して、30分後までのタクシー利用台数を10分ごとに予測して提供するサービスです。500メートル四方の需要予測値に加え、100メートル四方で乗客獲得確率の高いエリアが分かり、道路のどちらの側から乗車するのかまで予測します。さらに、普段よりも人口の多い500メートル四方エリアの情報を提供します。

その情報をリアルタイムでタクシードライバーが参照することで、どの場所に行けばタクシー乗車の需要があるのか、すなわち利用者が空車を待っていそうかが分かるのです。

人の流れをリアルタイムに把握するので、電車の遅延やイベントなどの非日常的な乗車需要増にも対応できます。これによってタクシー利用者は、乗りたいと思ったときに、すぐタクシーが捕まえられると感じるでしょう。

AIタクシーによる画面の表示例。Aは営業区域内500メートル四方のエリアごとの、タクシー乗車台数の予測値。Bは乗客獲得確率の高い100メートル四方のエリアの情報。Cは乗客獲得確率の高い進行方向。Dは普段よりも人口が多い500メートル四方のエリア情報 Credit : NTTドコモ

― それは助かります。雨の日や寒い日でも、タクシーを捕まえるために外で長時間待つことがなくなるかもしれませんね。タクシードライバーにとってのメリットも大きそうです。

鈴木氏 これまで、個々のドライバーの勘と経験に頼っていた走行から、全ドライバーの勘と経験を加えることで未来の移動需要が見える化されます。これによって、どこを走っていいのか分からない新人のタクシードライバーでも利用者を捕まえやすくなったという声をいただいています。タクシー会社様から、ドライバー不足が課題という声を聞くことがあります。タクシー業界で働いてみたいと思う人がいても、お客さんを捕まえられるのか不安だという人が多いようです。そういった人たちにタクシーの需要が可視化できるAIタクシーの導入をアピールできれば、この会社なら安心して働けると感じてもらえるでしょう。

ベテランのタクシードライバーであっても、担当する地域の状況を全て把握しているわけではないと聞くことがあります。利用者の目的地によっては、全く知らない場所に行くことだってあります。そのような場合でも、AIタクシーなら広域なタクシーの需要予測をリアルタイムに把握できるのです。

― なるほど。新人だけでなくベテランのタクシードライバーが活用しても、いろいろと効果があるんですね。実際にAIタクシーの活用で、売上が上がった例などもあるんですか。

鈴木氏 2016年12月から4カ月間、都内のタクシー会社で行ったフィールド実証では、AIタクシーを利用した実証実験参加者(タクシードライバー)が、4か月という期間で売上が平均して1人1日あたり1409円の売上アップに繋がったという結果が出ています。

新人のタクシードライバーに限っては、1カ月間の比較ですが、AIタクシーを利用した実証実験参加者は1人1日あたり3115円の売上アップが見られました。

お話を伺ったNTTドコモの鈴木氏

― しっかり実績が上がっているんですね。AIタクシーはどのようなデータを利用して、タクシー需要を予測しているのでしょうか。

鈴木氏 ドコモには、約7600万回線のユーザーが利用している携帯電話ネットワークの仕組みを利用して、全国エリアで人の分布や流れを把握する「近未来人数予測」という人口統計データがあります。このデータに加えて、建物や店舗などの周辺施設データ、さらに気象データなどのビッグデータを利用します。

そこに乗降場所や日時などに関するタクシー運行データを組み合わせて、タクシー需要の予測モデルを作成します。さらに、過去のデータだけでは未来を予測するのは難しいので、直近のデータも入力できるような機能をプラスして、未来のタクシー需要をAIが算出しているのです。

タクシーの需要予測を実現するリアルタイム移動需要予測技術 Credit : NTTドコモ

それらのデータを統合して解析する課程で、どのような傾向が見えてきたのでしょうか。

鈴木氏 例えばタクシーの乗車率データを比較した場合、オフィス街の場合は人が集まっている時間帯にタクシーの需要がリンクしています。一方で繁華街の場合、人が集まり始めても、そこから飲み会に行ったり食事をしたりして、終電がなくなる前後のタイミングでタクシーの需要が増えていることが分かっています。

すなわち、人の動きが分かれば、そこからどれだけ経つとタクシー需要が発生するかが分かります。気象データについても、雨が降ると至る所で需要が出てくることが分かりました。AIタクシーではこの動きをリアルタイムに解析して、タクシーの需要を予測するのです。

経験を積んだタクシードライバーならば、こういった日常的なタクシー需要の予測に関してはある程度推測できるでしょう。ですが普段走行しないエリアなど、広域の情報を収集することは難しいと思います。また、テレビ番組などで取り上げられたことで突発的に人が集まっているような場所は、そこに行かないと気がつかないでしょう。

AIタクシーでは、日常的な人の動きだけでなく、不定期で非日常的なイベントが開催されたときにも、リアルタイムにその場所に何人くらい人がいるのかが把握できるので、精度が高いタクシー需要の予測が可能になるのです。

―イベント会場周辺など、不定期に人が集まるところは予測が難しそうですが。

鈴木氏 人流に関する過去のデータを分析したところ、同じ場所、同じ時間でもイベントの種類によってタクシーの乗車傾向が違うことが分かってきました。

例えば球場などの多目的スタジアムでは、プロ野球の試合の他にも国内外のアーティストのコンサートや女性アイドルのイベントなどが開催されます。これらのイベントが開催された日の人口とタクシー乗車数のデータを比較してみると、会場周辺にいる人数はプロ野球の公式戦の方が少ないのですが、タクシー乗車数は女性アイドルのライブイベントよりも多いという傾向が分かりました。

日常における人の流れとタクシー利用の関係

なぜそういった傾向を示すのかを分析したところ、これら2つのイベントに関しては集まっている人の属性が大きく異なっていました。すなわち、プロ野球の試合を観戦しにきた人と女性アイドルを応援しにきた人の年齢を比較すると、前者の方が年齢層が高いのです。これは仮説ではありますが、恐らく年齢が高い人は野球の応援で疲れたからタクシーで帰ろうと考えるんでしょう。一方でアイドルイベントに参加した20代の人たちはイベント終了後もまだ元気だし、タクシーを使う人が少ないのかもしれません。

―それは、なんとかく分かる気がします。他にもイベントの種類によっていろんなパターンがありそうですね。

鈴木氏 イベントの種類によっては、必ずしも終了後すぐに人が移動するとは限らない場合もあります。

例えば、成人式のイベントなどは終了後も会場に滞留して、久しぶりに会う同級生などを探してから、これからどこかに行こうかなどと相談が始まったりします。そういった場合でも、会場付近に今どのくらいの人がいて、その人口に変化がなければまだタクシーの需要はなく、人が減っていく傾向が見え始めたらタクシー需要が発生していると予測できます。

例として挙げた成人式のタクシー需要

―近未来人数予測で全国エリアの人口統計データがあるならば、AIタクシーの活用は地方にも広がっていきそうですね。

鈴木氏 AIタクシーの提供パターンは2つあります。配車システムベンダー様が配車システムの1機能としてAIタクシーを活用した情報を配信するパターンと、タクシー事業者様が直接AIタクシーの機能を搭載したシステムを開発する場合があります。

そのような提供パターンによって、AIタクシーの導入は全国的に広がっていこうとしています。例えば熊本のタクシー事業者は、サービス向上ためにAIタクシーを導入いただきました。利用者に迅速に配車できたり、新人のタクシードライバーでも安心して仕事ができる環境作りをしたことで、タクシードライバーへの応募者が増えたそうです。

特に地方でのケースというわけでもないのですが、タクシーが駅で利用者を乗せて自宅まで行った場合、通常、ドライバーは大きな道を通ってまた駅に戻ってくることが多いと聞いています。でも需要予測を知っていれば、需要が見込まれる場所を経由してから、駅に戻ろうと考えることができます。

―今後、AIタクシーのような需要予測データの活用はどのように展開されると考えておられるでしょうか。

鈴木氏 すでに、AI運行バスへの移動需要予測技術の適用を進めています。AI運行バスとは既存のタクシーと路線バスの中間的な乗り物で、利用者のニーズがあればそこに車両が向かいます。そのようにして複数人で乗り合うのですが、目的地に向かう途中でさらに利用者を拾っていくので、利用者を届ける順番もリアルタイムに変化します。

こういった新しい形態のモビリティでも、利用者の移動需要が予測できれば、呼ばれる前に先回りできます。すると、利用者からすれば、呼べばすぐに来てくれたと感じ、運行の効率化だけでなくサービス満足度の向上にも繋がるでしょう。

AI運行バスは九州大学では「aimo(アイモ)」というサービス名称で、2019年4月1日から商用サービスの提供を開始しました。東京ドーム約57個分という広大なキャンパスの中で、時刻表や運行ダイヤは設定されず、バス停のみが設置されて利用者はスマホを使ってバスを予約します。

日本におけるMaaS(Mobility as a Service)の取り組みの1つは、既存交通システムの高度化であると考えています。そこでは、移動需要予測技術をさまざまなモビリティやデータと連携させることが、過疎化が進む地方における社会課題の解決にもつながっていくのではと思います。

 

【宙畑編集後記】

今回取材した「AIタクシー」では、地理空間データを用いることで、既存ビジネスの売上を上げるだけでなく、利用者の利便性も向上していました。

タクシーに乗りたい人がどこにいるのか、AIタクシーで主に利用しているのは、「人口統計データ」「タクシー運行データ」「気象データ」の3つ。

他にも利用しているデータはあるそうですが、皆さんならば、タクシーに乗りたい人を探すのに、他にどのようなデータが使いますか?

データの種類のみならず、人口を数えるエリアの大きさや、その予測時間も、どの単位で切り取るかによって予測精度が変わってくるようです。予測精度向上は、実証を繰り返すことで最適な単位を決め、上げていったとのことでした。

つまり、自身が有する課題を解決するために、

1.どのようなデータを用いるか
2.データをどのように組み合わせるか
3.データの時間・空間精度はどうするか
4.結果をどのように解釈するか
5.実証した結果をどう反映するか

の5つのステップを踏むことが大切なことが分かりました。

そして、何よりも、

1.ビジネスを展開する側の視点としては、1つの課題を解決して満足するのではなく、今回のバス運行最適化への応用のように、結果をどのように応用するか?ということもデータを効率よく利用する上で重要

2.ユーザ視点では、データが使われることで、生活が便利になる可能性がある

ということが分かったインタビューでした。

今回ご紹介した「人口統計データ(過去の実績値)」と「気象データ」は、Tellusでもサンプルデータを利用いただくことが可能です。「施設データ」も、自治体によってはオープンデータで公開しています。

これらのデータを用いて、AIタクシーがどのような仕組みになっているのか、実際に試してみませんか?

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