宙畑 Sorabatake

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水推進機構で軌道上サービスに挑むMomentusが資金調達に成功!【週刊宇宙ビジネスニュース 7/15〜7/21】

一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを厳選してお届けする連載「週刊宇宙ビジネスニュース」は毎週月曜日更新!

MomentusがシリーズAラウンドでの資金調達に成功

7/17に、ロシア出身のシリアルアントレプレナーであるMikhail Kokoric氏が立ち上げた宇宙ベンチャー企業のMomentusが、シリーズAの資金調達を実施しました。

Prime Movers Labが主導した今回の資金長調達の総額は25.5億円であり、合計9組織が関わる資金調達ラウンドとなっています。Momentusは2018年11月14日にシードラウンドで約8.3億円の資金調達を実施しているため、当社の合計の調達額は約34億円となりました。

Momentus社が開発する、500~1000kgクラスの宇宙機搭載向け推進システム Credit : Momentus

化学推進に代わる水推進機構

Momentusが目指すのは、水とマイクロ波を使用する推進システムです。
この推進システムでは、推進剤である水をマイクロ波で超高温まで加熱させます。そしてプラズマを生成させ、高速水蒸気の流れを宇宙空間に排出することで推進力を生む機構となっています。

このように水を用いた推進機構は理論としては昔から議論されていましたが、Momentusはプラズマ状態の水分子がチャンバーの壁やノズルにより気化してしまうという課題を解決する事に成功していると発表しています。

Momentusの開発する推進機構の仕組み Credit : Momentus

Momentusは、最終的には月往復や小惑星往復などの深宇宙へ航行できる大型の推進システムの実装を目指しています。

そのビジョンの最初の段階として、低軌道から静止軌道への小型衛星の遷移を可能とするVigoride・Vigoride Extendedの開発に注力しています。今回調達に成功した資金も、それらの宇宙機の開発に充てる予定と発表しています。

昨今の宇宙産業のボトルネックは宇宙輸送であり、そのボトルネックを解消させるために小型ロケットや再使用ロケットなどの手段を用いて多くのプレイヤーがしのぎを削っています。しかし、ロケットで低軌道までペイロードを運び、そこから更に高い軌道までは水推進で移動させるというのは、新しい手法です。

推力の大きさだけの比較だと化学推進に軍配が上がりますが、水系の推進機構は取り扱いの容易さや射場作業も楽というメリットがあります。また、水は小惑星や月面に大量に存在する可能性が高いため、現地での推進剤調達も可能です。今後技術が確立されれば、利用が普及される可能性は高いと思われます。

今後、宇宙産業のボトルネックである宇宙輸送産業を様々なプレイヤーが多様性溢れる手段で解決していく事で、軌道上サービスや深宇宙探査などの宇宙ビジネス経済圏が更に広がっていく事が期待されており、今後も目が離せません。

地上の携帯電話を衛星電話へ

今週は宇宙ベンチャーへの投資のニュースが複数あり、輸送系だけでなく衛星サービスの企業への資金調達のニュースもありました。

7/17に衛星通信のベンチャー企業であるUbiquitiLinkが、シードラウンドで約5.2億円の資金調達を実施しました。UbiquitiLinkは、NanoRacksの共同創業者であるCharles Millerによって2016年に創業されました。

UbiquitiLink提供システムの概念図 Credit : UbiquitiLink

衛星通信というと、小型衛星のコンステレーション網を完成させて地球上の通信を改善させる事がよく知られています。著名な宇宙ベンチャー企業であるOneWebやO3bは、この手法を採用しています。しかしUbiquitiLinkは少し異なる手法で地球上の通信を改善させようとしています。UbiquitiLinkは通信衛星技術全体の中の、地上部分に着目しています。

Miller氏によると、地球上に既に何十億もの携帯電話があるが、スマートフォンを始めとする携帯端末のインターネット接続を享受できているのはその10%にすぎないとのことです。
そこでUbiquitiLinkは、携帯電話端末に新しいハードウェアとソフトウェアの組み合わせを装備し、基本的な通信機能を実現させる事を目指しています。

UbiquitiLinkが打ち上げた実験機器 Credit : UbiquitiLink

UbiquitiLinkは、今年の2月にNorthrop Grumman Cygnusロケットでプロトタイプのペイロード(試験機器とか実験機器)を打ち上げ、ISSの宇宙飛行士により技術実証実験を5日間実施しています。今年の2月にバルセロナで開催されたMobile World Congress 2019にてMiller氏は、「我々は現在軌道上で2Gをテストしています、そして我々は今年後半に2回目の打ち上げでLTEをテストする予定です。」と発言しており、技術実証実験は成功しているようです。

今回調達に成功した資金は、2020年春に打ち上げられる衛星の開発に充てられるとの事です。

また、UbiquitiLinkは既に21の携帯電話事業者を含む28の組織とパートナーシップを結んでいます。Miller氏によると、これらのパートナーは合計で11億人の携帯端末ネットワーク加入者にサービスを提供しているのことです。技術開発と並行してサービスをスケールさせる環境構築も進めています。

上記2社の他に、衛星に付与するトランシーバーを開発している
Comtech Telecommunicationsは、アメリカ軍から”Rapid innovation funding”として約4.2億円の資金を獲得しました。このように、アメリカでは軍事組織が宇宙ベンチャーに資金投資する例も増えてきています。

次々と新しい宇宙ベンチャーが現れ、資金調達を成功させています。古株の宇宙ベンチャーも新規の宇宙ベンチャーに先を越される事も今後は増えてくるでしょう。宇宙ベンチャーへの過熱投資に警鐘をならす人も散見されていまが、今後も新規の宇宙ベンチャーの登場には目が離せません。

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