宙畑 Sorabatake

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SpaceXがStarhopperの飛行試験に成功!【週刊宇宙ビジネスニュース 8/26〜9/1】

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SpaceX社、火星行きロケットの開発に一歩前進

SpaceX社は、2019年8月27日 18:02にテキサス州ブラウンズビルの打ち上げパッド(発射台)から小型ロケット”Starship Hopper vehicle”(通称:Starhopper)の2回目の飛行試験を実施し、無事に成功しました。Starhopperは、SpaceX社が現在開発している新型ロケットBFR(Big Falcon Rocket)の第2段ロケット”Starship”の開発試験機です。

もともと今回の飛行試験は8月26日に実施予定でしたが、点火機のトラブルで打ち上げ直前に延期となっていました。その後1日でトラブルを修正し、今回の飛行試験の成功に繋げたかたちとなります。

飛翔中のStarhopper Credit : SpaceX

Starhopperは今回の飛行試験において、約150メートル上空まで飛翔し約1分後に打ち上げパッド(発射台)から少し離れた位置に着陸しました。Starhopperには、ラプターエンジンと呼ばれる最新型のロケットエンジンが1機搭載されています。ラプターエンジンは、現在SpaceX社のFalcon 9ロケットで使用されているマーリンエンジンと異なり、燃料に液体メタン・酸化剤に液体酸素を用いるロケットエンジンです。

既に運用実績が豊富なマーリンエンジンではなく、新たなラプターエンジンをSpaceX社が開発している理由としては、メタンであれば火星に豊富に存在する二酸化炭素から燃料を生成可能である点があげられます。

今回のStarhopperの試験飛行は成功ですが、SpaceX社は今後Starhopperの試験飛行を行う予定はなく、Starship Mark1・Starship Mark2という新たな試験機の開発に移る予定です。これらの試験機の詳細についてはまだ発表されていませんが、3~6機のラプターエンジンを搭載する予定になっています。Elon氏は、Starship Mark1の試験飛行は早ければ今年の秋頃に実施できると発言しています。

将来的にStarshipが火星に着陸する予定であるとのElon氏のtweet Credit : Elon Musk氏のTwitter

SpaceX社が開発している最新超大型ロケットBFR(Big Falcon Rocket)の第2段となるStarshipが火星に着陸する日はいつになるのでしょうか。今後の開発に注目です。

SpaceX社、小型衛星の相乗り価格を引き下げ

引き続き、SpaceX社のニュースです。

同社が8月28日に新たに発表した最新の小型衛星の相乗りプログラムによると、2020年3月以降は、200kg以下の小型衛星に関しては100万ドル(およそ1億円)の費用で相乗り打ち上げの機会を提供するとのことです。これは、小型衛星に向けた相乗り打ち上げサービスを発表してから1か月も経たないうちに価格を引き下げることになります。

SpaceXのWebサイトは、2020年3月から2021年12月の期間において、29回の相乗り打ち上げが可能であると掲載されています。これのうちの7つは太陽同期軌道(SSO)への軌道投入と記載されています。

この価格の引き下げにより、SpaceX社と小型ロケットベンチャーとの競争はより熾烈になりそうです。

電気推進ベンチャーがシリーズAの資金調達に成功

8月28日に、小型衛星向けの電気推進エンジンを開発するOrbion Space Technologyが、920万$(およそ9億円)のシリーズAの資金調達を実施したことを発表しました。

今回の資金調達はMaterial Impactがリードインベスターとなり、他にはInvest Michigan、Invest Detroit、Wakestream Ventures、Ann Arbor Spark、Boomerang Catapultがラウンドに参加しました。

電気推進エンジンというと、JAXAが開発した探査機はやぶさや、超低高度衛星つばめ(Slats)に搭載されているイオンエンジンが有名ですが、Orbion Space Technologyが開発しているAuroraエンジンは、ホールスラスタと呼ばれる電気推進機構になります。イオンエンジンと比べて推進効率(燃費)は劣りますが、推力密度は非常に高いのがホールスラスタの特徴です。

Auroraエンジン Credit : Orbion Space Technology

イオンエンジンにおいては+のイオンを噴き出しますが、プラズマ工学の原則の一つである”空間電荷制限則”というものが存在するため、イオンエンジンから噴き出すイオンの密度には限界が存在し、それがイオンエンジンの推進効率の限界に直結します。

しかしホールスラスタでは、推進機構の軸方向に電界を印加し半径方向に磁場を印加させる事でE×B ドリフト運動が発生し、この運動によりホール電流が流れ推進機構内部における電場が準中性に保持されることで、空間電荷制限則を超えた推力密度を生み出すことが可能になります。

ホールスラスタの原理概図 Credit : 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 小紫・小泉研究室

イオンエンジンは、様々な電気推進機構の中で高い比推力(※)を得る事が可能であり、動作寿命も長い値を実現しています。
※比推力:推力性能を評価する代表的な指標。推進剤の質量流量に対する推力の大きさ。

一方ホールスラスタは、イオンエンジンと比較して一桁程度大きい推力密度を得る事が可能です。そのため、同じ推力が必要な場合、イオンエンジンと比較してホールスラスタは推進機構を小型軽量化させる事が可能です。また、推力電力比(一定の電力で生み出すことができる推力)もホールスラスタの方が高くなっています。

したがって一般的に、深宇宙探査のように長期的な運用が必要かつ大きな推力が必要なミッションにはイオンエンジンが適しています。また、使用可能な電力が限られており搭載重量にも限りがある超小型衛星への搭載にはホールスラスタが適しています。

 

しかし、電気推進ベンチャーも競合が多数存在しており、2018年11月に実際に衛星にイオンエンジン納品し正常な動作を確認しており、総額1550万$の資金調達にも成功しているAccion Systems、インドの宇宙ベンチャーであるBellatrix Aerospace、今年の5月にNASA JPLとのライセンス契約を締結したApollo Fusionなど、今後も競争の激化は進むと見られています。

このような潮流の中で、Orbion Space Technology CEOのBrad King氏は、競合に対する同社の強みは、製造オペレーションであると述べています。彼は、戦術ミサイルの製造現場で採用されているロボットやその他の高度な製造技術を参考に、注文を受けてから6〜8日で最終的にAuroraエンジンを製造して出荷することを目指していると発言しています。

また、明確な顧客の名前を明かす事は避けましたが、同社は既に商用および政府の顧客を獲得済みで、2020年の第3四半期の顧客への納入を目指しているとも述べています。

宇宙産業の中での輸送において小型ロケット界の競争が熾烈になっていますが、今後は電気推進界の動向にも注目です。

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