宙畑 Sorabatake

解析ノートブック

衛星データで漁場を探して、実際に釣りに行ってみようvol.3 ~データ解析編~

衛星データを使って魚が釣れる漁場を見つけたい宙畑編集部。これまで2回にわたって、衛星データの基礎知識と解析の1歩手前までを記事化いたしました。今回はいよいよ釣れるスポットを探す解析編です。

元村さんに協力いただき、衛星データを使って魚が釣れる漁場を見つけたい宙畑編集部。これまで2回にわたって、衛星データの基礎知識と解析の1歩手前までを記事化いたしました。

※詳細は「衛星データで漁場を探して、実際に釣りに行ってみようvol.1 ~データ確認編~」「衛星データで漁場を探して、実際に釣りに行ってみようvol.2 ~データ取得編~」を参照

今回は前回取得した衛星GCOM-C海面水温データから、本気で釣りにいくつもりで漁場っぽい場所を実際に探してもらいました。

1. おさらい

そもそも水温と漁場の関係はどのような関係だったか振り返ってみます。

第一弾の記事でお伝えした通り、海洋研究開発機構(JAMSTEC) 黒潮ウォッチによると、漁場は水温変化の激しい「潮境」に分布する傾向があるそうです。

また、「データ7割・直感3割!? 漁業の“普通”を変える衛星データ利用ビジネス最前線」の中で北海道大学の齊藤先生が「温度差が大きい潮目には魚が集まりやすい」と語っています。このことから海面水温差の大きい境界の海域を狙う方が良さそうです。

2. GCOM-Cの海面水温画像を確認する

第二弾の記事で取得した2019年4月4日の海面水温(図1)をもう一度確認してみます。図1の中で、温度差が大きい潮目は赤から青に急激に変化している海域です。陸に近いエリア以外だと、浦賀水道のあたりと三浦半島の南側に潮目がありそうです。ちなみに黄色の点は、本記事の中で釣りに行く際に使う港の位置です。

図1 GCOM-C海面水温(2019年4月4日)

3. GCOM-C海面水温画像上の潮目だけに注目する

図2に示す黄色のラインのところが潮境になりそうです。このように目で確認して判断をし、釣りに行ってもよさそうですが、できる限り定量的に評価して、一番強い潮目のエリアに行きましょう。

図2 GCOM-C海面水温(2019年4月4日)の潮目

そこで、QGISの傾斜(slope)ツールを使って一番温度勾配の大きいところを見やすくしてみます。QGISを起動して、ラスタ>解析>傾斜を選択します。

傾斜ツールを起動すると図3のようなウィンドウが開くので、GCOM-C海面水温画像を選択します。「水平に対する垂直単位の比率」はより水温の変化を強調して確認したいので10000を入力しました。この値は水平方向に対して傾斜をどれくらい強調するかという係数で、物理的な意味はありません。設定が終わったら実行します。実行するとQGIS上で結果が表示され、保存できるようになります。

図3 QGISの傾斜ツール

このツールは元々数値標高モデル(Digital Elevation Model, DEM)用なので、出力はこの設定だと0〜90度の傾斜で出力されます。この傾斜値が大きいほど、温度勾配の大きい潮目ということになります。出力した結果(図4)を見てみましょう。

図4 GCOM-C海面水温(2019年4月4日)の潮目

図4は傾斜がわかりやすい様に色付けした結果です。緑と赤の海域が、特に温度勾配の大きい潮目です。特に大きな温度勾配の海域を狙う今回は、基本的に赤エリアだけを考えれば良さそうです。

4. 漁場エリアの選定

温度勾配の大きい潮目の位置がわかったので、実際に行く漁場を選定してみます。黄色の港の位置から近い潮目を図5の青のエリアの様に手作業でマスクしました。

水温だけをみると陸に近いエリアが全部漁場になってしまいますが、今回は船を出すので陸に近い場所ではなく少し離れたエリアで特徴的な場所を選んでいます。

図5 GCOM-C海面水温(2019年4月4日)の潮目

マスクした青いエリアがどういう場所なのかOpen Sea Map(オープン&フリーの海図)で確認してみます。図6から青いエリア北側は浦賀水道航路に被っている様です。

図6 潮目と浦賀水道航路

浦賀水道航路は主に50m以上の大きな船の航路になっており、長さ50m未満の船舶であっても航路の中央から右の部分を航行しなければならないことや、各航路内は12ノット以下で航行しなければならないといったルールが定められており、安全に注意する必要があるようです。(参考:国土交通省関東地方整備局HP)

5. 海釣り計画の立案

図6を踏まえて漁場のイメージを具体化してみました。まず、浦賀水道航路内は文字通り航路なので、安全のため今回は釣りポイントから除外することにします。

航路エリア外で、なるべく水温変化の大きそうな4箇所を釣りポイントの候補にしました。

図7 釣りポイント候補(赤点)

他のデータを漁場の絞り込みに使えないでしょうか。GCOM-Cではプランクトン(クロロフィルa)濃度も観測出来るので、同日のクロロフィルaデータも確認してみました。

クロロフィルaとは、植物の光合成において、基本的な役割をしているクロロフィル(葉緑素)のひとつで、海の中においては植物プランクトンに含まれ、植物プランクトンの総量とみなすことができるものです。(参考:環境省HP)植物プランクトンは多くの魚の餌になるので、漁場のヒントになりそうです。

図8 GCOM-Cのクロロフィルa(2019年4月4日)

これまで確認してきたデータと同じ2019年4月4日のGCOM-Cで観測されたクロロフィルaを図8の様に確認してみました。図8の黄色部分がクロロフィルa濃度が高いエリアです。

図8から残念ながら東京湾内のクロロフィルaは欠測が多く(図8中の白部分)、あまり参考には出来ませんでした。しかしながら、もし観測できていればクロロフィルa濃度を参照すれば漁場選定の助けにはなりそうです。

他にも海底地形図があればより漁場を絞り込むことができそうですが、細かい海底地形図は有償のものが多いようだったので、今回は使用しませんでした。

6. 漁場になっているのか確認する

選んだポイントは漁場として実績のある場所なのでしょうか。いくつかのデータを参照してみようと思います。

まずはGlobal Fishing Watch(GFW)です。GFWはGoogle、海洋資源保護団体Oceana、環境保護団体SkyTruthが公開しているサービスで、漁船の位置情報が確認できます。2018年11月から2019年4月までの半年間で、どれくらい操業が行われていたか実際にGFWのデータを確認してみました(図9)。

図9 Global Fishing Watch画面例

図9の青い点が操業活動を示しているのですが、今回私が選定した釣りポイントではあまり操業は行われていない様です。

しかし、GFWのデータは自動船舶識別装置(Automatic Identification System, AIS)という船舶位置データを主としています。比較的大型の船にはAIS搭載義務があるものの、漁船などの比較的小さな船にはAIS送受信機の搭載義務がありません。よってGFWで海の上の操業活動全てが分かるわけではないのです。AISで確認できないからといって漁船がいないわけではないということです。

漁船の位置を知る方法はまだあります。もう一つは夜間の光を確認する方法です。サンマ等の一部の漁法では夜間に集魚灯というライトで海面や水中を照らし、魚を集めて漁をします。衛星データからこの光(夜間光)を確認することが出来ます。

図10はSuomiNPPという衛星のVIIRSというセンサで2019年3月24日に観測された夜の光を、NASA World Viewというサイトで確認した例です。東京湾周辺でも光点が確認できるので、光を使った操業が行われていそうではあるものの、今回選定したポイント周辺ではあまり行われていないようです。

図10 NASA World View画面例(東京湾内でも光点が確認できる)

7. 船舶の動きに関するデータ

AISデータ、衛星夜間光画像である程度は船の動き(動静)に関するデータは集められるものの、「AISを搭載しておらず小型で集魚灯を使わない船」のデータは収集出来ないのでしょうか。

「AISを搭載しておらず小型で集魚灯を使わない船」の動静把握にはVMS(Vessel Monitoring System)が使えるかもしれません。一部の国ではVMSというセンサの搭載を、一定の大きさ以上の船には義務化しています。GFW上でインドネシアVMSが確認できるので見てみましょう。

図11 Global Fishing Watch画面例(青:AIS漁船データ 赤:インドネシアVMSデータ)

図11はGFWでインドネシアVMSを表示した画面例です。青は「AISの漁船データ」を、赤は「インドネシアのVMSデータ」です。

もし赤色のインドネシアVMSデータがなければ、AISデータからは漁船データが確認出来ず、この海域のデータがすっぽりなくなってしまうことがよくわかります。AISデータだけでは人類の操業活動全てを網羅出来ないので、複数のデータを補完的に使っていく必要があるのです。

しかしながらこれでもVMSを搭載していない船は確認できません。例えば図10だとインド周辺では全く漁業が行われていない様に見えますが、本当にそうでしょうか。VMSとAIS両方使っても全ての操業活動を網羅できるわけではないのです。

他の手段として、SAR衛星画像から船を検出(発見)する方法があります。図12はSAR衛星ALOS-2で実際に観測した船の画像例で、SAR画像上ではこうした海上の光の点に見えます。ただ漁船かどうかは直接わかりませんし、観測できる船の大きさは観測のモード次第である上に、衛星による観測なのでどうしてもスナップショット的になってしまいます。

図12 ALOS-2による船舶の観測例(JAXA HPより)

ここで代表的な船舶の動静に関するデータを取得する手段を表にまとめておきます。一つのセンサで漁船はもちろんのこと、全ての洋上の経済活動の実態を把握することはほぼ不可能ですので、目的に応じてこれらのデータを補完的に使って行く必要があります。

表 船舶動静に関する情報を取得する手段 Credit : sorabatake

今回は漁船が対象なので、簡単に確認できるAISと夜間光衛星画像を確認しましたが、選んだポイントが漁場になっているかどうかはデータからは確認出来ませんでした。ただ水温上は漁場になっていそうです。実際に釣りをして試してみる価値はあるのではないでしょうか。

8. 次回予告

今回はGCOM-Cの海面水温データから漁場のアタリをつけてみました。次回はプロに相談しながら実際に釣りに出かけたいと思います!

【衛星データで漁場を探して、実際に釣りに行ってみよう連載】

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