宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

全方向安全良し! 360°カメラ「THETA」が宇宙へ、その用途と展望

360°カメラを宇宙に打ち上げると何ができるのか。旅行先で利用するとその場の雰囲気まで切り取ることが強みであり面白い「THETA」ですが、宇宙空間では意外な活用法があるようです。

2019年9月25日に打ち上げられたH2Bロケットには、宇宙用にカスタマイズされた360°カメラ「THETA S」が搭載されています。

本記事では、8月に行われたJAXAとリコーによる共同記者発表会の内容から、JAXAとリコーとが共同開発をすることになった経緯と宇宙ならではの変更点と今後の展望をご紹介します。

1.宇宙用「THETA」の主な役割は点検のためのモニターカメラ

小型衛星光通信実験装置「SOLISS」と宇宙用「THETA S」

今回、宇宙用「THETA」に与えられた役割は、小型衛星光通信実験装置「SOLISS※」の2軸ジンバル部の動作確認のためのモニタカメラ。360°の撮影を行うことで、これまで宇宙空間に打ち上げてしまった後、確認したくともできなかった箇所も確認できる「かゆいところにも目が行き届くカメラ」として期待されています。

※宙畑メモ
小型衛星光通信実験装置「SOLISS」は、ソニーコンピュータサイエンス研究所が有する光ディスク技術を利用した精密指向制御技術を用いて、将来の衛星間や地上との大容量リアルタイムデータ通信の実現を目指してJAXAと共同開発したもの。今後の衛星データ活用の可能性を広げる一助となる可能性を持つ実験装置です。

また、360°カメラということは、実験装置だけでなく宇宙空間、そして地球の画像も一枚の写真に収まる予定。撮影された画像は順次無償(利用規約は要確認)で「JAXAデジタルアーカイブス」に公開されるとのことなので、こちらも楽しみですね。

2.JAXAとの共同開発、きっかけは「はやぶさ2」分離カメラシステム担当者の突撃

登壇者(モデレーター除く)左からJAXA宇宙探査イノベーションハブ副ハブ長、川崎一義さん。JAXA宇宙探査イノベーションハブ主任研究員、澤田弘崇さん。リコー代表取締役 社長執行役員 山下良則さん。リコーSV事業本部長、大谷渉さん。

では、今回の企画はどのように実現したのか。そのきっかけは「はやぶさ2」のサンプル採取装置担当で、分離カメラシステムの開発を担当されたJAXA宇宙探査イノベーションハブ主任研究員、澤田弘崇さん。

澤田さんは「はやぶさ2」の運用をしている時期に、「はやぶさ2」にTHETAが搭載されていれば面白いものが撮影できたのではないかと思い、宇宙空間にTHETAを持っていきませんか?とその足でリコーの担当者に突撃をしたとのこと。

持ち込まれたプレゼンの内容には今回の点検としての役割だけではなく、さまざまな活用アイデアが盛り込まれていたそう。

最初にプレゼンを受けた担当の方は渋い顔をされていたとのことですが、その報告を受けたリコーSV事業本部長の大谷渉さんは「(リコーは)新しいことをやってきている会社なのだから、せっかくそう言っていただいているのであればやろうよ」とのことで提案を受けることを決められたそうです。

3.宇宙用「THETA」になるために変えたところ・変えなかったところ

右側でマイクを持って話されているのが、今回宇宙用「THETA S」の設計に携わられたリコーSV事業本部 THETA事業部の吉田彰宏さん。

提案を受けてから行わなければならないのは、宇宙で利用することを想定されていないTHETAは、過酷な宇宙環境に耐えうるのかの検証。

宇宙でカメラを使う場合の注意点は主に3点。温度、真空、放射線です。温度、振動は設計で対処できるものの、放射線については、対処できません。

まずは放射線に耐えられるか否かの試験を実施したところ半年~1年は地球空間で耐えられると分かったそう。

変更点としては、ファームウェアを大幅に変更したうえで、オートな機能はすべて撤去。これは、宇宙環境での誤動作を防ぐ上で必要な作業となります。

また、ケースをアルミ合金製にし、内蔵メモリを8Gから32Gに変更。メモリは放射線に強いデバイスに変更したとのことです。

放射線の影響を受けやすいと言われるレンズについては、特に影響がなかったとのことで、同社の技術力がうかがわれます。

4.360°カメラ「THETA」×「宇宙」の今後の展望

プレスリリースでは「今後、JAXAは本技術を宇宙探査機等の船外モニタカメラとして活用することを目指します。」と述べてあります。元々澤田さんが考えられた「はやぶさ2にTHETAが搭載されていれば……」という、アイデアの実現が期待されます。

空間を切り取る360°カメラが未知の宇宙へ飛び立つ次世代の宇宙探査機に搭載され、VRデバイスと組み合わされることで、あたかも私たち自身が宇宙空間にいるような体験ができるようになるかもしれません。

また、今後さらなる小型衛星の増加が見込まれ、小型衛星の監視に注目が集まる今、360°カメラによる小型衛星の点検のニーズが高まることも十分に考えられます。

今後、宇宙空間において「THETA」がどのような活用をされていくのか、注目したいと思います。

■特設WEBサイト
space.theta360.com

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