SIGNATE「衛星画像を用いた海氷検知」コンペ、その目的と画像のポイント
2019年10月4日、SIGNATEにて衛星データ解析コンペ「Tellus Satellite Challenge」の3回目がスタートしました。今回のテーマは「海氷領域の検知」です。その目的と押さえておきたい画像のポイントをご紹介します。
2019年10月4日、SIGNATEにて衛星データ解析コンペ「Tellus Satellite Challenge」の3回目がスタートしました。今回のテーマは「海氷領域の検知」です。
【コンペHP】
https://signate.jp/competitions/183
本記事ではコンペの概要はもちろんのこと、海氷領域を検知する意義と、今回のコンペの鍵となる「SAR」と「偏波」についてご紹介します。
(1)コンペの概要
・開催期間
2019/10/4 – 2019/11/30
・目的
衛星データの海氷領域検知精度の向上
・学習データ
-北海道周辺海域における衛星データがHH偏波、HV偏波(※偏波については後述)それぞれ80枚(シーン)ずつ合計160枚
-上記衛星データに対応する(海氷領域の正解となる)ラベル画像データ80枚
・外部データの利用について
配布するデータ以外のデータを利用(学習・予測)することは禁止
・評価指標
Intersection over Union(IoU)
※評価用データ40シーン(HH偏波画像40枚、HV偏波画像40枚)に対して、予測領域と正解領域(ピクセルレベル)の重なり(IoU)を計算。評価用データ40シーンに関するIoUの平均を計算
賞金は、1位の方には100万円。2位には60万円、3位には40万円。これまでにチャレンジをされたことがある方もそうでない方も、ぜひ挑戦してみてください!
コンテストの詳細は以下よりご覧いただけます。
The 3nd Tellus Satellite Challenge
(2)「海氷領域の検知」は海難事故防止のカギ
海氷領域の検知ができるとどのようなメリットがあるのでしょうか。
まず、海氷の定義について整理します。海の氷と言えば、「流氷」という言葉の方が耳なじみがあるかと思いますが、海には流れていない氷もあり、総称して「海氷」と呼びます。
海氷の検知が必要な理由は、1970年に海氷情報センターが設置された経緯を紐解くと明らかになります。
1970年、択捉島周辺で流氷による大規模な海難事故が発生しました。当時は海氷の様子が現在ほど正確に把握できておらず、大きな被害を出してしまったのです。
海氷の分布及び動向を迅速、かつ、的確に把握し、海で活動する人々に正しく届けることが、海難事故の防止につながるのです。
(3)現在の「海氷領域の検知」の方法は4種類
海氷の検知は現在、主に以下の4つの方法で行われています。※「海洋概報(海氷編)北海道周辺の海氷状況」より
①沿岸観測
②船舶による観測
③航空機による観測
④人工衛星による観測
それぞれの観測方法で利点・欠点があります。
沿岸観測、船舶による観測については、間近での詳細な観測が行える半面、観測地点から目視で見える範囲が他の方法と比較して狭いという欠点があります。
航空機による観測では、必要な地点に飛んで行ってより正確な観測が行えるという利点がありますが、航空機を飛ばす頻度は他の観測方法と比較して多くないようです。
4つ目の人工衛星による観測では、もっとも離れたところから観測を行うため、他の観測方法と比較し解像度が悪くなるという欠点はありますが、その分広範囲に海面の様子を把握することが可能となります。また、一度衛星が打ちあがった後は地球を周回し続けて観測を行うため、船舶や航空機と比較して継続して観測を行うことができる手法であると言われています。
【参考】
海氷情報センターの紹介
ただし、衛星データから海氷領域を判読するには高度なスキルが必要なのが実情です。
そこで今回のコンペでは、専門的なスキルを持った人材でなくても判読が行えるように、衛星データから海氷領域を高い精度で検知するアルゴリズムの開発を行います。
(4)海氷検知コンぺのキーワード「SAR」と「偏波」
●曇りに強い衛星データ「SAR」
今回のコンペで用いる衛星データはSAR(サー)データと呼ばれるデータです。
SARデータは、衛星から能動的に電波を発射し、地面での跳ね返りをみているデータです。(SARデータについての詳細は「合成開口レーダ(SAR)のキホン~事例、分かること、センサ、衛星、波長~」をご覧ください)
太陽光の反射を撮影している光学画像と異なり、夜でも、雲がかかっていても地上の状況を把握することができるという特徴があります。
光学衛星では天候が悪いと撮影が難しいため、「海氷領域の検知」にはSARデータが適している、と言えます。
●「SAR」は表面の粗さで画像の明るさが変わる
SARデータでは、ざらざらした表面ほど多く電波が散乱し衛星の方へ返ってきて白く見え、水面などつるつるした表面では電波が全反射してしまうため黒く見えます。
今回のテーマである海氷で考えると、海氷の表面は通常粗く、電波が返ってきやすい≒明るく見えるということになります。
しかし、温度が高くなり表面が溶け出し始めると、反射面が滑らかになるため電波が返ってこず、暗くみえます。
気を付けなければ行けないのは、海面が荒れているときです。
穏やかな時は海面は滑らかなため暗く見えますが、風が強くなり波が高くなると表面が粗くなるため明るく見え、海氷との区別がつきにくくなると考えられます。
簡単にまとめると以下のようになります。
●より詳細に地表面の様子を知るための「偏波」
今回コンテストのページを見ると、「偏波(へんぱ)」という言葉がよく出てきます。「偏波」は、SARの機能のひとつです。
SARセンサの電波は上図に示すようにその振動方向によって、水平偏波(H)・垂直偏波(V)に分けられます。
水平偏波で電波を出して水平で受けることをHH、垂直で受けることをHVといい、垂直偏波で電波を出して、垂直で受けることをVV、水平で受けることをVHと言います。
細かいことは割愛しますが、要するにどの偏波で強く反射するかは物体の特性(表面特性や塩分の含有量など)によって異なります。
例えば、偏波を使うとビルなどが多い都市部と森林を見分けることができます。
ビルなど整った表面が多いところでは波の向きが変わらずに返ってくるのでHH/VVの信号が大きくなり、HV/VHの信号は小さくなります。
一方で、森林など凹凸の大きい表面では波の向きがぐちゃぐちゃになって返ってくるので、HH/VVの信号は弱くなり、HV/VHの信号が比較的強くなります。
今回のコンテストではHH偏波の画像とHV偏波の画像の2種類が配布されます。
海氷に関しての見え方でもこの2種類の画像にはいくつか特徴的な違いがあります。
①海氷の出来た年代
海氷には新しくできたばかりのもの(一年氷)と、くり返し成長してできたもの(多年氷)があります。両者はその厚さの違いから塩分量が異なり(厚い方が塩分量は少なくなる)、結果として、反射特性が異なってくるのです。
一年氷はHH偏波画像で明るく、多年氷はHV偏波画像で明るく見えるようになります。
②積雪
雪が多くなると電波の反射が強くなると言われ、HV偏波画像で明るく見えます。
③溶けた海氷
前述した通り、溶けた海氷は画像上暗く見えますが、HV偏波画像では特に暗く見えます。
少々ややこしくなってきたので、ここまででご紹介したSARデータを用いた海氷の見え方をまとめると以下の通りです。
以上、これらの特性をうまく使って誤検知を抑制しながら、SARデータを用いた海氷の検知に挑戦してみてください!
締め切りは2019年11月30日です!
コンテストの詳細は以下よりご覧いただけます。
The 3nd Tellus Satellite Challenge
参考リンク
「だいち2号」による南極半島Larsen-C棚氷で発生した大規模な氷山分離の観測結果