衛星データもIoTの一つ?航空機・ドローンとの比較と事例紹介
本記事では、広い意味でのIoTセンサである、ドローンや航空機、衛星からのデータの特徴や、データの組み合わせについて解説します。
IoTセンサを使ったビジネス検討するとする際に「もう少し〇〇なデータが取れると良いのに……」と思うことはありませんか?
IoTセンサは今まで可視化できていなかった現場の状況を「知る」ことができる便利なツールですが、取得できることや測定の頻度などはセンサによって千差万別。必要な情報を得るためには様々なセンサを知り、適切なものを選択することが大切です。
本記事では、広い意味でのIoTセンサである、ドローンや衛星データも含めながらその特徴や組み合わせを解説します。
(1) 様々なIoTセンサで取得できるデータの種類と特徴
IoTセンサで取得できるものの種類について、よく人間の五感に例えられます。
IoT(直接測定)センサ・ドローン・衛星の違い
IoTというと測定したい場所に直接設置することがまず考えられますが、近年ではそれに加えバッテリーの性能向上から、ドローンによるデータの取得も盛んにおこなわれています。
加えて、ドローンのさらに上空、航空機や宇宙からも人工衛星がデータの取得を行っています。
言ってしまえば、ドローンも衛星もIoTセンサの一つです。
データを取得する場所が異なるこれらはどのような違いがあるのでしょうか?
直接測定と間接測定(越境性・抗堪性)
通常のIoTセンサとドローン・衛星を比べると、まず挙げられるのがその測定方法です。
通常のIoTセンサは測定したい場所に設置され、測定対象に接触または非常に近い距離で測定が行われます。
したがって、直接対象の様子を知ることができ、精度は比較的高いといえます。また、先に挙げた五感の種類で考えると触覚・嗅覚・聴覚は、非常に近い距離にいるために測定することができるデータとも言えるでしょう。
一方で、ドローンや衛星からの測定を考えると、通常のIoTセンサよりも離れた場所から測定を行っています。その分対象の様子は何かを介して間接的に測定されるため精度が悪くなり、取れるデータの種類は視覚が主になります。
離れてデータを測定していることの利点は、対象の環境に影響されにくいことで、例えば災害時など地上のインフラが途絶えているときでも撮影を行うことができます。さらに、宇宙空間にいる衛星は大気中の荒天にも影響を受けづらい(雲で見えなくはなりますが)特徴が挙げられます。
また、通常のIoTセンサは自分の敷地内にセンサを設置、ドローンも自分の敷地内を飛行させてデータを取得しますが、衛星であれば自分の敷地内でなくても撮影を行うことができます。
このように、接触タイプのセンサとドローンや衛星など非接触タイプのセンサには取得できるデータの種類や解像度、強みに違いがあります。
観測エリア・頻度(広域性・周期性)
さらに、それぞれのセンサは測定を行う場所によって、解像度や測定できる範囲も異なってきます。
対象にもっとも近いところで測定を行うIoTセンサは、近いため解像度はもっとも良いですが、その分測定できる範囲は非常に狭く、得られるデータは”点”のデータとなります。
一方、ドローン・衛星は離れたところから移動しながら撮影を行います。幅はありますが、例えばドローンは上空数10m、衛星は数百kmから撮影を行うため、得られるデータの解像度は粗くなりますが、その分広域の”面”の測定が可能となります。
たとえば、ドローンが1回のフライトで観測できる範囲は数平方km、衛星では数百~数千平方kmとなります。
ドローンや衛星は(一部の例外を除き、)移動しながら撮影をするため広域なエリアを観測することができるわけですが、これは裏を返すと、ある点について常に測定をすることはできないということになります。
IoTセンサは通信量やストレージ容量の許す範囲で、ほぼ継続した測定を行うことができますが、ドローンや衛星では難しく、ドローンでは1回のフライトでの継続可能時間/距離が(数時間/数km)、衛星では再び同じ地点に戻ってくるまでにかかる時間(数日~数週間)がネックになります。
(2) データフュージョン(融合)による高付加価値化
前章で様々な場所に設置されたセンサの特徴をご紹介しました。
これらは必ずどれかが優れているというモノではなく、状況に応じて、どれか一つを選ぶこともできますが、組み合わせることで価値を高めることができます。
河川の水位のモニタリングを例にとって考える場合、IoTの距離測定センサで川の推移を定期的に取得することができます。
これまで川の水位は一級河川しかモニタリングされておらず、二級河川以下の川の様子は、市区町村の職員の方が目視で確認を行っていました。しかし、IoTを使えば安価で手軽に川の様子を知ることができます。
これは、リアルタイムに常時詳細な水位が分かるIoT利用の好例です。
これに衛星データを加えるとさらに状況を知ることができます。
①過去に遡る
衛星データを活用すると、IoTセンサを設置するよりも前の川の状況を知ることができます。
これにより、例年川が氾濫するときはどこから決壊するのか、どのポイントにIoTセンサを設置すると効果的なのか、IoTセンサで取得した値がいくつを超えたら危険なのかを考えることができます。
②面の相対値データ
IoTでは点の絶対的な値を取ることができますが、衛星では面で情報を得ることができます。IoTセンサで測定できている点とそれ以外の箇所の関係を明らかにし、危険な箇所を抽出することが可能です。
例えば、IoTで取れる絶対値と衛星データによる相対値の相関を取ることで、川の様々なポイントに設置しなければいけない水位計の数を減らしたり、該当の川に流れ込む支流の様子も把握することができます。
③マクロ
衛星データではIoTセンサほどミクロに必要なデータを取得できるわけではありませんが、その分マクロにモノを見ることができます。
川に流れ込む前の雨水が山でどんな様子なのか、降雨量がどうなのかなども知ることができます。
④定期
また、衛星が地球を周回しているため、常時一地点のデータを取得できる訳ではありませんが、季節や年のトレンドなどを取ることには向いています。
あるかは分かりませんが、海面の上昇が川の水位に与える影響など大きなトレンドをとらえるのには最適と言えそうです。
次の章では実際に行われている事例についてご紹介していきます。
(3) IoT×衛星データ事例紹介
Sensing4Farming:https://explore.digitalglobe.com/Telco-IoT.html
参考リンク:
サービスページ
https://explore.digitalglobe.com/Telco-IoT.html
プレスリリース
http://investor.maxar.com/investor-news/press-release-details/2018/Maxar-Technologies-DigitalGlobe-Partners-with-Vodafone-to-Create-an-IoT-Precision-Agriculture-Product/default.aspx
その場観測のデータを入手できるIoTの情報と、広範囲の情報を入手できる衛星データを組み合わせることで、農業分野でサービス展開をしているのがDigitalGlobeです。
衛星データだけでは農地ごとのおおよその育成状況しか分からないため、育成状況を正確に把握するためにIoTで観測したデータを用いています。
IoTセンサを多く設置することができれば、IoTセンサだけで田畑の育成状況を把握できるのですが、広大な田畑にセンサをばらまくのは難しいことと、センサを設置すると農機作業を邪魔することになるため、必要最低限のIoTセンサを設置し、衛星データで補完する、というのがビジネス的にも合理的と言えるでしょう。
その他にも、SARデータ関連の情報と、地上データを組み合わせた例も。
参考リンク:
http://www.surveylab.info/en/servizi
http://www.imodi.info/wp-content/uploads/2017/10/Survey-Booklet-ENG_web.pdf
衛星が能動的に発する電波の反射を観測するSARデータからは、地表面の変化を捉えることができます。(干渉SAR(InSAR)とは-分かること、事例、仕組み、読み解き方-https://sorabatake.jp/4343/)
地域の地盤の変化をマクロに観測し、建物それぞれの変動もミクロに観測することで、建物が変化しているのか、地盤が変化しているのか、ということを知ることができます。
2015年に横浜にて杭があるべき状態に施工されていなかった、という不祥事がありましたが、定期的に観測することで、このような事態に陥らないような抑止力となり、安心して暮らせるようになるかもしれません。
この他にも、宙畑で過去にインタビューを紹介した「「青天の霹靂」に聞く!衛星データを用いた広大な稲作地帯の収穫時期予測」や「衛星データでソーラーパネルの発電量を予測する! その手法と効果」も、衛星データとIoT(地上)データの組み合わせ例と言えるでしょう。
前者では、衛星写真で田んぼごとの育成状況の相対差を確認し、いくつかの田んぼで実際に土壌や稲の状態を確認することで、育成状態の絶対値としての情報を導出しています。後者では、気象衛星の情報から予測した情報の精度を高めるために、地上のスマートメータで計測されている発電量を用いています。
(4) 今後の展望
まだまだ衛星データによる観測も、IoTによるデータ取得も発展途上のため、実ビジネスに両データを用いている実事例は少なく、一次産業が中心となっているのが実際です。
特に、衛星データは、無料で公開されているデータは数多くあるものの、利用するデータとして一般にまだ認知されておらず、十分に利活用されていません。
マクロに観測できる衛星のデータからは、単なる写真としての情報だけでなく、温度や大気に関する情報など、目では見えない情報も取得することができます。
衛星データから大まかな大気汚染の状況を観測・予測し、各個人が所有する環境デバイスで周辺地域の大気汚染状況を詳細に求める例や、ダムに設置したセンサで水量を観測しつつ気象衛星から今後水量がどのように変化するのかを予測・管理する例などが出始めています。
今までは経験や人による観測/作業で補正してきた情報を、IoTデバイスに置き換えていく事例は今後増えていくでしょう。この時に、単純に装置に置き換えるのではなく、衛星データを組み合わせることを前提にデバイスへと置き換えることで、設置するデバイスの数を減らすことができたり、観測できる範囲が広がったりと、大きなコスト削減や付加価値向上に繋がることでしょう。
マクロな情報とミクロな情報を最適に取得できることが、今後のビッグデータ社会を生き抜く上で重要なスキルになるかもしれません。