ファルコンヘビー、宇宙へ~打ち上げの見所と今後の展望~
ファルコンヘビー念願の打ち上げへ。その裏側をイーロンマスクが過去に語った内容とともに紹介します
イーロン・マスク氏の言葉
「It was really more from the standpoint of what are the things that need to happen in order for the future to be an exciting and inspiring one? And I really think there's a fundamental difference, if you sort of look into the future, between a humanity that is a space-faring civilization, that's out there exploring the stars, on multiple planets, and I think that's really exciting, compared with one where we are forever confined to Earth until some eventual extinction event.」
これは2013年にTEDにて、SpaceX CEOのイーロン・マスク氏が「人類が宇宙へ進出する文明になるというのは子供の頃からの夢なのか?」という問いに対して語った言葉だ。
「人類が宇宙へ進出し、星々を探検するエキサイティングな未来」か「絶滅を迎えるまで永遠に地球に閉じ込められるか」。極端な表現だと思われるかもしれないが、イーロン・マスク氏は繰り返し宇宙への進出が人類の未来にとって重要なのだと語っている。
TED Talk the_mind_behind_tesla_spacex_solarcity
そして現在もイーロン・マスク氏が目論む人類宇宙進出へのステップは着々と前進しており、また新たな1歩を踏み出そうとしている。
延期を繰り返したファルコンヘビー、ようやく2月6日に打ち上げ
これまでの道のりは決して平坦ではなかった。
2011年4月イーロン・マスク氏はファルコンヘビーの最初の打ち上げは2013年だと発表していた(*1)。
2014年には、当初予定していた射点ではなく、ケネディ宇宙センター39A射点がNASAから借用できることになり、打ち上げは2015年に延期(*2)。続く2015年6月には、ファルコン9がISSへの補給船Dragonの打ち上げに失敗したことを受け、原因究明を最優先するために、ファルコンヘビー開発の優先度を下げ、打ち上げは2016年の4~5月となる見込みと述べた(*3)。しかし、ファルコン9は2016年9月に再び失敗、爆発事故を起したため、後続のファルコンヘビーの打ち上げはさらに延期。
2017年を迎え、ファルコン9の再打ち上げを成功させてからも、ファルコンヘビーは様々な技術的な課題に直面、いつも前向きな言葉を発するイーロン・マスク氏が「当初思っていたほど簡単ではない。難しい」とこぼす場面も見られた(*4)。
ファルコンヘビーは当初の計画から5年近く遅れたが、数多の困難を乗り越えようやく2018年2月6日に初号機の打ち上げを迎えるのである。
ファルコンヘビー打ち上げ3つの見所~サイズ、目的地、搭載物~
見どころ1:サイズ
今回のファルコンヘビーの特徴は、何と言ってもそのサイズである。
今回のファルコンヘビーの全高は70m・横幅は12m・全備重量は1,420t、そして低軌道に63.8tの衛星の打ち上げ能力を持つ(*5)。同社の主力ロケットである、ファルコン9の低軌道への打ち上げ能力は22.8tなので、3倍弱の重さを打ち上げる事が出来る。
また以下のように、低軌道への打ち上げ能力を他社のロケットと比較しても、その凄まじい能力は一目瞭然である。アポロ計画時代に活躍したNASAのサターンⅤロケットの打ち上げ能力と比較すると、ファルコンヘビーの打ち上げ能力は半分程度だが、現在存在するロケットの中ではトップクラスの性能を誇る。
見どころ2:目的地
さて、このように、最高性能といって良いファルコンヘビーであるが、目指してるのは、単に大きな荷物を軌道に運ぶことだけではない。ファルコンヘビーは火星を目指すこともできるロケットなのである。SpaceXは、ずっと火星への移住を目指して事業を続けてきた。目標の火星移住を達成するのはまだ遥か先であるが、今回はその一歩目となる打ち上げなのだ。
ファルコンヘビーは、火星の軌道に16.8tの荷物を投入することが出来る能力を有する。今回は火星への着陸船などを打ち上げる事はしないが、無事に火星軌道に荷物を投入できるかどうか注目していきたい。
また、火星まで到達する巨大ロケットであるが、なんとこの大きなロケット両端のブースターを含めた3本のロケット全てが再利用される予定である(*6)。この巨大なロケット3本が全て地上に戻ってくる姿は圧巻だろう。また、両端の2本のブースターは、今回の打ち上げ自体が再利用である事もSpaceX社から発表されている。
見どころ3:搭載物
火星軌道に到達させる事が目的ではあるが、では今回は何を運ぶのだろうか?
今回火星へ運搬するのは、実はクライアントからの発注品ではなく、SpaceXのある社員の私物である(*7)。
そのとある社員とは・・・SpaceX CEO のイーロン・マスク氏。
そして彼の私物とは、真っ赤なテスラロードスターである。
彼がこの事を明かしたのは、昨年の12月におけるtweetである。当該tweetがこちら。
このtweetを見た人はビックリしただろうが、この遊び心満載の取り組みはネタなどではなくSpaceX社内で正式に進められ、ファルコンヘビーのフェアリング内にテスラロードスターが収納される様子の写真もあがってきている。
そして、SpaceXだけでなく、ロケットを打ち上げる時は連邦航空局(FAA)からライセンスを貰う必要があるのだが、そのライセンス内にもフライトの定義のところにしっかりと、「テスラ・ロードスターを双曲線軌道(※1)に輸送する」と記載されている(*8)。
【*1:ここでいう双曲線軌道とは、地球に対しての双曲線軌道という意味である。具体的には、秒速11.2kmの第二宇宙速度と言われる速度を超えると地球の重力圏を超えて地球に対して双曲線軌道となる。】
それに加えイーロン・マスク氏は、テスラロードスターの車内では、デヴィット・ボウイの「Space Oddity」を車内で流す予定だとも言っている。この「Space Oddity」は、カナダの名物宇宙飛行士クリス・ハドフィールド氏がISSの中で歌った事で有名な宇宙感満載な一曲である。
今回のファルコンヘビーは初めての打ち上げだ。ロケットの1度目の打ち上げの際には、クライアントから衛星を受注するのではなく、ダミーペイロードといって重りを積載させる事が多い。しかし今回のファルコンヘビーのように、車(しかも私物)を搭載するのは初めての試み。しかし、とても遊び心のあるパンチの効いたアメリカらしいジョークだ。
実際の所、SpaceX CEOのイーロン・マスク氏は、テスラ社のCEOでもあり、今回打ち上げられるテスラロードスターを広告等で使うという目論見もあるかもしれない。
打ち上げが成功したら、人類史上初の火星軌道に投入される車両となるだろう。成功を祈るばかりだ。
ファルコンヘビーの今後の展望
さて、今回の打ち上げの後、ファルコンヘビーはどのようなプランを考えているのだろうか。今回の打ち上げが成功した後は、既に、サウジアラビアのアラブサットと、アメリカのビアサットから静止通信衛星の打ち上げを受注している。また、アメリカ空軍のSpace Test Program 2ミッションも受注している(*9)。
これ以外にも、SpaceXが開発する有人宇宙船 Crew Dragonの打ち上げが注目される(*10)。また、昨年2月にSpaceXが発表した、月面に2人の一般人を運搬するといったミッションでも、ファルコンヘビーが使用される予定だ(*11)。この一般人を打ち上げる計画は、昨年2月以降はその後の発表がされていないが、今回の打ち上げが成功すれば新たな発表があるかもしれない。
さて、2018年2/6(日本時間は、2/7 3:30)打ち上げ予定のファルコンヘビー。SpaceXとしては、2010年6月のファルコン9初号機打ち上げ以来、8年ぶりの新型ロケットの打ち上げとなる。
今まで数多くの金字塔を打ち立ててきたSpaceXだが、新型ロケットの打ち上げは困難な事も多いため、勿論失敗する可能性もある。
打ち上げが成功するように、宇宙ファン全員で見守っていたい。
出典
(1) SpaceX Targets 2013 for Launch of New Falcon Heavy
(2)NASA Officially Leases Old Shuttle Launch Pad to SpaceX
(3)First Falcon Heavy Launch Scheduled for Spring
(4)SpaceX to launch Falcon Heavy with two “flight-proven” boosters this year
(6)SpaceX Confirms Its First Falcon Heavy Rocket Will Attempt a Triple Landing
(7)SpaceX receives launch license for first Falcon Heavy launch
(8)Commercial Space Transportation License License Number: LLS 18-107
(9)SpaceX targeting late January for Falcon Heavy debut
(11)SPACEX TO SEND PRIVATELY CREWED DRAGON SPACECRAFT BEYOND THE MOON NEXT YEAR