宙畑 Sorabatake

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躍進する中国の宇宙開発〜官民それぞれの役割分担〜【週刊宇宙ビジネスニュース 8/24〜8/30】

一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを厳選してお届けする連載「週刊宇宙ビジネスニュース」は毎週月曜日更新!

中国、国際協力月面プラットフォームの第一歩

中国政府は、国際月面研究ステーション(LIRS)の構想を練り上げました。本ステーションは月の南極地域に設置される予定となっており、2020年代に予定されている嫦娥6号、7号、8号ミッションを通して開発、2030年代までに拡張していく予定となっています。この計画には長期的なロボットミッションと、短期的な乗組員ミッションが含まれる可能性があり、2036年から2045年の間には、月の南極に長期的に人が滞在できるようになることを目標としています。

Render of a conceptual Chinese lunar base. Credit : CAST

この計画は、中国が宇宙分野で独立的に開発を推し進めていく方針から、国際的に協力していく体制へ転換していきたいという意図があるようです。今年初めのCOPUOS(Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)科学技術小委員会でのプレゼンテーションでは、「人類初の月南極での共有プラットフォームの建設と運用、長期的で大規模な科学探査、技術実験、月資源の開発と利用を支援する」ことが目標とされています。

中国国家宇宙局のペイ・シャオユ(Pei Zhaoyu)氏は共同で月面プロジェクトを設計し、結果と成果を共有することを表明し、ロスコスモスのドミトリー・ロゴジン主任は先月、中国国家宇宙管理局のチャン・ケジャン局長との会談の後、中国とロシアは、共に月の研究基地を「おそらく」建設することで合意したとロシアのメディアに語ったりもしています。

これまで中国で行った国際的な協力・関与は嫦娥4号で行ったペイロード受入くらいでしたが、ここにきて国が大きく舵をきったことになります。

中国の民間ロケット開発会社、iSpaceが1億7300万ドルの資金調達

中国の民間ロケット開発会社iSpaceが、新シリーズのロケット「Hyperbola-2」と再利用可能なメタロックスエンジンの開発のため、シリーズBラウンドの資金調達で1億7300万ドルを調達しました。

The July 2019 launch of iSpace's Hyperbola-1 from Jiuquan in the Gobi Desert. Credit : SPACENEWS

「Hyperbola-2」は、垂直着陸及び再利用可能な第1段を搭載しており、今回の調達資金はこのシリーズの開発と、搭載する推力15トンのJD-1エンジンの開発に利用します。同社は来年、このロケットで100kmの垂直離着陸試験を計画しており、本格的な軌道飛行は2021年末を予定しているそうです。

競合となるLandspace社も、メタロックスエンジン搭載のロケットを開発しています。同社の「Zhuque-2」も2021年打上げ予定です。さらにOnespace社も今年、新たな軌道上での打上げを予定しているそうです。

Linkspace社は2019年8月の技術実証ロケットで高度300mのテスト後は目立った動きがないものの、2021年後半に軌道上打上げを目標にしています。

中国は2014年に、打上げや小型衛星の開発などを民間に開放する政策転換を行っています。それを受けて現在までに10社以上のロケット関連企業が中国で生まれました。上記で紹介した企業はその流れで生まれた会社です。

 

中国のニュースペース企業 Source : https://china-aerospace.blog/space-industry-mapping/

中国政府は翌年の2015年に衛星開発についても民間企業の参入を支援する政策を発表しており、この後衛星開発系の民間企業も出てきており、中国政府の政策に民間がきちんと呼応しているということが見て取れます。

現在台頭してきている民間企業の創業者や従業員の多くは、中国航空宇宙科学技術公司(China Aerospace Science and Technology Corp. という、中国の宇宙産業のいわゆる「国家チーム」の出身者だそうで、人材の輩出・流動にも力を入れているようです。

民間宇宙政策の改正

2014年
国務院:通信衛星とリモートセンシングの開発、インフラ、打ち上げ、保守運用など民間投資促進のため、政策で支援。

2015年
国家発改委:衛星開発について民間企業の参入を支援。

国務院:宇宙産業は「中国製造2025」の重点の一つとして、宇宙技術の研究と応用を推進。

2016年
国务院新闻办公室:「2016中国的航天」白書で重点産業の発展と目標を示す。

効果が見え始めた中国政府の施策

「2016中国的航天」白書では、以下のような発表がなされていました。

2016中国的航天

1. 宇宙輸送システム
無害な燃料を使った中型輸送ロケット、大型輸送ロケットのエンジン技術、再利用できる輸送ロケットの開発。

2. 衛星と宇宙インフラ
リモートセンシング向けのセンサ、衛星通信システム、ナビゲーションシステムの拡充。

3. 有人宇宙技術
天宮号宇宙ステーションと有人月面探査任務の技術開発。

4. 深宇宙探査
月の探査ミッションにとどまらない、中国初の火星探査ミッションの実現。

5. 射場の設立と改善
現存の射場システムの補完。

6. リモートセンシング技術の開発
リモートセンシング技術の基礎と運用の完備。

7. 宇宙技術の応用
社会インフラとしての衛星データ利用、「スマートシティ」の設立、東部の開発が遅れている地域の開発、国民の暮らし改善。

8. 宇宙科学の研究
暗黒物質の探査、宇宙空間での実験、量子科学の研究、宇宙気象の監視。

9. 宇宙環境の利用
宇宙空間のデブリ除去、隕石警備システムなど環境監視システムの設立。

10.国際交流と連携

今回の2つのニュースで、「1.宇宙輸送システム(再利用できる輸送ロケットの開発)」、「3.有人宇宙技術(天宮号宇宙ステーションと有人月面探査任務の技術開発)」、「5.射場の設立と改善(現存の射場システムの補完)」がしっかりと進捗していることがわかります。

日本でも2017年の宇宙基本計画で、民間への開放や10年後の産業規模倍増に向けた様々な施策を提示しており、ニュースペースとして様々なベンチャー企業が台頭してきています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)からの人材の派遣も進み、アルテミス計画への参入など、国際的な協力プロジェクトへの参画も宣言しています。

一見すると似た政策を行っている日本と中国ですが、国際協力プロジェクトの観点では、中国はプラットフォームの牽引を計画しているのに対し、日本は技術協力と、少し毛色が違います。

また、中国では先に記載した通り、ロケットの民間企業同士の打上げ競争が起きており、スピードと技術の磨き合いが起きているのに対し、日本は分野のユニークさや企業数がそもそも少ないこともあってか、競争というより協力体制を組んでいるように思います。

中国方式と日本方式、アジアの宇宙開発を日本が牽引していくのに、どのような方式をとっていくのがよいか、中国とはどのような関係を築いていくのがよいか、政府には将来を見据えた戦略的な推進が求められます。

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参考

China is aiming to attract partners for an international lunar research station

Chinese space launch firm iSpace raises $173 million in series B funding

宇宙基本計画