授業へのGIS活用、どうする? 気軽に実践するためのコツを聞く
2022年度の高校教育において必修化された地理の授業。その内容を見るとGISの活用は注目すべきポイントのようです。では、実際にどのような授業ができるようになるのでしょうか?
2022年度から、いよいよ高等学校においても新学習指導要領の実施がスタートしました。
中でも大きく変わったと言われているのが社会科です。とくに地理に関しては、今回の改訂により「地理総合」が必履修科目へ。内容も大幅に変更され、GISを利活用したアクティブラーニングの側面が強くなったと言われます。
この記事では必履修となった「地理総合」にスポットを当て、マンガや図解でわかりやすく“地理ネタ”の情報発信をされている『地理おた部』さんにインタビュー。前半では地理の必履修化についてお話しいただきましたが、後半ではいよいよ、GISを取り入れた授業の実践例をご紹介いただきます。
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2022年、高校「地理総合」が必履修化。背景となる3つのポイントについて聞く
「現地の『今』を見てみよう」リアルな情報から出発できるGIS活用の魅力
——前半のインタビューで、新学習指導要領における地理科では、GISの活用に重きが置かれているというお話を伺いました。授業でGISを活用するメリットや教育的効果は?
GISの最大の魅力は、「直接見る」のに近い形で現地のようすを知れることです。GISが普及する前の地理の授業では、教科書や資料集などに掲載されている画像を参照するしかありませんでした。しかし今では、Google Earthで簡単に現地を見ることができます。それだけでなく、ストリートビューで歩いたり、(一部の建物では)中に入ったりもできる。「修学旅行の目的地をGoogle Earthで予習してみよう」なんて導入も簡単で、地理を楽しく学べます。
個人的にもGISには注目しており、とくに、リアルタイム性の高いGISにはさまざまな可能性があるのではと考えています。たとえば、最近では住んでいる地域の降雨・降雪状況をリアルタイムで確認して、翌日には積雪状況の衛星データを確認できたり、ウクライナ情勢をほぼリアルタイムに近い形で俯瞰できたりしますよね。
こうしたものを活用すれば、ライブ感を大切にする今どきの子ども達にとって、地理がグッと身近になるのではと思うんですよね。
GISで名所を見てみるだけでもいい。ときには生徒に任せてみるのも◎
——授業でのGIS活用にはさまざまな可能性があるのですね。ただ、いざ自分で授業を設計するとなると、「どのような内容にすれば良いだろう」と悩まれる先生もいらっしゃるのではないかと思いますが……。
GIS活用にはさまざまな可能性がありますが、はじめから気負いすぎることはありません。
たとえば、教科書に出てきた事例をGoogle Earthで見てみるだけでも立派な実践になります。「マダガスカルにはバオバブの木が生えていて……」と書かれていたならば、マダガスカルのどこにバオバブが生えているのか探してみればいい。単に教科書を読ませるよりも、生徒達の記憶に残りやすくなるはずです。
あとは、世界の(地理的な)名所と呼ばれる場所を見せてみるのも良いでしょう。私が実践してきた中では、ヴィクトリアの滝(アフリカ、ジンバブエ/ザンビア)はとくに反響が大きかったですね。まさに大地の裂け目という感じで、生徒も驚いたようです。「大地溝帯」という用語をただ覚えるのとは、まったく違った体験をしてもらうことができました。
それから、より踏み込んだ実践がしたいのであれば、「ひなたGIS」などを活用するのもおすすめです。ひなたGISは地理情報+統計データを表示できるツールで、左右で違ったマップを表示させることもできます。
これを利用して、左画面に衛星写真(航空写真)、右画面にハザードマップを表示させれば、「どういう地形で災害が起きやすいのか」を検討しやすい。学校のまわりや、自分の家の周辺をテーマにすれば、よいフックになるでしょう。
いずれにせよ、大事なのは「教師がすべて教えなければ」という思い込みをなくすことです。
今の子はツールの扱いが上手ですから、おそらくGISの扱いにしても、生徒達のほうが覚えが早い(笑)。それを気に病むのではなく、「どんな風になっている?」「面白いものが見つかったら教えて」と声をかけながら、一緒に学んでいけばいいんです。そうやって知見をシェアする学び方こそが、新学習指導要領のめざす新たな学びではないかと思います。
GISなら生徒の「楽しい!」を引き出せる。まずは興味を持たせよう
——さまざまな形で地理教育に貢献されている『地理おた部』さまが、今後の地理教育に期待することはありますか。
個人的に、地理は教科横断型の学習がしやすい教科であると考えています。たとえば、国語と関連させて、「この作品が作られた場所を見てみよう」と呼びかけてみるのも面白いですし、情報Ⅰと関連させて、「GISデータを活用するプログラムを書いてみよう」なんて取り組みをするのも面白いはず。もちろん、総合的な学習の時間に取り入れるのも良いですね。「なぜこの地域は〇〇なのだろう?」のように、自ら課題を見つけ、仮説を立て、検証していくプロセスを楽しめると思いますので、ぜひ前向きに取り組んでいただければと思います。
それから、GISの活用は今の子どもの特性とも親和性が高いように思います。よく言われることですが、今の子はズバッと本題が来るようなコンテンツを好む傾向がある。楽曲にしても、イントロが長い曲はあまり受けない、とかね。それへの賛否は置いておいて、学校の授業においても、GISなどを活用してすばやく「今」を見ていくやり方は時流に合っているのではと。長文を読ませて、「じっくり考えなさい」と指導するだけでは、なかなか関心を引きづらいのも事実かなと思うんです。
実は、『地理おた部』のコンテンツはこうした“今どきの子”を念頭に置き、「教科書とエンタメマンガの隙間を埋めたい」と思って作っているところがあります。ただ読ませるだけ、覚えさせるだけでは生徒の興味・関心を引きづらい。それならば、GISのような子ども達がパッと見で「面白い!」と感じるコンテンツを使ってみたらいい。もちろん、『地理おた部』のコンテンツを使っていただいてもOKです。新しいツールや素材も上手に取り入れていただくことで、「地理の勉強なんて楽しくない」と感じる生徒が一人でも減ってくれたらと願っています。