宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

宇宙ビジネス企業50社以上とゆく年くる年、2022年のトピックと2023年の展望

2022年、日本で活動された宇宙関連企業55社のゆく年くる年アンケートをまとめました!2023年の市場予測や、2030年の日本の宇宙産業の市場規模も考察しています。

(1)はじめに

2022年も国内外の宇宙ビジネストピックが盛りだくさんの1年となりました。様々なメディアやSNSで宇宙ビジネスの話題を見たという方も多いのではないでしょうか。

『宙畑』では2020年より「宇宙ビジネスゆく年くる年」と題して、1年の振り返りと新年の抱負について、様々な宇宙ビジネス企業にアンケートをさせていただき、宇宙ビジネスの盛り上がりを読者の皆様に紹介しています!

【昨年の記事はこちら】

第3回目となる今年は、以下2つのメインの質問をお伺いしました。

Q1.2022年の貴社のトピックを教えてください
Q2.2023年の抱負、また、それ以降の目標を教えてください

そのほか、宇宙ビジネスの市場規模や投資額が2023年はどのように増減すると思うかといった質問にも回答いただきました。

本記事では2022年の宇宙トピックを宙畑編集部のコメントと合わせて紹介します。「こんなこともあったな」「来年が楽しみだな」と年末年始の隙間時間のおともに記事をご覧いただけますと幸いです。

また、本年のアンケートも昨年同様に、宙畑がご連絡できた宇宙ビジネス企業の皆様に、アンケートの依頼をさせていただきました。今年呼ばれていないという企業の方で、来年以降ご協力いただける企業様がいらっしゃいましたら、ご連絡をいただけますと幸いです。

各社の回答詳細はこちらからご覧いただけます。

(2)回答いただいた企業紹介

今回のアンケートでは、年末のお忙しい時期にも関わらず、総勢55の企業・法人に回答をいただきました。回答いただいた皆様には、あらためて御礼申し上げます。
※回答いただいた企業社数は記事公開後も随時

以下、今回アンケートに回答いただいた企業・法人を主なサービス分野で分けてまとめました。
(敬称略、五十音順)

■製造・インフラ部門
株式会社アクセルスペース
アストロスケール
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
インターステラテクノロジズ株式会社
Infostellar
オリガミ・イーティーエス合同会社
株式会社QPS研究所
京セラ株式会社
SEESE株式会社
将来宇宙輸送システム株式会社
スカイゲートテクノロジズ株式会社
SPACE COTAN株式会社
SPACE WALKER
日本電気株式会社(NEC)
PDエアロスペース株式会社
株式会社Pale Blue
三菱電機株式会社
株式会社ワープスペース

■利用部門
株式会社アグリライト研究所
Archeda, Inc.
INCLUSIVE SPACE CONSULTING株式会社
ウミトロン株式会社
株式会社ALE
オーシャンソリューションテクノロジー株式会社
さくらインターネット株式会社
サグリ株式会社
株式会社SIGNATE
株式会社Synspective
スカパーJSAT株式会社
日本スペースイメージング株式会社
株式会社スペースシフト
ソニー株式会社
株式会社Solafune
日本地球観測衛星サービス株式会社
株式会社DATAFLUCT
株式会社天地人
トヨタ自動車株式会社(TOYOTA MOTOR CORPORATION)
株式会社パスコ
株式会社Ridge-i
一般財団法人 リモート・センシング技術センター(RESTEC)

■探査部門
株式会社TOWING
Honda(本田技研工業株式会社・株式会社本田技術研究所)
株式会社Yspace

■その他部門
INAMI Space Laboratory 株式会社
一般社団法人ABLab
一般社団法人SPACETIDE
Space BD株式会社
Space Port Japan
株式会社sorano me
損害保険ジャパン株式会社
株式会社DigitalBlast
デロイト トーマツ グループ
パナソニック インダストリー株式会社 宇宙プロジェクト
PwCコンサルティング合同会社
株式会社minsora

(3)3つの注目ポイント

それぞれの部門紹介に入る前に、宙畑編集部が注目した今年のアンケート回答の注目ポイントをご紹介します!

国内での宇宙ビジネスのプレゼンスが高まる

多くの企業で今年のトピックとしてあげられていたのが、宇宙以外の様々な賞の受賞です。

ウミトロン社では、サステナブルシーフードブランド「うみとさち」が、日経優秀製品・サービス賞に選出、日経MJ賞を受賞。

アストロスケール社では、米TIME誌の「世界で最も影響力のある100社」に選ばれたほか、「日本スタートアップ大賞(内閣総理大臣賞)」も受賞。

アクセルスペース社は日経優秀製品・サービス賞、第10回技術経営・イノベーション大賞・総務大臣賞、蔵前ベンチャー賞、JAPAN VENTURE AWARDS 経済産業大臣賞を受賞、11月にはSDGs Innovation Hubビジネスコンテスト2022世界大会」で見事第1位に選ばれました。

Synspective社は日本スタートアップ大賞の文部科学大臣賞を受賞。

天地人社は内閣官房イチBizアワード最優秀賞を受賞しています。

サグリ社も、国連開発計画UNDP DIGITAL Xに選定された他、農林水産大臣賞や環境省より環境スタートアップ大賞受賞するなど多くの受賞をしています。

また、エンタメのフィールドではQPS研究所社が開発した衛星画像がDragon Ashの新曲「Tiny World」の配信ジャケットデザインに採用されたり、Space BD社は宇宙利活用プロジェクトのアンバサダーへのグローバルボーイズグループJO1を起用するなどのトピックもありました。

このように、宇宙ではないフィールドの賞に選ばれたり、エンタメの中で宇宙が使われることで、一般の方の宇宙ビジネスの認知がさらに広まり、プレゼンスが高まった一年であったと言えると思います。

公的支援制度も拡充

同じく各社がトピックとして多く上げていたのは、政府機関による、民間企業への支援施策です。

内閣府が主導する宇宙開発利用加速化戦略プログラム(スターダストプログラム)でSynspective社やQPS研究所社のSAR衛星に関する実証が支援された他、経済産業省が進める「政府衛星データプラットフォーム「Tellus」に実装するアプリケーション/解析ツールの開発及び実証事業」や「衛星データ利用環境整備・ソリューション開発支援事業」では、様々な衛星データが提供され、それを元に衛星データ解析のサービス開発を進めた企業もありました。

また、JAXAでも宇宙探査イノベーションハブの共同研究や「高頻度往還飛行型宇宙輸送システムに係る事業コンセプト共創活動」「有人与圧ローバ再生型燃料電池システムに関する概念検討および機能要素試作」などの公募事業の他、初のスタートアップへの出資事例も誕生しています。

企業間の連携が進む

さらに、今年目を引いたのは宇宙関連企業間の連携です。

主に自社のサービス領域を広げることを目的とした企業間連携も数多く発表されました。宇宙ビジネスの領域は広く、一社でカバーするには、特に人手の少ないスタートアップでは、難しいことも多くあります。そこで、お互いにカバー領域を増やす目的で企業間連携を行っています。

これは、これまでの積み重ねで整備が進み、いよいよ具体的な事業化に向けて協議ができるようになってきたこと、各社で当初想定していた具体的な市場規模が見えて来ている中で、さらなる拡大に踏み出したいという狙いがあるのかもしれません。

(4)製造・インフラ部門企業の回答紹介

製造・インフラ部門は、宇宙開発と聞いて想像するような、いわゆるロケットや衛星の製造を行う企業や、そういった宇宙システムを下支えする企業を指しています。

世界を見てみると、2022年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始、現在も解決の見通しはついていません。グローバルに関連しあうことが多い宇宙産業も大きな影響を受けています。ロケットや衛星の機器の中には、ロシアが開発しているものもあり、サプライチェーンに影響を与えています。

また、商用のロケット打ち上げの手段として、ロシアのソユーズロケットはよく利用されていましたが、今回の件で利用ができなくなり、OneWebの通信衛星をはじめとする様々な衛星が計画の変更を余儀なくされています。

このような状況の中、日本で宇宙ビジネスを展開する企業にはどのようなことがあったのでしょうか。今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。

株式会社アクセルスペース
アストロスケール
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
インターステラテクノロジズ株式会社
Infostellar
オリガミ・イーティーエス合同会社
株式会社QPS研究所
京セラ株式会社
SEESE株式会社
将来宇宙輸送システム株式会社
スカイゲートテクノロジズ株式会社
SPACE COTAN株式会社
SPACE WALKER
日本電気株式会社(NEC)
PDエアロスペース株式会社
株式会社Pale Blue
三菱電機株式会社
株式会社ワープスペース

衛星製造企業の企業間連携が進む

2022年は、顧客価値を高めるため他社と連携を進め、バリューチェーンを拡大する動きが多くありました。

アクセルスペース社が自社の衛星データの拡販のためにアジア航測社やTellusと連携、Synspective社は衛星の量産化を見据えて量産工場のパートナーに東京計器社を協議を開始、QPS研究所は衛星データを用いたサービス提供のため、ウェザーニューズ社、九電ビジネスソリューションズ社、九州電力社と共同実証を開始しました。

古くから衛星開発を行っている三菱電機社では、昨年、衛星開発運用からデータ解析、コンサルティングに至る衛星データサービスのバリューチェーンを構成する企業5社と共に、災害時の迅速な状況把握や平時の継続的な国土・インフラ監視などに幅広く適用可能な衛星データ解析情報サービスの事業化を検討するため、「衛星データサービス企画株式会社」を設立し、活動を継続しています。

また、衛星間光通信ネットワークの開発を進めるワープスペース社は、地上セグメントでAmazon Web Serviceとの連携、地上局シェアリングサービス会社Leaf Spaceとの提携を発表したほか、Synspective社と光通信ネットワーク利用に向けたシミュレーションを開始しています。

構築したシステムを使って、しっかりと顧客獲得を進める企業

また、今年の回答で目を引いたのは、これまで実績を積み重ねて来た企業からの、顧客獲得の様子です。

具体的には、Infostellar社が現在6機の衛星を運用しており、アクセルスペース社は同社の衛星GRUSの衛星データを展開するAxelGlobe事業で国内外のパートナーが60社いるそう。

さらに、NEC社は自社として初の海外(ベトナム)からの衛星システムを受注しています。また、製造の際のツールとしては、オリガミ・イーティーエス社の非線形構造解析ソフトウェア「オリガミ・イーティーエス」は多くの方々に利用されたそうです。

また、アマゾンウェブサービスジャパン社では、今年7月にワープスペース社がAWSを採用したことを発表しました。

着々と進むロケット開発と射場の整備

ロケット開発企業は、ロケット自体の開発や、その製造ラインや射場の整備に力を入れたところが多かったようです。

SPACE WALKER社はロケット開発から派生した技術を有効活用するため、複合材タンク事業を発展・加速。長崎工場を新設されたそうです。

インターステラ社とSPACE COTAN社は、北海道大樹町の宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」内の射場「Launch Complex-1(LC-1)」が着工。PDエアロスペースが利用を予定している下地島宇宙港も第一期工事設計から入札までが完了したとのことです。

宇宙港の話題は、大樹町や下地島だけではありません。大分では、アメリカのSierra Space社が大分空港を宇宙往還機の着陸候補地として検討を開始、和歌山兼串本町では、スペースワン社が打ち上げを予定しており、ロケットの打上げおよび射場の運営には関西電力も協業することを発表しています。

また、宇宙輸送については、2022年5月に新たな宇宙ベンチャーとして将来宇宙輸送システム社が誕生したことも大きな話題をうみました。同社は、「毎日、人や貨物が届けられる世界。そんな当たり前を宇宙でも。」というビジョンを掲げており、往還型の宇宙輸送システム(ロケット)を新規開発して安価・高頻度・高信頼性の宇宙輸送システムの提供を目指すとのこと。

国内から様々なロケットや宇宙機が当たり前のように宇宙に飛び立つ時代が楽しみですね。

鍵となる技術実証に成功・特許出願

新しい宇宙ビジネスの創出には、技術実証が必要なケースが少なくありません。

アストロスケール社では、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」で高難度の誘導接近の実証に成功し、2021年からの同ミッションにて、デブリ除去に係るさまざまなコア技術を実証しました。

また、水推進機を開発するPale Blue社も、同社が開発した水推進機を搭載した超小型衛星OPTIMAL-1の打上げ、超小型統合水推進機の開発に成功。今後の更なる事業拡大に向けて中小企業庁のGo-Tech事業に採択され、水推進機の大電力化の研究開発を進めること、JAXAとのJ-SPARCの枠組みのもとで超小型電気推進機事業を創造する共創活動を始動すること等を発表しています。

特許というキーワードで今年を振り返ったのは、PDエアロスペース社とインターステラテクノロジズ社(Our Stars社)です。

PDエアロスペースでは、RDEによるジェット/ロケット切替エンジン特許出願、実証実験成功。インターステラテクノロジズ社の100%子会社であるOur Stars社でも、重要な特許を2つ取得し、研究開発が進んでいるとのことです。

事業領域の拡大・変更・集中

2022年はそれぞれの会社で新しい事業を始める年でもあったようです。

京セラ社では宇宙ビジネス推進部という専門の部門をたちあげ、衛星通信事業への取り組みを本格化。

infostellar社では新たに地上局のホスティングサービスを開始し、北海道大樹町に最初の地上局サイトをオープンしました。同じく地上セグメントをサービス領域とするスカイゲートテクノロジズ社は宇宙×サーバー領域の事業化と防衛・安全保障領域の事業開発を着手。

SEESE社は人工衛星の環境試験の支援などを行っていましたが、本年度は耐宇宙放射線性の評価や試験、標準に関する検討などに注力されていたようです。

アクセルスペース社は2022年4月に新サービスAxelLiner事業をリリース、衛星製造の事業を行っていくことを発表しました。

JAXAなど政府の事業を受託して、実績を積み重ねる

各企業が成長を続ける裏側には様々な政府の支援施策が存在しています。

SEESE社は、経済産業省の委託事業にも採択され、国内放射線試験利用環境の整備及び耐放射線性データベースを基盤としたプラットフォーム検討を加速。

PDエアロスペース社はJAXAの「高頻度往還飛行型宇宙輸送システムに係る事業コンセプト共創活動」の事業者に採択。

(5)利用分野企業の回答紹介

次に紹介するのは宇宙ビジネスにおける「利用分野」です。利用分野企業とは、衛星データや位置情報データ、通信衛星を利用したサービスの運営企業を指します。また、人工流れ星のような宇宙空間を利用したサービスを展開する企業も含んでいます。

世界に目を向けると、ロシアのウクライナ侵攻という世界情勢をゆるがす大きな出来事がありました。

その状況を把握するため、また、様々なメディアが報道するために衛星データが活用され、テレビやSNSでも衛星データを見たという人も多いのではないでしょうか。安全保障、防衛における衛星データの利用が、世界的にも再認識された1年だったように思います。

では、国内宇宙ビジネス企業にとって2022年はどのような年だったのか。アンケートの回答を見てみましょう。

今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。

株式会社アグリライト研究所
Archeda, Inc.
INCLUSIVE SPACE CONSULTING株式会社
ウミトロン株式会社
株式会社ALE
オーシャンソリューションテクノロジー株式会社
さくらインターネット株式会社
サグリ株式会社
株式会社SIGNATE
株式会社Synspective
スカパーJSAT株式会社
日本スペースイメージング株式会社
株式会社スペースシフト
ソニー株式会社
株式会社Solafune
日本地球観測衛星サービス株式会社
株式会社DATAFLUCT
株式会社天地人
トヨタ自動車株式会社(TOYOTA MOTOR CORPORATION)
株式会社パスコ
株式会社Ridge-i
一般財団法人 リモート・センシング技術センター(RESTEC)

環境モニタリングに衛星データ活用ニーズの拡大

衛星データ利用関連の各社の回答で多かったのは、衛星データを用いたカーボンクレジットの測定や温室効果ガスの観測など、環境モニタリングでしょう。

今回のアンケートでは、ウミトロン社、DATAFLUCT社、サグリ社の回答にグリーンカーボンやブルーカーボン、温室効果ガスについての言及があった他、水田からのメタン排出量の計測に天地人社が取り組むというプレスリリースが出たのも今年でした。

他にも、グリーンカーボンと直接言及はなかったものの、森林監視を簡易に行うことができるサービス「GRASP EARTH Forest」を提供するRidge-i社には、宇宙開発利用大賞環境大臣賞が授与され、多くの引き合いがうまれているのこと。

人工流れ星衛星の開発を進めるALE社も、人工流れ星の観測による大気の状態把握を行う計画をしており、気候変動対策や生態系の保護などにも宇宙業界内外の多様なプレイヤーと連携できる枠組みを作りたいと回答しています。

また、衛星データで森林解析を行う宇宙ベンチャーArcheda社の設立も2022年です。同社は2023年春以降にMVPのローンチが控えているとのことです。さらに、2022年の4月に札幌にて宇宙ビジネスに特化した会社INCLUSIVE SPACE CONSULTINGも、2023年の抱負として衛星データを活用した脱炭素関連ソリューションの事業化を掲げています。

衛星データは国境関係なく、地球全体の状態を定期的に観測できるという点で、環境のモニタリングを行う上で欠かせないデータとなっています。

環境モニタリングの必要性が高まっていることを象徴する事例として、2022年に行われた日米豪印首脳会合(QUAD)では、各国の衛星データ資源へのリンクを集めた「日米豪印衛星データポータル」を提供し、民間の地球観測データの共有に努めるとの声明も出されました。その重点テーマとして真っ先に上げられているのが「Climate Change Monitoring」です。

さらに、2024年には温室効果ガスの観測を行うJAXAの温室効果ガス・水循環観測技術衛星「GOSAT-GW」も打ち上げ予定。今後も衛星データの環境モニタリングへの利用に注目が集まることが期待されます。

インフラ監視や防災への衛星データ利活用の機運がますます高まる

2022年は、日本のインフラ監視や防災の観点での衛星データ利活用に関する話題も多かった1年だったように思います。

スカパーJSAT社は、ゼンリン、日本工営と協業し、衛星データを用いて斜面や周辺建造物の経年的変化をミリメートル精度でモニタリングし斜面変動リスクを視覚化するサービス「LIANA」(商標出願中)を開始しました。

また、トヨタ自動車社もスペースシフト社とSAR衛星と地上データを使った高性能AIによる浸水域解析APIの開発をテーマに経済産業省の公募「政府衛星データプラットフォーム「Tellus」に実装するアプリケーション/解析ツールの開発及び実証事業」に応募し、採択されています。解析した結果は通行状況情報サービスや損保会社の災害時の損害管理や防災管理システムに活用予定とのことです。

さらに、スペースシフト社もさらなる人員体制の強化を行い、様々な用途に対応できるSAR衛星データ解析AIの開発を加速すると回答しています。その背景には今後各社の衛星コンステレーションの充実に伴い、爆発的に増加が見込まれるSAR衛星データ解析の需要増を見込んでおり、「使える衛星データ」を目指したアルゴリズム開発を進めるとのことです。

SAR衛星のコンステレーションと言えば、SAR衛星30機のコンステレーション構築を目論み、衛星開発にとどまらずソリューション提供までを行うSynspective社が、シリーズBで119億円の調達に成功したことも2022年の大きなニュースでした。同社は、損害保険ジャパン社と衛星データを活用した保険金支払サービスの向上や新たなソリューション構築を目的とし資本業務提携を開始。広域水災時の被害想定区域把握の実証実験を行っており、広域水災以外の風災・土砂災害などの自然災害での衛星データ活用についても検討を進めているとのこと。

インフラ監視や防災における衛星データ利用において、SAR衛星から取得したデータはとても有効です。取得できる衛星データのデータ数が増えることで、さらに日本のインフラ監視や防災への衛星データ利用が進むことが期待されます。

衛星データ利用企業の顧客拡大と体制強化を目論む1年

環境モニタリングやインフラ監視の衛星データ利活用ニーズが高まるなかで、衛星データ利活用を進める多くの企業にとって顧客基盤やさらなる事業拡大に向けた体制が構築され始めた1年でもあったようです。

例えば、サグリ株式会社は、千葉市、神戸市、下呂市、尾道市……と同社サービスの利用自治体が着実に増えており、下呂市では、農林水産大臣賞を受賞し、尾道市では、デジタル庁が掲げる「デジタルの日」のポスターに選ばれたそう。同社からは顧客の声を反映した新たなサービスも登場しており、今後ますます顧客拡大と利用が進むことが期待されます。

同じく農業分野での衛星データ利活用では、アグリライト研究所社は内閣府事業への採択から始まった衛星データを用いた国産パンコムギ生産支援サービスが地元山口県で採用されたとのこと。県内小麦生産圃場の約8割についての診断を託されたそう。

また、オーシャンソリューションテクノロジー社はサービスのリリースを完了させ、来年は鹿児島県衛星データ利活用実証事業を遂行するとのこと。同社サービスの利用者も着実に増えているようです。

顧客が拡大したと回答いただいた企業は上記3社に限らず多くありました。ぜひ各社の回答もご覧いただければと思います。

さらに顧客拡大と事業拡大に伴い、体制強化について言及する企業もありました。例えば、衛星データの解析コンペや、解析ソリューションを顧客に提供するSolafune社です。同社は「海外エンジニアへ向けた取り組みも強化し、2022年もSolafuneを通して様々なバックグラウンドを持った技術者の方が衛星データの解析に取り組める環境を提供できた」と回答しています。

機械学習コンペティションを提供するSIGNATE社は「会員数も9万人に迫り、多くの参加者とハイエンドなアルゴリズム創出に成功した」と回答。高レベルのデータ活用人材が増えることで、衛星データ利活用のみならず、様々なデータを活用した新たなソリューションがいたるところで創出されることが期待されます。

衛星データを利用しやすい環境の構築が徐々に進む

衛星データを活用したソリューションを提供する企業の躍進と並行して、衛星データを活用したいと思った人がすぐに活用できる環境の構築も進んでいます。

例えば、さくらインターネット社は、同社が運営する衛星データプラットフォーム「Tellus」上にアクセルスペース社のGRUS、J-spacesystems社のHISUIのほか、CE-SAT-IIB、GCOM-Cといった様々な種類の衛星データを格納し、サンプルデータを無料でユーザーに開放。日本スペースイメージング社が取り扱う商用では最も高解像度の衛星データであるMAXAR社のアーカイブデータもTellusに多く搭載された1年でした。

さらに、さくらインターネット社は、自治体や海外ユーザー向けにTellusとQGISを用いた新サービス「Tellus satellite data master + QGIS(以下、Tellus QGIS)」による衛星データ解析研修、衛星データを利用したソリューション開発を目的としたいくつかの実証事業を行うなど、まずは衛星データを触れてみるという機会の創出にも寄与しています。

また、パスコ社の回答には「将来を見こして衛星観測高頻度化により実現できるサブスクリプションサービスの開発にも注力し、実績も少しづつ増やすことが出来た」とありました。衛星データの購入方法にもバリエーションがうまれることで、さらに衛星データの購入ハードルや衛星データにアクセスするハードルが下がることが期待されます。

利用環境の構築という観点とは直接関係はありませんが、ソニー株式会社が進める個人が衛星データの撮影権を手軽に購入できるSTAR SPHEREプロジェクトの衛星の打上げ予定が2023年となっています。同社は「宇宙が身近なものになる。多くの人にそのことを実感いただき、みなさんと宇宙とのかかわりの転換点となるような一年にできればと思います」と回答。衛星データから地球を観測できるという実感をより多くの人が持つことで、衛星データ利活用について考える人数も増えるという良い循環が生まれることを同社のサービスには期待しています。

衛星データ利用の実証事業や研究助成プログラムも拡大

利用分野企業の最後のトピックは、日本地球観測衛星サービス株式会社の回答にあった「経済産業省『衛星データ利用環境整備・ソリューション開発支援事業』により、様々な分野における宇宙データ利用の拡大を感じる1年でした。」というように、衛星データ利活用を推進する様々な公募や制度が続々とうまれたということです。

例えば、上記の事業では、衛星データプラットフォーム「Tellus」上で様々な衛星のアーカイブデータが無料で提供され、採択された事業者にはTellus QGISのアカウントが発行され、一定期間、Tellus QGIS上で提供された衛星データを解析することができるようになるというものでした。

衛星データ解析を行ったことがない方が衛星データを利用する際には、データの購入コスト、解析環境、解析人材などまだまだ様々なハードルが存在します。このようなハードルを下げる取り組みが経済産業省主導で始まったことは、衛星データ利活用が進む大きな第一歩であると言えます。

また、2022年は、衛星データ利用のアイデアを募るコンテストや助成制度も複数誕生しました。例えば、RESTECはリモートセンシングの普及促進を目的とし、研究助成制度を新たに整備し、公募・採択しました。

採択された研究テーマには「衛星データ可聴化技法の探求~地球の響きと人間音楽の調和を探して~」「先進レーダ衛星を利用した地上絵アニメーションに関する描画技術の開発」など、ユニークなものが多く、今後もどのような衛星データ利用アイデアが創出されるのか楽しみになるような採択結果でした。

(6)探査分野企業の回答紹介

探査分野では、アメリカが主導して進めているアルテミス計画の大きなマイルストーンとなるSLSロケットが打上げに成功。当初計画からは遅れての打上げとなりましたが、ようやくここからまた月面探査に向けた動きが加速していくものと思われます。

そんな探査分野で回答をいただいたのは以下の3社です。

株式会社TOWING
Honda(本田技研工業株式会社・株式会社本田技術研究所)
株式会社Yspace

月面移住/火星移住を見据えた事業の実証や準備も着々と進む

TOWING社では、月の砂「レゴリス」の成分や形状を模擬した月面スティミュラントを材料に、有機肥料だけで高効率な作物栽培を行うことに成功。

Honda社は、2020年よりJAXAと共同研究を始めており、2022年7月にはJAXAが公募した「有人与圧ローバ再生型燃料電池システムに関する概念検討および機能要素試作」に採択され、設計・制作に取り組んでいます。

月面小型ロケット事業と月面VR事業を手掛けるYspace社は、資金的、技術的、社内チーム的にも基盤を固めることを注力した1年だったと振り返ります。中でも資金調達の実施や大手企業様との契約など、2022年は多くの企業と話を前に進めたそう。

各社の今後の展開が楽しみですね。

(7)その他部門企業の回答

INAMI Space Laboratory 株式会社
一般社団法人ABLab
一般社団法人SPACETIDE
Space BD株式会社
Space Port Japan
株式会社sorano me
損害保険ジャパン株式会社
株式会社DigitalBlast
デロイト トーマツ グループ
パナソニック インダストリー株式会社 宇宙プロジェクト
PwCコンサルティング合同会社
株式会社minsora

宇宙産業の不を解消する環境の整備が進む

宇宙産業は、華々しい産業のように見える一方で、前例がない、もしくは、実績が少ないが故に新しいルールメイキングや失敗したときの補償など、民間企業が安心して事業を進めるための環境整備が必要とされる産業です。

2022年にも上記のような宇宙産業にあった不安の種を解消するトピックがいくつかありました。

まず紹介したいのは、Space BD社の取り組みです。同社は基幹事業である「衛星打ち上げサービス」を利用する顧客への付加価値向上のため、保険サービスを損害保険ジャパン社と構築。打上げ失敗時の再打ち上げの機会が保証される「リフライト保証」サービスの提供を開始しています。

また、九州工業大学との包括協力協定を締結したことにより、試験設備の活用支援サービスも展開することで、顧客が開発に集中し、リスクを低減できる支援が可能となったとのことです。保険という観点では、東京海上日動火災保険社、三井住友海上火災保険社の両社が本格的に宇宙産業に取り組むことをより明確にした1年でもありました。

両社はそれぞれ月保険の開発を発表。今後さらに宇宙ビジネスが盛り上がり、保険の必要性が高まると見ています。

宇宙ビジネスは新しい産業であるが故に、法整備も欠かせません。日本がアジアにおける宇宙旅行ビジネスのハブになることを目指し、日本の宇宙港の整備を推進するSpace Port Japanは、具体的なビジネス上の交渉がいくつも煮詰まってきていると回答しています。

さらに、「人類社会の未来をけん引する宇宙産業をつくる」をビジョンに掲げるSPACETIDEからは、スタートアップ支援を目的とした独自のアクセラレーションプログラム「AXELA」の立ち上げもホットトピックとして回答がありました。

産業構造、法整備、資金調達……と宇宙産業の不を解消する様々な環境の整備が進んだ1年となりました。

コンサルティング企業による宇宙ビジネスを盛り上げる動きもさらに加速

コンサルティング企業の宇宙ビジネス産業におけるあり方も、毎年新たな変化が起きており、各社それぞれの方針をもって事業規模が拡大しています。

例えば、デロイト トーマツ グループは、宇宙産業エコシステムの形成をテーマに、宇宙港周辺の街づくりの検討や衛星データをはじめとする宇宙データを地上データと組み合わせて利活用するためのデータプラットフォームの開発を推進。さらに、日本国内における宇宙産業の振興やイノベーションの加速を目的とした宇宙ビジネスマッチングプログラムである「GRAVITY Challenge JP」を始動しています。

また、PwCコンサルティング社からは、北米・欧州・中東・アジア・オセアニアの計10ヶ国以上の宇宙ビジネスチームとの連携を仕組み化し、連携をより強化したこと、また、月面経済圏に関するレポート発刊など外部への積極的な情報発信の実施も含め、よりグローバルな知見を活用したサービス提供が可能となったとの回答をいただています。

DXコンサル事業も行うDigitalBlast社は、月面での生態循環維持システム構築に向けたプロジェクト「NOAH」が本格始動し、日本国内初の民間宇宙ステーション構想を発表しています。

2022年に設立したINAMI Space Laboratory社は「人工衛星を製作して、スペースXのファルコン9から打ち上げに成功し、来年には代表が宇宙旅行へ。5年後に上場を目指す宇宙ベンチャーを作りました。」と設立1年目とは思えない躍進と野心的な意気込みを回答いただきました。

非宇宙産業からの宇宙事業プロジェクト創出

そして、本年も非宇宙産業の宇宙事業参入が着実に進んだ1年でした。

パナソニックインダストリー社の宇宙プロジェクトは、2022年は飛躍の年になったと回答しています。具体的には航空宇宙用最先端電子材料開発に向けた宇宙曝露実験を実施予定、JAXA宇宙探査イノベーションハブの共同研究の採択3件(※パナソニックグループ合計)など、宇宙利用を想定した技術開発を各事業部門・技術部門にて進めたとのこと。

すでに他部門で紹介したように、トヨタ自動車社やHONDAグループも宇宙産業におけるその存在感を着実に増しています。

今後も様々な産業からの宇宙ビジネス参入が期待されます。

宇宙ビジネス参入を促す企業・法人からの成果創出も続々と

宇宙ビジネス産業に参入する人材・企業・法人を増やす取り組みも2022年は活発でした。

「地域から宇宙産業構造を変える、宇宙をもっと楽しく、面白く!」を企業理念に宇宙ビジネスに関するプロモーションやコンサルティングほか様々な事業を展開するminsora社は、毛利宇宙飛行士と大分県と宇宙ビジネスについて対談の実現など、大分県における様々な取り組みを実施。

宇宙ビジネスコミュニティである一般社団法人ABLabからは「一般社団法人Space Medical Accelerator」の輩出、宇宙ビジネスアワード2022大賞受賞、他社他団体との共創協力など、多くのトピックがあったようです。

sorano me社は複業コミュニティ「ソラノメイト」をリリースし、4月から募集を開始してもうすぐ50名に到達見込みとのこと。同コミュニティからスタートアップ「Archeda」が設立されるなど、宇宙ビジネスに参加する土壌が育つことで、さらに多くの宇宙ビジネス人材や宇宙ビジネス企業が輩出される機運が高まっています。

(8)2023年の宇宙ビジネス予想(投資額、市場規模、企業数)

今回アンケートに協力いただいた50社(2社非回答)に、2023年の世界の宇宙ビジネス予測を、投資額・市場規模・新規参入企業数の3つの観点で伺いました。

いずれも増加すると回答した企業の割合が最も多かったものの、2022年と比較して横ばい、または減少を予想する企業が20~35%程度いるという結果になりました。

この結果は、過去2年(2020年、2021年)の結果と比べて大きな割合となっており、実際に宇宙業界の中で働かれている企業の皆様は、このままでは宇宙産業全体の成長が鈍化していくかもしれないと肌で感じられているのかもしれません。

10年前等と比べるとある程度、宇宙ビジネスの認知度は高まり、投資も集まり、技術実証が進んでいく中で、夢やロマンの対象として見られてきた宇宙をどのように事業化していくのか、顧客ニーズを捉え売上を伸ばしていくことが出来るのかが、問われる一年となりそうです。

(9)2030年の日本の宇宙産業規模予測

今回のアンケートでは、これまでのアンケートに加えて、各社の2030年の売上予測についても伺いました。

宇宙政策委員会が2017年に発表した「宇宙産業ビジョン2030」の中で、日本の宇宙産業の市場規模を2017年現在の1.2兆円から、2030年代早期までに倍の2.4兆円を目指すを掲げていますが、現時点でどの程度見通せているのか、本アンケート結果を使って予想をしてみたいと思います。

個別の数値の公開は控えますが、回答をいただいた企業は23社、合計で6,600億円規模という結果になりました。

宇宙ビジネスは、ロケットや衛星などのハードウェア開発から衛星データのアプリケーション開発まで多岐に亘るため、全てをまとめて扱うのは適切ではありませんが、概算のために、平均をとると、1社あたりの売上規模は290億円程度ということになります。

市場規模を宇宙関連企業の売上総額とするならば、2.4兆円を目指すためには、290億円規模の売上を持つ企業が83社程度必要ということになります。全ての企業が計画通りにいくわけではありませんから、その倍以上の企業は必要だと考えられます。現時点で、日本の宇宙関連企業は100社弱程度と言われていますから、宇宙産業ビジョン2030達成のためには、新規参入企業がさらに増えることが求められます。

(10)まとめ

以上、2022年の宇宙ビジネス企業のゆく年くる年をご紹介しました。

昨年のゆく年くる年では、世界の宇宙ビジネス企業がSPAC上場を行い、ますます事業推進のスピードがあがっていく中で、国内の宇宙ビジネス企業にとっては「世界の競合他社と比較して、宇宙技術を用いたサービスがどこまで社会に実装されていくのか」という目がより厳しくなる1年となるのではないか、とお伝えしました。

2022年はサービスを展開するための企業間連携や、宇宙以外の場での露出が多く、まさに社会実装に向けた足がかり的な一年だったのではないかと思います。

2023年は、このように、実ビジネスと向き合ってきたからこそ、直面している課題もあり、夢とロマンだけではない宇宙ビジネスの実フェーズに突入しているのではないかと思わせる各社の市場規模予想となっていました。

企業間連携や政府の支援施策などを通じて進めているサービス開発が、どれほど顧客を掴めるのか、事業強化のための資本提携なども進むかもしれません。

また、アストロスケール社やアクセルスペース社など初期の日本の宇宙スタートアップのシリーズAの資金調達が2015年前後ですから、2023年はそこから7~8年ということであれば、SPACを含めた上場やM&Aなどの選択肢もそろそろ視野に入ってくる頃かと思います。2023年はまさに宇宙ビジネス事業化の正念場の一年になるのではないでしょうか。

宙畑は、2017年2月のサイトオープンから2023年2月で6周年を迎えます。宇宙ビジネスのど真ん中で事業化に向けて頑張っている皆様や、これから宇宙ビジネスを立ち上げようとされる方、宇宙業界に飛び込んでみようと思われる皆様を後押しできる記事をこれからも作成していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。