宙畑 Sorabatake

衛星データ

気持ちよく衛星データを利用するために知っておきたい! 衛星データの制約と利活用を社会実装までつなげるヒント

衛星データの制約と今後の展望について、情報を整理しました。衛星データを気持ちよく利用するため、衛星データ利用に興味がある方は本記事の内容を確認の上、衛星データの活用を進めていただけますと幸いです。

近年、衛星データを活用した新たな事業の創出や既存事業の改善に注目が集まっています。

しかしながら、SF作品で見るようなリアルタイムに地上にいる人の顔を判別するといったことは現在の地球観測技術とその周辺領域の技術では不可能です。

また、「あの画像が見たい!」と思っても、意外と複雑な制約があって思い通りにはいかないことも少なくありません。

そこで、衛星データの制約と今後の展望について、情報を整理しました。本記事が衛星データ利活用を推進するうえでの参考になれますと幸いです。

※本記事は一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)の向井田明さんにお話をいただき、宙畑が収集した情報と合わせて、宙畑編集部が整理したものとなっています(2023年7月取材)。

衛星データの制約、代表的な3つの”ない”

まず、衛星データを利活用するうえで必ず把握しておきたい3つの”ない”を紹介します。

もちろん、これらの制約は徐々に改善されていくものとなっています。5年、10年先の事業のために衛星データ利活用を考えているという方は後半で解説する今後の展望までご覧いただき、今、何を衛星データ利活用で仕込んでおくべきかを先んじて計画する際の参考にしていただけますと幸いです。

①すぐにわからない

撮影した衛星データを活用することは、すぐにはできないのが現状です(条件に応じて変動しますが、数時間はあると考えておくとよいでしょう。条件が合えば数分ということもありえます)。これは、衛星がデータを収集した後、中継衛星や地上の受信局を経由してデータが我々の元に届くためです。さらに、収集されたデータは生の状態では分析が難しく、適切な解析が必要となります。

そのため、リアルタイムでの情報取得には制約が伴います。衛星にもよりますが現在の目安としては、衛星が撮影してから利用者の手元に届くまで半日から1日程度かかります。なお、最近は中継衛星を用いることで、このタイムラグを短くする取り組みも進んでいます。

②中、下は分からない

衛星は地上の情報を主に観測できます。地中や海中の情報は捉えることができません。

また、光学衛星を用いる場合、雲や霧があると、地表の詳細な観測が難しくなることもあります。これは、光学衛星が主に太陽の光の反射を捉えているためで、太陽光があたらない地下や水中、建物の中は観測できません。

③いつでも観測できない

衛星は特定の軌道を周回しているため、常に同じ場所を監視しているわけではありません。

特定の災害や事件が発生した際に、その場所の観測が直ちに必要となる場合も、衛星が該当地点に到達するまで待たなければなりません。

3つの”ない”は地球観測衛星の種類によらず存在する衛星データ利用の制約です(厳密にはSAR衛星は雲があっても地上の様子が分かるという違いはありますが)。次は、光学衛星とSAR衛星それぞれの強みと制約を紹介します。

光学衛星の制約とSAR衛星の制約

衛星の種類として、大きく分けて光学衛星とSAR衛星がありますが、それぞれの特性を理解することも利活用を考えるうえで重要です。

本記事では、光学衛星とSAR衛星の制約に焦点を当てて解説します。

光学衛星の制約

光学衛星のデータは、視覚的に分かりやすいという点、地表物の反射特性を活かした観測で地上の様々な情報を把握し、分析できるという利点があります。

しかしながら、光学衛星は雲があるとその下の状態を把握することはできません。そのため、曇りの日や雨の日は、衛星データの解析が難しく、地域によっては晴れの日が少ないために最新のデータを取得しようとしたら数カ月前のものしかなかったということも少なくありません。

さらに、夜に撮像された画像からは、明るく光っている光源の位置や色はわかりますが、植物の色など光学的な特性を利用した解析は光学衛星では難しいです(GDPの推定などには利用されています)。

SAR衛星の制約

SAR衛星は、光学衛星の雲があると地上の状態が把握できないという制約はありません。雨の日や雲があるとき、夜間でも地上の状態を観測できるという利点があります。

しかしながら、画像は白黒であり、判読や解析をするためには専門知識が必要になるため、一般の方にとっては扱いづらいという点に注意が必要です。

また、SAR衛星は斜め方向にレーダーを放射して返ってくるものを観測します。そのため急峻な地形や高い建物は歪んだ画像になるので、画像処理による補正が必要になる他、ビルの裏側などまで観測することはできません。

ちなみに……衛星データのよくある勘違い

Q.衛星データで人の判別や車のナンバープレートの判読はできる

できません。私たちが利用できる衛星データのうち、最も解像度が高いものはWorld-View4の31㎝です。これは地表に人間がいることが何とか判明出来る程度で(これだけでも十分すごいですが)、ナンバープレートはさすがに読み取ることが出来ません。また、価格も高く、なかなか購入ができない画像です。

Q.衛星データで個人の行動を追跡できる

できません。ナンバープレートと同じく、衛星データの解像度からして個人を判別することはできません。衛星ではビルの中や地下鉄にいると撮影も出来ません。さらに、衛星データは静止軌道衛星を除いて常時監視出来ていないため、個人を追跡しようとしても1週間に1枚の画像だけでは追跡は難しいと考えられます。

一方で、Planet Labsのように1日に数枚観測している衛星を用いることで、不審な気球の出どころを発見したという事例もあります。個人の追跡は難しくとも、対象物によっては、その前やその後の動きを追跡するという事例も生まれています。

制約を乗り越える衛星データ利用の展望

では、衛星データを利活用を進めるうえでの制約は今後どこまで改善が見込まれるのでしょうか。

くり返しになりますが、未来の事業に向けて衛星データの利用を検討する場合は、今の制約を理由に衛星データの活用を避けるのではなく、以下に記す今後の展望も見越して、その土台となる技術やアイデアを今から構築することが重要だと考えています。

衛星データの制約と合わせて、今後の展望についても理解し、利活用の検討を進めていただけますと幸いです。

レイテンシーの課題と展望

現在、衛星が撮影したデータは地上局や中継衛星を経由して地上に送信され、その後画像処理が行われます。この一連の過程にかかる時間、すなわちレイテンシーは、緊急を要するタスクの障壁となっています。

しかし、10年後には衛星間ネットワークが進化し、データの初期処理が衛星上で行われるようになるかもしれません。これにより、転送データ量の削減とレイテンシーの大幅な改善が期待できます。

観測頻度の課題と展望

衛星データの取得は、衛星が対象地域の上空に位置しているときに限られます。この制約は変わりませんが、10年後には衛星の数が大幅に増加している可能性があります。その結果、現在1日に1回しか取得できないデータも、将来は1時間ごとに取得できるようになるかもしれません。

技術的制約には限界があるかもしれませんが、10年後の技術進化を見据えると、解決できる課題も多く存在します。現在の技術水準だけでの判断を避け、未来の可能性を捉えて衛星データの活用を検討することが、真の革新を生む鍵となるでしょう。

以上が衛星データの課題と展望になります。ぜひ10年後の技術進化を想定した利活用の検討を進めていってください。