宙畑 Sorabatake

衛星データ

【衛星データ利用懸賞金活用型プログラムの理想形を見た】NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth イベントレポート_PR

2024年7月17日に行われた「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」のネットワーキングイベントで語られた内容とそこで得た宙畑編集部の気づきをまとめました。

2024年7月17日、日本橋三井タワー7階 X-NIHONBASHI TOWERにて、NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth のネットワーキングイベントが開催され、1次審査を通過した18チームが会場に集いました。

宙畑メモ:【NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earthとは】
経済産業省からの交付金により、NEDOが実施する懸賞金活用型プログラムで、総事業費は3億2000万円、懸賞金の総額は最大5000万円。衛星データを活用し、グリーン分野の課題解決を図ることをテーマに、2024年3月18日から4月30日まで提案が募集され、67の応募があり、18チームが1次審査を通過。
https://sorabatake.jp/36143/

また、本イベントでは、1次審査通過チームのみでなく、グリーン分野・宇宙分野に関心のある企業・自治体やベンチャーキャピタル、特許分析の専門家より、世界の動向や活動の紹介、グリーン分野・宇宙分野に対する期待が共有されたほか、事業機会やネットワーク構築のための交流会も開催されました。

本記事では、イベント内で語られた興味深いお話と本プログラムの設計の妙と参加する大きなメリットと宙畑編集部が感じたことを紹介します。

(1)NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earthの目的と1次審査通過者のアイデア

本プログラムの目的は大きく2つあります。1つ目は、懸賞金活用型プログラムにより、萌芽的研究などに繋がる多様なアイデア・技術シーズを収集すること(技術シーズの発掘)であり、2つ目は、衛星データ等を活用することで、社会課題解決につながる新規ビジネスの創出を目指すこと(宇宙ビジネスのすそ野拡大)です。

応募テーマは、「グリーン・環境分野の業界課題」と「衛星データ利用分野の技術課題」の双方の接点となる包括的なテーマとして、「カーボンクレジット基盤構築」「エネルギーマネジメント基盤構築」「気候変動・環境レジリエンス基盤構築」の3つのテーマが設定されています。

その上で、今回、各テーマで1次審査に通過した内容は以下の通りです。

(2)期待を超えた繋がりとチャレンジが生まれる場所

宙畑編集部がイベントを通して実感したNEDO Challenge, Satellite Data for Green Earthの魅力は、本プログラムに集うプレーヤーの豊かさとグリーン分野に注目するその熱量です。

7月17日のイベントセッション登壇者だけを挙げても、人工衛星の開発とその事例を深く知るJAXA、GX事業に本腰を入れて取り組むNTTコミュニケーションズ、地上データを多く保有する王子ホールディングス、実証フィールドや多種多様な支援実績を持つ豊橋市、投資という手段で最先端技術の社会実装に寄与するベンチャーキャピタル、深い見識と調査量で最先端技術の事業化を支援するPwCコンサルティング……と多岐にわたり、グリーン分野・宇宙分野に挑戦しようとする事業者にとって、エコシステムのすべてのプレーヤーにアクセスできる場所と言っても過言ではありません。

衛星データを使った事業に挑戦すると、解決したい課題がある人にとっては衛星データの取り扱いが難しかったり、逆に衛星データに強みを持つ会社ではビジネスの観点が足りなかったりといった壁にぶつかることが少なくありません。しかし、この場所に来れば、そういった課題を解決してくれる強力なサポーターに出会えるかもしれないのです。

イベントの最後に行われた懇親会では、地球環境対策室長のご経歴も持つ経済産業省製造産業局宇宙産業課、高濱課長の挨拶もあり、活発な名刺交換と会話が行われていました。

今回のプログラムのように、挑戦者の周りにエコシステムの様々なプレーヤーをサポーターとして配置することで、挑戦者の事業アイデアを加速させるフレームは、衛星データコンペを実施する時の理想的な体制の一つと言えるかもしれないと、宙畑編集部は感じました。

以降の章では、イベント内で登壇者がどのような話をされたのかを簡潔にまとめ、各話者の役割の重要性を紹介していきます。

(3)人工衛星の開発とその事例を深く知るJAXA

イベントの最初のセッションは、特別講演としてJAXAの松尾尚子さんより「グリーン分野における人工衛星の利活用への期待」 が紹介されました。

松尾さんが担当する衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)では、グリーン成長戦略において政府より制定されている14の重点分野における、衛星データの活用可能性が議論されており、実例と合わせて紹介されました。

衛星の活用可能性①:温室効果ガスの濃度測定

地上観測は一地点の情報を正確に観測できる一方、衛星は面の情報を得ることができます。また、地上センサは陸地に置くことはできますが、海に設置することは難しいため、海域において衛星観測の強みを発揮することができます。

また、JAXAによる新しい試みとして、地表面付近の大気(下層の約4kmの大気)の二酸化炭素・メタンのデータを導出する方法が開発されました。それらは、排出量の変化も捉えやすいデータとなっており、現在都市域の排出量の推定を始めています。

また、企業との協力事例として、ANAとの共同プロジェクト「GOBLUE」が紹介されました。温室効果ガス排出量の70%以上が都市から排出されていることから、羽田-福岡便と羽田-稚内便のシートにセンサを載せてCO2とNO2濃度を把握する試みです。NO2は化石燃料を燃やすと排出されることから、CO2とNO2の両方を測ることによって、人為的な温室効果ガスをこれまで以上に把握できることが期待されています。

衛星の活用可能性②:再生可能エネルギー

太陽光発電は太陽放射や雲の予測の観点で、気象予測が非常に重要となっており、すでに衛星データが活躍する事例があります。また、水力発電は、ダムの適地探索に衛星データが活用されているなど、再生可能エネルギーの分野でも衛星データの活用が進んでいます。

今後、再生可能エネルギーのなかでも洋上風力発電で衛星データが活用されるのではないかという紹介もありました。

2040年には再エネ発電の約10%以上を洋上風力発電が担うことが期待されており、実現のためには沖合(領海以遠)での浮体式洋上風力発電が必須と言われています。衛星データの活用が期待される場面としては、風況データが必要となる地域選定(設置のための最適地の設定)や作業船の安全確保(建設時の効率化)の観点、風力予測による発電量の予測です。

実際に、SAR衛星は海上の波の動きを捉えることによって、上空10mの風速を推定することが可能であり、これまでも、海上の台風の観測は、気象衛星「ひまわり」のみが行っていましたが、SAR衛星による観測も加わることで、台風の強度や進路の予測精度が上がる期待があると述べられました。

衛星の活用可能性③:気候変動・環境レジリエンス

グリーン分野の中でも、最も社会実装に近づいているのが災害時の衛星データ活用です。具体的には、洪水の浸水域、土砂崩れ、地盤の変動などを把握することができます。

上記以外にも、全球の標高データに全球の雨データ(GSMap)を組み合わせることによって、陸域水循環シミュレーションシステム(Today’s Earth)を開発していることや、Today’s Earthでは、30時間以上先の洪水予測が可能であり、現在は海外にも対応したToday’s Earth Globalの準備も進んでいることが共有されました。

衛星の活用可能性④:森林に関する情報の定量的把握

衛星データでは、土地被覆、樹種、病虫害、伐採の状況といったデータも定量的に把握できます。

具体的な事例として、ブラジルにおける違法伐採を検知している事例が紹介されました。本事例については、宙畑でも取材した結果を「アマゾンの違法伐採をぞくぞく発見!77カ国の森林を守るJICAの衛星システムがすごかった」で紹介していますのでぜひご覧ください。

他にも、ALOS-2データを用いた、全球のバイオマスマップを開発中であることなど、衛星データによる森林に関する情報の定量的な把握が進んでいることが述べられました。

(4)GX事業に本腰を入れて取り組むNTTコミュニケーションズ

続いてのセッションでは「グリーン分野における民間企業の取り組み」と題して、本懸賞金プログラムの協賛企業であるNTTコミュニケーションズの工藤さんより、GX事業における取組みについて紹介されました。

まず、ドコモグループは事業の中で温室効果ガスを排出していることを認識しており、自社の温室効果ガス排出量を2030年までにカーボンニュートラルにし、サプライチェーン全体としては2040年までにネットゼロにすることを目指しているとのこと。

Credit : NTT DOCOMO

その上で、GXに取り組むべき理由として、従来の経済成長からの脱却の必要性が高まってきており、SDGsやパリ協定の動きが加速している点や、ESG投資(資産的な企業価値だけではなく、環境・社会・ガバナンスにも配慮されていることを評価)が世界的にも大きなトレンドとなっている点が紹介されました。

顧客のカーボンニュートラルの実現に向けたサービスとしては、すでに①現状把握・見える化(ICT技術の活用)、②GHG排出量の削減、③ファイナンスアクション(カーボンクレジット)が提供されています。

また、ICT企業であるという強みを活かし、信頼を担保したクレジットの創出、自社がもつ販路を活かしたクレジットの売買流通や、顧客と共創した環境配慮製品などの流通も考えていると今後の展望を述べられました。

さらに、具体的に今年度力を入れている取り組みの一例として、水田のメタンガス削減によるクレジット創出が紹介されました。中干し(一時的に水田から水を抜いて田面を乾かすこと)の期間を従来の約1週間から追加でもう1週間行うことにより、メタンガスの排出量が3割削減されるという手法も出てきています。ICT事業者でもあることから、IoTセンサとアプリケーションによるカーボンクレジットの創出・販売支援に力を入れています。クレジットの売買だけでなく、環境配慮米の流通を通して、一次産業へ貢献するビジネスモデルを考えているそうです。

今後は、バイオ炭やブルーカーボンなどにも力を入れていきたいと話されており、カーボンクレジット事業を通じて「共創企業との脱炭素の活動を通して、環境問題と社会問題(一次産業の活性化)を同時解決」する姿を目指すことが紹介されました。

NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earthに協賛するNTTコミュニケーションズは自社ですでにGX事業を積極的に推進されているほか、本プログラムを通して新たなグリーン分野におけるソリューションの創出にも強く期待されているという印象を強く持ちました。同社は共同開催プログラムとして「衛星データ活用アワード2024」でも独自テーマでビジネスアイデアを募集しています。賞金は300万円、興味がある方は応募要項をご覧ください。

衛星データ活用アワード2024概要
応募期間:(募集中)~ 2024年9月30日まで
応募テーマ:NTTコミュニケーションズ「宇宙ネットワークを活用した豊かで住みやすい未来を創造するアイデアを募集します」
テーマ1「カーボンクレジット(グリーンカーボン、ブルーカーボン)」
テーマ2「エネルギーマネジメント(風力・太陽光発電等)」
テーマ3「気候変動・環境レジリエンス(火災・水害・生物多様性等)」
賞金:300万円(NTTコミュニケーションズ賞)
サイトURL:https://ssil.tech/satellite_data_award_2024.html

(5)森林の地上データを多く保有する王子ホールディングス、実証フィールドを持つ豊橋市

「企業・自治体の保有データおよび地上データの活用可能性」と題して、NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earthの結果をより良いものへと押し上げるヒントとサポート内容を話したのはアイデアサポーターとして参画する王子ホールディングスと豊橋市地域イノベーション推進室です。

王子ホールディングスの山本さんからは、同社は国内外に約60万haの森林を保有していることが紹介され、今まで森は木材生産の場であったが、今後ネイチャー・ポジティブやカーボンニュートラルに、ビジネスや資金の流れへ向かっていることから、企業として森林の価値を定量評価し、その価値を最大化する取組を通して、自然の価値を経済価値に変換し「自然資本会計」への流れに向かっていきたい旨が共有されました。

同社はアイデアサポーターとして国内外の社有林の「フィールド」「森林簿・GIS等のデータ(樹種、上層木平均樹高、本数、直径等)」「社有林経営に関するヒアリング」の提供を検討しているとも紹介がありました。

また、豊橋市地域イノベーション推進室は、衛星データ利活用促進支援を行っており、特に農業分野では市 内各地で多数の実証実験を実施していることが紹介されました。
また、基礎自治体(国の行政区画の中で最小の単位)の行政の強みとして、地域住民や事業者と直接会話ができる環境が整っていることが強みであることが述べられました。

衛星データの利活用に取り組む上で、王子ホールディングス、豊橋市のいずれのサポート内容にも登場した、地上データの検証も合わせて可能となる実証フィールドとデータはとても重要です。懸賞金プログラムの中で関連企業や自治体も保有する実証フィールドがサポーターとして連携するのはとても珍しい事例ですが、今後、同様のプログラムが行われる際には参加者にとってはとてもありがたい連携なのではないかと強く印象に残りました。

(6)リスクマネーの供給により、GXを加速させるベンチャーキャピタル

グリーン分野の事業アイデアの加速に欠かせないプレーヤーの一つが、ベンチャーキャピタルです。ベンチャーキャピタルは、生まれて間もない事業アイデアに資金を供給し、技術開発や市場の獲得を推し進める役割です。

特に、グリーン分野は、将来私たちが地球上で暮らしていくために絶対に必要な領域であるものの、ルール整備や計測方法、ビジネスモデルなどがまだまだ不透明であり、たくさんのアイデアを試し、その中から世界を変えるようなビジネスを生み出す必要があります。そのために、わずかな成功(上場)を狙って、リスクマネーを大量に供給できるベンチャーキャピタルの存在が欠かせないのです。

今回のワークショップでも、3社のベンチャーキャピタルが登壇し、それぞれグリーン領域と宇宙領域に対する期待が述べられました。

スパークス・アセット・マネジメントが運用する「宇宙フロンティアファンド」は、
宇宙領域を投資対象に国内外の宇宙ベンチャーへの投資を行っています。

革新的なサイエンス/テクノロジーの社会実装を通じて地球規模の社会課題の解決を目指すBeyond Next Venturesは、宇宙分野やクライメートテックなどに投資するファンドを持ち、衛星データの活用は一つの手段であり、様々な課題解決に使ってほしいと呼びかけました。

(7)PwCが特許分析して分かった宇宙産業の技術トレンド

最後のセッションでは「特許分析から見た宇宙産業」と題して、PwCコンサルティング合同会社の阿部さんよりお話がありました。

同社が開発するIntelligent Business Analytics(IBA)は技術や市場のトレンドに焦点を当てたマクロ分析および個々の企業や特許に焦点を当てたミクロ分析が可能で、特定テーマにおける市場からの注目度や技術の進展度が一目でわかるアウトプットを創出することができるため有用であると紹介されました。

例えば、IBAを用いて、宇宙・衛星データの関連技術の全体動向を分析した結果、既に技術トレンドとなっている領域として、「画像解析・データ処理」や「衛星通信・データ中継」「セキュアなデジタル通信」に関する技術が挙げられています。そして、「画像解析・データ処理」のなかでもどういったユースケースでどのような技術の特許が出されているかの紹介がありました。

また、中国では国家安全保障や環境保護等を目的とした衛星画像処理技術が注力分野として見受けられ、韓国ではスマートシティプロジェクトで衛星データの活用が進んでいるなど、衛星データを利用する分野に地域動向があるといった内容はとても興味深いものでした。

特許の分析を行うことで、衛星データ解析技術におけるトレンドや、国別の技術成熟度、何ができて何ができないということが分かることで、技術開発の実現可能性把握や今後の技術開発の方向性を決めるうえでとても有用であると分かりました。

(8)多彩なプレーヤーが集うコンペ、最終審査会は来年1月

以上、本記事では、NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earthで行われたワークショップと、そこに集まるグリーン分野・宇宙分野の事業アイデアを加速させる強力なサポーターについてご紹介しました。

衛星データ利用を広げるためのコンペとしての理想形の一つとも言える本プログラムの最終審査会は、来年1月23日を予定しています。それぞれの事業アイデアがどのようにブラッシュアップされ、発表が行われるのか今から楽しみです!