宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

日本の宇宙企業が世界に発信する各社の強みと今後の展望、JAXA+全15社の展示を紹介【IAC 2024レポート】

IAC 2024にて、日本から世界に向けてアピールしていた内容を、出展していたJAXAに加えて15の企業・法人の事業内容とあわせてまとめました。

2024年10月14から18日の5日間にかけて開催されているIAC 2024にて、日本からはJAXAに加えて15の企業・法人による展示がありました。本記事では、各企業がIACのなかでどのような実績や事業を世界に発信しているのかをまとめています。
※大変恐縮ではございますが、本記事内で様々な企業や宇宙機関が最新の技術動向を発表する技術プログラム内での日本企業の発表の紹介はなく、出展企業のみ紹介しています。

まず、今回IAC 2024にブースを構えて出展していた日本の企業・法人は以下の通りです(カテゴリ別、五十音順)。

■宇宙機関
JAXA

■ロケット
インターステラテクノロジズ
MJOLNIR SPACEWORKS

■衛星
アークエッジスペース
アクセルスペース

■部品・コンポーネント
オービタルエンジニアリング
川崎重工
サムテック
ひびき精機
古河電工

■軌道上サービス
アストロスケール
BULL

■宇宙探査・月面探査
ispace

■試験設備
レゾニック・ジャパン

■その他
クロスユー
SPACE BD

それでは、各社がどのような展示をしていたのか、写真と合わせて紹介します。

■JAXA

JAXAはIAC 2024ではシルバースポンサーとして参画しており、上記JAXAを除く14社のうち、10社の企業がJAXAブースでの共同出展という形で展示をしていました。

また、JAXAブースでは、ロゴ出展という形で以下8社の企業紹介をロゴと合わせて掲示していました。

ブースではH3ロケットの模型やSLIMについての展示がありました。2024年1月にピンポイントの月面着陸を果たしたSLIMの展示には日本以外の参加者からの関心が集まっていたように思います(写真は初日のもの)。

ブース内には講演ブースも設けてあり、星出宇宙飛行士による講演や、日本企業の事業紹介などが行われ、多くの参加者に日本の取り組みを紹介していました。

■ロケット

ロケット開発企業の出展は、インターステラテクノロジズとMJOLNIR SPACEWORKSの2社でした。

・インターステラテクノロジズ

インターステラテクノロジズは北海道大樹町に本社をかまえる現在は小型衛星打ち上げロケットZEROの開発を進める宇宙ベンチャーです。同社は9月19日に発表された文部科学省の中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)における民間ロケットの開発・実証のステージゲート審査を通過し、46.3億円の交付額を獲得しています。

今回の展示では、最大800kgの小型衛星や、相乗りできるキューブサットを打ち上げたいといったZEROで衛星を打ち上げたい顧客へのアピールを行っていました。同社の強みとしては、海外の顧客にとって、ITAR規制による煩雑な書類手続きが不要であることなどがあげられます。

・ミョルニルスペースワークス

ミョルニルスペースワークスは、2020年に設立した宇宙ベンチャーで、同社が目指すのは「現代の自動車のように、誰でも使用できる大量生産のロケットを開発できる時代」です。

展示物としては、溶接不要のタンクがあり、海外の参加者からも良い反応をいただいたとのこと。通常、宇宙用途のタンクは溶接が必要であり、品質が不安定になったり納期が長くなる課題があるようです。また、同社ではハイブリットロケットエンジンの開発も進めており、上記のミッション達成に向けて事業を推進されています。

■衛星

衛星開発企業の出展は、アークエッジスペースとアクセルスペースの2社でした。

・アークエッジスペース

アークエッジスペースは、150kgまでの小型衛星を活用し、地球観測、衛星通信、宇宙探査など幅広く多様化する顧客のニーズに応える「小型衛星システムインテグレーター」として活躍する日本の宇宙ベンチャーです。また、同社はデータサービス領域への参入により、より高度なサービスを世界中のお客様に提供できる「衛星ソリューションプロバイダー」としても活動の領域を広げており、展示会では独自の衛星を開発したいと考える方から、衛星を使って何か課題を解決したいという方まで幅広く自社の強みをアピールされていました。

・アクセルスペース

アクセルスペースは、日本の小型衛星ベンチャーのリードランナーとして、小型の地球観測衛星コンステレーションGRUSの開発・運用とサービス提供や、同社の衛星開発の強みを活かした様々なサービスを展開しています。

今回の出展では、衛星部品等の宇宙での実証を支援する新サービス「AxelLiner Laboratory」が主に訴求されていました。IACには世界中から部品・コンポーネントに関わる企業も多く出展がされていました。また、これから宇宙産業に参入したいと考え、部品・コンポーネントの実証機会を求める参加者も訪れるため、本サービスに興味を持つ方も多かったのではないかと推測します。

■部品・コンポーネント

部品・コンポーネントに関わる企業の出展は、オービタルエンジニアリング、川崎重工、サムテック、ひびき精機、古河電工の5社でした。

・オービタルエンジニアリング

オービタルエンジニアリングは、1998年に設立した、航空宇宙分野を熱構造や材料を中心とした技術で支え続ける企業です。同社が今回の展示会で出展したのは、2024年2月に、実証に成功した3U衛星の放出に成功したCubeSat衛星放出機構でした。

同社の取締役社長、山口耕司さんによると、今回のIACではCubeSatに取り組む企業が数年前と比較して大きく増えているとのこと。近年、事業が進む企業は大型化する傾向がありますが、宇宙産業自体の盛り上がりと合わせて、CubeSatから取り組み、ビジネスの芽が見えたタイミングで大型化をするというステップを事業戦略としてとる企業自体も増えているということなのかもしれません。

・川崎重工

川崎重工は、言わずと知れた日本の重工業メーカーです。同社が展示していたコンポーネントは、ロケットと衛星をつなぐ部分であり、衛星を宇宙に放出するための機構でした。

同社が展示していた機構は250kgまでの小型衛星に対応しており、小型衛星事業者や打ち上げサービス事業者に向けてアピールをされていました。

・サムテック

サムテックは、1913年に創業した、100年以上の歴史を持つ熱間鍛造メーカーです。同社が展示していたのは独自の設計システムにより製作された超軽量なアルミライナー(消防士が背負う空気呼吸器タンクなどにも利用されています)で、アメリカに工場があり、アメリカのロケット企業からの依頼を受けて開発・販売を行っています。日本でもH3ロケットの常温ヘリウム気蓄器を開発しており、6月にはJAXAから感謝状をもらったことをHPで紹介していました。

印象的だったことは、日本のモノづくり企業の技術はとても高く、実際に海外でも評価もされており、海外に工場を持ち、依頼されたものを作っていたら事業がどんどん拡大していったと話されていたことです。

今、日本では宇宙戦略基金が動いており、日本のサプライチェーンを強くするということへの期待が高まっています。それだけではなく、今後も拡大を続ける海外企業への販売による事業拡大ができている事例がすでに存在すると把握できたことはとてもありがたい機会でした。

・ひびき精機

ひびき精機は、1967 年に設立され、航空宇宙および半導体産業向けの高精度金属部品を専門とする日本のモノづくり企業です。同社の強みは、真空装置の内部部品を中心に、精密・ハイテク部品の製造で、旋盤加工と切削加工を融合した技術力と、最先端のノウハウを融合させた技術力にあるとのこと。

実際に展示したものを見た海外の参加者の方からは溶接ではなく、これらの部品・コンポーネントが作れるのかと驚かれたそうです。

・古河電工

古河電気工業(古河電工)は、1884年に創業した、情報通信やエネルギーなどのインフラ分野、自動車部品分野、エレクトロニクス分野など様々な業界に部品やサービスを提供する日本の歴史ある企業です。

同社は2023年3月15日に宇宙ビジネスへの参入を表明しており、IACでは研究開発中のヒートパイプやアルミワイヤハーネスを紹介。また、ヒートパイプについては、氷点下でも作動する従来よりも熱伝導率の良いものを開発中で、従来のヒートパイプと比較体験ができる展示も用意されていました。

海外に向けて、日本企業の技術力をアピールすることを目的として、これまで宇宙ビジネスに参入していなかった企業がIACに独自出展をされていたことが非常に印象的でした。

・BULL

BULLは、宇宙デブリの発生を防止するための装置や軌道利用技術(微小重力実験装置を含む)の開発を行う日本の宇宙ベンチャーです。同社は、2024年6月より、PMD(Post Mission Disposal)装置をイプシロンSロケットに将来搭載するため、JAXAと共創活動を開始した他、10月にはAriane 6ロケットに対してBULLが開発する宇宙デブリ化防止装置「HORN」を搭載することに関して、実現可能性の検討を開始したことを発表していました。

デブリが発生してから能動的に除去するだけではなく、最初からデブリを出さない仕組みをロケット、そして今後は衛星にも備えておくということは非常に興味深い取り組みであり、今後のデファクトスタンダードになり得るようにも思いました。

■軌道上サービス

軌道上サービスに関わる企業の出展は、アストロスケールでした。

・アストロスケール

アストロスケールは、非協力物体(ロケットの上段や故障してしまった衛星など、地上からのコントロールができず、接近や捕獲・ドッキング等を実施されるための能力・機器を有さない物体)に対して、自ら近づき、軌道からの離脱(除去)を行う衛星の開発と実証を進めています。また、同社は2024年6月5日に東京証券取引所グロース市場に新規上場を行っています。

IAC 2024では宇宙空間の持続可能性については開会式の挨拶でも何度も話されていたほか、複数のセッションや記者発表会で課題が取り上げられており、世界全体で解決すべき地球規模の課題として認識されていると実感しました。

同社は4月には商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」のミッションで、軌道上に残っているH-IIAロケット15号機の上段に接近して撮影した写真を公開したうえに、7月にはデブリの周りを周回して観測するという離れ業を実現したことを発表しました。

■宇宙探査

宇宙探査の出展は、ispaceでした。ispaceは自社で独自のブースを構えていたほか、ルクセンブルクのブースにもispace europeの展示がありました。

・ispace

ispaceは、月面着陸船の開発を行い、月面に探査機や試験設備を送りたい顧客からの輸送を請け負う事業を行っています。2023年4月12日に東京証券取引所グロース市場に上場しており、日本の宇宙ベンチャーとして最も早い上場を実現しています。

また、同社は、IAC2024の期間中に5つのリリースを発表しており、月面輸送の需要の高まりを強くアピールしていました。

ispace、月面探査車を活用するミッション実施を目指し、 韓国の宇宙ロボティックス企業UELとの覚書を締結

ispace、「IAF Excellence in Industry Award」受賞!

ispace-U.S.、ミッションで使用する通信リレー衛星の名称を発表 アルパインとルーパインが米国初の月裏側探査ミッションでの通信を確立

ispace、HEX20将来の月周回軌道への衛星輸送における協業について覚書を締結

ispace-U.S.、Astroportと将来的な月面レゴリス研究のためのセンサー機器輸送に関する協業について覚書を締結

期間中にはReception Partyを開催し、日本酒がふるまわれました。会場には多くの関係者やispaceに興味のある参加者が集まっており、その注目度の高さを実感できました。

■試験設備

試験設備に関わる企業の出展は、レゾニック・ジャパンでした。

・レゾニック・ジャパン

レゾニック・ジャパンは、2011年に東京工業大学の大熊研究室からスピンアウトして創業した企業です。拠点はドイツのベルリンにあり、衛星の重心を特定する装置を展示していました。

ロケットに衛星を搭載する際や、衛星が自らの推進によって宇宙空間を移動するという主に2点において、衛星の重心を把握することは非常に重要です。従来、重心を特定するためには衛星を傾けるなどを行う必要があったところ、同社の技術を使えば、衛星を乗せるだけで重心を把握することができるとのこと。

従来の衛星を傾けている重心測定試験 Credit : NASA

実際に傾ける過程で衛星を落としてしまうという実例もあるそうで、置くだけで分かるのであればそれに越したことはないということで、この測定器を知ればみな使っていただけるような状態とのこと。まさにこのような展示会で多くの方に知ってもらいたい技術だと感じました。

■その他

上記のカテゴリに含めることが難しいユニークな企業・法人の出展は、Space BDとクロスユーの2社でした。

・Space BD

SpaceBDは、「宇宙の総合商社」として、宇宙産業におけるあらゆるサプライチェーンや事業に関わる日本の宇宙ベンチャーです。

同社が今回IAC2024で世界に向けてアピールしていたのは主に2つ、衛星の打上げサービスとISSの利用サービスでした。いずれも同社がロケットを開発しているわけでもISSの開発に携わっているわけでもありません。ロケットで衛星を打ち上げたいという顧客、微小重力環境での創薬研究といったISSを活用したいという顧客の窓口となって、さまざまな顧客のニーズをかなえる役割を担っています。

同社の事業について、先日開催された求人イベントの内容がとても面白かったので、別途まとめてご紹介予定です。

・クロスユー

クロスユーは、東京・日本橋で宇宙ビジネスの共創を促進するため、300社以上の会員が参画する一般社団法人です。コワーキングスペースの提供やコミュニティづくりのイベントなどを多数展開しており、日本の宇宙企業にとってはとてもありがたいサービスを提供しています。
ただ、なぜクロスユーが海外に出展?と思って質問してみたところ「海外の企業と日本の企業とをつなぐハブにもなる」ことを目指されているとのこと。実際に日本企業としては海外のこの機関、企業とつながりたいという思いを持つことがあれば、海外企業としても日本のこの企業とつながりたいと思うことがあり、その仲介役としての機能を新たに持つことを考えられていました。

実際に、海外企業の方で日本とつながりたいと考えられる参加者の方は多いと話されていました。

さいごに

以上、IAC2024の中で日本企業が出展していた内容と、各社の強みを簡単にまとめて紹介しました。日本からは宇宙産業の中でも幅広いジャンルの企業が、それぞれ独自の強みを持って出展をされていました。

宙畑として初めて海外の宇宙カンファレンスに参加し、日本の宇宙産業が保有する強みと、世界に向けて発信したいことの解像度が上がったように思います。

また、ESAやDLR、CNES、中国国家航天局など、他国の宇宙機関の展示に目を向けると、衛星データの利用や測位衛星の利用など、なぜ宇宙開発を進める意義があるのかということを明確に示した展示をしている機関も多くありました。

宇宙開発に予算が投資されるなかで、なぜ国が宇宙開発に投資をするべきなのかを示すことは、税金を支払う国民への理解を得るためにも非常に重要だと考えています。別途、IAC2024で見た、衛星データを活用した地上への還元について、各国が進める取り組みについては記事化予定です。

長くなってしまいましたが、今回得た新しい気付きをもとに、日本の宇宙ビジネスメディア「宙畑」として、より良い情報発信を世界に向けても行えるよう尽力してまいりたいと思います。