宙畑 Sorabatake

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将来宇宙輸送システム、Letaraと包括連携協定を締結。ハイブリッドエンジンを用いたロケットシステムの共同開発を開始

将来宇宙輸送システムは北海道大学発で固体プラスチックを燃料とするハイブリッド化学推進系を開発するLetaraと包括連携協定を締結。その狙いと今後の展望についてまとめています。

2025年4月11日、将来宇宙輸送システムは北海道大学発で固体プラスチックを燃料とするハイブリッド化学推進系を開発するLetaraと包括連携協定を締結しました。

Letaraは、2025年6月6日にFrontier Innovationsが運営する「Frontier Innovations 1号投資事業有限責任組合」を引受先とする資金調達を実施すると発表しています。

今回の包括連携協定により、ハイブリッドエンジンを用いたロケットシステムの共同開発が開始されることになると発表がありました。

本記事では、本調印式の内容と合わせて将来宇宙輸送システムにより紹介された同社の事業状況についてまとめています。

Appleから学ぶ宇宙開発:将来宇宙輸送システムの創造的挑戦

将来宇宙輸送システムは、ロケットを単なる技術的挑戦ではなく「一般の人が関われる産業」として昇華させるための戦略を展開しています。同社のクリエイティブディレクターの小椋さんは「デザインやブランディングを、単なる装飾やイメージ操作にとどめず、企業の価値や事業戦略と結びつけた重要な手段と捉えている」と話します。

小椋さんは、前職でのブランディング経験をもとに、「技術」「クリエイティブ」「ビジネス」の三位一体のコラボレーションを重視しています。これはAppleの戦略に学んだもので、Appleがテクノロジーを一般消費者にまで浸透させたように、宇宙という産業もマニアックな領域から日常的なサービスへと広げることが可能であるとのこと。

こうしたビジョンを実現する一環として、将来宇宙輸送システムはSXSW 2025に出展しました。SXSW 2025は、アメリカのテキサス州オースティンで開催されるテクノロジー、映画、音楽、文化が融合する世界最大級のビジネスカンファレンス&フェスティバルです。本イベントにて、宇宙空間での取得データをブランディングやマーケティングへの活用を可能とする試験モジュール”Narravity”の展示を実施し、同社のクリエイティブ性を世界にアピールしました。

超小型衛星の試験モジュール”Narravity” ©将来宇宙輸送システム

小椋さんは、技術のことを知らない人に技術の価値を浸透させ新たな価値を生み出すことがクリエイティブで出来ることだと話します。

そのうえで、将来宇宙輸送システムは「技術」「クリエイティブ」「ビジネス」を駆使して、宇宙旅行ができる会社が複数出てくるその時代に向けて老若男女問わず共感を得られるビジュアルや物語性を追求して、「毎日、人や貨物が届けられる世界。そんな当たり前を宇宙でも。」というビジョンを実現するとのこと。

新幹線感覚で宇宙へ:ASCA3.0が描く未来

将来宇宙輸送システムが描く未来像の中心には、2040年代の宇宙旅行の民主化があり、「ASCA3.0」と名付けられた旅客用宇宙機のコンセプトデザインにはその思いが反映されています。

この機体は、「宇宙服不要」「新幹線感覚での搭乗」をキーワードに設計されており、宇宙体験を誰にでも親しみやすいものへと変えることを目指しています。座席構成にはエコノミークラスとビジネスクラスが存在し、それぞれ異なる眺望や座席仕様が設定されています。特に重視しているのは、世界最大級の開閉式窓を備え、搭乗者が最大限に宇宙の景色を楽しめるよう配慮したいと考え、技術検討を進めている点です。
本設計の背景には、同社が独自で行った宇宙旅行に行ったときに何をしたいのか?というアンケートの結果で写真が撮りたいと回答した方が多かったことがあると話されていました。

ASCA3.0の開閉式窓が開いているイメージ図
ASCA3.0内の乗客および乗客から見える地球のイメージ図

機体構造には単段式再使用型ロケットが想定されており、11.4メートルのキャビンには約50人が搭乗できます。これは新幹線1両の半分以下のサイズですが、快適性と安全性を確保した設計となっています。機体は繰り返し利用を前提としており、高頻度な運航を通じてチケット価格の低下も計画しています(エコノミークラスで1人300万円程度を目指すとのこと)。

ASCA3.0は、単なる技術の集合体ではなく、「宇宙を楽しむ体験そのもの」を中心に据えたデザイン思想に基づいています。このプロダクトは、未来の宇宙旅行の概念を塗り替える重要な一歩となるでしょう。

民間主導による国際的なパートナーシップ

将来宇宙輸送システムは、開発の高速化を考え、自社開発・国内外企業との連携等様々な手段を講じており、積極的に国際的な協業体制を築いています。その代表的な事例が、米国のUrsa Major Technologiesとのエンジン契約と技術共有です。

将来宇宙システムのCEOの畑田さんはアメリカを訪問し、エンジン2基の購入契約に加えて、設計データや開発ノウハウを提供してもらうためのTAA(Technical Assistance Agreement)を取得しました。この取り組みにより、宇宙開発における先進的な試験方法やAI活用技術を、日本側の設計と融合させる準備が進んでいます。

政権交代の影響が不透明な米国情勢において、企業レベルで安定した協力関係を築くことは、国家間の協議を補完する重要な役割を果たします。こうした「民間主導による技術で結ぶ日米宇宙協力」というアプローチは、今後の国際宇宙産業におけるモデルケースとなるでしょう。

さらに、将来宇宙輸送システムは今後、ヨーロッパやインドとの連携も視野に入れ、多様な技術・政策環境への対応力を強化しようとしています。この柔軟で開かれた国際戦略こそが、次世代宇宙輸送の未来を切り開く鍵となるでしょう。

国際的なパートナーシップでどのようにアジャイル開発を進めるのかについては、2025年5月28日に将来宇宙輸送システムが発表したJFEエンジニアリングとの協業に関する記事でも紹介しています。

安全・迅速・高性能:将来宇宙輸送システム×Leteraの技術革新

さて、本記事の主題にもなっている将来宇宙輸送システムとLeteraの連携は、単なる技術提携ではなく、日本国内における推進システムの開発基盤を強化するための戦略的判断として始まっています。

その発端は、2023年の後半にさかのぼり、将来宇宙輸送システムはアメリカでの液体エンジン開発を進める一方で、政治的・法的な不確実性や輸出制限のリスクに対応するため、国内の代替技術パートナーを模索していたこと。

この過程で注目されたのが、北海道大学・永田研究室からスピンオフしたLeteraです。同社は、過去10年間にわたる研究成果であるCAMUI型ハイブリッドエンジン技術を有しており、安全性・推進性能・燃焼効率において高い評価を受けています。

畑田さんは永田教授との面談を通じて、技術の成熟度と実装の可能性に触れ、2024年末から本格的な連携検討を開始。
このような連携の深化は、国内での技術自立性の確保と、将来の有人機への展開を見据えた戦略的意義を持ちます。

将来宇宙輸送システムの技術開発戦略は「技術の因数分解」と「アジャイル開発」という2つの柱に支えられています。これは、複雑なロケット技術を構成要素ごとに整理し、並列かつ迅速に進化させるというアプローチです。

エンジン技術獲得に向けた技術の因数分解結果および獲得方法

では、今回のLeteraとの協業によって開発が進められるハイブリッドエンジンとはどのようなものなのでしょうか。ハイブリッドエンジンは、液体酸化剤と固体燃料の組み合わせにより、高い安全性とコストパフォーマンスを両立できるのが大きな特徴です。

Leteraが採用するCAMUI型燃焼技術と呼ばれる燃焼方式は、高い安全性を確保しつつも、燃焼効率において液体エンジンに匹敵する性能を発揮できるという非常に優れた方式とのこと。北海道大学永田研究室で10年以上にわたり蓄積されてきた研究成果を、将来宇宙輸送システムが開発を進める大きなロケットでも利用できることが期待されています。

あらためて、ハイブリッドエンジンの主な利点と想定される課題&技術的挑戦についてまとめると下記の通りです。

将来宇宙輸送システムは、こうした課題をLeteraとの共同開発によって克服しようとしており、2025年中にはフルスケールでの燃焼試験が予定されています。この技術は、将来的に有人宇宙輸送システムに適用する可能性があると畑田さんも触れており、安全性とコストの両立を実現する鍵となると期待されています。

まとめ

将来宇宙輸送システムが描く宇宙の未来像は、単なる技術革新にとどまらず、「将来を見据えたビジネス、デザイン、技術」が一体となった取り組みに支えられています。各分野の専門性を尊重しながらも、それらを有機的に統合し、一般の人々が参加できる宇宙産業へと変貌させようとしています。

「毎日、人や貨物が届けられる世界。そんな当たり前を、宇宙でも。」というビジョンを掲げ、宇宙往還を可能とする輸送システムの実現に向けて将来と今を繋ぎ続ける将来宇宙輸送システムにこれからも注目です。