宙畑 Sorabatake

衛星ソリューション

アークエッジ・スペースとJAXAが検討を本格化した低軌道測位衛星システム「LEO-PNT」とは【宇宙ビジネスニュース】

JAXAが進める低軌道測位衛星システムの技術検討に、アークエッジ・スペースが参画。次世代の測位インフラとなるLEO-PNTについて紹介します。

日本の宇宙スタートアップが、測位インフラの新しい形を探る取り組みに挑みます。
2025年10月7日、アークエッジ・スペースは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)から「低軌道測位衛星システムに関する要素技術および関連システムの検討」の実施事業者として選定されたと発表しました。

同社はこれまで、複数の超小型衛星の開発や運用、衛星データサービスを手がけてきました。今回の検討では、低軌道(LEO:Low Earth Orbit)に多数の超小型衛星を展開し、測位・通信・時刻同期を統合した新しいシステム(LEO-PNT)の実現を目指します。

では、LEO-PNTとは何か。本記事で従来のGNSSとの違い、期待されていることを紹介します。

LEO-PNTの特徴は、強く、高精度で、速い

従来のGPSや「みちびき」などの測位システムは、中軌道(MEO)や静止軌道(GEO)に配置された衛星群によって運用されています。

これに対し、LEO-PNTはより地球に近い高度(約500〜1,200km)に衛星を配置することで、高強度・高精度の測位情報の配信が可能になると期待されています。

従来のGNSSは、地球表面に到達する信号強度の弱さからさまざまな干渉の影響を受けやすいという課題がありました。特に近年はジャミング(妨害)やスプーフィング(欺瞞)等の脅威が顕在化。そこで、信号の減衰や妨害に強いLEO-PNTの高強度の測位信号は、これを補完するものとして期待されています。

宇宙政策委員会「宇宙安全保障部会」にて、2025年3月に報告された資料から抜粋。実は、測位信号のジャミング事例はすでに問題になっています

さらに、LEO-PNTが、従来のGNSSの軌道よりも地球に近い位置にある衛星から受信器が電波を受信できるメリットは”高強度”なだけではありません。

実は、位置決定のための計算の時間が短縮されるとともに、高精度になるというメリットがあります。

それは、衛星が従来よりも低い軌道にあることで、地球上の測位信号受信機から衛星を見た視線方向ベクトルの変化が大きくなることが要因です(下記画像を参照)。

上図はそれぞれ1機の衛星の動き。

LEO-PNTの場合、より地球に近いところを衛星が周回することとなり、受信機から見たときの衛星の見かけの速度が速くなります。(本来早く動いているはずの)遠くの飛行機よりも、(本来飛行機より遅いはずの)近くを歩く人や自転車の方が早く見えることを想像してみてください。

その結果、何が起きるかというと、地球上の受信機で観測した場合のドップラーシフト量が大きくなり(短い時間でも変化が分かりやすくなる)、低収束時間、高精度に繋がるというメリットが生まれます。

サービスエリアの拡大

さらに、LEO衛星群を活用することで、サービス提供エリアも飛躍的に広がることにも注目です。
従来の「みちびき」(QZSS)は日本とその周辺地域を主対象としていますが、LEO-PNTを組み合わせることで、アジア太平洋全域から地球規模へのカバーが見込まれます。

GNSSとLEO-PNTを組み合わせた新しい測位インフラ構想図。高度の異なる衛星が補完し合うことで、安定したグローバル測位を実現します。

世界的に進むLEO-PNTの検討

では、LEO-PNTの検討が進んでいるのは日本だけなのでしょうか。海外でも、各国でLEO-PNTの実現について検討が進んでいます。

宇宙政策委員会「宇宙安全保障部会」にて、2025年3月に報告された資料から抜粋

衛星測位は、防災・モビリティ・物流・通信など、私たちの社会に密接に関わる技術であり、生活インフラとなっています。

生活インフラがより良いものとなり、また、安定して安全に提供される未来を守るためのLEO-PNT技術の獲得は、今後、宇宙に関わる人だけでなく、地球に住む私たちにとっても非常に重要です。

日本が持つべき技術のひとつとして、今後の技術開発動向に注目です。

公式情報

アークエッジ・スペース、 JAXA「低軌道測位衛星システム(Dedicated LEO PNT)に関する 要素技術及び関連するシステムの検討」の事業者として選定 ~既存GNSSを補完する頑健な衛星測位システムの構築に係る検討を本格化~

低軌道衛星測位(LEO-PNT) に関する動向について【宇宙政策委員会 宇宙安全保障部会 ご報告用】

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